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氏名収集、また継続

神奈川新聞2010年02月03日

君が代不起立・答申に従わず
県教委

 県教育委員会が県立高校の卒業、入学式で君が代斉唱時に起立しなかった教職員の氏名を収集・利用したことをめぐり、県個人情報保護審査会が情報の利用停止を答申した問題で、県教委は2日、収集を今後も続ける方針を決めた。2008年2月にも県個人情報保護審議会の同趣旨の答申に反し、収集継続の強行を決めており、答申に再び従わない異例の判断となった。県教委は「学習指導要領に沿って粘り強く(教職員を)指導するには(収集は)必要」などと説明した。

 同日の2月定例会(委員長・平出彦仁相模女子大学客員教授)で、出席した委員5人が全会一致で継続を了承。「学習指導要領に基づく指導で、教職員の指導を行うために情報を把握する必要がある」という意見が大半を占めた。
 同審査会が答申で「県教委は十分な理由を示して結論を出したとは言い難い」などとした点に対しても、「議論を尽くした」などと反論。併せてこれまで収集した情報を破棄しないことを決め、答申の順守などを「求めた市民団体の請願も不採択とした。
 この問題をめぐっては、同審査会が07年10月にも、収集した情報の利用停止を答申。さらに08年1月、県教委から諮問された県個人情報保護審議会も収集を「不適」と答申した。しかし、県教委は同審議会答申が「最終的な職権行使は県教委に委ねられている」との判断を示したことなどから、08年以降も収集を続けていた。
 今回の決定は、再び教職員らの異議申し立てを受けた同審査会が、情報の利用停止を求めた2度目の答申(1月20日)を受けたもの。答申では、情報は「(県個人情報保護条例で)原則取り扱い禁止とされている思想信条に該当する情報」などとしていた。
 山本正人県教育長は「答申を軽んじているわけではない。ただ教育委員会は(不起立の教職員に)一貫して指導してきた。長年の指導があるので答申には従えない」と説明。収集した情報についても「思想信条にかかわる情報ではない」との
見解を示した。
 また教職員は08年11月、思想・信条に関する情報の収集は県個人情報保護条例に違反しているなどとして横浜地裁に提訴しており、現在係争中。(下屋鋪 聡)

県教委の氏名収集継続
「答申何のため」
傍聴の教職員憤る

 不起立の教職員の氏名収集を継続する方針を決めた県教育委員会。定例会を傍聴した教職員らからは、県教委の判断を「条例を形骸化する決定だ」といった憤りの声が一様に上がった。
 県個人情報保護審査会は答申で収集した情報を「(県個人情報保護条例で)原則取り扱い禁止とされている思想信条に該当する情報」とした。収集情報の利用停止を求めた諮問機関の答申を事実上、2度も袖にする決定について、山本正人県教育長は委員会後の会見で「客観的な事実だけの報告を受けているので、思想信条の情報には当たらない」と説明。2008年2月に継続を決めた際と同様の見解を示した。
 氏名収集を続けていることに同審査会が「十分な理由を示して結論を出したとは言い難い」としたことにも、同教育長は「議論はしている。見解の相違と言うしかない」と反論。「答申の重さは分かっているが、教育委員会の長年の取り組みだから(答申には)従えない」とも話した。
 同審査会に異議申し立てを行った教職員やOBらのうちの一人、県立高教員の外山喜久男さん(60)は「何のために諮問機関が県に設置されているのか分からない。いくら諮問機関が答申しても、自分たちで決められるということになると条例は危うい」などと不信感をあらわにした。
 こうした状況について、関東学院大の出石稔教授(地方自治法)は、「氏名収集の決定権は県教委にあることは法律上明確だが、個人情報の収集は最小限度にとどめるという考えは国際的な共通認識」と指摘。「県教委は答申があったことを尊重し、答申に従うべきだ。自治体が自ら審査会や審議会を置いているのに、その答申に従わない例は全国的にみても珍しい」と、県教委の異例さを語った。(下屋鋪 聡)

短絡的発想で行政失格
北川善英・横浜国大教授(憲法学)の話
 県教委は専門家の意見を無視して法や憲法の解釈をし続けており、規範意識と法教育が欠如し、行政として失格。今回の決定は短絡的な発想で、憲法の定める思想信条の自由に反している。起立という自発性に任せるべき行為が強制的になりかねず、教師の権利だけではなく、子どもの学習権と思想信条の自由を侵害する危険性がある。