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高校生に教えられた(5.22神高教フィールドワーク講師記事)

神奈川新聞2010年05月12日


「戦争と平和は表裏一体なんですね」

 先の戦争で米国本土を攻撃する風船爆弾や生物化学兵器の開発、偽札製造など「秘密戦」を担った陸軍参謀本部直属の旧陸軍登戸研究所。ベールに包まれた存在を、市民や高校生とともに20年以上の歳月をかけて掘り起こした。
 奇想天外に思える風船爆弾。「まるで漫画。でも、根こそぎ動員された気象庁の研究者が、当時はまだ知られていないジェット気流の存在を突き止め、実際に200発以上を米国本土まで飛ばした。日本は技術と知恵を結集して本気で製造し、アメリカは心底、恐れた武器なんです」
 1986年、市のある企画に携わった時から研究所の調査を開始。導かれるように、いくつもの偶然が待っていた。研究所の勤務員と出会い、名簿や資料の提供を受け、研究内容が次々と判明した。
 勤務していた法政工高の生徒とも調査を進めるうちに、同様の調査を行っていた長野県の高校生との交流も始まる。勤務員のもとに熱心に通う高校生。「人体実験も行った勤務員たちは『大人には話したくないけど、君たちには話しておきたい』と言って、重い口を開き始めたんです」
 細菌兵器から身を守るための「ろ水機」を見せてもらうと、「これは災害時にも使える。戦争と平和はそんなに遠くない。どっちに使うかだ」と高校生。「驚きました。戦争と平和が表裏一体であること、科学技術の使い方の大切さを教えられました」
 登戸研究所では最大千人以上が働き、その8割が地元住民。「謀略や秘密戦というけど、勤務員の多くは普通の人たちなんです」。日常の中に戦争が容易に入り込むさまを、思わずにはいられない。
 資料館に集められた資料の8割は、勤務員から提供を受けたものだ。終戦から65年。「ここは、あの戦争の記憶を伝える人と物をつなぐ場。多くの若者に来てもらい、戦争を自分のこととして考えてほしい」(佐藤英仁)

◆渡辺賢二さん◆
わたなべ・けんじ
1943年、秋田県横手市生まれ。67歳。横浜市立大卒業後、68年から2003年まで法政二高で社会科教諭。専門は日本史。25年以上、教科書の執筆にも加わる。00年から明治大非常勤講師。東京都稲城市在住。