高総検レポート No 22

1995年2月17日発行

中学生は知っている!専門コースの問題点を!

───「特色づくり」の問題点(その3)───

 今年1月末、各校で議論されてきた「魅力と特色ある高校づくりプラン(略称:魅力プラン)」の中間報告が県教委に提出されました。3月20日には、この本報告が提出されることになっています。
 一方、昨年10月の需給表で要求した来年度の教職員配置とは異なる県教委の回答を、この1月に受けた高校も少なくないようです。増員を要求した教科とは異なる教科に増員の強要がなされたり、要求した非常勤講師時間数が脅かされるなど、「特色づくり」どころか、来年度のカリキュラムを支える人的配置にも支障をきたしているという状況があります。「現在の特色、個性」さえも条件が保障されない中で「今後の特色づくり」の「基本的考え方」を求める「魅力プラン」の提出に現場が翻弄されてはなりません。
 県教委は集まった各校の「魅力プラン」をみて、内容(“県教委のお気に入り”の内容)によっては若干の定数加配などの「優遇措置」を考えているようですが、これも継続して行われるとは限りません。「財政難」の中では『今年はA校を支援し、来年はA校の支援を外してB校へ回そう』などということになっていく可能性もあります。実際、専門コース設置校においてはこのようなことが現実となっているのです。
 県教委からの人的・物的支援が期待できないこと、支援がなされたとしてもその継続の保障はないということを先ず承知した上で、今後の「特色づくり」の議論を深めていく必要があります。

[1]エッ!某専門コースの希望者は1名!(他県の実態)

 県教委の“お気に入りの特色”の第1位は、なんといっても専門コースの設置計画であり、専門コースを誕生させる可能性のある「特色」でしょう。
 「生徒の個性を大切にする」(県教委)ための専門コースを中学生はどの様に見ているのでしょうか。右の表は、専門コースを多く持つ埼玉県の中学3年生を対象にした入試希望調査の実態を競争率順に並べたものです(高文研:月刊ジュ・パンス1995年2・3月号より)。

(web版の注:ジュ・パンスの表には誤りがあり、訂正版が出されました。高総検レポート24号に、訂正された表を引用してあります。)

 これをみると全ての専門コースが希望倍率1.00倍以下におかれ、中には希望者1名という専門コースもあることがわかります。これでは中学生にとって『専門コースのニーズはない』と言わざるを得ません。この後、志願倍率を1.00倍以上に引き上げるために、中学生に強引な“進路指導”がなされ、高校側では生徒集めの中学巡りに忙殺されることになるのでしょう。
 「特色づくり」の具体的な方策として登場した専門コースが、実際は中学3年生にとって魅力的なものにはなっていない最大の要因はどこにあるのでしょうか。
 それは、中学3年の段階では自己の進路を、外国語・情報処理・体育…といった一本のコースに決めることができないからではないでしょうか。(しかし実は、これはアタリマエのことなのです。15歳から18歳という、人生でもっとも心身の変化が激しい、多感な時期に、一本の決められたコースの上しか歩けないのは、個人の自由な発達を阻害するものなのですから。)  埼玉県で示された専門コースへの希望倍率の低迷は、『中学3年の段階で自己の進路を一本のコースに決めることなどできないのダ!』という中学生の訴えであり、能力主義に基づく差別的な早期選別をねらう文部省の「多様化」政策に対する、中学生の精一杯の“抵抗”と言えるのではないでしょうか。
 文部省が各県市教委に圧力をかけて各県の「特色づくり」を強引に拡大させることはできても、中学生に高校の「特色づくり」や「専門コース」に興味を持たせることは、その気のない馬に水を飲ませるように、そうたやすいことではありません。「特色づくり」や「専門コース」の問題点を最も心得ているのは、実は中学生とその父母なのではないでしょうか。
 私たちは、埼玉県での「専門コース」の実態を謙虚に受け止め、「多様化」政策の問題点をいっそう明確にしていかなければなりません。

[2]なぜ、県教委は専門コース拡大を企てるのか?

 昨今、文部省の「多様化」政策は強まるばかりです。1993年の12月に文部省は『高等学校教育の改革に関する推進状況』という分厚い冊子を発行し、各県の「多様化」(特色ある高校づくり・入試制度改革)状況をまとめました。これをみればどの県が「多様化」が「遅れている」かが一目で分かります。これは、各県の「多様化」実施の競争をあおることが狙いであり、各県教委にとって、文部省の圧力から逃れることのできない脅威の「指示文書」となっているようです。
 昨年1994年は神奈川の高校教育の「改革」にとって激動の1年でした。県教委は高課研第2次報告からわずか半年後に、複数希望制を柱にした入試制度の「多様化・多元化」という、文部省の意向に沿う入試改革「大綱」を発表しました。また、これをテコに「特色ある高校づくり」を高校現場に迫る「魅力プラン」なるものも登場しました。この異様な「改革」ペースは全国の「多様化」の流れにオクレマイとする県教委のアセリの現れではないでしょうか。
 文部省からみれば各県の専門コースの設置数は「特色づくり」の進展状況をみるひとつのバロメーターとなっています。神奈川はその点では「先進県」とはいえません。「魅力プラン」のマニュアルには『平成9年度までの目標:すべての学区に専門コースを設置する』と記されています。先に示した埼玉県の状況を、県教委が知らないはずがないにもかかわらず、このように述べているのは、全国の「多様化」競争に負けまいとする現れではないでしょうか。県教委にとって専門コースの設置の拡大は、全国に吹き荒れる高校教育の「多様化」競争にオクレを取らないための必要条件なのです。
 さらに、教育行政にとって専門コースの設置は“安上がり”であるという“利点”を持っています。専門コースは「専門学科に近い専門科目の単位を設置」しながら法制上は普通科に所属されていますから、専門学科に義務づけられた人的・物的教育条件に比べれば、かなり“安上がり”に済ますことができるのです。今の財政難の中で“安上がり”に「多様化」をすすめるには専門コースの拡大が手っ取り早いのです。
 しかし裏返せば、この“安上がりの利点”は、生徒・教職員にとっては、教育条件の貧困化というマイナスの要因になってしまうのです。専門コース設置の現場から『人的・物的支援は開設当初だけだった』『専門科目を教える教員の確保に苦慮している』『特色ある科目に生徒が集まらない』などの声が聞かれるのは、これが現実のものとなっていることを示しています。
 最後に、下の表は千葉高教組が91年度から94年度までに新しいコースが導入された高校を市販の偏差値資料を使って作成したものです。

平成7年度入試 千葉県公立高校合格のめやす 普通科
グラフの中の棒は、上の位置が80%、下の位置が50%の合格ライン。
『高校受験案内』(声の教育社)の資料をもとに作成

<この表は、千葉県高等学校教職員組合「教育困難校」対策委員会『先生あきらめないで〜生徒たちとともに』より>

 これをみると千葉県では偏差値が低くなるほどコースが導入されている高校が多くなっていることがわかります。専門コース設置のターゲットが、このような形でしぼられているのは千葉県に限られたことではありません。
 なぜこのような結果になっているのでしょうか。
 このことは「専門コース」や「特色づくり」を議論する上で重要な問題提起となっているように思います。