県教委 個人情報流出 |
神奈川新聞2009年01月09日 |
06年度県立高生徒個人情報 流出した情報は、生徒の氏名、住所、電話番号、授業料振替口座の番号など。前回流出が確認された約二千人分の個人情報は、ファイル共有ソフト「シェア」の空間で公開されたが、今回は別の共有ソフト「ウィニー」を使って公開された。公開したのは、同人物とみられるという。 山本正人教育長は「個人情報を適切に管理する責任のある県教委として、あらためておわびする」と謝罪。前回の流出から約ニカ月後にすべてが流出したことについては「水面下で法的な措置を検討しつつ、(公開されなかった分の)情報が出ないよう、公開した人物を特定することでけん制していた」と釈明した。 情報は当初、県教委から授業料徴収システム開発を受託した日本IBMの協力会社の社員のパソコンがウイルスに感染し、流出した。日本lBMによると、これまでに公開者のネット上の識別番号を特定。接続業者を通じて公開者に対し、シェア空間の流出情報の削除と公開者情報の開示を請求したが、すべて拒否された。 日本IBMの出澤研太常務執行役員は「接続業者には通信の秘密があるので現在の法体制では(開示は)非常に難しい」と表明。今回のケースでは、個人情報の流出について刑事責任を問うのは困難として、同時に流出した日本IBMの情報に関する著作権法違反容疑での告訴などを検討する。県教委も民事上の措置を取る方針。 一方、日本IBMはシーア上で公開されたデータを削除する方法を見つけ、これまでに約40%を削除したという。 県教委の相談窓口(午前九時−午後八時)は電話045(210)8113。 「愉快犯」打つ手なく−法の不備浮き彫り 最初の流出発覚から約ニカ月。県教育委員会が最も恐れていた「十一万人すべての個人情報流出」が現実のものとなった。日本IBMはネット上の識別番号などから、すでに公開者をほぼ特定したが、ほかにも多数の流出データを保有する「愉快犯」の可能性が高いという。しかし、この悪質行為を罰する法が存在しないため手出しができず、個人情報をめぐる法体制の不備が浮き彫りになっている。(報道部) 「こんなことをやって何も罰せられないなんて、許されるのか。まさに愉快犯としか思えない」。山本正人教育長は会見の席で、県教委が負うべき責任の重大さを認めた上で、いらだちをぶちまけた。 県教委は個人情報保護法の適用を念頭に県警に相談したが、県警は個人による流出のみでの摘発は困難と回答したという。内閣府によると、同法は事業者による個人情報の目的外使用を禁じているが、表現の自由などとの兼ね合いから、個人の行動の制限は想定していない。堀部政男・一橋大名誉教授(情報法)も「ネットの進展に法整備が追いついておらず、今回情報を流出させた者の刑事責任を問うのは難しいのではないか」とみる。 日本IBMの調査では、この公開者が過去に話題になった企業によるネット上の漏えい情報を、大量保持していることも判明した。膨大なデータを流出させられる状態にあることを、ネット上で誇示して注目を浴びているのが実態という。 今回のケースでも、昨年九月ごろに情報の一部をネット掲示板「2ちゃんねる」で“公開”。その時点で県教委や日本IBMが記者発表しなかったため、「何で公表しないんだ」などと書き込んだ。不満が募り、全生徒分の情報流出に至った可能性がある。 日本IBMは「忸怩たる思いだ」として苦肉の策で、今回の個人情報と一緒に流出した同社の情報に関しての著作権法違反での告訴や、損害賠償請求なども検討している。 ただ、法整備を進めない限り、この問題の根を絶つことは難しい。県は今後、流出した個人情報を個人が意図的に拡散させる行為を防ぐよう、個人情報保護法改正などを国に要請する。日本IBMもTT(情報技術)業界全体で連携し、法改正などを求める方針だ。 一方、ネット犯罪に詳しい紀藤正樹弁護士は「法にも限界がある。セキュリティー管理を厳しくするしか、情報の拡散を防ぐ手だてはない」と指摘する。 |