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「愛国心」と歴史教育 4

神奈川新聞2008年04月03日

「県定」で見方押し付け

 日本史必修化の方針を打ち出した引地孝一前県教育長は「市民感覚にかなった対応だ」と自負したが、県立高校の歴史教員の間では「教育現場の実態を踏まえない、思いつきの政策だ」と批判が渦巻いている。

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 小中学校の歴史学習は日本史中心で、世界史を本格的に学ぶのは高校に入ってから。日本史必修化のターゲットは、必修の世界史と選択必修の地理を取る生徒だ。二〇〇六年度卒業生の三割の約一万人が、「日本史を学はずに高校を卒業した」(県教委)という。
 だが、地理選択者が日本史を学ぶ機会が全くないわけではない。
 「通史の世界史Bの教科書では今や、どの時代でも日本に触れている。近現代史の世界史Aと日本史Aの内容は重なるところが多いのだが…」。県立高校の世界史教員は県教委の意図を測りかねている。
 同教員は「現場や専門家の間での議論を踏まえずになぜ方針を決めたのか」とも批判し、「小中学校で学んだ日本史について、高校では世界史の中で『世界から見た日本』を学ぶことに意義がある」と強調する。

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 県教委は今後、独自に新設する「近現代史」と「神奈川の郷土史」の2科目の教材づくりに乗り出す。両科目とも学習指導要領で位置付けられた科目ではないため、教科書に相当する教材については文科省の教科書検定は必要ない。
 教育行政が、立場によって見方が分かれる近現代史の教材づくりに踏み出すことに危険性はないのか−。千葉県教委は「教育行政が特定の思想に基づいた歴史分析を行うことが許されないのは当然のこと」と指摘。「神奈川県教委は学習指導要領の範囲内で公正公平なものになるよう努めるだろうが、社会にさまざまな考えがある中で難しい作業になるだろう」とみている。
 沖縄戦の「集団自決」での「軍の強制」の記述をめぐり、高校日本史の教科書検定が二転三転したことは記憶に新しい。神奈川県教委は「いかに中立的な教材をつくるかが課題」(高校教育課)としているが、教員の中には「歴史の書き換えが行われないとは限らない」と警戒する声もある。
 高校日本史の教科書を執筆している石山久男・歴史教育者協議会委員長(72)は「県教委が教科書をつくるということは、戦前の国定教科書と同じ意味合いの『県定教科書』になり、歴史観の押し付けにつながる」と批判する。
 高校での地理歴史科教育の在り方については「すぐに結論を出せるテーマではなく、高校段階で教えるべき内容は学問的、教育的な観点から議論を深める必要がある」と拙速さを戒める。

(成田洋樹)
○教科書検定
 出版社がつくった教科書は、文部科学省によってチェックされる。これまで教科書裁判として争われ、検定内容が国際問題に発展することもあった。昨年の高校日本史の教科書検定では、沖縄戦の「集団自決」で旧日本軍の強制があったとする記述は「誤解を与える恐れがある」と検定意見がつき、各社は削除や修正を余儀なくされた。だが、沖縄で抗議運動が拡大したため、文科省が方針を転換。軍の関与を示す記述は復活した。