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社説 学力格差

神奈川新聞2007年11月20日

「公教育」の存在意義示せ

 県内の高校教員らでつくる教育研究所が、情報公開請求で県教育委員会から入手した資料を基に、学力格差を生む背景として各家庭の資力が大きく影響を及ぼす実態を明らかにした。この数年来「格差社会」のひずみが問われだしているが、その現状を具体的に裏付けたデータといえよう。
 憲法が保障する「教育の機会均等」もなし崩し的に変質、家計状況で子どもの将来が決定付けられていく社会が出現している。
 県立高全日制のうち、2005年度に生活保護世帯などで授業料減免を受ける生徒の割合が多い上位10校をみると、8校までが中途退学者が多い上位10校の中に含まれていた。学力不振が指摘されるいわゆる「課題集中校」が軒並み減免率が高くなる一方、減免率の低い上位10校は、いずれもトップ級の「進学校」であった。
 同じ県立高でありながら、減免率の最大、最小の格差は50倍以上に達し、年を追うごとに広がる傾向にある。「公教育」の土台そのものが崩れる状況にあって、教育行政は格差是正に向けた有効策を打ち出すべきであろう。
 ところが県教委は本年度、県立高10校を「学力向上進学重点校」に指定、新たなエリート校づくりともいえる進学実績向上のための対策を始めている。実績の数値目標を掲げさせ、その達成のため一定の予算面の優遇をするというものだ。重点校は授業料減免率が低い上位10校のうち5校が含まれており、比較的に家計が安定した生徒たちが多く通っている。
 一方で県教委は課題集中校など5校を、学習意欲のない生徒が多いという印象を与えかねない「学習意欲向上実践校」に指定した。家庭事情からアルバイトをせざるを得ない生徒たちが多い実態に配慮することなく、意欲性だけに特化して改善が図れるだろうか。高校をランク付けするような指定校制は、学校格差の固定化や助長につながりかねない。
 県内公立高の進路状況調査によると、毎年、課題集中校を中心に全卒業者の一割弱がフリーアルバイター(フリーター)になる。県教委の3年前の調査でフリーター選択の理由を聞いたところ、希望した職に就けなかったり、事情があって進学希望をあきらめたり、本人が意思をあいまいにしたりする回答が7割近かった。
 不安定な被雇用層を多く出すほどに、格差社会を定着させる流れをつくり出す。企業の都合に合わせて安いコストで雇用調整できるシステムに呼応することが、教育の果たすべき役割ではない。
 学校や教育行政は、若者を使い捨てる経済構造に対峙し、学力の底上げ策を打ち出してほしい。家庭事情で子どもたちの将来が宿命付けられる社会は決して健全ではない。そこに警鐘を鳴らすことこそ公教育の存在意義である。