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県立神田高で不適正選考

神奈川新聞2008年10月29日

外見理由に22人不合格

 県立神田高校(平塚市田村)の入学試験で、公表された選考基津から逸脱した不適正な選考が行われていたことが二十八日、分かった。願書受け付けや受験会場で、服装や髪形が乱れたり態度が悪い受験生を選別。合格基準を満たしているにもかかわらず、「入学後の生徒指導が困難」などの理由で、二〇〇五年度以降、男女計二十二人の受験生を不合格にしていた。県教育委員会は全県立高校の過去三年分の入試結果を調査するほか、校長らの処分も検討する。(真野太樹)

 県教委の山本正人教育長が会見で明らかにした。基準点を超えながら不合格になったのは〇五年度六人、〇六年度六人、○八年度十人。七月に学校関係者の内部通報で発覚し、記録が残る過去五年の試験結果と関係者への聞き取り調査で実態が判明した。
 県教委によると、願書受付日や入試会場、前期選抜の合格発表の場で、同校の教諭が「受験生の著しく目立つ点」を点検。「態度が悪い」「髪を染めている」「まゆ毛をそっている」「スカートが短い」「化粧をしている」「ピアスの穴がある」落どと細かく記録していた。
 同校では新入生のクラス編成の判断材料にするため、以前からそうしたチェックが慣習化。学区撤廃で受験者が増えた〇五年度以降、当時の校長(現秦野高校長)が「学力が低くてもいいからまじめな生徒を多く集めたい」と発案し、その結果を最終合否に影響させるようになったという。
 ○八年度の前期選抜の場合、百九十六人が受験し五十七人が合格。公表された選考基準では、調査書(86%)と面接(14%)で合否が決まるはずだったが、態度や服装を理由に七人が不合格となった。本来の選考基準では百九十六人中で十六番目の成績だった受験生も、不合格になっていたという。
 渕野辰雄校長は「選考基準から逸脱し大変申し訳ない」と謝罪。「生徒指導に苦慮しており、教諭の負担を軽減したかった」と釈明した。山本教育長は「不合格となった二十二人に連絡し、入学の検討准ど個別に対応したい」と述べた。



「学校の都合で選別」
基準逸脱に批判

 県立神田高校が入試で選考基準を逸脱し、合格点を取っていた生徒を不合格にしていた問題。公平であるべき入試制度の根幹を揺るがすもので、同校と同様に課題集中校とされる県立高の教員は「あってはならないことだ」と批判した。文部科学省も「入試の公平性の観点から問題だ」(児童生徒課)と事態を重くみている。(報道部、湘南総局)

 「学校に都合のいい生徒を取りたかったとしか思えない。入試のルールを守らないことを許した教員の風土も問題」。課題集中校とされるある県立高の教員は非難した。
 ただ、課題校には厳しい家庭環境の生徒が少なくないとし「県教委は、困難な課題を抱える生徒が多い学校の教員体制をどれだけ支えてきたのか」と教育行政の対応の不十分さを指摘した。
 課題校とされる別の県立高は今春入試で、試験の合間に校内で喫煙していた生徒を合格としたという。同校の教員は「生徒にはその場で注意した。合格点に達していたので、喫煙を理由に不合格とはしなかった」とし、選考基準外の理由での生徒選別を批判した。
 神田高は県立五領ケ台高との再編統合を来年度に控えており、神田高二年の女子生徒(16)は「再編統合が原因ではないか」と素っ気なく話した。神田高を中退し、今は専門学校生の男子学生(19)は「なぜ不合格にするのか。人を見た目で判断するのは良くない」と複雑な表情を浮かべた。
 一方、同校の対応に一定の理解を示す横浜市立中の教員は「服装が乱れている生徒は、高校に進学できても勉強面での目標がなく長続きしない。高校は義務教育ではない」とした上で、今回の問題は「本音と建前の使い分けをした高校入試制度に一石を投じることになるだろう」と話した。
 横浜国大の高木展郎教授(教育方法学)は「公平性が求められる入試で起きたのは残念。同校はキャりア教育に力を注ぐなど頑張ってきただけに、取り組みが無になってしまうことが惜しい。高校入試の在り方を社会全体で考えなければなならない」と強調した。

【解説】背景に荒れる「課題校」 特別指導が急増
 神田高校で不適正な入学者選抜が行われた問題の背景には、同校の校内が荒れ、「いわゆる課題校」(県教委)という現状がある。
 県教委によると、同校はピーク時(二〇〇三年度)の中退者が年間百人を語え、一九九〇年代後半以降は定員割れを繰り返している。校内暴力やいじめなどの問題を抱え、謹慎などの特別指導が必要になる生徒は後を絶たない。
 同校は来年四月に五領ケ台高校との再編統合を控え、〇七年度の入学試験では両校で基準を統一し、適正な選考に戻した。
 ところが、その年は新入生を中心に例年以上に校内が荒れ、生徒への特別指導数は〇六年度の百三十七人から、二百七十八人(新入生は百四十八人)に倍増。その影響もあり、〇八年度入試で再びルール違反に陥った。
 しかし、あくまでも入学者の合否は調査書や学力試験、面接など選考基準に従って決めるもの。深刻な現状があろうと、選考基準に関係のない服装や髪形のチェックによる不合格は批判を受けるのは必至。ルールを逸脱せず課題解決に向けた取り組みを早急に実践することが、同校と県教委に求められている。(真野太樹)