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神奈川新聞社説 君が代不起立問題

神奈川新聞2007年12月26日

君が代不起立問題 審議会の慎重議論は当然

 県立高校の入学式・卒業式で君が代斉唱時に起立しなかった教職員の氏名収集を、県教委が県個人情報保護条例の「例外適用」を受けて続けられるかどうか−。その可否を審議する県個人情報保護審議会が開かれたが、結論は新年に持ち越された。

 県教委が審議会に諮った経緯からしても、結論を出すのに慎重なのは当然だろう。通り一遍の議論で安易に判断してしまえば、個人情報保護の実効性を含めて条例の根幹を揺るがしかねない。

 経過はこうだ。県個人情報保護審査会は十月、県教委が収集した氏名を「条例が原則取り扱いを禁じた思想信条に該当する情報」と認定、県教委に情報保管、利用をやめるよう答申した。

 その際、審査会は収集がなお必要なら例外適用を受ける「正当な事務」に当たるかどうか、別テーブルの審議会の意見を聴くよう求めた。県教委は氏名収集を続ける意向で審議会に諮問した。

 だが、審議会が不起立問題を審議するのは今回が初めてではない。氏名収集は二〇〇六年以降の計四回の入学式・卒業式で実施されたが、前年の〇五年は不起立者の人数調査が行われた。教職員からの中止申し立てを受け、県教委は調査の妥当性を審議会に諮問。審議会は同年九月、「特定の個人が識別される情報収集を行っていない」ことなどを根拠に、人数調査は「個人情報に当たらない」と教職員側の主張を退けた。

 この折に審議会は「個人情報の調査をする場合、条例に違反しないよう十分な留意を」と付け加え県教委にくぎを刺した。

 ところが県教委は審議会の付言にもかかわらず、氏名収集を始めた。その行為が審査会から「思想信条の情報」と指摘されると、今度は審議会に例外的に認めろという。そこには条例の目的や運用に対する誠実な姿勢が見えない。

 「起立は社会的マナー」といった県教委の主張で例外規定を拡大解釈していけば、条例は形ばかりのものになる。条例の実効性をあいまいにする原因者が県教委という県の機関であることも問題だ。自ら決めたルールを守る姿勢に乏しいことは、地方分権の土台そのものをも崩しかねない。

 県個人情報保護条例の目的は「基本的人権の擁護」にある。県教委が「例外扱い」を主張したところで、審査会が氏名収集は思想信条を侵害する行為とみなした結論が変わるものではない。

 式典が混乱するわけでもないのに、教職員の不起立をことさら問題にし、さらに人権侵害行為まで正統化することは、教育の場になじまないだろう。氏名収集という威圧感によって精神的苦痛を与えるようなやり方に、「教職員いじめ」と感じる生徒も少なくなかろう。教育効果とはどういうものか、この際よくよく考えたい