教員免許更新制度導入へ(下) |
神奈川新聞2008年08月25日 |
県内対象者は毎年4000人 「子どもたちの学びの連続性を考えてもらえる仕組みを提案していきたい」。八月二十九日まで文部科学省の委託事業として予備講習が行われている横浜国立大学(横浜市保土ケ谷保区)で、同教育人間科学部の福田幸男教授は本番の講習に向け期待を込めた。 だが、福田教授にも戸惑いはある。「学校の種類も経験年数も違う。これだけばらつきがあると、難しい部分もある」。講義対象の教師たちは幼稚園から高校、特別支援学校などと、種類が混在するうえ、三十代から五十代の三つの年代が集まるからだ。「やってみないと分からないことはある。今回の授業評価で出た意見は謙虚に受け止めたい」 福田教授の懸念はもう一つ。免許更新制に伴う講習は全国どこでも受講できる点だ。「県内で対象になるのは毎年四千人と見込むが、県外で受講したり、逆に都内などの教師が県内で受ける可能件もあり、最終的な人数はなかなか読めない」としながらも、「できる限りの受け皿を用意し、先生たちを奮起させる材料を提供したい。せっかく三十時間かけるのだから、良いきっかけづくりにしてもらいたい」と話している。 黒沢長野大教授に聞く 現職教育に詳しい黒沢惟昭長野大学教授に、教員免許制導入を控え浮上している課題などを聞いた。 −研修について考えを聞かせてください。 「教育の質の向上には異論はなく、それを現職教育の研修というスタイルで行うことも生涯学習時代にふさわしく賛成だ。東京学芸大教授時代、教育委員会の要請で横浜市の教員を大学に受け入れ指導に携わった。自ら望んで参加し、研修中の誰もが一般学生とも交流し、学び合っていた。現職研修とは本来このようなものだろう」 −今回の教員免許更新制導入にあたって課題もあると聞きます。 「なんといっても財政的保証が不確実で、負担が一方的に受講者に寄せられる。文科省は、講習料や交通費の補助を検討するというが、その保証はどこにもない。『教育立国』を目指すものと期待された『教育振興基本計画』も当初、文科省が掲げた数値目標を財務省の反対で引っ込めたことは記憶に新しい。この経緯を思えば、財政援助への不安はぬぐえない」 「ただでさえ多忙なのに、なぜ自己負担までして研修を受けなけれはならないのか。学校の管理職や教委幹部は特例で講習が免除されるのは差別ではないか。採用時の契約が一方的に変更されることも問題だ」 −受け入れ側の大学の負担はどうでしょう。 「補助が不明確な状況で、カリキュラム編成や教材など一切が任されている。負担に対する不安は大きい。講習を受ける側も、担う側も多くの不安、負担を伴う制度であることを指摘したい」 −今後の対応をどのように考えていますか。 「困難が予想されようとも大学側の一員として講義を担当しなければならない。講義とは教材を教え込むことではなく、一定の事象のとらえ方を共有することだと考える。現職教員は学生に比べ、現場の体験や生活内容もはるかに豊か。私のこれまでの教員として培った経験をフルに活用すれは、受講生との経験の共有化も増し、とらえ方の一致の可能性も大きいだろう。そこに希望をつなぎ、資質向上のために参加する受講生にこたえたい」 ○黒沢惟昭(くろさわ・のぶあき) 長野大学教授 一橋大卒、東京大学大学院博士課程修了。神奈川大、東京学芸大、山梨学院大の各教授を経て、昨年4月から現職(社会思想・教育学専攻)。 神教組教育文化研究所研究評議員。07年まで横浜市人権創造プロジェクト座長。今年四月から川崎市生涯学習振興財団理事。横浜市緑区在住。69歳。 |