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虐待対策 親権を「一時停止」

神奈川新聞2009年04月22日

法務省、新制度検討へ

 虐待を繰り返す親から子供を守るため、法務省は二十六日までに、親権を一時的に停止する新たな法制度創設の検討に入ることを決めた。民法改正を視野に、専門家らによる研究会を来週立ち上げ、来年一月までに議論を詰めた上、法制審議会(法相の諮問機関)に必要な法改正を諮る方針だ。社会問題化している児童虐待に対し、親権に踏み込んで法制度見直しに着手するのは初めて。

 法務省によると、現行法では、虐待通告を受けた児童相談所(児相)が親権を制限するには、「親権喪失宣告」を家裁に申し立てるしかない。しかし親子関係を壊すなど重大な結果をもたらすため、児相も家裁も慎重にならざるを得ないのが実情だ。
 また、子供を児童養護施設などに入所させる場合、親の面会や通信を制限することは児童虐待防止法で認められているが、親権自体は親にあり、施設との間でトラブルになるケースも多い。
 こうした事態に対応するため、研究会では親権の一時停止をめぐる法的課題を整理しへ虐待の恐れがなくなった際に停止を解除する条件なども話し合う。民法学者や子供の権利の専門家、法務、厚生労働両省の担当者ら十数人で構成する予定。
 研究会はこのほか、親が子供に必要な治療を拒む虐待の一種「医療ネグレクト」を防ぐため、親権の一部を停止する方策も検討する。これまで、児相が親権喪失宣告と併せ、緊急措置として親権停止の「保全処分」を家裁に申し立てて治療を実現した例はあるが、専門家から「治療のために親権すべてを取り上げるのは過剰制限」との指摘も出ているためだ。
 議員立法で二〇〇八年四月に施行された改正児童虐待防止法は、虐待防止と子供の権利擁護のため、親権制度の見直しを三年以内に検討するよう、付則で国に求めていた。

治療拒否など不当要求に対抗

 わが子を虐待する親の権利をどう制限するのか。法務省は、これまで手付かずだった親権の「一時停止」や「一部停止」の検討に入る。親権を盾に、子供に必要な治療を拒んだり、不当な要求をしたりする親に苦慮してきた児童相談所(児相)や施設にとっては前進だが、停止中に誰が親代わりになって重要な決断をするのかなど、課題は多い。「息子は障害児じゃない。治療は必要ありません」。約百三十人の子供が生活する児童養護施設「東京都石神井学園」職員の橘内賢二さん(55)は四、五年前、小学生の男児に発達障害の疑いがあると感じ、検査と治療に同意するよう母親を説得したが、断られた。
 子供の予防接種を拒否したり、通学先の高校に勝手に退学届を出したり。「嫌いなものを食べさせるな」「勝手に髪の毛を切った」などと文句を言う親もいるという。
 親の虐待が原因で施設で育つ子供たちは、心に深い傷を負う。一方で「また親と暮らしたい。家に帰りたい」と願う子は少なくない。児相や家裁が関与して親子のきずなを結び直す上でも、親権の停止制度は役立つとみる専門家もいる。
 児童虐待に詳しい磯谷文明弁護士は「これまでの児童虐待対策は親権に触れず、継ぎはぎのような対症療法だった」と指摘。「すぐに答えが出ない課題は多いが、子供たちの命を守り、健やかな成長を保障する制度を包括的に整理する時期だろう」と話している。

◆親権
未成年者に対する父母の権利・義務の総称で、民法に規定されている。監護教育権や居所指定権、懲戒権、財産管理権などで構成される。乱用に対しては喪失宣告を家裁に請求でき、親族や検案官のほか、児童福祉法に基づき児童相談所所長も請求人になれる。虐待などで緊急に子供の安全確保を図る必要があれば、審判前の保全処分を求めることもできる。