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「マスク足りない」 学校再開へ

神奈川新聞2020年03月25日

県内各教委 コロナで検討
感染対策戸惑いも

 4月からの学校再開に向けて文部科学省が示した指針を巡り、県内の主な教育委員会は24日、改めて対応を検討した。新型コロナウイルスの感染防止を徹底して4月に新学期をスタートさせる方針と、3月末まで感染状況を見極める慎重姿勢が交錯。国が求めるマスク着用には、「足りない」と窮状を訴える声も。政府による唐突な一斉休校の要請から1カ月、感染リスクに直面する教育現場に新たな懸案がのしかかっている。(報道部)

 「クラスター(感染者集団)は抑えられたと思っているが、まだ感染拡大の可能性はある。その点を踏まえて学校再開に臨んでほしいとお願いした」
 相模原市の本村賢太郎市長は、新型コロナウイルス対策本部会議後の取材にこう語った。同会議では、市教委が市立小中学校を4月6日に再開する方針を表明。鈴木英之教育長は「毎朝登校前に子どもの検温をするなど家庭の協力が必要になる。市民の皆さんも危機感を持って学校に協力してほしい」と理解を求めた。
 ただ、紀要育現場には戸惑いも少なくない。換気や手洗い、検温は徹底するが。、マスクを持ってない児童・生徒にどう対応するかは難しい問題という。市教委の担当者は「教室という密閉空間で多くの人が密集し、近距離での会話があるのが学校の特徴。感染を防ぐため、どうすれば学校現場への負担を小さくできるかを考えている」と話す。
 鈴木教育長は、具体的な感染防止策をまとめた文科省の指針を評価する一方、「教育現場に即した内容に変えていくことに苦慮している」と説明。規模や環境が異なる学校現場に適用させる難しさを指摘し、「新学期が始まる前までに市の指針を示したい」と述べた。
 一方、県教委は県内の感染状況などを勘案し、「今月末までに時期を判断する」という対応にとどめ、県立学校長と各市町村教委に通知した。
 4月6日の新学期初日を見据え、再開準備に1週間程度を見込む。ただ、再開可否は各市町村教委の判断となるため、「あくまでも一つの考え方」(県教委)との姿勢だ。電車やバスを利用して登校する生徒が多い県立高校を中心に、学校再開後の時差通学や短縮授業、分散登校についても各校長に判断を委ねた。
 横浜市と川崎市も、それぞれ慎重に再開時期を探る姿勢だ。
 横浜市教委は4月8日以降の対応について、3月30日をめどに正式決定し、各校に通知する方針。▽全面再開▽臨時休校を1カ月程度延長▽在校時間の短縮や学年ごとの分散などを試みる「段階的再開」―の選択肢で検討し、今後の感染状況を踏まえ判断する。また、マスクが手に入りづらい現状への対応や学習の形態などについても各校で工夫できるよう検討を進める。
 川崎市教委も、始業式や授業の再開は文科省の指針を踏まえて検討するとした。担当者は「給食を含め、再開に向けて検討を進めているが、まず懸念されるのはマスク不足。対策としてマスクの装着が挙げられているが、用意がない」と困惑気味に話した。

県内新たに6人感染
 新型コロナウイルスの感染拡大を巡り、県内では24日、新たに10〜70代の男女計6人の感染が確認された。うち1人が重症という。県内で10代の感染が確認されたのは初めて。
 県所管の保健福祉事務所での感染確認は、小田原管内(小田原、南足柄市、中井、大井、松田、山北、開成、箱根、真鶴、湯河原町)の70代無職男性、厚木管内(厚木、海老名、座間、大和、綾瀬市、愛川町、清川村)の10代女性、平塚管内(平塚、秦野、伊勢原市、大磯、二宮町)の30代無職女性、30代主婦、40代男性会社員の計5人。このほか、川崎市宮前区に住む40代の男性会社員も感染が確認された。
 このうち70代男性は9日に発熱などの症状があり肺炎で入院。退院後も症状が続き、23日の再検査で陽性が判明した。意識障害があり歩けない状態という。
 10代女性は12日にせきなどの症状があり、23日に陽性が判明。一時的に熱が下がった15日に複数の友人と食事をしたが、12日以降は通学していないという。
 30代の無職女性は16日に留学先の米国から帰国。20日に発熱があり、24日に陽性が判明した。30代主婦は19日に感染が確認された60代男性の濃厚接触者で、23日に感染が確認された。男性会社員は外国籍で、10〜19日にボリビアに滞在。県内で倉庫作業員として働いており、21日の夜から翌朝にかけて勤務し、23日に陽性が判明した。川崎市の男性は15日に倦怠感を覚え、16日に発熱した。22日夜に高熱で市外の医療機関に救急搬送され、24日に陽性が判明した。16日に東京都内の職場に出動した以外は外出は控えていたという。(尹貴淑、鈴木崇宏)


難題に奇策なく 基本徹底
 新型コロナウイルスの感染拡大防止を巡り、文部科学省は、小中高などの一斉休校から、原則全ての学校の再開へ大きくかじを切る指針を出した。授業などへの影響をできるだけ抑えながら感染を防ぐという難題に対し、文科省は思い切った手や奇策を取ることを避け、基本の徹底を促す判断を示した。

▽無言
  「再開しても、4月から学校の風景は一変する」。文科省が都道府県教育委員会などに指針を通知した24日、ある幹部は厳しい表情で口にした。
 指針では家庭で毎朝検温した上、発熱など風邪の症状が見られた場合は休ませることを徹底。体育のランニング中などを除き、マスクは全員着用を原則とし、ドアノブや手すりなど頻繁に触れる箇所は小まめに消毒する楽しみなはずの給食の時間も飛沫が飛ばないよう、机を向かい合わせにせず、会話は控えるよう促している。
 指針は政府の専門家会議の見解に基づき(1)換気の悪い密閉空間(2)多くの人が密集(3)近距離での会話や発声―の3条件が重なることを徹底的に回避する必要性を強調。文科省の担当者は、「例えば部活動の際、狭い部屋で大勢が談笑したり、吹奏楽部や合唱部が部屋を締め切って練習したりした場合、3条件が重なる可能性がある」とした。

▽限界
 厳しい条件とはいえ、指針を順守すれば、授業は毎日行えるようになる。わずか1週間前の17日の記者会見では、萩生田光一文科相は省内で検討中のアイデアとして、学級を二つに分けて授業をしたり、登校日を分散させたりするといった案を挙げ、土曜日の投稿も考えられるとしていた。
 しかし実際の指針では思い切った提案は影を潜めた。「多くの学校においては人の密度を下げることには限界がある」と認めながら、マスクの着用や換気の徹底という耳慣れた対策で乗り切ることに。担当者は「分散登校などは考えとしてはあり得るが、授業時間数や教育の質を十分確保できるのかという課題がある」と話す。
 指針によると、学校再開後に子どもらの感染が確認された場合、必ずしも休校とはせず、都道府県の衛生部局と相談しながら、感染者と濃厚接触者のみを出席停止する対応もあり得るとした。全国一斉休校という、安倍晋三首相の政治判断で始まった限界態勢と比べると、その落差は大きい印象は否めない。
 一斉休校の対象者は、小中高など児童生徒だけで約130万人に上った。社会全体の危機感を一気に高める「効果」はあり、各地の学校でも24日、校庭に子どもが間隔を空けて並び、修了式を行う様子が見られた。しかし副作用は大きく、文科省の幹部は「子どもや子育て世帯が犠牲にされた。各地の教育委員会などから、もう無理だという声が上がっていた」と指摘する。