高総検レポート No 5

1989年2月10日発行

「教務規定三原則」(民主・合理・公開)の実現に向けて討議を深めよう!

教務規定入門(第2回)

Q1 前回の「教務規定入門」を読み、とても残念な気持ちになりました。生徒指導の道具に「教務規定」を使うなという考えは現実的とは思えません。現場で日夜、生徒指導に追われている者にとってあまりにも無責任な意見に思えます。私たちは、必要悪と思いつつも「教務規定」で学校の秩序を保っているというのが現実ではないでしょうか。

 ご意見をお寄せいただきありがとうございます。たしかに、おっしゃるように「生徒指導」で困難な思いをしている学校から、私たちの主張に対して無責任であるとか理想論であるという意見が出てくることは十分予想することができました。ですから多少の批判は覚悟の上で出したもので、批判が多く出てくる中で「教務規定」や「教育評価」ヘの関心が高まることを期待していました。しかし、だからと言って無責任な意見や理想論を提言したつもりは毛頭ありません。
 ご承知のように、神奈川県では約3,000名の中退者を出しており、社会問題として大きく取り上げられています。3,000名もの中退者を出しているということは、あきらかに現行の教育制度に本質的な欠陥があることを意味しています。行政当局の無責任な政策によって生み出された異常とも言うべき学校間格差の現実は、中退問題に拍車をかけていると言えましょう。こうした現実を前にして、子どもたちの学習権をいかに保障するかという観点から「教務規定三原則」を提起しているのです。たしかに、ご意見にもあるように、校舎内での喫煙、暴力行為、いじめ、盗難など、次から次へと起こる問題に私たちは振り回わされているというのが現実です。こうした日常の多忙さが、目の前で起こる現象がすべてであるという錯覚を生み、広い視野を持てなくしているのです。冷静になって考えてみると、特定の学校で、授業が成立しなかったり、問題行動が多発するというのはおかしなことです。その学校の教職員の努力とは無関係に、学校間格差は作られていくのです。また、学区が大きければ大きいほど、「下位」に位置づけられた学校の矛盾は大きくなるのです。
 私たちの提起した「教務規定三原則」は、学校間格差を生み出している現行の学区・入試選抜制度に対する改革,学級規模縮小・過大校解消・教職員定数の改善など教育条件に対する要求とともに考えていかなければならない問題です。個々の職場の実態からでなく、神奈川の高校教育、あるいは日本の高校教育の置かれている矛盾をトータルにとらえていく必要があると思います。そうした視点を持つことが、個々の職場においても、より現実的な対応であると私たちは考えています。

Q2 そろそろ卒業判定会議、進級判定会議のシーズンがやってきましたが、私の学校では会議に出される生徒が多く長時間におよびます。大事な会議とは言え、あまりにも異常な事態に、うんざりしているというのが現実です。他の学校ではどうなのでしょうか。
 成績会議の審議時間について、各学校の現状をみてみましょう。
・1時間以内13校・2時間16校・3時間13校・4時間9校
・5時間3校・6時間1校・7時間2校・8時間3校
・9時間1校・10時間以上
(最高26時間)
6校

 アンケート結果を見てもわかるように、1〜2時間で終わってしまう学校と10時間以上の学校とではあまりにも大きな差があります。中には、深夜に及ぶことが3日も続く学校もあるそうです。これは、前にも述べましたが、学校間格差によって生み出された異常な現実です。同じ県立高校でありながら、勤務条件にこれだけの差があるということは大問題です。このような現状は今すぐ改善されなければなりません。
 全国的な状況を見ると、臨教審のいう「学校選択の自由」という論理で学区拡大が進み、学校間格差による「教育荒廃」は激化しています。「学校選択の自由」「特色ある高校づくり」という言葉は一見もっともらしく聞こえる言葉ですが、能力主義的な教育観による差別・選別政策を意味していることは今さら言うまでもありません。私たちは、学校間格差による「教育荒廃」がいかにして生み出されたものかを、歴史的にも現実的にも学んでいかなければなりません。

Q3 私の学校では、1科目でも不認定の科目があると進級・卒業ができません。学校によっては、多少不認定の科目があっても進級を認めているケースがあるそうですが、他校の具体例を教えて下さい。
 最初にアンケートの結果をみてみましょう。

<進級の条件>
ア. 1科目でも不認定、進級不可 52/69校(75.4%)
イ. 一定程度、不等定の教科・科目があっても進級 17/69校(24.6%)
 (イの具体例)
・許容科目数 1科目まで 4校 2科目まで 3校    3科目まで 1校
・許容単位数 7〜8単位まで 1校 9〜10単位まで 1校    
 (その他の例)
・1〜2科目であっても判定会議の結果による 3校
・規定はアだが、判定会議で相当数進級する等 5校

<卒業の条件>
ア. 1科目でも不認定、卒業不可 61/70校(87.1%)
イ. 一定程度、不認定の教科・科目があっても卒業 9/70校(12.9%)
 (イの具体例)
・許容科目数 1科目まで1校 2科目まで2校
・許容単位数 9〜10単位まで1校  

 進級・卒業の条件については、1科目でも不認定の科目があると進級・卒業できないという学校が、それぞれ52校(75.4%)、61校(87.1%)あり、かなりのバーセンテージを示しています。それに対して、単位制の弾力的運用をはかっている学校が、それぞれ17校(24.6%)、9校(12.9%)あります。進学率の向上によって、もはや国民的教育機関となっている現在の高校教育で、旧制中学校的な評価観(人間観)による「教務規定」で、はたして対応できるか疑問です。まして、退学者を3,000名以上出し原級留置者を1,000名近く出している神奈川の教育現場を考えると、1科目でも不認定の科目があると進級・卒業できないという「教務規定」の機械的運用は問題があると言わざるをえません。現実問題として原級留め置きになった生徒のほとんどが退学してしまうということを考えると、原級留め置きが懲戒としての意味しか持たず、決して学力保障という本来の意味が生かされていないことに注意しなければなりません。
 私たちは、再試験・補習の機会を保障することによって、単位未修得者を出さないような取り組みをしなければならないと思います。しかし、本質的には単位未修得者を出さない、「わかる授業」が前提条件としてあることを忘れてはなりません。教務的な操作によって急場をしのいでも、私たちの目指す「魅力ある学校」とは言えないからです。
Q4 原級留め置きについて日頃から疑問に思っていることがあります。それは、すでに修得した単位が無効になってしまうことです。「英語」を落して留年になった生徒が、今度は前年に修得した「数学」を落してしまい退学していきました。すでに修得した単位をすべて無効にしてしまうのはあまりにも不合理と思いますが、いかがでしょうか。
 原級留置者が出た場合の問題点で重要なのは、ご質問にもあるように、すでに修得した単位の取り扱いの問題です。先にアンケートを見てみましょう。
原級留置者における、すでに修得した単位の取り扱い
ア. すべて無効50/71校(70.4%) 
イ. 無効にせず14/71校(19.7%) 
ウ. その他※7/71校( 9.9%)※再留年の場合は認めたこともある。

原級留置者の再履修の取り扱い
ア. 全教科・科目、単位の再履修67校(100%)
イ. 再履修を教育課程の中で保障している0校

 以上の結果から、すでに修得した単位をすベて無効にしている学校が圧倒的に多いことがわかりました。また、落とした科目のみを次年度再履修できる学校は、今回のアンケートでは全くありませんでした。ここで問題となるのは、すでに修得した単位を無効にできるのか、一度修得した単位について再履修を強制できるのかという点です。しかし、ほとんどの学校で、すでに修得した単位を無効にして再履修を強制しているということは、現行の劣悪な教育条件のなかで、不認定科目だけを再履修させる施設・設備がないということを物語っています。
 こうした教育条件の不備による不合理な側面は、原級留め置きとなった生徒に必要以上の心理的負担を与え、それが中途退学の原因を生んでいるのです。
 今後の課題として、未修得単位だけの再履修を制度的に保障した教育課程の編成が必要だと思います。現時点で、それが困難ならば、すでに修得した単位については、できるかぎり認定していくべきだと思います。
 以上のように、卒業・進級をめぐる問題に各学校は頭を痛めているというのが現実ではないでしょうか。県教委は、「3月31日まで追認指導しろ」とか「教務規定の弾力的運用をしろ」などと言って、「教育荒廃」の原因についての責任を全くとろうとはせず、職場に責任を押しつけて知らん顔をしています。県教委の無責任な姿勢に対して、各分会の怒りを結集する時が来たようです。

(つづく)