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県内高校、主権者の教育に力

神奈川新聞2015年6月18日

10代の声 政治に届け
18歳選挙権成立

 選挙権年齢を「18歳以上」に引き下げる改正公選法が成立した17日、新たに有権者となる10代からは、「民意」の一翼を担うことに期待の声が上がる一方、社会を知る前の政治参加を不安視する意見も聞かれた。教育現場は、権利の対価として義務と責任を育むことの必要性を強調する。「1票」の拡大は、若者の政治離れに歯止めをかけられるのか―。県内の反応を追った。 (大槻和久、高田俊吾、田崎基)

 「10代の声を政治に届ける新たなスタート」。2013年から18歳選挙権の実現運動を展開してきた高校生ら10代の若者でつくる「ティーンズ・ライツ・ムーブメント」(TRM)のメンバー約80人は改正公選法成立後、国会内で報告会を開き、70年ぶりの参政権拡大を喜んだ。
 TRMは高校生を対象にした街頭模擬投票や、10代の思いを反映したマニフェストづくりなどを続けてきた。「私たちの世代は損をしている。大した見返りもないのに、国の借金は背負わされる。でも声を上げるきっかけもなかった」。4代目の代表を務める法政第二高校3年の百瀬蒼海さん(17)=横浜市青葉区=は、18歳選挙権を待ちわびていた心境を語った。
 「投票しても何も変わらない」という同世代のこえも聞いた。若者が投票に行きやすい仕組みづくりの検討が今後の目標。「若者にあからさまに餌を撒くのではなく、日本全体の利益を追求する政治家を選びたい」
 前日の16日、県立湘南台高校(藤沢市)では2年生の授業でディベートが実践されていた。テーマは「選挙権を18歳に引き下げるべきか」。
 当初は反対派の生徒がやや多かったが、論戦が進むにつれて賛成派が攻勢を強める。「他国の例では引き下げで投票率が上がった」「18歳の納税者に投票権がないのはおかしい」―。最後は賛成が多数を占めた。
 議論に参加した竹下幹太さんか(17)は「他人の意見を取り入れながら自分の考えをただしていく作業が役立った」。選挙権を得る来夏の参院選では、必ず投票に行くつもりだ。
 県教育委員会は政治や司法に積極参加する市民を育てようと、2010年度から「シチズンシップ教育」を進めている。湘南台高校では実際の参院選に合わせた模擬投票や、生徒が与野党に分かれて議論する模擬議会など、独自のプログラムを考案している。
 生徒の岡村友芽さん(16)は18歳選挙権には賛成だが「政治家の主張を知らないので不安もある。選挙権が与えられたら情報を得ていきたい」。川口英一校長は「思考力や判断力、表現力を身に付けさせ、将来に主権者として権利を適切に行使し、義務と責任を果たす基礎を育みたい」と、同教育の意義を強調した。

「低投票率改善が先」否定的意見も
 「未来はは僕らの手の中にプロジェクト」と銘打って8年前から若者に投票を呼び掛けてきた藤沢市の古屋賢悟さん(45)は「時期尚早」と否定的だ。
 戦後最低の投票率(小選挙区、52.66%)となった2014年12月の衆院選で、30代の投票率は42.09%、20代は32.58%。「若者の投票率が他の世代に比べて低い状況を改善しようとしてきたか。『若手の意見を政治に反映させたい』のが本音なら、そこから取り組むべきだ。教育の中で選挙権や投票について学ぶ機会は乏しく啓発も足りていない」と指摘する。
 国会で審議中の安全保障関連法制に反対するデモに参加していた西ほなみさん(18)は、悩みながらも賛成の立場だ。
 「『とりあえず知っているところに投票』という友人もいる。デマ情報をを安易に信じ、インターネットで拡散させた知人もいた。「若者はさまざまな影響を受けやすい。大きな力に利用されてしまうのでは」とも思う。
 それでも憲法や安保法制を学び、政治の現状や国の未来に思いをめぐらせると「今年の(統一地方)選挙で投票できず悔しかった」と内心を明かす。「何もできないのに、生きにくい社会になっていくのは許せない。18歳選挙権をきっかけに、政治に興味を持ってもらうしかない」