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格差固定 脱出阻む

神奈川新聞2009年07月27日

子どもの貧困
−1票の重さ 09かながわ衆院選−

 県内のある小学校には、不登校の子どもが一人もいない。教頭はしかし、そのことを誇れない。
 朝の校門。「おはよう」のあいさつに、返ってきた声は「きょうはグラタンだよね」。教頭は「なぜ毎日学校に来るのか。給食が食べられるからだ。学校は勉強以前に、生きるための場所になっている」と目を伏世た。
 両親は、非正規の仕事を早朝から深夜まで掛け持ちし、夏休みは「99円ショップ」で買ったカップめんで空腹をしのぐ。「台所と6畳一間で、学習机が見当たらない家庭もこの地域では珍しくない。学歴の低さは不安定な雇用につながる。親から子へ、貧困の連鎖から抜け出すことは容易ではない」。10年以上、この学校に勤める教頭の実感だ。

 県央地区の中学校校長は5月下旬、保護者に代わって旅行業者に一筆したためた。「代金は必ず7月末までに支払います」。約5万円の修学旅行費が払えない生徒が相次いだ。「以前もそういう生徒はいたが、今年は数が多すぎた」と校長。
 低所得の家庭は、給食費などに充てる就学援助費が支給されている。それでも滞納するのは、援助費を日々の生活に回さざるを得ないほど家計が逼迫しているからだ。校長は「格差を前にし、やがて子どもの意欲が失われていくのでは」と懸念する。
 県内の公立中学から全日制高校への進学率は、2006年度から9割を下回り続ける。定時制高校の教諭は「経済的な理由で私学に行けず、全日制を不合格になった生徒が定時制に流れている」と説明する。
 いい学校、いい会社がすべてではないと考えてきた教諭だが.「貧困層の固定化は、社会の活力をそぎ、将来への損失となる」と、不安を抑えきれない。

 日本の教育予算の国内総生産(GDP)比は、先進国で最低レベル。教育への私費負担が格差を固定化していく現実に、現場の苦悩は深い。
 定時制高校教諭は、民主党が公約に掲げる「子ども手当」や高校教育無償化には賛成するが、それだけでは解決しないとも思う。「低質金の高校生のアルバイトを当てにするような社会を、このまま続けるのか」
 子どもの将来、つまり日本の未来を決める1票。小学校教頭は、今回の選挙をそうとらえる。「これまでの社会は行き詰まっている。政権交代で解決するわけではないが、出直しが必要」
 教頭はこの春、教え子との再会を喜ぶことができなかった。6年ぶりに見かけた彼女は、99円ショップのレジでアルバイトをしていた。高校を中退し、シングルマザーになっていた。
 
 日本の将来を託す政権を選ぶ衆院選が近づく。行き詰まる現場から、1票の重みを見詰める。(石橋 学)

◆日本の教育予算◆
経済協力開発機構(OECD)の調査では、2005年のGDPに占める教育への支出割合合は3.4%で、データ比較が可能な28カ国中で最下位。平均は5・0%で、1位は7.2%のアイスランド。教育段階別の支出でみると、小中高校まででは日本は2.6%で下から3番目。高等教育は0.5%で、各国平均のほぼ半分で最下位だった。