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生徒への暴行は「指導」

神奈川新聞2008年11月13日

地裁が無罪判決
県立湘南高 定時制職員

 県立湘南高校定時制で昨年六月、当時同校の非常勤職員だった男性(38)=茅ケ崎市=が、使った食器を片付けさせようとして一年の男子生徒に約一週間のけがを負わたとして傷害罪に問われた事件の判決公判が十二日、横浜地裁であり、大島隆明裁判官は無罪(求刑・罰金十五万円)を言い渡した。同裁判官は、生徒にけがをさせた事実を認めた上で、「生活指導上の行為で、正当な範囲を逸脱したものとは認められない」とした。
 
 判決は、生徒のけがを「軽度のものとはいえ、頸部挫傷の傷害を負わせている」と認定。その上で男性の行為について「食器を片付けない生徒をテーブルに引き戻すためのもので、暴力を振るって自己の怒りの感情を満足させようとしたわけではない」と指摘した。
 また、生徒のけがが軽いことや、当時の状況などから「激しい力を加えたとは認められず、学校教育法に定める体罰にも該当しない」とし、「形式的には暴行に該当するが、学校のルールを守らず自分勝手な行動をする生徒への生活指導の一環としての行為。正当な業務行為の範囲を逸脱したものとはいえない」と述べ、無罪とした。
 判決を受け、男性は「事件後、一時は指導に慎重になったが、大勢の同僚に支えられ、ここまでこられた」と、ほっとした様子。岡田尚弁証士は「教育現場をよくみた判決だ」と話した。
 横浜地検の中井国緒次席検事は「検察官の主張が認められず残念。判決文をよく精査し適切に対応したい」とコメント。当初の捜査に当たった藤沢署の神野富雄副署長は「コメントできる立場にない」とした。
 判決などによると、男性は、男子生徒が食堂を利用した際に食器を片付けなかったことを注意。出ていこうとする生徒を食堂内に押し戻すなどした際に約一週間のけがを負わせたとして略式起訴され、その後、正式裁判を請求した。

「安易な教職員告訴の風潮生む」生徒が通報要求「おれに手出した」
 判決によると、男子生徒は事件後、友人に一一〇番通報するように求め、「おれに手を出しやがった。学校にいられないようにしてやる」などと話していたという。
 大島裁判官は、そうした事情を踏まえ、「この程度の(被告男性の)行為が一切許されず処罰の対象となるのであれば、素行が悪く教職員の指導に従おうとしない生徒は、自分の体に触れられたという程度でも容易に教職員を警察に告訴するという風潮を生み出しかねない」と指摘した。
 校内でのささいなトラブルが、刑事法廷にまで発展した今回の裁判。軽度の暴行はあったと認めた上で無罪とした判決を、岡田弁護士は「問題のある生徒に対し、教育現場がどう対処するのか。それをよく考えてくれた判決」と評価した。
 大島裁判官は法廷の最後、男性に「生徒指導が大変なのは分かるが、反抗されてかっとなってはいけない。一歩間違えると範囲を超えることになる」と、説諭を付け加えた。(石尾正大)