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「愛国心」と歴史教育 2

神奈川新聞2008年04月01日

日中戦争知らぬ大学生

 米国史が専門の上杉忍・横浜市立大学教授(62)は、がくぜんとした。昨年末、世界の近現代史の講義後、国際総合科学部の学生が提出した匿名の質問用紙に目を通したときのことだ。学生はこう書いていた。
 「第二次世界大戦中、中国はどこの国と戦ったのでしょうか」
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 その学生は、日本がアジアの国々に惨禍をもたらした戦争の一つ、日中戦争(一九三七〜四五年)が起きたこと自体を知らなかったのだ。
 上杉教授は次の講義で、南京大虐殺や従軍慰安婦について解説。年度末の試験では、第二次大戦で日本が戦った国に該当しない国を選択する問題を出題した。それでも中国を選んだ学生は三人(全体の2%)いた。
 「講義で日中戦争についての説明をしていなかったら、不正解者はもっといたかもしれない。日本がかつてアジアを侵略したことを知っている学生は今、八割を超えないと思う」。上杉教授は危機感を募らせている。
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 学習指導要領で高校世界史は必修だが、上杉教授は「世界史の基礎知識が不足している大学生が年々増え一ている」と感じている。「年号や事柄を覚えていても、同時代の世界的な流れと関連付けて理解していない。この五年でその傾向は特に強くなった」と嘆く。
 大学で社会科学を学ぶには世界史の知識は欠かせない。だが、社会や大学の「実学」志向の高まりで歴史学が軽視され、歴史系のゼミを取る学生が減っていることも悩みの種だった。そこで、高校レベルの近現代史の補習も含めた講座(十五回)を昨年秋から始めた。日中戦争に関係する質問も、その講義の中で出てきたものだった。
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 県立高校で世界史や日本史を教える教員らは言う。「近現代史は大学入試で出題されることが多くなり、高校の授業で以前よりも教えている」「授業では受験対策だけでなく、戦争の悲惨さも伝えている」
 高校教員の「努力」とは裏腹に、大学教員の受け止めは厳しい。上杉教授と同僚の歴史学教員も「学生の知識不足」に危機感を抱き、手を焼いていた。二〇〇八年度の講座は、欧州、アジア、日本の計六人の歴史研究者が代わる代わる講義する形に発展させることにした。
 近現代史教育をどう充実させるか−。高校世界史の教科書執筆者でもある上杉教授は、次の一手に思いを巡らす。「大学の研究者と高校の先生が交流を深める必要がある」

(成田洋樹)
○県立高校の日本史履修状況
県教育委員会の調査では、2006年度の県立高校全日制卒業生のうち、日本史を履修しなかったのは30%近くの約1万人。学校の裁量で日本史必修化は可能で、07年度はおよそ30%の48校が必修化していた。学習指導要領で世界史は必修だが、今春の大学入試センター試験の地理歴史科で受験者が最も多かったのは日本史の41%。地理が32%と続き、世界史は27%と最低だった。