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高校日本史を必修化

神奈川新聞2008年02月15日

「伝統、文化へ理解必要」
独自に全国初 13年度から県教委

 県教育委員会は十四日、学習指導要領で選択科目の高校日本史について、全県立高校で必修化する方針を明らかにした。日本史A(近現代史)、日本史B(通史)のいずれかを履修しない生徒には、神奈川独自に設ける日本史系科目の受講を義務付ける。二〇一三年度に見込まれる新学習指導要領の施行に合わせて実施する。(成田洋樹)

 全国では、東京都が奉仕を、茨城県が道徳を必修化している例はあるが、日本史を必修化するのは全国で初めて。引地孝一県教育長は同日の会見で「国際社会で生きていく上で、日本の歴史や伝統、文化の理解を深めることは必要」と話した。
 高校では「地理歴史」は一九九四年度から世界史が必修で、日本史と地理が選択となっている。日本史を学ばなくても卒業できるため、県教委はこれまで文部科学省に日本史必修化を要望してきた。だが、中央教育審議会が今年一月の答申で、新学習指導要領でも引き続き世界史を必修とするとしたため、独自の対応に踏み切った。
 独自科目は神奈川の郷土史(一〜二単位)と、日本史と世界史の近現代史を合わせた科目(二単位)で、いずれかの履修を義務付ける。
 県教委は、本来は各学校の判断で設ける「学校設定科目」として位置付ける。○八、〇九年度に有識者らで構成する検討組織を設けるなどして新科目の教科書や授業内容などを検討。一〇年度に一部の学校で試行する。
 文科省が最低の教育内容の基準を示した学習指導要領では、学校に教育課程の編成権があり、教育行政が各学校に学校設定科目の設置を求める明確な法的根拠はない。このため、県教委は県立高校の管理運営規則に、新たに教育課程編成基準を加えるなどして対応するとしている。
 現行では日本史を必修とすることは学校の裁量で可能で、県内全日制の約三割の四十八校で日本史が必修となっている。県教委は今後、学校裁量での日本史必修化も各校に促していく。
 〇六年度の県立高校卒業生のうち、日本史を履修せずに卒業したのは約三割の約一万人。今年一月の大学入試センター試験では日本史を選択した受験生が最も多い41・4%で、必修の世界史が最低の26・9%。地理が31・7%だった。


賛否分かれる現場 高校日本史の必修化
「日本人として大切」「上からの押しつけ」

 県教育委員会が高校の日本史を必修化する方針を示したことに対し、教育現場では賛否が分かれた。自国の歴史を学ぶ重要性を重んじる立場の校長らは歓迎したが、社会科教員らは学習指導要領で定められている学校の教育課程(カリキュラム)編成権を制約するものとして「教育行政が上から一律に決めるのは問題」と批判している。(成田洋樹)
 
 日本史必修化を提唱していた松沢成文知事は県教委の方針に賛同し「愛国心や郷土愛がはぐくまれる」と話した。
 横浜市内の進学校の県立高校長は「日本人として日本史を学ぶのは大切だ。受験を気にする保護者からの『日本史にもっと時間を割いて』という要望にもかなう」と評価。藤沢市内の進学校は「幅広い教養を身に付ける」(同校校長)として世界史A、日本史A、地理Aの三科目を必修としており、県教委の新方針にも大きな影響はないという。
 一方、現場の社会科教員からは、疑問視する声が上がった。海老名市内の県立高の世界史教員は「中学生までの歴史学習が日本史中心のため、高校での世界史必修は当然の流れ。全体的に以前よりも科目が増えている現状では、生徒にさらに負担がかかる」と懸念。同校の日本史教員は「各学校は生徒の関心の幅を広げようと、苦労しながらカリキュラムを作っている。県教委による一方的なやり方は、そうした努力を台無しにするものだ」と批判した。
 引地孝一県教育長は「新科目は一、二単位と少なく、学校の教育課程編成権に影響は与えない」としている。
 黒沢惟昭・長野大学教授(教育政策)は「今の大学では日本史を知らない学生が多く、特に日本の近現代史を学んでほしいとの思いはある」としながらも、「教育行政による上からの押し付けば好ましくない。学校が持つ教育課程編成権を侵すことになる。方法をもっと検討すべきだ」と指摘した。