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全国学力テスト

神奈川新聞2008年08月30日

「考える力」なお課題
 難題化で正答率低下

 文部科学省は二十九日、小学六年と中学三年の全員を対象に昨年に続き今年四月実施した「全国学力・学習状況調査」(全国学カテスト)の結果を公表した。

 国語と算数・数学の各教科で、基礎的知識を問うA問題の平均正答率64−74%に対し、知識を活用する力をみるB問題は50−62%と10ポイント以上の差があった。文科省は昨年と同様「知識の活用に課題がある」との分析に加え、今年は「知識・技能の定着に一部課題がみられた」とも指摘した。
 各教科の平均正答率は昨年に比べ8−16ポイント低下。文科省は「昨年よりもやや難しい内容だった」と説明、過去の調査と同一の問題で正答率が上がっていることなどを挙げて「学力は低下していない」と強調した。
 毎年全員を対象に、多額の予算を投じるテストをめぐっては、自民党の一部からも不要論が浮上。文科省は来年以降も続ける方針だが、全体傾向が昨年と大きく変わらなかったことで、教育課題を把握する大規模なテストの継続実施を疑問視する声は強まりそうだ。
 公立校の結果を、都道府県別でみると、ほとんどが平均正答率のプラスマイナス5%の範囲内に収まったが、沖縄は全教科で5−14ポイント下回り、昨年に続き最下位。正答率が高かったのも同様に秋田、福井などだった。
 大都市や町村など人口規模による地域間で大きな差はなかった。学校単位では昨年に比べて小学国語や中学数学ではらつきがやや大きく、就学援助を受けている子どもの割合が高い学校は正答率が低い傾向があった。
 いずれの教科でも資料から必要な情報を取り出したり、整理したりする力に課題があった。中には正答率が10%台にとどまり、無解答率が60%近い設問もあった。
 アンケートに「宿題を出している」と回答した学校が昨年より増えたが、子どもの学習時間に変化はほとんどなかったほか、テレビを見たりテレビゲームをしたりする時間が短い子の方が正答率が高い傾向がみられた。難易度が上がり、解答時間が「やや足りなかった」「全く足りなかった」とした子どもは大幅に増え、特に小学国語は40%を超えた。  文科省は全国の教育委員会に、調査結果を分析して畏業の改善などに生かすよつ通知。過度の競争や序列化を避けるため、市町村名や学校名を公表しないよう求めた。


−「全国平均並み」県内
 県内の公立小学校八百六十三校、中学校四百十三校、特別支援学校六校の計約十三万七千人のテスト結果は、八科目の平均正答率がすべて全国平均からプラスマイナス1・4ポイント内に収まった。県教育委員会は「昨年に続き全国平均並みの点数で変化はみられない。各校が引き続き努力している結果だろう」(子ども教育支援課)と分析する。
 平均点が全国平均を上回ったのはいずれも応用力を問う小六国語B、算数Bと中三国語B。残り五科目で全国平均をO・3〜O・6ポイント下回ったが、同課によると「5ポイントまでの差は誤差の範囲」と文部科学省が基準を示しているという。
 問題別正答率で、全国平均より5〜10ポイント低い問題は中学校数学ABの▽点対称図形を完成(48・2%)▽直方体の面に垂直辺を書く(60・2%)▽反比例グラフから式を求める(29・4%)▽五つから二つを選ぶ組み合わせ(47・7%)−の四間。昨年も数学Aに三同が集中したが、県教委は「前回同様に神奈川の公立高校入試に出ないタイプの同題だった影響ではないか」とみている。
 初実施だった昨年は、各都道府県が大学教授らによる検証改善委員会で結果を分析し、授業や学習改善に役立てる対策プランをまとめた。県教委は「今年は委員会を設置せず県として結果を把握し、学習改善などを各市町村教委を通じて各校に指導したい」としている。 (真野太樹)


−2年連続 好成績の秋田・福井  少人数や自宅学習
 全国学カテスト結果で、二年連続して好成績だった秋田県と福井県は、少人数学級でのきめ細かい指導や、自宅学習の習慣付けなどを工夫し、共通した教育スタイルが浮かぶ。
 昨年の結果が公表されて以降、視察が相次いだ秋田県は二〇〇一年度から小学校一、二年と中学校一年で三十人規模の少人数学級を導入。狙いは「生活指導の充実」で、教員が子どもに目を配れる環境を整え、落ち着いて授業に取り組む雰囲気が生まれたという。
 算数・数学などは習熟度別の授業もする。同時に、各市町村教育委員会は「教科書を音読しましょう」「苦手な計算を練習しましょう」とのパンフレットを配布。学校と家庭の連携で、自宅学習を促してきた。県教委義務教育課の佐々木孝雄副主幹は「変わったことはしていない。学校の頑張り、家庭の協力というべースが生きた」と話す。
 「三世帯同居も多く、祖父母の教育力が高い。県民性もまじめ」。福井県の広部正紘教育長は、家庭や地域住民の教育への意識が高いと指摘し「福井の良い点を伸ばしたい」と自信をみせる。
 福井も自宅学習を習慣付けるため宿題を重視。内容や目的を意識して取り組んでいるかなどを評価、できなかった子どもには「放課後補習」も。
 〇三年度からは、理解が不十分なまま授業が先に進まないよう、一部教科で少人数学級に複数教員を配置するチームティーチングを開始。県教委幹部は「無解答の子どもは全国平均の半分。最後まで粘り強く取り組む姿勢が身についている」と評価していた。

「成績が二極分化」
 横浜国大教育人間科学部・高木まさき教授(国語教育)の話
 全国、神奈川とも、小学校・中学校で昨年度より10ポイント前後平均正答率が落ちた。これは本年度は各設問で読む部分が多く、時間が足りなくなってしまった児童・生徒が多かったためではないか。小学校の国語Aの正答数分布グラフを見ると、全国平均に比べ、神奈川は正答数が少なかった児童と、逆に正答数が多かった児童の割合が多い結果になっており、成績の二極分化が気になる。
 問題の傾向として言えるのは、学力の国際比較「OECD学習到達度調査(PISA)」が求めるような、グラフなどを含めた広い範囲の素材を読み取る力や、文章や資料を読み比べる出題が目立った。こうした問題は全国、神奈川県とも平均正答率が低く、これからの課題だろう。


「本質的な理解不足」
 横浜国大教育人間科学部・石田淳一教授(数学教育)の話
 データを見る限り、全国と県内の結果に大きな差はない。小学校算数も中学校数学も決して難しい問題ではなく、基本的な知識の活用力を問う問題であるが、児童・生徒の知識が活用場面で使える知識になっていないのが課題だ。知識や技能を問う問題の成績はよいが、数学的な考え方を問う問題の成績が悪い。基本的なことは分かっていても本質的な理解をしていないことが浮き彫りになっている。例えば県内で正答率が19.8%だった小学校・算数B2の(3)。他者の考え方が正しいかを割合の考えを用いて判断し、理由の記述を求めているが、割合の本質が理解されていない。算数・数学の言語力も不足している。算数・数学を生活の場で活用する力を育てることを意図した授業の工夫が必要だ。