公立高の部活動に携わる教員の実態について共同通信が全国の都道府県教育委員会を対象に調査したところ、土日の練習試合で生徒を引率した教員に交通費(旅費を支給していない自治体が23府県に上ることが31日、分かった。部活による時間外勤務を認めていない国の法令を不支給の根拠とする回答が相次いだ。土日返上で指導する教員の実態と、法令との隔たりが浮き彫りとなった。
教員の長時間勤務が社会問題となる中、識者らは「国は法令を見直し学校の実情を反映した制度に改めるべきだ」と指摘。部活も含め教員の働き方改革を進めている文部科学省は法令見直しを「検討する」としている。
部活の練習試合は土日に多く、遠征することもある。法令は部活による土日の勤務を認めておらず、部活は教員の自発的な活動と整理されている。23府県に不支給の理由を複数回答で尋ねると、法令を踏まえ13府県が「時間外勤務が認められていないため」、11府県が「自発的な活動のため」として、いずれも「引率を出張と見なしていない」と答えた。
残る24都道府県は「支給する仕組みがある」と回答。神奈川県を含む20都道県は「生徒の安全を確保する責任がある」「部活は学校教育の一環」などとして「引率を出張と見なして支給する」としている。
文科省は学校数など地域ごとに事情が異なり、「自治体が判断すること」と説明している。
部活の問題に詳しい置塩正剛弁護士は「法令が支給を阻む要因になっている。支給したとしても『勤務ではない自発的な活動』に公費を充てることになり、法令の解釈上疑義がある。いびつな制度になっているのが現状だ」と是正を求めた。
土日の練習試合の引率では昨年10月、鳥取県立高の多くの教員が県教委の規定に違反して車に生徒を乗せたとして処分された。県教委が法令を理由に出張と見なさず、交通費を支給していないことが判明し、1月下旬までに都道府県教委に土日の部活の状況を尋ねた。
◆教員の時間外勤務の法令
1972年施行の教職員給与特別特措法(給特法)に基づき、時間外勤務の基準を政令で規定。校長らが教員に正規の勤務時間を越えて働くことを命令できるのは(1)生徒の実習(2)修学旅行など学校行事(3)職員会議(4)非常災害―に該当し、やむを得ない時に限っている。部活など、この4項目に当たらない業務は、教員の自発的な活動と整理されている。給特法は月給の4%相当を上乗せする代わりに、時間外勤務手当と休日勤務手当は支給しないと定めている。
実態かい離 どう是正−支給は法令上グレー
部活による時間外勤務を認めていない国の法令が、教員に対する交通費の支給を遮る大きな要因になっている。支給されなくても教員は「生徒のために」と身を削って引率を続ける。自治体が支給したとしても「法令の趣旨に反してグレーな状態」との指摘もある。法令と現場の実態との間がねじれている状況を解消して教員の待遇を改善するには、法令をどう是正するかが焦点となる。
“裏技”
「(交通費の自己負担は)避けられない」。土日の練習試合の引率に交通費が支給されない静岡県立高でバスケットボール部の顧問を務める男性教諭はこう打ち明ける。
年約30回の練習試合ではボールなどを運ぶためマイカーでの移動が多い。申請すればPTA会費からガソリン代が支給されるが、満額ではない。県教育委員会は3時間以上の指導で2700円の特殊業務手当を支給しているが、食事代や高速道路料金などを支払うと、手当分を超えることも。それでも「強くなりたいという生徒の思いに応えたい」と引率する。
交通費に関し、県教委は法令に依存して「教員の自主的な業務」として10年以上、支給していない。関係者は「法令があるのに支給してもいいのか」と戸惑う。
富山県も不支給。県高校教職員組合は約30年前から支給を求めているが実現していないという。
予算の壁もある。九州の自治体は「練習試合はいくらでも組める。その全てに交通費を支給すると、予算はいくらあっても足りない」とこぼす。
支給する仕組みがある自治体では、練習試合のある土日を平日の時間内勤務の扱いに切り替え、校長が出張を命じて支給するとの回答が相次いだ。法令をかいくぐって支給する“裏技”が横行している状況とも言える。
“ねじれ”
「検討する」。取材に文部科学省の関係者は、法令の見直しに言及した。どう見直すのか―。働き方改革について審議した2019年11月の国会で「(見直しの)方向性を見定めるのは困難」としたトップの萩生田光一文科相の答弁に触れ「いま決まっていることはない」と歯切れが悪い。
教育関係の法令に詳しい識者は「国は教員の勤務に関する制度全体を見直す必要がある。交通費も各地で一律の支給ができるよう、自治体の財政の差を考慮し、国が補助金を出すなど支援をするべきだ」と話す。
早稲田大の中澤篤准教授(スポーツ社会学)は「自発的な活動とする部活の制度上の位置付けと、教員が土日に事実上働いている実態との間にねじれが生じている」と分析。時間外勤務の実態を把握した上で国は法令を改善し、自治体は業務を削減する取り組みを進め「ねじれを解消するべきだ」と唱える。