高総検レポート No 60

2002年6月21日発行

「シックスクール」を考える

再編・条件グループ
 シックスクール問題は緊急課題
 「化学物質過敏症」(ケミカルシンドローム)、「シックハウス」「シックスクール」などの言葉が市民権を得て久しくなります。しかし、行政は相変わらず「コスト」優先の「箱作り」や、予算がないことを理由に建物の改善を行おうとしていません。また、学校独自でシックスクール対策をとっている学校はほとんどないのが実態です。本県でも、アスベスト対策を10数年前に実施しました。しかし、除去はせずに塗り込めるなどの応急対策をとったに過ぎず、老朽化に伴って危険性は増していると言えます。
  文部科学省は、2000年9・10月、2000年12月から翌1月までの夏と冬の2回にわたって、教室内の化学物質(ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、パラジクロロベンゼン)の濃度測定を全国50校で実施し、2001年12月にその結果を公表しました。さらに、2002年度予算でシックスクール対策費2900万円を計上しました。
 文部科学省の調査結果によると、コンピュータルームの20%でホルムアルデヒドが厚生労働省の指針を越え、消臭剤を備えたトイレ5カ所の内4カ所でパラジクロロベンゼンが指針値を超えているなど、学校の危険な実態が明らかになりました。また、教室内家具から化学物質が放出されている危険性なども指摘されています。文部科学省は、建築費がシックスクール対策のためにコストアップしても補助をすることを表明(01年2月15日)するなど、遅蒔きながら対策に着手する姿勢を見せています。また、01年1月29日には、室内化学物質の濃度規準を全国に通知しました。しかし、積極的に独自の調査や対策を立てている自治体は都道府県段階ではほとんどありません。

毒性指針
  • ホルムアルデヒド:鼻咽頭粘膜への刺激
  • トルエン:神経行動機能および中枢神経系発達への影響
  • キシレン:出生児の中枢神経系発達への影響
  • パラジクロロベンゼン:肝臓及び腎臓系への影響
 厚生労働省は、2002年2月「室内空気中化学物質の室内濃度指針値及び標準的測定方法等について」を各知事・政令市長・特別区区長あて通知しました。さらに、3月文部科学省に同様の通知を行いました。それによると、上記4揮発性有機化合物以外に、エチルベンゼン・スチレン・クロルピリホス・アセトアルデヒドなどの9種類についての指針値を示しました。それらを受け、文部科学省は同様の通知を各大学・各都道府県教委・各都道府県私立学校主幹課あてに出し、さらに、それを受けた神奈川県教委は、5月13日に厚生労働省通知と同様の依頼を各学校長あて行いました。しかし、依頼文書に「上」からの通知文書を添付しただけで、何ら具体的調査を指示したものでも、調査費を伴うものでもありません。
  学校での化学物質危険因子はたくさん存在します。それらについての調査はまだ手つかずの状態です。私たちは、生徒や教職員の命と健康を守る立場からも、シックスクールの実態把握と、人的被害実態調査、危険物質の除去などの対策を進めることが急務となっています。

 学校は危険物質があふれている
 −危険な化学物質の使用はやめよう−
 現業職員の合理化などによって樹木の手入れの外注化や、農薬散布(害虫駆除剤、除草剤等)は増えていないでしょうか。農業系専門高校などでの農薬の使用実態はどうなっているのでしょう。トイレボールや、塩素系トイレ洗剤は使用していないでしょうか。ほとんどの学校で石油系床ワックスを使用しているでしょう。私たちの学校では、日常的に化学物質を大量に使用しているのです。
  生徒が、石油系床ワックスが塗られた床に、素足でべったりと座っているのをよく見かけます。ある学校では、毎年年度末に床ワックスを生徒に塗らせるのが恒例となっています。担当者が危険性を指摘され、製造元に問い合わせをしたところ、「素手では絶対に取り扱わないように、マスク等を使用すること、肌に付着した場合にはすぐに洗い流すこと」を要請され、あわててマスクと手袋を準備しました。学校では、安全な蜜鑞などの自然系ワックスが必要なのですが、コストが高いため相変わらず危険な石油系ワックスが使用されています。ダイオキシン対策として焼却炉の使用停止はすぐに対応したのに、金のかかる対策は決して行おうとしません。
  また、授業での安全性は確立されているのでしょうか。家庭科の授業で合成洗剤や、危険な漂白剤は使用していないでしょうか。プールにカルキの固まりを放り込んですぐに生徒を入れていないでしょうか。美術の絵の具は、理科実験の薬品の安全性は、工業や農業実習での薬品、農薬などの安全性は・・・・・・? 私たちは、今学校で使用されている化学物質全ての再点検に迫られています。

 電磁波の危険性
 電磁波の危険性が指摘されていますが、学校での電磁波の実態調査は全くと言っていいほど行われていません。パソコン、変電室、電気製品、高圧鉄塔、電車、工業などの専門学科で使用されている機械類からの電磁波の実態把握はもちろん、生徒のほとんどが使用している携帯電話の電磁波や、学校周辺のトランスや、中継塔からの電磁波などの実態把握も行われていません。
 携帯電話は、高周波の電磁波による脳への影響の危険性が指摘され、イギリスでは16歳以下の子どもは携帯電話の使用を控えるようにとの勧告を行っています。(2000年)高圧鉄塔の影響も危険です。アメリカやヨーロッパでは、高圧鉄塔周辺での小学校や、幼稚園の建設が制限されています。もちろん、日本とは電圧や、移送方法に違いはありますが、日本でも高圧線の下では植物の生育が悪いなどの影響は見られます。高圧線が入り組んでいる地域では、蛍光管を掲げるだけで発光してしまうなど、高圧線からは非常に強い電磁波が出ているにもかかわらず、日本では、校庭を高圧線が横切っていたり、敷地内に高圧鉄塔が建っている例さえも見受けられます。
 「情報」の必修化を控え、パソコン室の使用頻度は増していくことでしょう。パソコンは、どのように並べられているでしょう。平行方式で並べるとディスプレイからでる電磁波が前の生徒の後頭部を電磁波が直撃します。パソコンの場合、電磁波は前方よりも後方により強く出るとの指摘もあり、考え直さなければならないでしょう。ある高校では、教室中央部を大きく開けて、パソコンを外側に向けたといいます。また、校舎内に設置された変電施設は安全でしょうか。化学物質過敏症と、電磁波過敏症を併発する例も多く見受けられることから、これらの点検が急務となっています。

 校舎の室内木装化を進めよう
 コンクリート症候群が指摘されています。コンクリートで飼われたマウスは、木箱や金属箱で飼われたマウスよりも生存率が低い確かめられています。(静岡大、1987年)この原因として、コンクリートは体表面から熱を奪いやすいことがあげられています。また、コンクリートの巣箱で育ったマウスは、暴れる、けんかが目立つ、落ち着きがないことも指摘されています。人間への影響も懸念されます。
  また、神奈川では丘陵地の北斜面に建つ高校も多く、中廊下式で、北向き教室も多く見受けられます。風通しが悪く、夏の暑さと冬の寒さは尋常ではない校舎も多いのが実態です。これら悪条件を改善するには、床や壁の木装化を進める必要があります。コンクリートに、漆喰や珪藻土を塗ることでもかなり改善されるでしょう。ただ、木材ならば何でも良いわけではありません。集成材や、合板、クスリ漬けした輸入材ではそれがシックスクールの原因となってしまいます。国内材の使用は、森林の育成につながり、京都議定書に言う二酸化炭素削減効果も期待できるのです。

 敷地の土壌は安全か
 校庭や、敷地内土壌の安全調査も必要です。特に工場敷地跡などに建てられた高校は、緊急対策として実施する必要があります。総合的な学習の時間や総合学科等で、農業体験や、園芸体験を取り入れようとしている学校も多いと聞いています。その際に、土壌が農薬や、化学物質によって汚染されていないことを確認する必要があります。実習の中で、直接手に触れたり、その土で作られた作物を食べたりすることもあるのですから、当然その土の安全性が確立されていなければなりません。特に、幼稚園・保育園児や、小学生が農薬や化学物質に汚染された農場や校庭で「体験学習」を実施することは大変危険です。

 高校再編が進み、老朽化した校舎の建て替え、改修などが進められようとしている今こそ、安全な校舎作りが必要となっています。現に東京の中学校で、改築したとたんにシックスクールで生徒に症状が現れ、大規模改修を迫られた例もあります。「安全な学校作り」を進めるために、教育条件整備の一環として「シックスクール」についてさらに検討しなくてはなりません。そして、再編校を決定し、存続する学校を決める際に「校舎・敷地の安全性」を含めた検討がなされる必要があるのです。安全性を無視した、安上がりの教育システムそのものの見直しが迫られています。