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崩れゆく機会均等 「格差」の中の県立高校 2

神奈川新聞2007年12月07日

進学希望を封じ就職

 神奈川のある県立高校での格差問題の討論に参加した三年生の男子(17)は、パート勤めの50歳代の母親と2人暮らし。生活保護を受け、授業料も免除されている。物心ついた時から父親はいなかったが、当時同居していた叔母や祖母に囲まれて、すくすく育った。

 一つの転機は、中学一年生の時に訪れた。いじめに遭い、学校に行けなくなった。母親たちは登校を無理強いせず、励まし続けてくれた。二年生のクラス替え以降、毎日通えるようになった。
 高校入試では前期選抜で希望の県立に不合格となり、目の前が真っ暗になった。後期選抜で県立に落ちたら、学費が高い私立に進学せざるを得ない状況に追い込まれるためだ。「私立に通うことになれば母に大きな負担が掛かる。前期の不合格をすぐに母に告げることができなかった。不安でいっぱいだった」
 そのため、後期では確実に合格する高校にまでランクを下げ、現在在籍する高校に受かった。
 男子は三年生になって、進学組の同級生と一緒に横浜市内の大学のオープンキャンパスを見学に行った。大学のテキストを手にして学究心は募った。教員も「大学に合格できる学力は十分ある」と認め、母からも進学を勧められていた。
 だがへ男子は就職の道を選んだ。内定した就職先はスーパーなどに納入する商品の検品や、搬送車両に商品を積み込む流通系の会社だ。川崎市内の会社寮に住み込みながら働くことになる。

 今の生活は楽ではない。母親のパート収入は月14万円ほどで、認知症で入院する祖母の入院費の負担もかさむ。「母親には中学時代に心配をかけ、高校に進学させてもらって感謝している。働いて親孝行したい」
 男子は進学希望を封じ、就職を決断したことに後悔はしていないと胸を張る。アルバイトで自分の生活費や学費を稼ぎながら大学に通うのは心身ともにきついと、自分を納得させた。「大字に進学できる人はうらやましいとは思うけど、自分が置かれている現実を受け入れて割り切ってやるしかない」。淡々とした口調で、そう言った。
 男子に限ったことではない。男子が通う高校では、三年生の就職志望者約50のうち4割に近い約20人が、経済的な理由で進学(大学、短大、専門学校)をあきらめて就職を選んだ。
 進学希望の生徒約70人の家計事情も厳しかった。約6割が学費を生徒自身がバイトなどで工面しなければならない。
 男子はつぶやいた。「父親がいれば、大学に進学していたかもしれない」