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県立高60校で卒業式 君が代起立徹底

神奈川新聞2008年03月02日

多様性「なぜ認めぬ」
県教委に生徒ら疑問

 県立高校の卒業式が1日から始まった。県教育委員会は式典での君が代斉唱時の教職員の起立の徹底を求め、不起立者の氏名を報告するよう各校長に命じている。「起立の強制はよくない」「異なる考え方をなぜ認めないのか」。出席した生徒たちは、君が代問題への関心の有無を問わず、個人の自主性に任せ、多様な価値観の尊重を求める意見が相次いだ。(報道部)
 
 この日、県立高六十校が卒業式を行った。ある県立高では、「国歌斉唱」の司会者の合図で参加者が一斉に起立した。一人の教諭はじっと席に座ったまま。君が代のメロディーが流れる中、同教諭は静かに時が過ぎるのを待っていた。
 この教諭は、起立しないことを事前に担任するクラスの生徒に伝えなかった。「価値観を押しつけたくない。自分で考えて判断してほしい」からだった。「教育現場に強制はなじまない。アジアの戦争被害者に思いをはせると、とても立てない」と打ち明けた。
 「日の丸、君が代の強制」について生徒に話すことは控えているが、思い余って話したことがあった。はっとする答えが生徒から返ってきた。「それって、沖縄の集団自決と同じじゃん」。戦時下で死に追い込まれた沖縄の人たち。生徒たちは、修学旅行で訪れた
南国の地で学んだことと強制とを重ね合わせた。
 同教諭は手応えを感じた。「日の丸、君が代について声高に語らなくても、伝えたいことを生徒に託すことはできる」
 一日、同校を卒業したある女子は「強制はよくないと思う。同じクラスの男子で立たなかった人もいた」と級友の心を推し量った。帰路に就いた卒業生グループも異口同音に「個人の自由」と言い切った。
 湘南地域の県立高でも、立たなかった教諭がいた。卒業する娘の晴れ舞台に臨んだ父親は「今の子は国旗、国歌をあまり意識しないのでは。うちの娘も…」と話すが、当の女子は自分なりに受け止めた。「大勢の中で一人だけ座ったり、国歌を歌わなかったりするのは勇気が要る。もっと自由が認められていい」
 横浜市内の県立高の卒業生の男子は、県教委の手法に手厳しい。「どうして違う考え方の人を認めないのか。不起立者の名前を集めるなんて、子供っぽい」。「強制」が生徒の気持ちにも影響を与えることを心配する。「心の中で立ちたくないと思う先生が強制されて立ったら、それを見ている生徒は、上の人の言うことをおかしいと思っても従うしかないのかと受け止めてしまう」


◆不起立教職員の氏名収集問題
 県教委は06年の卒業式以降、延べ193人の氏名を収集したが、県個人情報保護審査会は07年10月の答申で「思想信条に該当する」として収集停止を求めた。さらに、県個人情報保護審議会も今年1月、収集を認めない答申を出した。だが、県教委は2月、不起立者の指導上、氏名把握は必要として答申に従わず、収集継続を決めた。