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小中いじめ 6年ぶり減

神奈川新聞2021年10月14日

20年度 コロナで接触減か
県教委調査

 県内の公立小中学校における2020年度のいじめ認知件数が6年ぶりに減少したことが13日、県教育委員会の問題行動・不登校等調査で分かった。暴力行為の発生件数も減少しており、県教委は「新型コロナウイルスに伴うソーシャルディスタンスの広がりで、いじめや暴力のきっかけが減少しているのではないか」と分析している。

 調査結果によると、公立小中学校・高校・特別支援学校でのいじめ認知件数は2万3061件で、過去最多だった前年度より5184件減少。うち小学校は1万9287件(前年度比3495件減)、中学校は3619件(1495件減)で、いずれも6年ぶりに減少した。高校は94件(161件減)、特別支援学校61件(33件減)だった。
 内容別(複数回答)では「冷やかしやからかい、悪口など」(53.9%)が最も多く、「遊ぶふりしてたたかれる」(19.8%)、「仲間外れ、集団による無視」(10.9%)と続いた。スマートフォンの普及に伴いSNS(会員制交流サイト)を介したいじめも増加。「パソコンや携帯電話で誹謗中傷や嫌なことをされる」が中学校で518件、小学校で484件と、4年間でそれぞれ1.4倍、2.3倍に増えた。
 いじめ防止対策推進法に規程する「重大事態」の発生は、小学校で8件、中学校で6件の計14件(前年度比11件減)だった。
 児童・生徒の暴力行為の発生件数は8032件で、過去最多だった前年度より2564件減少した。減少に転じたのは6年ぶり。うち小学校が6054件(890件減)を占め、学年別では1・2年生の加害児童数が増えているという。
 一方、私立校のいじめ認知件数は379件(499件減)で、前年度はゼロだった「重大事態」の発生は2件あった。
 不登校は公立小中学校が1万4267人(119人増)、私立小中学校は419人(108人減)。公立小中学校の長期欠席者数は2万532人と前年度比2237人増だったが、新型コロナの感染回避を除くと1万8526人(181人増)だった。
 自殺者数は公立校が過去最多の27人(9人増)で、内訳は中学生13人、高校生14人。私立校は6人(3人増)で、中学生1人、高校生5人だった。
 県教委の担当者はいじめや暴力行為が減少した要因について、ソーシャルディスタンスのほか、「コロナに伴う休校期間やの影響やいじめ防止などの取り組みの成果がある」とも話している。(佐々木航哉)


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不登校最多19万人
いじめ9万件減、コロナ影響  20年度文科省調査

 新型コロナウイルス感染が拡大した2020年度、全国の国公私立の小中学校で30日以上欠席した不登校の児童生徒は19万6127人で、前年度より1万4855人増えて過去最多だったことが13日、文部科学省の問題行動・不登校調査で分かった。小中高校と特別支援学校が認知したいじめは9万5333件減の51万7163件で、13年度以来の減少となった。小中高校生の自殺は最多の415人だった。

 文科省は、いずれもコロナが影響したと分析。「昨春の一斉休校などで生活のリズムが乱れやすくなって不登校が増加した一方、いじめにつながる対面での交流機会が減った」としている。不安や悩みを相談できずに孤立する恐れが強まっているとして、スクールカウンセラーの増員など相談体制の拡充を進める。
 感染不安などを理由に30日以上登校しなかった児童生徒数も初めて調査。小学生1万4238人、中学生6667人、高校生9382人の計3万287人に上った。文科省はオンライン授業の環境を整備し、学習機会を確保したいとしている。
 不登校は小学生が1万人増の6万3350人、中学生が4855人増の13万2777人で、小中学生全体の2.0%。学校が回答した要因のうち「本人の無気力、不安」が最多の46.9%で、他には「いじめを除く友人関係」や「親子の関わり方」が多かった。義務教育でない高校は7049人減の4万3051人。
 いじめは小学校42万897件(6万3648件減)、中学校8万877件(2万5647件減)、高校1万3126件(5226件減)、特別支援学校2263件(812件減)で、全学校種で大きく減った。身体的被害や長期欠席などが生じた「重大事態」も209件減の514件だった。
 児童生徒千人当たりの認知件数は39.7件。都道府県別で最多の山形県(114.0件)と最小の富山、愛媛両県(11.6件)の間には、ほぼ10倍の差があった。
 自殺した小中高校生は98人増の415人で、うち12人はいじめが背景にあった。学校からの報告に基づくが、警察庁などが集計した20年度の自殺者は507人(暫定値)で、開きが生じている。


表層深層
制限続き深まる孤立感−いじめ減、教員の見逃しも
 文部科学省の2020年度問題行動・不登校調査で、新型コロナウイルス下の学校にさまざまな影響が出ていることが浮き彫りになった。制限続きの学校生活で、漠然とした理由の不登校が増加。子ども同士の接触減少で減ったとされるいじめは、感染対策に追われる教員の見逃しの可能性も指摘される。孤立感を深める子どもと、多忙化に拍車が掛かる教員。学校現場に新たな課題が重くのしかかる。

◆我慢だらけ
 「なんとなく不安」。昨年6月、東北地方の公立中で休校明けに不登校気味になった女子生徒に対応した30代の男性教諭は、その理由に驚いた。いじめなどのトラブルはなく、学業や友人関係に目立った問題もない。それでも教室に入れない日が続いた。
 こうしたケースは珍しくない。新潟県内の公立小の40代女性教諭は、具体的な理由がない不登校が増えたと感じる。「感染対策で多くの学校行事が中止になり、給食も黙って食べる。我慢だらけで、学校が楽しいと思えなくなっているのではないか」と指摘する。
 小中学校の不登校増加は8年連続だが、これまでは学校になじめない子がフリースクールなど学校外の学びを選択できるようになったという側面が大きかった。コロナが新たな形態を生んだ可能性がある。

◆隠れた被害
 文科省はいじめの認知件数が急減したことを@一斉休校で授業日数が短縮され、児童生徒が対面でやりとりする機会が減ったA教員がコロナ関連のいじめを警戒して指導を徹底した?と分析、いじめ自体が減少した面があるとみている。愛知県の公立小の男性教諭は「いじめやトラブルは減った」と証言する。
 一方、都道府県別では認知件数が増えたところがあり、多くが見逃されているとの見方もある。「教員や親が忙しそうで悩みを打ち明けられなかったとの声が多く寄せられる」と話すのは、いじめ被害の相談に応じる高橋知典弁護士。「隠れた被害が進行している恐れがあり、危機感持つべきだ」と警鐘を鳴らす。
 こうした中、コロナに絡むトラブルも表面化。欠席しただけで「感染したらしい」とうわさが立つ、マスクの着用が苦手なクラスメートを厳しく責める…。ある教員は「悪意はないが、大人の過剰な言動をまねているように見える」と嘆く。

◆負担軽減を
 子どもの自殺も大幅に増えており、国や各地の教育委員会は相談体制の拡充に乗り出した。鹿児島県教委は今年4月からスクールカウンセラーを増員し、公立小中学校への派遣回数を大幅に増やした。担当者は「専門的な知識があり、子どもの本音を引き出せるはず」と期待を寄せる。
 ただ、コロナ以前の日常を回復する動きが本格化した21年度が危険と感じる教員は多い。学校行事が元通りになり、子どもの関係構築や教員による異変察知の機会が復活する。一方、20年度は中止されていた対面での教員研修や教委主催の会議も再開。負担が増し、かえって子どもと向き合う時間が削られかねない。
 兵庫県立大の竹内和雄准教授(生徒指導論)は、阪神大震災や東日本大震災では子どものストレスは2、3年後に噴出したとし「今後、不登校もいじめも増える可能性がある」と指摘。「教員が連携し悩みを受け止める対応が求められ、時間も手間もかかる。指導と関係ない業務を削減するなど、教員の負担軽減を進めるべきだ」と訴えた。