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成長への努力 財産に-横浜清陵 21世紀枠出場

神奈川新聞2025年5月12日

悔しさバネ 挑む夏
〈K神奈川高校野球2025センバツ〉

 3月の選抜高校野球大会に県勢初の「21世紀枠」で出場した横浜清陵高は、今月6日に閉幕した春季県大会では4回戦敗退に終わった。初の甲子園出場に沸いたが、遠征費用の捻出や報道陣の取材など野球以外の対応に追われ、チームづくりにも影響を及ぼした。しかし、準備も含めてナインが聖地で得た経験や共同生活、そして1勝を目指して過ごした時間は何にも代えがたい財産となった。春の悔しさ志をバネに3年生にとっては最後の夏に挑む。 (松浪 空矢)

 1月24日、甲子園出場の吉報が届き、喜びに沸いたのもつかの間、甲子園に向けた用具や遠征費充てるクラウドファンディングの準備、さらには同校に押し寄せた報道陣への対応と、野球に集中しづらい日々が続いた。非日常的な光景に、野原慎太郎監督(42)は「チームが壊れかけた時期もあった」と振り返る。
 混乱は選抜大会後も続いた。横浜に戻ってからも、支援者らへのお礼品作りやあいさつ回りなどに追われた。また3月末には9年間チームを支えてきた佐藤幸太郎部長の他校への異動が発表され、涙を流し、動揺する選手もいたという。信頼する指導者との突然の別れが、春の県大会を控えるナインに与えた影響は計り知れない。

 選抜大会は初戦敗退を喫したものの、限られた環境と時間の中で成長への努力を惜しまなかった。
 3月21日、広島商高との1回戦。11四球4失策とミスが重なり、大舞台で「いつも通り」の野球ができず2−10で敗れた。その試合から約4時間後、ベンチメンバーを中心に反省点や課題について選手同士で話し合い、具体的な改善点を模索。右腕辻亮汰は「風が強かったから、フライの入り方を気を付ける。足を動かすことなど指示をしていたがプレーしている選手には伝わらなかった。これからは名前を呼んで指示を出して、アンサーをもらうまで言い続ける」と語った。
 試合前日には緊張するかもしれないと、親睦リーダーの小原悠人が漫才の動画を披露した。ナイン全員で笑い、それから就寝したことで「ミスはあったものの緊張せず試合に臨めて良かった」と外野手の吉沢昴。夏に生かせそうなさまざまなアイデアが見つかった。

 いま、横浜清陵は追われる立場になった。甲子園出場が決定した際は、「おめでとう」「頑張って」といった観とヴや祝福の言葉があふれた一方、県内のライバル校からは「悔しい」との本音の声も聞こえてくる。春季県大会で4強入りして躍進した三浦学苑高の樫平剛監督(40)は「当然、清陵が出て、悔しかった。悔しいは悔しいがこれが現実。野原先生が頑張ってやっていたのは知っているので」と話す。運も実力もなければたどり着けない憧れの場所。それが甲子園だ。
 春季県大会抽選会に出席した際、主将の山本康太は「周りからの見る目が変わり、自分もあたふたした」と率直に口にしている。同大会4回戦で同じ県立高の川和高に敗れた清陵ナインの胸に去来したものとは。来たる夏も同様に周囲の視線を受けるだろうが、その重圧をはね返す強さを養っていく。
 自分たちで考え、自分たちで実践する。選手が主体となってチームづくりに参加する「自治」の取り組みが選抜大会の選考で評価された。彼らの真の魅力は敗戦と向き合い、次のステップに生かす課題を洗い出して解決策を探り、そして実行に移す力にある。ナインが何度も口にしていた「甲子園で1勝」。それがいかに難しいことか肌で知ったことに意味がある。悔しい春の経験を糧に、心身共に大きくなって臨む夏が待っている。