全国の2024年春の公立高校入試で、外国人生徒へ特別選抜による定員枠を設ける学校が2割にとどまることが3日、共同通信の調べで分かった。文部科学省は各教育委員会に定員枠の設定を求めているが、入学後の指導体制の不安などから地域や学校によって対応に差があり、狭き門となっている。近年、外国籍の子どもは増加しており、専門家は「高校進学でつまずくと、正規雇用に苦労する傾向が強い。きめ細かい支援が必要だ」と指摘する。
各都道府県教委などによると、外国人生徒向けの定員を設けるのは、全日制と定時制の延べ計3880校のうち神奈川県など25都道府県にある約750校。ただ、定員については「若干名」から具体的な募集人数を示す学校までさまざまだ。石川県では24年入試で初めて枠を設ける。県教委の担当者は「日本語の習熟度に合わせる多様な形での入試が必要」と語る。
神奈川県は全日制が16校(県立14校、横浜市立2校)計153人、定時制が4校(県立2校、横浜市立と川崎市立各1校)計52人の定員枠がある。各校の募集定員は全日制が4〜20人、定時制が8〜20人。外国にルーツがある生徒らを支援する教員からは「受け入れ人数を増やす必要がある」との声も上がる。
他の22府県では定員を設定している学校はゼロだった。そのうち栃木、群馬、長野、福岡の4県では定員は設けないものの面接など外国人生徒向けの特別選抜を実施。一方で「入学しても中退させないための体制が整っていない」として定員枠の設定に後ろ向きの自治体もある。
文科省によると、日本語指導が必要な外国人の児童生徒は21年度に4万7千人以上で、12年度と比べ1・8倍に増加した。一方で、全中学生の高校などへの進学率は99・2%(21年度)なのに対し、日本語指導が必要な中学生の進学率は89・9%(同)と10ポイント近い開きがあった。文科省は外国人生徒の社会的自立のために「高校での適切な教育が必要」と定義。各教委に対応を求めている。
主に外国籍の子どもの進学先には、私立やインターナショナルスクールなどの選択肢もあるが、費用面や立地の偏りにより通学に制約があるため、公立の果たす役割は大きい。
弘前大大学院の吉田美穂教授(教育社会学)は「多文化共生が求められている中で、現状の入試制度では教育の機会が損なわれている。中卒では正規雇用につながらない場合も多く、入学後の支援体制の充実も必要だ」と話した。
可能性閉ざさないで
東京外国語大の小島祥美准教授(教育社会学)
の話
日本語能力の有無で合否が判断されがちな高校入試は外国籍の子どもたちにとっては大きなハードルだ。母語での作文などで思考力を問うような形に転換しないと、グローバル化の時代に子どもの可能性を閉ざすことにもつながりかねない。定員枠を設けて受験の可能性を広げると同時に、定員枠を超えた形で柔軟に対応していくことが求められる。自治体や学校ごとの差を埋め、入学後も行政が手厚く支援する体制を整えるべきだ。
◆外国人生徒の定員枠
高校入試で外国籍の生徒向けに定員を設け、特別に選抜する枠。一般の試験内容と区別し、作文や面接といった別の尺度も含め合否を判断する。定員を設定していても必ず合格するわけではないが、定員枠は外国人生徒が受験を判断する材料になるほか、受け入れ態勢の有無を確認する目安となる。ただ「(全体の)定員内で若干名」など曖昧なところから、学校ごとに具体的な定員数を示すところまで対応が分かれている。来日後の経過年数の条件についても、茨城県のように一部高校では撤廃している例もあれば、全校で実質「2年未満」と限定する新潟県のような例までさまざまある。 |