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神奈川県教育委員会の「新たな県独自教材」に関する神高教見解

神奈川県教育委員会の「新たな県独自教材」に関する神高教見解

 9月29日、神奈川県教育委員会は、県独自の「日本史必修化」にともなって設置する独自科目(「郷土史かながわ」「近現代と神奈川」)で使用予定の「新たな県独自教材」(=テキスト)の内容を決定した。
 私たち神奈川県高等学校教職員組合は、歴史教育、とりわけ近現代の世界史・日本史の学習が、子どもたちにとってきわめて重要であることを認識している。しかし、神奈川県の「日本史必修化」については、それが学習指導要領も認める各学校の教育課程編成権と生徒の選択権を制約しかねない点などから、2008年2月の県による「必修化」発表以降、一貫して反対してきた。

 私たちは次の点を指摘・確認し、あらためて「日本史必修化」と独自科目設定に対する疑念を表明する。
 (1)学習指導要領が必履修と定めるのは、世界史A・Bのいずれか1科目、および日本史A・B、地理A・Bのいずれか1科目である。県教委はこの範囲内で、各校に教育課程編成の工夫をゆだねるべきであり、県独自の「日本史必修化」を肯定することはできない。かりに、県立高校での「日本史必修化」がなされたとしても、「郷土史かながわ」「近現代と神奈川」はあくまで「学校設定科目」であり、最終的な科目設定が各校の判断にまかされるべきものであることはいうまでもない。
 (2)「学校設定科目」は、本来的に教科書使用義務がない。「郷土史かながわ」「近現代と神奈川」において、県自らが編集・発行したテキストの使用を事実上義務づけるようなことになれば、それは複数教科書(現行日本史Aであれば6社7種)に対する学校単位の採択という、戦後高校教育の原則から逸脱し、特定の価値観の押しつけにもつながりかねない危険性をもつ。
 (3)テキスト『近現代と神奈川』を一読すれば、多くの社会科教員は、その構成が従来の日本史教科書の近現代編を大幅に要約した文章に、神奈川ゆかりの人物・事物をトピックス的に付加し、きわめて大づかみな世界史年表を並べたものになっていることに気づくだろう。現行日本史教科書の多くは、日本と世界のつながりや現代的課題に配慮したさまざまな創意を凝らし、巻末年表では世界の出来事も併載している。そうした現状と比べたとき、「新たな県独自教材」には、副教材・資料集以上の位置づけを見出すことはできない。
 (4)テキストの中身をめぐる論評は控えるが、冷戦後を扱った記述に登場する多数の人名(その多くは政治家)のうち、巻末索引ではただ一人、現職神奈川県知事の名前だけが掲載されている。教育と政治との関係性を考えれば誤解を招きかねない部分といえ、その編集には疑問を抱かざるをえない。

 以上を踏まえ、私たちは「日本史必修化」を背景にした県独自科目が、各校の教育課程編成権を事実上形骸化する結果をもたらすことのないよう、強く求める。
 当初予定より1年前倒しされ、2012年度から実施とされた「日本史必修化」は、抜本的な見直しが必要である。

2010年10月1日

神奈川県高等学校教職員組合