米原子力空母G・ワシントン |
神奈川新聞2008年09月26日 |
日本初 横須賀に配備 原子力空母ジョージ・ントン(GW、ジョンイリー艦長)が二十五日午前、米海軍横須賀基地入港した。米軍の原子母が米本土以外に配備されるのは初めて。一九七三年のミッドウェー以来、同基地に配備された空母として四代目となる。地元では、放射能漏れなどに対する不安の声も根強く残っている。GWは加圧水型原子炉二基が動力源。燃料交換が二十数年に一度で済むことなどから、従来の通常空母より機動力が格段に高いとされている。 接岸後に行われた式典には、日米両政府の高官らが出席。シーファー駐日米大使は「米国の原子力艦の安全記録に汚点はない。これからも(安全な状態を)続けていく」と強調した。 一方、GWでは5月下旬、たばこの不始末などから艦内で火災が発生。加えて、米原子力潜水艦が同基地などに寄港した際、微量の放射能漏れを起こしていたことが八月に判明した。 横須賀市内では原子力艦の安全性を疑問視する声も上がっており、二十五日も早朝から夜にかけ、市内の公園や海上などで市民団体が抗議集会を実施。「原子力空母の母港化反対」「ジョージ・ワシントンは帰れ」などと訴えた。 GWは当初、八月十九日に横須賀へ入港する予定だったが、火災による損傷の修理のため一カ月以上配備が遅れていた。今後は、十月初旬に韓国で開かれる国際観艦式に参加する予定。文部科学省などが行った放射能の調査ではGW入港に伴う放射能漏れなどの異常は見つからなかった。 原子力空母の配備に対し、横須賀市の蒲谷亮一市長は当初、反対を表明していたが、〇六年六月、「通常型空母がなくなり、やむを得ない」として配備を容認した。(松崎敏朗) 「歓迎していない」 海上デモには、地元・横須賀をはじめ沖縄や岩国などから五十五人が参加。ヨットやゴムボート十一艇で横須賀基地付近へと繰り出した。 午前八時半すぎ、かすみがかった海上にGWが姿を現すと、放射線対策の防護服を着込んだ参加者がシュプレヒコール。目の前を通過する巨艦に向けて「NO、CVN(原子力空母)」などと気勢を上げた。「原子力空母の横須賀母港問題を考える市民の会」共同代表の新井信子さん(64)は「威圧的な姿で決して友好的なものでない。撤退に向け運動を続ける」と気を引き締めた。 観音崎公園では、約二百人が「ジョージ・ワシントンは出ていけ」などと書かれた垂れ幕を掲げ、シュプレヒコール。基地近くの「うみかぜ公園」では約三百五十人が集結し、「母港化反対」などと拳を振り上げた。 一方、GW艦上には戦闘攻撃機FA18など艦載機が並び、乗組員約四百二十人が「はじめまして」と人文字をつくりながら入港。陸上自衛隊武山基地の隊員が打ち鳴らす和太鼓が歓迎ムードを盛り上げた。 基地周辺は完全防備の機動隊員が警戒するなど物々しい雰囲気に包まれた。同市汐入町の三十代の主婦は「放射能漏れ事故が起きるかもしれない。やっぱり不安です」。同市佐野町の男性(70)は「基地の町だから仕方がない」と話した。 同市民の会共同代表の呉東正彦弁護士は「空母との同居は危険。『歓迎していない』という声を上げることが米軍へのプレッシャーになる」と強調。夜には基地周辺などでデモ行進も繰り広げられた。 議論もっと必要 軍事評論家・前田哲男氏の話いつ何が起こるか分からない世界情勢で、すぐに紛争地へ駆け付けるため、米軍にとって横須賀基地は重要な拠点だ。機動的に動ける原子力空母の配備で、その傾向はさらに強まる。事故に備えた対策が必要なのは変わりない。対策や情報公開の議論が政治の場でもっと必要なはずだ。被爆者や戦争体験者が社会の第一線から退いたことで、米軍の宿願だった原子力空母の母港化を食い止めてきた被爆国の反核の思いが風化しつつあるとすれば重大だ。 ◆原子力空母ジョージ・ワシントン 1992年就役で、初代大統領にちなみ命名された。全長約330メートル、最大排水量約10万トンで世界最大級の軍艦。乗員は約6000人、戦闘攻撃機FA18など約75機を搭載する。加圧水型原子炉2基を持ち、最高速度は時速30ノット(約55キロ)超。西太平洋からインド洋をカバーする第7艦隊に所属する。当初は8月19日に入港する予定だったが、5月下旬にたばこの不始末などから火災を起こした影響で、ーカ月以上配備が遅れた。 日米関係者 午前十時に横須賀基地12号バースに接岸したGW。ケリー在日米海軍司令官が司会役で盛り上げる演出の中、シーワァー駐日米大使らがタラップに降り立つと、ケリー司令官の名で動員をかけた乗組員の家族や基地従業員ら約二千人が星条旗を振って大歓声で迎えた。 シーファー大使は式典で、地元選出の小泉純一郎衆院議員が首相時代に日米政府が配備に合憲したことに触れ、「米国は日本より良い友人を世界に持っていない。歴史的一瞬間だ」と表明。さらに第二次世界大戦の歴史を持ち出し、「(当時は)米国の原子力空母が、日本を服従させるためでなく、防衛のために配備されることなど想像すらできなかった」と述べ、良好関係をことさら強調した。 ウインター米海軍長官はGW配備の意義を繰り返した上で「将来を見据え、太平洋全体における米軍基地再編を進める次の一歩を踏み出す」と、軍事拠点のさらなる機能強化に意欲を示した。 日本側は外務省高官が「わが国の外交は強固な日米同盟が要。北朝鮮の核問題をはじめ、東アジアの安全保障環境は厳しい状況であり、政府はGWを心から歓迎する」との中曽根弘文外相の声明を代読。海自の赤星慶治海幕長も「GWの西太平洋への前方展開は日米同盟にとどまらす、アジア太平洋地域、そして世界の平和と発展を支える重要な柱だ」と全面的な協力姿勢を内外に示した。(報道部) 理想の姿 横須賀で 蒲谷市長は記念式典では最前列に着席。司会役の在日米海軍のケリー司令官から「いい天気をもたらしたのは市長」と持ち上げられ、手を振って友好関係をアピール。二年前、配備容認に転じた市長に、来賓のシーファー駐日米大使は「やっかいなことになり得ることに、理解を示した。友情に感謝したい」とあいさつ。この際も市長は笑顔で応えた。 式典後、横須賀市役所で記者会見に臨み、「ついにこの日が来た。私どもは、やるべき対策はやってきた」と強調した。式典でシーファー大使から「日米同盟の要役」と絶賛された市長。「同盟そのものは政府同士が推進している。だが、基地がここにある以上、実質的にいいものになるようにしていくことが自治体の務め」と持論を披露した。 会見後、ウインター海軍長官が市役所に異例の訪問をし、会談が実現。二人はがっちり握手し、市長は「市民の中には不安もある。原子力艦の安全管理には万全を期してほしい」と、念を押すように申し入れた。(横須賀支社) 霞がかった8時30分の東京湾。猿島(写真右端の部分)の向こう側を通過したGWが横須賀港に向けて航行。艦上に並ぶ戦闘攻撃機FA18や整列する乗組員の姿も確認できた。(早朝の抗議集会参加者がうみかぜ公園から撮影。) |