神奈川県公立高校入学者選抜制度・学区検討協議会
第2次報告「今後の学区のあり方について」に関する見解
 
2003年2月21日
神奈川県教職員組合協議会

  1.  本日、入学者選抜制度・学区検討協議会が開催され、第2次報告「今後の学区のあり方について」が示された。
     報告は、「今後の学区のあり方」として「一人ひとりの個を生かす学校選択幅の拡大」の視点から「今後の具体的検討にあたっては、高校の選択幅を一層拡大することができ、住んでいる地域によって規制を受けることなく、高校選択の量的均等、質的均等を図ることができるよう、学区を撤廃する方向で検討することが望ましい。」としている。
     また、学区を拡大・撤廃した場合に想定される課題として、「受験競争の激化」「学校の序列化の拡大」「中学校の進路指導の混乱」など5項目について検討しその対応策を示している。
     さらに、「おわりに」では、学区撤廃についての慎重意見や、課題がさらに顕在化することを懸念する意見があったことを指摘し、課題解決のためには「県立高校改革の着実な進展が不可欠」とするなど、「関係者の一層の努力と積極的な取組み」を求めている。

  2.  私たち神奈川県教職員組合協議会は、以下の点で学区撤廃に反対する立場から、今回の「第2次報告」にはきわめて不満であることを表明する。
    また、教育委員会には、今後「報告」が指摘している課題について慎重に検討を重ね、神奈川の教育に混乱を引き起こさないよう最善の選択を求めるものである。
    (1) 今回の学区撤廃の報告はこれまでの神奈川における学区論議に逆行するものである。
     神奈川の学区制度は、
    1979年に入選協(神奈川県公立高等学校入学者選抜制度研究協議会)の答申を受けて9学区から16学区になった。
    1986年に入選検(神奈川県公立高等学校入学者選抜制度検討協議会)が県北学区2分割を答申して18学区になった。
    このように神奈川県では一貫して学区分割・縮小の歴史を経てきており、今回の学区撤廃の方向性を示した報告はこれまでの流れに逆行するものである。
    また、2001年度には学区外枠が8%から25%に拡大され、「県立高校改革推進計画」による新しいタイプの高校も全県学区に位置づけられることになっている。
    (2)  学区が撤廃されると過度な受験競争と学校間のさらなる序列化が拡大する恐れがある。
      学区が撤廃されると、全県の高校が等しく同じ尺度で序列化され、より序列の高い学校へ志願が集中し、受験競争が加速化することは間違いない。学区外枠25%の志願状況をみると、志願者は学区の「トップ校」に集中している実態があり、学区撤廃によってこれがさらに加速され、全県的に受験競争が激化することも予測される。
      報告は、各高校の「特色づくり」の一層の進展によっていわゆる「偏差値」中心の志願状況は変化していくとしているが、この認識は入試の現状に対して楽観的すぎないだろうか。
    また、専門学科と総合学科等の「特色づくり」と多数を占める普通科の「特色」を同一の次元で論じることにも無理がある。普通科の場合、大学入試がドラスチックに変化しない以上、カリキュラム上の特色には限界がある。
    (3)  新入試制度導入後における学区撤廃は、高校進学機会の不平等を拡大する恐れがある。
      2004年度から導入予定の新入試制度では、各高校の裁量枠が格段に増加し、全ての県立高校がそれぞれ異なった尺度で選抜を実施することになり、より競争が加速される可能性がある。独自問題導入となれば、個別の入試に対応するための準備をせざるを得ない受検生も多数現れてくるだろう。
    こうしたことが全県学区で展開されれば、中学校の教育に大きな影響を及ぼし、子どもの進路選択を困難にする可能性が大きい。また、高校入学を担保するために、中学生は私学併願をせざるを得なくなる。それは、保護者に余分な経済的支出を強いるだけでなく、経済的弱者にとって大きなハンディとなる。現状においても、家庭の経済的な差が子どもの学力にも影響を及ぼしている現状がある。
    以上のことから、学区撤廃は結果として高校進学における機会の不平等を強いることにつながりかねない。
    (4)  学区撤廃は、中高連携や地域連携を阻害し、地域に根ざした高校づくりを後退させる可能性がある。
      「開かれた学校づくり」はこれからの教育の大きな課題であり、さらに推進していくべきものである。現在、各高校は地域社会や地元中学校との連携や交流を深め、自らの教育力の向上をめざしたとりくみをすすめている。特に「課題集中校」と呼ばれるが高校では、日常的な生徒指導だけでなく、地元中学校や地域社会などとの緊密な連携を取りつつ生徒指導の向上に努めている。特に学区内の中学校との連携は、中高6年間を視野に入れて生徒を継続的にサポートしていく意味で重要な機能を果たしている。
    学区が設定されていることによって、限られた一定数の中学校との連携が可能となり、中学校側も自校の生徒のほとんどが学区内の高校へ進学することを前提にして対応している実態がある。学区撤廃によってこうした機能が低下する可能性が高い。
    また、通学時間が長くなることは生徒の負担が増し家庭の経済的負担も増大させる。不登校や怠学傾向にある生徒は通学時間が長くなり、結果的に中途退学者を増加させることにつながりかねない。

 ■おわりに
  現在の学区が、「県立高校改革推進計画」の進捗によって学校数にアンバランスが生じることは事実である。こうした観点から、地区の状況を勘案しながら量的なバランスを取っていく必要はある。また、現行制度では学区内に欠員があっても学区外枠を越えて合格者を出せないなどの不合理や隣接学区の問題もある。
  私たちは、こうした点について改善が必要なことを否定するものではないが、学区撤廃によってもたらされる事態を想定すると、学区撤廃には慎重であるべきだと考える。
  学区問題は、単なる学区の線引きの問題だけではなく、その影響等を総合的に検討するとともに、県民的な議論をすすめ合意形成を図っていくことが必要である。また、学区の検討は、神奈川の中学・高校教育の課題を将来的に解消していく方向性を持つべきだと考える。そのためには、希望するすべての子ども・青年に高校教育を保障するとともに、入学後の生徒の高校教育を充実させることこそめざすべきである。