ある県立特別支援学校では数カ月前、高等部の担任教諭が体調不良になり、病休に入った。
急きょ呼ばれたのは、60代の非常勤講師2人。空いた穴の半分を埋めるが、正規の教員しかできない仕事を含め、残りの半分は残った教員でカバーせざるを得ない。負担は増すが、「ドミノ倒し」だけは避けなければならない。
ベテラン教諭は体調管理に留意しながら踏ん張る毎日だ。
「これまでの経験から業務が急に増えても何とか対応できているが、若手だとそうもいかず、やりくりも容易ではない」
不足の影響が生徒に及ばないよう努めてはいる。ただ授業の準備に時間を割きたくても難しく、過去の授業を使い回すしかない。
代役のことは保護者にも伝えている。
「現場の苦境を察してか、不安の声は寄せられていない」としつつ、その心情をおもんぱかる。「『うちの子をちゃんと見てくれるだろうか』という心配はあると思う」
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教員不足は深刻だ。産休や育休、病休時の代役となる非正規教員の確保が難しくなっているからだ。
その原因はどこにあるのか。研究者らによると、国が少人数学級化や正規教員の定数増を進めてこなかったことに加え、小泉純一郎政権が断行した「構造改革」に伴う規制緩和によって常に非正規に依存する構図ができあがるなどした結果、代役の非正規層が減ったためという。
県教育委員会によると、5月現在の教員の不足数(県所管分)は小学校で94人(不足率1・1%)、中学校で39人(同0・8%)、高校で21人(同0・3%)、特別支援学校で84人(同2・5%)。特別支援学校は全29校で不足しており、他の校種より不足率がく、小学生の2・3倍に上る 定した。国の基準が昨年度に変更され、教員の定数が増えたが、追い付いていないという。
こうした状況に、特別支援学校の関係者は危機感を募らせる。「障害のある子の学びの場が軽視されているように見える」
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教育現場が抱える課題は他にも山積みしている。
教員の長時間労働は、いまだ是正されていない。過酷な労働への懸念は、教員採用試験の志願者の減少にもつながっている。問題の解決を阻んでいる一つが、公立学校教員に残業代を支給しない「教員給与特別措置法(給特法)」だ。
国は残業代の代わりに支給している「教職調整額」の増額を打ち出したが、根本的な対策にはなっていない。教員からは「このままでは是正につながらない。業務量削減や人員増をしない限り、志望者は増えない」と批判の声が上がる。
障害の程度などにかかわらず、地域の全ての子どもが小中学校の通常学級で学ぶ「インクルーシブ教育」の実現も、ほど遠い。
少子化にもかかわらず、特別支援学校・学級に在籍する児童生徒は増え続けており、教室の確保に苦慮する学校は少なくない。国や自治体が通常学級の改革を怠ってきた影響が大きく、国連は2年前、制度改革を進めるよう勧告したが、国は放置している。
海老名市教委は県教委と連携し、取り組みの推進に向けた検討を始めた。ただ6月に開かれた対話集会では、具体策は示されなかった。参加した県立特別支援学校の元教員は指摘する。
「国が本気で少人数学級化や教員増員をしない限り、実現は難しい」 (成田洋樹)