神奈川の高校教育改革をめざして 高総検報告 VIII 第2分冊

「こうして神奈川の高校入選は改変された」

−高校入試選抜制度神奈川方式の改変の軌跡−
(中間まとめ)



1995年4月

神奈川県高等学校教職員組合
高校教育問題総合検討委員会
学区・入選グループ










目次


(全国および神奈川における高校入試「改善」の動きの概観)
(大綱とそれにいたる各報告の要点の比較、整理)
(現在の神奈川の高校入試制度の概略)
(新制高校発足から今日までの、神奈川の入選制度の変遷)
(文部省の通知と各県の高校入試「改善」の動きの整理と紹介)
(1) 文部省の最近の方針
(2) 他県の動向
  (1) 宮崎県
  (2) 愛知県
資料
  1. 高総検レポート(16〜20)
    No.16比類なき最悪、最低の「改善案」
    No.17高校入試「改善」案を考える
    No.18「特色ある高校づくり」を拡大、推進するための「入試改革」
    No.19あらたな「適格者主義」へ
    No.20高校入試制度はどう変わる
  2. 公立高等学佼入学者選抜制度のあり方について(高課研第2次報告)
  3. 公立高等学校入学者選抜制度の改善案(中間報告)
  4. (神高教職場討議用資料 94−9)
  5. 神奈川県公立高等学校入学者選抜制度改正大綱
  6. (神高教職場討議用資料 94−15)
高総検ホームページへ



はじめに


 われわれは、いま全国で進められている『入選改革』を『適格者主義』に基づくものととらえる。そして、その『適格者主義』は、かつて語られていたような『高校に入学することの適格性』を問うものではなく、『特色ある高校、学科への適格性』を問うものへと変わってきている。現在すすめられている『入選改革』は、その『特色ある高校、学科』にあった『特色ある生徒』を選抜するためにおこなわれている『改革』である。
 この『入選改革』は各地から寄せられている報告を見るかぎり、中学校、高校がかかえる様々な問題を解決するどころか、問題をより深刻にし、あるいは新たな問題を発生させている。文部省は事実に即した分析も反省も欠いたまま、『改革』の進行状況をただ数値をあげて総括しただけで、なお一層の『改革』の促進を強制する通知を出している。
 そして、この『改革』の動きは、90年代に入り神奈川県にもおよぶことになった。神奈川県は『学習検査』いわゆる『ア・テスト』を選抜資料として使用する、特異な入選方式をとってきた。93年には県教育委員会の諮問機関である『高等学校教育課題研究協議会』の答申が出された。それを受けて94年5月に『(入選改革)中間報告』が、さらに7月には『神奈川県公立高等学校入学者選抜制度改正大綱』が発表された。その内容は、一貫して文部省の通知をほぼ忠実になぞったものであり、『特色ある高校、コース、学科』をつくり、その『特色』にあった『特色ある選抜方法』を求めるものであった。
 本報告は『高課研』から始まる神奈川の『入選改革』の動向を概括し、その問題性を明らかにしようとする意図のもとに作成されたものである。





神奈川における入試『改善』の動き


1.公立高校入試『改善』への動き…84年7・20通知以後

 文部省は今から十年前、84年7月20日付けで『公立高等学校の入学者選抜について』という次のような内容の通知を出した。
  1. 公立高等学校の入試は同一時期、同一問題で実施する必要はない。
  2. 各高等学校、学科の特色に配慮しつつ、その教育を受けるに足る能力・適性等を判定して行うものとする。
  3. 具体的には受験機会の複数化、学習成績以外の記録の積極的利用、普通科への推薦入学の積極的導入、面接の積極的利用が望ましい。
  4. 特色ある高等学校の学科等については、可能な限り広い範囲から受験できるようにすることが望ましい。
 この中で、とくに基本となっているのは2.の項目である。他の項目はこの基本となる2.を実現するための条件とみることもできる。『その教育を受けるに足る能力・適性等』とあるように、ここでは『特色づけられた学校』の教育に適格か否か、という個々の高校についての『適格者主義』が、明確に語られている。その『適格者』を集めるためにこそ『同一時期、同一問題』で試験を実施する必要もないし、『可能な限り広い範囲から受験できるようにする』ことも望ましいのである。そして、選抜資料を多面化し、多様な尺度をもちいることにより、確実に『適格者』を選びだそうとすることが『望ましい』のである。入試『改善』はこの『各高校・学科ごとの適格者主義』を貫徹するために実現されなければならない。これが84年の通知の骨格であった。

2.『改善』の加速…93年2・22通知

 この84年の通知以来進められてきた『改善』はたしかに全国的に広まりつつある。しかし、『改善』の進んだ各県の現況をみる限り、『改善』は成果をあげてきたと評価することはできない。むしろ、学校間格差の固定化、中学校教育の圧迫など、多くの困難な問題を生み出しつつあるという切実な報告が、各県からは寄せられている。
 ところが、文部省の諮問機関である『高等学校の改革の推進に関する会議』がまとめた総括は、『改善』の進行によりどのような問題が発生し、何が解決したのかという、事実に即した分析も反省も欠いたまま、ただ『改善』項目の進捗状況の数値をあげているだけである。
 昭和59年(1984年)の通知で指摘された事項について、平成3年度(91年度)の実施状況を見ると、実技検査等の実施は35県、英語のヒアリングの実施は44県、推薦入学の実施は45県、うち普通科でも推薦入学を実施しているのは25県、面接の実施は47県、うち全校で面接を実施しているのが17県とかなり積極的な対応ぶりが見られる。しかし、学力検査の時期を分ける方法による受験機会の複数化を図ることについては3県、特定教科への傾斜配点の実施等学力検査結果の活用の工夫を図ることは14県に止まっている。
 この報告をふまえて、文部省から新たな通知(93年2月22日)が出された。しかし、その内容はこれまで10年の間に進められた『改善』の現実を省みたものでない以上、前の通知をただ繰り返すものになったのは当然であった。ただし、この通知が出されて以後、全国における『改善』の進展はこれまで以上に加速され、文部省の通知内容とは異なる独自の入選方式を堅持してきた県にも、『改善』の波が本格的におよびはじめた。たとえば、これまで人口集中地域において総合選抜制度をとることにより、学校間格差の是正に成果をあげてきた広島県、2〜3校を組み合わせた合同選抜方式をとることにより学校問格差の是正に努めてきた大分県などにおいても、総合選抜、合同選抜を廃止し、文部省の通知にそった『改善』を進めようとする動きがはじまった。そして、これから新たに『改善』をすすめようとする県で示される案の中には、先の報告の中ではわずか3県にとどまるとされていた複数受験方式が含まれるケースも増えてきた。『改善』の動きは、その広がりにおいても、内容においても、これまで以上に強化されたものになってきた。そして、この動きはいよいよ神奈川県にもおよぶことになったのである。

3.神奈川県における入選『改善』の動き

 神奈川県ではいわゆる『神奈川方式』という独自の入選方式がとられてきた。全国的には学力検査と調査書の比率がほぼ五分五分という県が多数を占めるなかで、調査書と学力検査の他に、中学校在学中におこなわれる学習検査(いわゆるア・テスト)を加えて選抜資料とする特殊な入選方式をとってきた。また、いわゆる入試『改善』についても、推薦も面接も職業学科(商業を除く)にとどめるなど、入選『改善』の全国レースの中では、もっとも後をついていく県のひとつであった。
 この『後進県』である神奈川においても、入試『改善』をすすめようとする動きが急速に強まってきた。93年末には県教委の諮問機関である『高等学校教育課題研究協議会(高課研)』の最終答申が出され、一挙に入選改変へと進んでいくことになった(資料2,高課研第2次報告P.43)。高課研の答申内容は、ほとんど先の文部省通知、あるいはそのもととなった会議報告にそっており、ア・テスト廃止以外には、とくに独自の内容は盛り込まれていなかった。ただし、高課研の答申はその『改善』項目について、たとえば推薦入試導入に次のような条件をつけるなど、一定の限定を付してあった。
  推薦入学については…特色ある学校・学科・専門コース等においても、推薦入学を実施できるようにすることが望ましい。
 なお、普通科の一般コースへの推薦入学の導入については、今後の社会情勢の動向等も見極めながら、なお検討することが必要である。
ところが、5月に県教委が示した入選『改善』中間報告は、高課研の答申を受けながらも、そこに含まれていた限定には一切とらわれずに、文部省の報告を忠実に実行にうつそうとするものになっていた(資料3.公立高等学校入学者選抜制度の改善案P.51)。例えば、推薦制についてはこう書かれていた。
普通科一般コースについては、学校の特色に応じて実施できるものとする。
 高課研の答申では『社会情勢の動向等も見極めながら、なお検討することが必要である』とされていたものが、わずか半年の短い期間を置いただけで、『学校の特色に応じて実施できるものとする』と、『特色づくり』と結び付けるかたちで導入の方向がしめされたのである。『特色づくり』の進展しだいでは神奈川のすべての公立高校に推薦制度が導入される可能性がひらかれたのである。
 さらに、中間報告でほ定員の20%を第二希望枠として分割する複数希望制が、その冒頭の部分で取り上げられていた。
 希望する高等学校が受験できるよう、学校選択の幅を広げるため、生徒の希望により第2希望校を志願できるものとする。
 生徒の希望を尊重する姿勢を見せながら、第一希望の枠を80%に縮小することは、明らかに矛盾である。この矛盾は取り合えず置くとしても、高課研の答申でこの項目が次のような表現にとどめられていたことを考えると、複数希望制の登場には不自然さが感じられる。
 受験機会の複数化や、受験生の希望により第二希望校を認めるといった志願のあり方、あるいは再募集のあり方などについて積極的に検討する必要がある。
 やや乱暴な言い方かもしれないが、中間報告は、高課研答申がためらっていた一線を一気に越え、93年の通知により強化された入選『改善』レースに遅れまいとして作られた、と言えるのではないだろうか。そのためにこそ、複数希望制は絶対に外すことのできないものだったのではないだろうか。
 その後、中間報告の含む問題点−学校間格差の拡大、固定化のおそれ、中学生の負担の増大等−を指摘する教育現場、父母等からの声が強まり、県教委も本報告『高等学校入学者選抜制度改正大綱(大綱)』の作成にあたっては中間報告を一部修正せざるをえなくなった。しかし、とくに問題点が多いとされた複数希望制は残りつづけ、その他の項目も、部分的手直しを加えただけ、あるいは先送りされるかたちで残されてしまった。

4.『神奈川県公立高等学校入学者選抜制度改正大綱』批判

(資料 神奈川県公立高等学校入学者選抜制度改正大綱 P,59)
前文にあたる部分で『大綱』の基本的視点は次のように明らかにされている。
○今後、高等学校への進学率がさらに拡大する傾向にある中で、本県が進めてきた『ふれあい教育』の理念にのっとり、生徒一人ひとりの個性や能カ、適性を多面的にとらえ、調査書の評定や学力検査などのいわゆる数値のみではなく、生徒の特性や長所に着目した選抜制度とすること。
○そのために、生徒一人ひとりが、自らの進路希望に基づいて学校選択ができるような選抜制度であること。
 聞こえのいい文である。しかし、現在全国で進められ、そして神奈川にもおよんできた『改善』の動きが、『特色ある学校に適格な生徒を』という『適格者主義』から出発していることを思い起こすなら、この基本的視点が何を意味しているか、明らかであろう。生徒一人一人が自らの希望する高校を選択しても、高校は生徒一人一人の『個性や能力、適性を多面的に』とらえ、選抜する。そして『大綱』は続く箇所で『高等学校の特色づくり』を強調している。どんな文言で飾ろうとも、『大綱』の基本的視点が『特色ある学校』をつくり、その『特色』に応じ『適格』な生徒を選び出そうとする(裏を返せば『不適格』な生徒を排除しようとする)『適格者主義』以外の何ものでもないことは明らかであろう。
 また『大綱』は『偏差値に依存しない』進路指導を中学校に要求している。そして、高校には『学力』のみによらない選抜を求めている。しかし、『多面的』に生徒を把握し、選抜することは、中学校教育を著しく歪める危険をはらんでいる。さらに『特色ある高校づくり』が進んだとしても、その『特色』が中学生にとって『魅力』あるものになる保障はどこにもない。しかも『特色ある高校づくり』がいたずらに不本意入学者を増大させる結果になる恐れは十分にある。『大綱』はこうしたさまざまな危険にまったく気づかないかのように書かれている。

おわりに

 急激な人口増加、高校進学希望者の増加に応えるため、70年代の半ばから、神奈川では『百校計画』がすすめられてきた。ところが、この『百校計画』の進展とともに学校間格差は急速に拡大した。とくに、学区の『最底辺』に位置づけられた、いわゆる『課題集中校』の発生は、しだいに深刻な問題となってきた。単独選抜制を取り、新設校の急増に応じた学区分割が十分におこなわれなかった神奈川で、学校問格差が拡大することは必然だったともいえる。しかし『大綱』をどのように読んでみても、この学校問格差、『課題集中校問題』を真正面からとらえ、対策を立てようとする姿勢を見て取ることはできない。おそらく『大綱』を書いた人々の立脚点は、現在の神奈川の高校教育が置かれている現実ではなく、もっと別のところにあったのであろう。こう疑わざるをえない。
 われわれは『大綱』が持つ問題点を指摘、批判し、可能な限り改めさせていかなければならない。と同時に、われわれは『大綱』が見過ごしてきた、しかし神奈川の高校教育が抱える最大の問題である、学校間格差の是正を目指す、真の改善案を作り上げていかなければならないであろう。






改正大綱、中間報告、高課研報告の比較


 神奈川県教育委員会は1994年7月18日、「神奈川県公立高等学校入学者選抜制度改正大綱(改正大綱)」を発表しました。それに先立つ5月19日には、「公立高等学校入学者選抜制度の改善案(中間報告)」を発表しました。この2つの施策はその前年、神奈川県高等学校教育課題研究協議会(略称、高課研)が答申した「公立高等学校入学者選抜制度のあり方について」に基ずくものでした。しかし、元高課研委員が異例の申し入れをしたように、県教委の「中間報告」は高課研の答申を越えるものもありました。また、答申からわずか半年の検討期間しかなく、拙速といわざるをえません。私たち神高教は「希望者全入」「学校間格差の是正」を掲げて、この間県教委と粘り強く交渉を重ねてきました。その結果が今回の「改正大綱」となって発表されました。ここでは、改正大綱と中間報告そして、高課研報告を主要な部分について比較してみたいと思います。(資料2.3.4.参照)

項目改正大綱中間報告高課研報告
複数志願制 志願にあたっては、第1希望及び第2希望を志願できるものとする。なお、この場合においては、同一の高等学校を第1希望及び第2希望とすることができるものとする。各高等学校における第1希望の募集人員は入学定員の80%とし、第2希望の募集人員は20%とする。 …生徒の希望により第2希望校を志願できるものとする。第2希望校は、第1希望と同一校または異なる学校・学科・専門コースとすることができるものとする。 …受験機会の複数化や、受験生の希望により第2希望校を認めるといった志願のあり方、あるいは再募集のあり方などについて積極的に検討する必要がある。
推薦入学 普通科については、当該高等学校の入学定員のおおむね1O%とする。専門学科については、当該高等学校の学科ごとの入学定員の30%以内とする。
(なお、専門コース以外の普通科については、今後の課題とし、引き続き検討していくこととします)
普通科一般コースについては、学校の特色に応じて実施できるものとする(10%程度)。専門コースについてはその特色に応じて実施できるものとする(10%程度)。専門学科については、全ての学科において実施する(30%以内)。 推薦入学については…他の特色ある学校・学科・専門コース等においても、実施できるようにすることが望ましい。なお、普通科の一般コースへの推薦入学の導入については、今後の社会情勢の動向等も見極めながら、なお検討することが必要である。
調査書の記載事項及び内容 1 各教科の学習の記録
中学校第2学年及ぴ第3学年の評定は5段階により行う。(第2学年の9教科の評点の合計)+(第3学年の9教科の評点の合計)×2学習状況
2 特別活動等の記録と所見
3 行動の記録と所見
4 参考事項
5 特記事項(記載対象者は20%以内)
*従来、調査書に記載されていた「学習検査」「出欠の記録」及び「健康診断の記録」は削除します
○各教科の学習の記録(評定・所見等)
○特別活動の記録と所見
○行動の記録と所見
○指導上参考となる諸事項
○特記事項(記入対象者数は、20%程度)
調査書について…現行の「特記事項欄」の主旨を生かすとともに、…「観点別学習状況」の取り扱いなどについて検討する必要がある。…中学校3学年における資料を十分重視できるよう工夫必要がある。学習検査の結果については、選抜資料としての扱いはせず…
学習検査等の内容 普通科については、国語、社会、数学、理科及び外国語 (英語)の5教科とする。
普通科専門コース及び専門学科については、その専門性に応じて、3教科から5教科の範囲で、各高等学校が選抜できるものとする。また、実技検査及び面接を実施することができるものとする。
(第1希望校と第2希望校の受検教科数が異なる場合には、志願者は学力検査の受検の際、両校の選抜に対応できるように受検する)
普通科については、5教科(国語、社会、数学、理科及び外国語(英語)とする。
専門コース及び専門学科については、学校の特色に応じて実施教科数を弾力的に扱うことができることとし、3教科から5教科の範囲で各学校が選択する。また、学力検査の実施教科数の弾力化扱いにあわせ、その学校の特色に応じて実技検査、面接を各学校で実施できるものとする。
(ア)学力検査の弾力的扱いについて
特色ある学校・学科・専門コース等においては、その特色に応じて学力検査の実施教科数を弾力的に扱えるようにするとともに、…
(イ)実技検査の導入について特色ある学校・学科・専門コース等においては、その特色に応じて基礎的・基本的内容に関する実技検査を実施できるようにすることが望ましい。
(ウ)面接の導入について特色ある学校・学科・専門コース等においては、必要に応じて実施できるようにすることが望ましい
学力検査等に基づく選抜の選考方法 1 調査書の評定と学力検査の比率は6:4とする。
2 第1希望の選考方法(普通科)調査書の評定及び学力検査の結果に基づき、第1希望の募集人員の70%までの合格者を決定し次に、調査書の評定、学力検査の結果及び調査書の評定以外の記載事項を活用して総合的に選考し30%の合格者を決定する。(普通科専門コース、専門学科)調査書の評定、学力検査の結果及び調査書の評定以外の記載事項を活用して総合的に選考し、合格者を決定する。学力検査についてはその専門性に応じて、特定の教科に傾斜配点をすることができる。
3 第2希望の選考方法
(1)普通科
調査書の評定、学力検査の結果及び調査書の評定以外の記載事項を活用して総合的に選考し、合格者を決定する。
(2)専門コース及び専門学科
第1希望と同じ方法
1 第1希望の選考方法
(1)普通科一般コ一スは次の選考I選考IIの方法により、順次合格者を決定する。
ア、選考I調査書の評定と学力検査により選考する。
(例)6:4、5:5
イ、選考II 調査書の評定と学力検査及び調査書の評定以外の記載事項により選考する。(例)6:4、5:5、4:6
 調査書の評定以外の記載事項は各学校の特色や個性を生かすために活用する。学校の特色により、教科数を3教科から5教科の範囲で選考することや、特定の教科に傾斜配点をすることができる。
(2)専門コース・専門学科は上記選考IIの方法により選考する。
2 第2希望の選考方法
(1)普通科一般コース
調査書の評定と学力検査及び調査書の評定以外の記載事項により選考する。
(例)7:3、6:4、5:5
(2)専門コース・専門学科
第1希望の選考方法と同じ
特色ある学校・学科・専門コース等においては、その特色に応じて学力検査の実施教科数を弾力的に扱えるようにするとともに、特色に応じた特定の教科に対する傾斜配点などができるようにすることが望ましい。
第2次選考については、今後、その比率を見直し、それぞれの高等学校の特色が生かせるような各高等学校独自の判定方法をあらかじめ公にして実施することが望ましい。
学区 学区については、神奈川県公立高等学校通学区域規則による。
(…隣接学区の扱いを設けることについては、今後の学区外への志願状況を見ながら検討することとします。)
学区外志願限度枠の中に、隣接学区枠の扱いを新たに設ける。 …隣接学区の扱いについても考慮する必要がある。
志願変更 志願者は、いずれの学校・学科・または専門コースへも志願変更をすることができるものとする。 学区内外を問わず、いずれの学校・学科・コースへも志願変更できるものとする。 専門学科と他の専門学科との間において、あるいは専門学科と普通学科との間において志願変更ができるようにすることが望ましい。
…学区外からの志願者も志願変更ができるようにすることが望ましい。
移行措置 1 平成7年度(現中学3年生)
(1)推薦入学に基づく選抜
専門学科(学科毎の入学定員の30%以内)で実施する
(2)志願変更
いずれの学校、学科または専門コースへもできる。
2 平成8年度(現中学2年生)
(1)学習の記録、学習検査及び学力検査の比率5:1:4
(2)推薦入学に基づく選抜専門コース(約10%)
1 平成7年度(現中学3年生)
(1)推薦入学の実施校
専門コースは特色に応じて実施できる(10%程度)
専門学科は全ての学科において実施する(30%以内)
(2)志願変更 学区内外を問わずいずれの学校、学科または専門コースへもできる。
2 平成8年度(現中学2年生)
(1)学習の記録、学習検査及び学力検査の比率5:1:4、専門コース・専門学科については特定の教科に傾斜配点
(2)推薦入学に基づく選抜
普通科一般コースについて学校の特色に応じて1O%程度の定員で実施できる。
今回の報告に基ずく入学者選抜制度の具体化に当たっては、改善策の検討の中で、学習検査の取り扱いをめぐって現行制度の変更を懸念する意見もあったことを踏まえ、生徒に動揺を与えることのないように配慮しながら検討することが望ましい。






現行入学者選抜制度

平成6年度「神奈川県公立高等学校の入学者の募集及び選抜実施要領」より抜粋


III 志願手続
 1 二重志願の禁止等
  (1) 志願は、募集期間を同じくするものについては、一の高等学校の一の学科に限る。ただし、農業、工業、商業及び水産に関する学科への志願者は、志願先の高等学校において、次表の左欄に掲げる学科の区分に応じ同表右欄に掲げる一の学科に限り第2志望まで志願することができる。
  なお、この場合において、電気系については一の学科とみなす。
  (各学科のなかで第2志望を志願できる)

IV 志願変更
 募集期間中に志願の手続を完了した者は、次により志願変更期間中1回に限り志願変更をすることができる。
 (学区外、学区外の専門コースは志願変更ができない)

V 選抜の方法
 4 面接
 普通科以外の学科を志願した者については、当該学科を置く高等学校の校長が必要と認めるときは、面接を実施することができる。
 5 選考の方法
 高等学校の校長は、中学校から送付された調査書、学力検査の成績等を資料として、各受検者ごとに次に示す方法により選抜を行う。ただし、調査書の記載事項のうち健康診断の記録については選抜の資料とはしない。
 (1)数値の算出
  ア 調査書中の学習の記録については、次の式によりAの値を求める。
   A=(第2学年の9教科の評点の合計)+(第3学年の国、社、数、理、英の評点の合計)×1.5+(第3学年の音、美、保体、技・家の評点の合計)×2
  イ 調査書中の学習検査については、次の式によりBの値を求める。
   B=(国、社、数、理、英の評点の合計)÷(音、美、保体、技・家の評点の合計)×0.5
  ウ 学力検査については、各教科の得点の合計をCの値とする。
  エ 各受検者について算定したA,B,Cの値毎に100点法に換算した数値をそれぞれ a,b,c とし、aに0.5、bに0.2、cに0.3を乗じ、その合計をDの値とする。
  (2)第1次選考
   Dの順位に基づき、上位から当該高等学校の1学年生徒の定員の80%を合格者とする。
  (3)第2次選考
   Dの数値のみによらず、資料の―部を欠く者を配慮しながら中学校第2学年から第3学年への発達過程、調査書の特記事項や所見、記録、面接等の選抜資料の総合的な判定により合格者を決定する。

VII 推薦入学
 1 対象学科
 農業、工業、水産、厚生、家庭及び理数に関する学科
 7 推薦入学の定員
 農業及び水産に関する学科にあっては、定員のおおむね15%とし、工業、厚生、家庭及び理数に関する学科にあっては、定員のおおむね10%とする。





入学者選抜制度の変遷

 学習の記録学習検査(ア・テスト)学力検査選抜方法
1948報告書(指導要録)   
1950 国語、数学の2教科実施指導要録には記入せず  
1952 中学校に問い合わせすることができる  
1953 国、社、数、理の4教科報告書に記入 学習検査を参考資料とする
1954学習成績一覧表を提出英語を除く8教科  
1955   報告書と学習検査の比率を8:2とし、学習検査が明確に選抜資料に位置づける。
1956   報告書と学習検査を総合的に判断する
1957  英語を除く8教科学習検査と同質同形式検査会場は中学校監督ほ中・高校の教員採点は高校の教員報告書、学習検査、学力検査の比率ほ同等。
1958  検査会場を高校となる。総合的な「能力検査・知能検査」 
1959 英語を加え、9教科  
1961  英語を加え、9教科の学力検査とする。 
1968 全学年9教科、5段階、計135点を100点に換算=a 全学年に実施選抜資料ほ3年のみ9教科10段階計90点を100点に換算=b 5教科、50点満点計250点を100点に換算=c 総合順位D=a+0.6b+0.6c
第一次選考:Dで定員の85%
第二次選考:各高校で選考
19691、2年5段階、3年は10段階、計180点1、2年で実施選抜資料は2年のみ9教科10段階計90点  
1970 1、2年ともに選抜資料9教科計180点  
19742年5段階、3年10段階、計135点偏差値=a2年10段階、計90点偏差値=b5教科、計250点偏差値=cD=a+0.5b+0.5c
1978   農業、水産学科に推薦入学を導入(10%)
19803年国、社、数、理、英を1.5倍、他4教科を2倍特記事項欄10%実技4教科を0.5倍 第一次合格を80〜85%
農、水の推薦入学15%
1985200点満点を100点に換算=a特記事項欄15%以内70点満点を100点に換算= b250点満点を100点に換算=cD=0.5a+0.2b+0.3c第一次合格80%推薦入学を工業、厚生にも拡大くくり募集専門学科で面接を導入





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入学者選抜をめぐる最近の文部行政と各県の動向


1. 文部省の最近の方針

 現在、全国都道府県の中学・高校教育界では、教育委員会が入試選抜の「改善」を強力に推進している。この「改善」は、端的に表現すれば入学者選抜の多様化である。
 文部省は、1993年12月に「公立高等学校の平成五年度入学者選抜の実施状況の概要」を発表した。
 「概要」は、「学区制・総合選抜の実施・選抜の日程・併願の状況・受験機会の複数化等・学力検査の実施教科数・調査書・調査書の信頼度を高める措置・入学者選抜の資料及び取扱い・入学定員を区分した複数の尺度に基づく選抜の実施・推薦入学・入学定員の弾力的取扱い・障害者に対する配慮・入学者選抜について教育委員会が講じているその他の措置」の13項目にわたり四七都道府県の状況を掲載している。
 文部省は、概要のみを載せ評価は与えていない。しかし、考えていたほどには、その方針は浸透してはいなかった。
 そこで新たなかつ全面的な改善方針が提出されるのである。それが、93年1月に出された第3次報告である。
 この入学者選抜の「改善」の基本方針は、「高等学校教育の改革の推進に関する会議」が、1993年1月26日に出した第三次報告「高等学校入学者選抜の改善について」のなかで提起された。同報告は、「公立高等学校の入学者選抜については、かねてから各都道府県において学力検査の実施方法及びその結果の利用の工夫、調査書の活用の工夫、推薦入学、面接の積極的実施など、様々な努力が払われてきた。これは昭和五十九年七月の初等中等局長通知の主旨に沿ったものであった。しかし、入学者選抜の改革が生徒や保護者に及ぼす影響の大きさから、必ずしも十分に改善が進んでいない面もある。また、都道府県により改善状況にいろいろな差異が見られる。」と指摘し、改善を要請した。この指摘の根拠となった資料が上記1993年12月の「実施状況の概要」であると考えられる。
 文部省は、この答申を受けて早速、翌2月22日には「高等学校の入学者選抜について」(通知)を各都道府県教育委員会へ出し、適切に実施するよう指導している。この通知を挺子として各都道府県教育委員会は、入学者選抜の改善に全面的に着手していくのである。
 神奈川県もその例外ではない。神奈川県では高等学校課題研究協議会(高課研)が、93年十二月に第二次報告「公立高等学校入学者選抜制度のあり方について」を公表した。高課研の動向は、当初ア・テストの是非をめぐって注目をあつめたが、「公立高等学校入学者選抜制度のあり方について」は文部省の「改善」案にそった内容のものとなった。
 県教委は同報告を受け具体案を5月19日に「公立学校入学者選抜制度の改善案(中間報告)」のかたちで発表した。この「改善」案は1993年の「実施状況の概要」で明らかとなった未実施・未着手部分を文部省の通知(2月22日)にそって忠実に補強し実行するプランである。





資料

高等学校の入学者選抜について(通知) 文部省
                    平成五年ニ月二十二日


  1. 公立学校の入学者選抜の改善について
     (1)多様な選抜方法の実施
     (2)多段階の入学者選抜の実施について
     (3)入学者選抜の資料について
     (4)学力検査の在り方について
     (5)調査書の在り方について
     (6)面接について
     (7)通学域について
  2. 私立高等学校の入学者選抜について
  3. 業者テストの偏差値を用いない入学者選抜の改善について
  4. 中学校における進路指導の充実について
  5. 留意すべき事項について

上記資料の抜粋 「1公立学校の入学者選抜の改善について」



1 公立高等学校の入学者選抜の改善について

(1) 多様な選抜方法の実施
ア 高等学校の入学者選抜は、各高等学校、学科等の特色に配慮しっつ、その教育を受けるに足る能力・適性等を判定して行うものとすること。
イ 高等学校入学者選抜の在り方は、各学校・学科・コースごとの特色に応じて多様であることが望ましいこと。
 さらに、同一の学校・学科等の中でも入学定員を区分して複数の尺度に基づく異なる選抜方法を実施することにも配慮すること。
 このため、例えば、各学校・学科等ごとに、あるいは定員の一部ごとに、学力検査の実施教科や教科ごとの配点を変えたり、調査書と学力検査の成績の比重の置き方を変えたり、調査書の中の重視する部分を変えたりすることなどが考えられること。

(2) 多段階の入学者選抜の実施について
ア 受験機会の複数化及び推薦入学の活用などにより、多段階にわたり入学者選抜が実施されるよう十分配慮すること。
イ 推薦入学については、専門学科のみでなく、普通科においても教育上の特色づくりと並行して一層活用されるよう配慮すること。
ウ 推薦入学の実施に当たっては、その意義にかんがみ、スポーツ活動、文化活動、社会活動、ボランティア活動などの諸活動の実績などの資料による選抜方法の工夫を行うこと。
 この観点から、調査書の学習成績の記録以外の記録の部分を重視した選抜を行うことはもとより、さらに、例えば、一定の定員枠を設けて、中学校長の推薦に基づき、長期間にわたる又は質の高い文化活動やボランティア活動の活動歴等により選考を行い、調査書の学習成績の記録の評定の成績を求めないこととする選抜を行うことが考えられること。
エ 推薦入学の実施時期については、中学校教育に悪影響を及ぼさず、また、中学校における教育活動の成果を十分評価することができる時期とすること。このため、推薦入学があまり早い時期に行われないよう、地域の実情に即し、教育委員会、知事部局、公立・私立高等学校及び中学校関係者が十分協議し、一層の改善を図ること。

(3) 入学者選抜の資料について
ア 合否の判定の際の調査書と学力検査の成績の比重の置き方については、生徒の選択の幅の拡大等のため、各学校・学科等、あるいは定員の一部ごとに異なる方式で合否の判定を行うことについての工夫がなされるよう配慮すること。
 さらに、生徒の個性に応じ選抜方法を多様化させるという観点から、各学校・学科等ごとに、あるいは定員の一部ごとに、学力検査を実施しない選抜、調査書の比重を大幅に軽減する選抜や調査書を用いない選抜などを行うことも考えられること。
イ ただし、調査書を用いない選抜を実施する場合には、中学校教育に大きな影響を与えることから、例えばこの方式は例外的な方式であるとの位置付けのもとに定員の一部についてのみ適用する方法などが考えられること。また、学力検査の成績を主たる資料としっつ、面接や小論文・実技検査などを組み合わせて行うことも考えられること。

(4) 学力検査の在り方について
ア 学力検査の問題作成については、中学校の教育課程の趣旨に即し、知識の量や程度を問う出題に偏ることなく、例えば論述式の回答を求める出題や思考力・分析力を問う出題を増やすなど、中学校の新しい教育課程で重視されるべき能力が適切に反映されるよう一層の工夫改善を図ること。
イ 学力検査の実施教科については、生徒の個性に応じた学校選択や各学校・学科等の特色に応じた選抜を可能とし、さらに、中学校における選択履修の幅の拡大の趣旨を生かすため、各学校・学科等ごとに工夫を行うことが望ましいこと。
 このため、例えば、各学校・学科等ごとに、あるいは定員の一部ごとに、実施教科数を増減したり、教科によって配点の比重を変えたり、学校ごとに学力検査問題を一部作成Lて付加したり、教育委員会が多くの問題を作成し各学校がそこから選択して出題したり、生徒が教科を選択したりすることなどが考えられること。

(5) 調査書の在り方について
ア 調査書については、高等学校入学者選抜の資料としての客観性・公平性を確保するよう留意しつつ、生徒の個性を多面的にとらえたり、生徒の優れている点や長所を積極的に評価し、これを活用していくこと。
イ 調査書の学習成績の記録の評定については、中学校学習指導要領及び中学校生徒指導要録の改定の趣旨に即した改善の努力を進めること。
 また、中学校の新しい教育課程における選択履修の幅の拡大の趣旨を生かすため、調査書の記載に当たり適切な工夫を行うとともに、選択教科の学習の成果の活用について工夫するよう配慮すること。
ウ 調査書の学習成績の記録の活用については、生徒の個性に応じた学校選択や各学校・学科等の特色に応じた選抜を可能とし、さらに、中学校における選択履修の幅の拡大の趣旨を生かすため、各学校・学科等ごとに工夫を行うことが望ましいこと。
 このため、例えば、各学校・学科等ごとに、あるいは定員の一部ごとに、合否判定の資料として用いる教科を減らしたり、教科によって評定の比重を変えたり、選択教科を重視して用いたりすることなどが考えられること。
エ 生徒の個性を多面的にとらえたり、生徒の優れている点や長所などを積極的に評価するため、調査書の学習成績の記録以外の記録を充実し、活用するよう十分配慮すること。
 その際、点数化が困難なスポーツ活動、文化活動、社会活動、ポランティア活動などについても適切に評価されるようにしていくことが望ましいこと。
オ 調査書の記載事項については、高等学校入学者選抜の資料として、真に必要な事項に精選すること。

(6) 面接について
 面接については、積極的に活用することが望ましいこと。

(7) 通学区域について
 通学区域については、各都道府県で地域の実情を踏まえながら各高等学校に特色を持たせ、生徒の特性に応じた学校選択が可能となるような方向で検討する必要があること。また、生徒の居住地によって高等学校受験の機会が大きく異なることのないよう配慮する必要があること。

2以下略



2. 他県の動向

(1) 宮崎県 30パーセント推薦制

宮崎県では、全国に先駆けて、普通高校は定員の30%を推薦で入学させている。
宮崎県の高校入試は、三つの特徴をもっている。
  1. (普通科)小学区制
  2. (普通科)合同選抜制
  3. 30%推薦制
30%推薦制の実施
  1. 県教委の入試実施要綱発表 各高校ごとの推薦基準も同時に発表
  2. 高校長が、募集定員の30%の人数を各中学校に「前年度の実績に応じて」割り当てる。
  3. 中学校における推薦作業実施
      (イ)生徒・保護者から希望をとる
      (ロ)校内の推薦制と決定
  4. 中学校長より各高校へ推薦生徒名簿提出
  5. 入学試験・面接・合否決定
  6. 合格発表
主な問題点を挙げると、
  1. 学力第一の推薦
     県教委の示す統一的推薦基準は、つぎの3点に要約される。
    1. 学習意欲があって、(略)成業の見込みのある者
    2. スポーツで著しい実績、(略)生徒会活動などに積極的
    3. ポランティアなど奉仕活動
     この中で「成業の見込みのある者」とは、学力第一で推薦せよということになる。
  2. 高校側の優位
    高校長が、「前年度実績に応じて割り当てる」ことから、高校側が圧倒的に優位となる
  3. 推薦枠をめぐる悩み、さらに具体的な作業のなかで、中学担当の悩みは深まる選考の困難性や子どもの選別などに心を痛める。
  4. 願書提出は、推薦生徒・一般受験生徒と同時におこなう。生徒には、誰が推薦生徒かわからず疑心暗鬼がわく
  5. 合格発表は、推薦生徒・一般受験生徒同時に実施。両者の区別がつかない。だが、推薦生徒は、中学校で口止めされておりストレスなることが多い。
 従って、教育現場では生徒・父母・教師共々不安な中で実施しているのが現状である。
教育評論 93年10月号




(2) 愛知県 複合選抜制度

 愛知県は、1989年に全国で初めて複数希望・複数受験制度を導入した。この制度はすべての高校で実施される推薦入試と、学区を群及びグループ分けし実施期日をずらすことによる一般入試の二校受験を骨格とするもので、複合選抜制度と呼ばれている。
入試制度の概要
  1. 推薦入試
     すべての高等学校・学科において実施される。推薦基準には、人物推薦(運動、芸術、奉仕活動等)、恵まれない環境推薦、学力推薦の三つがある。推薦による定員枠は各学科によって異なるが、それぞれ募集定員の15〜35%程度となっている。
  2. 一般入試
    1. 出願……学区は、普通科は尾張・三河の2学区。普通科2校へ出願する場合は(1校受験も可)、まず学区内の1群か2群かを選択する。さらにその群内のA・B各グループから1校ずつ選択し、第1希望校・第2希望校の区別を決定する。専門学科は全県1学区でそれぞれの学科内をA・Bグループに分けている。普通科と同じくA・Bグループから1校ずつ選択するが、どちらか1方を普通科の学校にしてもよい。
    2. 入学検査……学力検査と面接をA・Bグループ別日程でおこなう。
    3. 合否決定……各高校で全受験者について校内順位を決定する。この順位のデータは県教委に集められ、全校一斉にコンピュータで処理される。第1・第2志望ともに合格の場合には、第1志望校が合格となり、第2志望校の合格候補者からはずれる。その第2志望校では、受験者の中から次の順位の者を繰り上げて合格候補者とする。この作業を繰り返して各高校で合格者が決定して行く。受験は2回だが、発表は1回、同時に行う。
    4. 第2選抜…合格者が募集人員に満たない学校・学科においては、第2次選抜を行う。
主な問題点
  1. 入試日程の長期化
     受験生に過重な負担をかけるだけでなく、試験の日程によっては(A・Bグループの試験日は数年おきに入れ替わる)学年末試験を繰り上げる等、高校側の日程変更が必要なため、在校生に与える影響も大きい。
  2. 2校受験による玉突き現象
     2校受験制は、みかけ上の倍率を二倍近くにするとともに、第1希望を落とされた生徒が次の高校に流され、その高校を本命としていた生徒を押し出すという玉突き現象をおこすなど、学校選択を困難なものにしている。
  3. 学力第一の推薦
     「選択尺度の多元化」にはつながらず、実施は内申点の高い受験生を先に確保する手段となっている。
  4. 大学区制
     尾張学区と三河学区の2学区のみ。それぞれの学区内を群とA・Bグループに分けてはいるものの、地域を基本として群・グループ分けではないので、遠距離通学等が深刻な問題となっている。









資料編




高総検レポート No 16

1994年6月16日発行

比類なき最悪、最低の『改善案』

県教委『公立高等学校入学者選抜制度の改善案について(中間報告)』批判

1.確実におこる『推薦競争』
 今回しめされた『中間報告』によると、各高校は定員の10%前後を推薦によって決めることができます。しかし、中学校ではどのように推薦へと生徒を指導したらよいのでしょう。すでに大幅な推薦制度を導入している宮崎県では、生徒(保護者)の間、生徒(保護者)と教員の間、あるいは教員間の不信感の増大が問題になっています。『みんな推薦したい。でも選ばなければならない』。中学校の教員は悩み、そして不信感だけが積み上げられていく結果になっています。しかも推薦制のもとでは中学校全期間にわたる実績が問われることになり、中学生は3年間にわたり推薦を意識した生活を強いられることになるでしょう。来春の入試で推薦制度が導入される予定の東京都では、生徒会役員への候補者が続出したり、塾が内申点稼ぎの指導をしたりしていると伝えられます。
 さらに推薦された生徒を受け取る高校の側では、いったいどのような基準で生徒を選抜するのでしょう。『それぞれの高校の特色にあった生徒を選抜する』としても、いったいどの生徒が『特色』にあっていると判断するのでしょう。結局、高校と中学校の間、さらに高校の内部で不信感を増大させるだけで終わってしまうのではないでしょうか。今回の報告の中で『小・中・高間の緊密な連携を図る』と書いた方は、中学校と高校の間で事前相談でもせよと言っているのでしょうか。 推薦制度の拡大は、中学校、高校の教育を破壊し、中高連携を打ち砕き、さらに中学生を絶え間ない『推薦競争』の中にたたき込む結末になることは確実です。そして、公立と私学各高校が際限ない『青田買い競争』へと突入していくことも確実です。

2.確実におこる『公立離れ』
 推薦を受けなかった、あるいは受けられなかった受験生、推薦を受けたが不合格になった受験生は、残った枠をめぐって争うことになります。しかも残り2O%は第二希望枠としてとって置かれます。結局、第一希望の枠は80-10→7O%に過ぎません。さらにその第一希望の枠の中で、第一次選考と第二次選考が分けられ、選考基準が異なっています(第二次選考では、調査書の評定以外の記載事項が資料として入り、学力検査の結果も教科数を変えたり、傾斜をつけたりできるようになっています)。単純に考えても、これまで通りの公立高校希望者の比率だったとすれば、第一希望枠の倍率は1.3倍程度になるでしょう。ほとんどの受験生は、合格への自信を持てないでしょう。しかも、クラスの中には、推薦で決まった生徒、私学の合格が決まった生徒がいます。おそらく、3〜4割、場合によっては半分の生徒がすでに合格への切符を手にしているでしょう。その中で、十分な見通しがないまま受験しなければなりません。もちろん、この報告を作成した人は言うでしょう。『第一希望がだめでも、第二希望がある』と。しかし、第二希望はあくまでも第二』希望です。しかも、その枠は定員の18%に過ぎません。これが受験生に安心感を与えるでしょうか。たとえ成績上位の生徒であっても、合格への安心感を得るために、無理をしてでも、私立を受験せざるを得ないでしょう。しかも、そのための塾通いも、これまで以上に激しくなるでしょう。
 すでに新制度のもとで入試がおこなわれた東京都では、受験生の都立離れが一層進みました。今回の報告にもとづく入選制度が、神奈川に導入されるならば、東京都で起こった以上の公立離れがすすむことは確実です。そして公立離れは、これまで神奈川ですすめられてきた公私間の定員配分を崩し、私学の教育条件を悪化させます。

3.確実におこる『進学率の低下』
 推薦で不合格になった者は、次の入試を受けなければなりません。第一希望で合格できなかった者は、第二希望の選考を受けなければなりません。それでも不合格になった者は再募集に応募しなければなりません。今春の東京都の入試でも多くの生徒が再募集をうけました。新聞にはこういう声もよせられています。『制度改革で振り回された高校受験はもうこりごり。たとえ受かっても専門学校にいきます』。ここまで頑張ることのできる生徒はおそらく強い生徒でしょう。推薦で不合格になり、第一希望も入れられず、第二希望も通らなかった生徒に、さらに受験を勧めることができるでしょうか。また、その生徒の弱さを責めることができるでしょうか。多段階に分かれた複雑な入試制度のもとで、振り落とされた受験生は次々に脱落していく結果になるのではないでしょうか。
 高課研は進学率の引き上げを第一次報告に盛り込んでいました。今回の中間報告は、高課研の第一次報告を無視したものと言わざるを得ません。なぜなら、新制度のもとで、受験生は今以上の重い負担を強いられ、脱落者を生み出すことが確実であり、進学率は確実に低下するのですから。

4.確実におこる『不本意入学の増加』
 一般入試が不透明であればあるほど、受験生は『合格可能性の高い高校への推薦を受ける』でしょう。そして第一希望が通らなかった受験生は第二希望に回らざるを得ません。第一希望と同じ学校を第二希望にしてよいと言われても、どれだけの受験生がそこまでの自信を持つことができるでしょう。さらに第一希望として受験する場合でも、枠が狭まっている状況の下では、多くの受験生は本来希望していなかった学校へ志望を変更せざるを得ないでしょう。今回の報告にもとづいた『改善』がおこなわれた場合、不本意入学者が急増することは確実です。『中間報告』では『希望する高校が受験できるよう・・・』と書いています。『希望する高校を受験できます、受験しなさい』と言われても、受験生の耳には虚しく響くだけではないでしょうか。

5.確実におこる『学校間格差の拡大』
 これまでも神奈川県では学校間格差が問題にされ、その解消にむけての努力が、それなりに積み重ねられてきました。しかし、今回の報告が実施にうつされるならば、これまでの努力はすべて水の泡と化するでしょう。
 今回の中間報告』の中には、『学区外志願限度枠の中に、隣接学区枠の扱いを新たに設ける」という提案がもりこまれています。学区外志願限度枠についての具体的数値はまだ示されていません。しかし、現在8%の枠の拡大が想定されていることは明らかでしょう。現在でも、学区外志願者の集中する高校は上位と下位に位置しています。今回の『改善』が学校間格差を拡大することは確実です。
 さらに、今回の報告にしめされている、複数希望制が導入された場合には、第一希望の集中する高校、第二希望の集中する高校、結局再募集で定員を充足しなければならない高校が生まれることは確実に予想できます。そして、その序列が現在の学校間格差の序列をそのまま写したものになることも確実です。こうして、学校間格差がより明かになり、より深刻になり、より固定されていくことは確実です。
 また、この中間報告を作成したひとは、こう言うつもりかもしれません。『学力一辺倒の入試制度を変え、尺度を多様化すれば、格差は縮小する、あるいは見えなくなる』。しかし、残念ながら学校間格差を生み出す原因は、そんなかんたんなものではありません。学校間格差は、現在の社会のあり方そのものに深く根をおろしています。尺度を多様化しても、その尺度そのもの格差が生まれ、格差がより明確になる結果に終わるでしょう。

6.確実におこる『中・高教育の破壊』
 推薦入試は1月に行われます。おそらく、私学の推薦との競争になり、私学は公立よりも早く推薦を実施することになるでしょう。そして公立の一般入試――第一希望の選考第二希望の選考――しかも、この複雑な入選制度のもとでは欠員が多数発生するでしょう。多くの学校が再募集になる可能性があります。高校現場は、年間の三分の―の期間を入試で消耗することになります。
 中学校では2学期に推薦への指導をすませておかなければ、1月の推薦入試には対応できません。そして2月には私学の一般入試、公立の出願、さらに新しい制度の下では大量の学区内外にわたる志願変更がおこなわれるでしょう。2学期の後半から中学三年生は入試に追いまくられ、不安な毎日をすごすことになるでしょう。早々と推薦で合格の決まった生徒、推薦で不合格になり私学へ行く生徒、さらに公立を受験する生徒、第一希望の高校に入学を決めた生徒、第二希望に回らざるを得なかった生徒、第二希望も不合格になった生徒中学三年生のクラスは、クラスとして成立するでしょうか。
 現在でも、高校入試は中学校、高校の教育に重くのしかかっています。今回の報告にもとづいた『改善』がすすめられるならば、入試はいまよりも長期間にわたる複雑な内容になります。選抜に無益なエネルギーを費やすことなく、教科指導、進路指導に十分な時間をかけることこそ、中学校、高校に要求されていることではないでしょうか。今回の『改善』がおこなわれるならば、中・高教育は入選の重圧により確実に破壊されるでしょう。

 今回の『中間報告』が実行にうつされた場合、神奈川の中等教育がたどる運命は明らかです。私学と公立間の競争、公立高校間の競争は今とは比較にならないほど煽られ、受験生と中学校はその競争の中に投げ込まれます。受験生に安心感を与えることができない公立高校はみはなされます。そして、入学してくる生徒の多くは傷つき、不本意入学の思いにとらわれています。しかも、公立高校間の格差は今以上に拡大し、教育現場は荒廃します。普通の知識、想像力があればだれもがこうした不安を感ずるはずです。県教委は不安を感じていないのでしょうか。それとも不安を感じていても、この案を押し通そうとするのでしょうか。 また、今回の『改善案』の中に盛り込まれている、推薦制度、調査書の評定以外の記載事項の利用、複数受験機会、傾斜配点、受験科目の弾力化等はすでに全国各地でおこなわれ、多くの問題点が指摘されてきたものです。しかし、これらの項目を全部一度に導入しようとした県はありません。しかも、今回の『改善案』を一見するだけで、整合性を欠く部分、実施可能性を疑わせる部分を随所にわたり指摘することができます。全国各地の実践に学ぶこともなく、しかも不完全な内容のこの『改善案』は、他県に例をみない『比類なき、最悪、最低の改善案』と言わざる得ません。



高総検レポート No 17

1994年6月23日発行

高校入試『改善』案を考える

――――熾烈な受験競争へ通ずる危険な道――――

 今回、県教委がしめした『公立高等学校入学者選抜制度の改善案について(中間報告)』は様々な問題を含んでいます。もし、この案がこのまま実施されたとするならば、神奈川県の中学生は、いまよりもさらに厳しい受験競争を強いられることになり、多くの生徒が心に深い傷を負うことになるでしょう。この予想が杞憂であればよいのですが、この『改善案』を読めば読むほど、心配はつのってきます。そこで、この『改善案』の中心になるとも言える、『複数希望制』と『推薦制』、そして『特色ある学校づくり』について、限られた時間の中での不十分な検討ですが、以下のように問題点をまとめてみました。

I.『複数希望制』について

 『複数の学校に希望が出せる』と言われると、多くの受験生は目を輝かすでしょう。また、受験生を抱える保護者の多くもホッと安心するかもしれません。しかし、よく考えてください。ひとりの受験生が複数の希望を出せば、見かけの倍率は必ず上がります。それによる不安が広がるでしょう。もちろん『見かけ上あがっても、全体の倍率は変わらない』と説明されれば、なるほどと、再び納得するかもしれません。だが、もう少しよく現実を見てみましょう。

1.入選の各段階の倍率は高くなる

 『中間報告』によると定員の20%が第二希望枠とされます。受験生は第一希望出願と同時に第二希望を提出することができます。ところで、定貝の10%程度が推薦枠とされますから第一希望の枠は、100−20−l0→70% となります。単純に現在の公立高校の平均倍率1.1そのままで考えると。その中の0.1が推薦で決まります。すべての受験生が推薦を受けるわけではありませんが、わずか10%の枠を争うのですから、当然高い倍率になるでしょう。そして残り1.0が70%の第一希望枠を争います。したがって第一希望の倍率は約1.4になります。そして第二希望は残り0.3の受験生が20%の枠を争います。したがって第二希望の枠は1.5倍となります。平均的に考えても、第一希望の倍率、第二希望の倍率はともに現在の1.1倍よりもはるかに高い倍率になってしまいます。倍率が高くなればなるほど、ちょっとした失敗が不合格につながることも起こります。これで安心でしょうか。

2.第二希望の倍率は不明

 受験生の立場になってもっと検討してみましょう。第一希望はたしかに倍率が発表されます、あるいはできます。しかし、第二希望の倍率は発表できるでしょうか。第二希望は第一希望で不合格になった受験生だけが、選考の対象となります。だから、いったいどの受験生が実際に第二希望にまわってくるかは、第一希望の選考が終了するまでは分かりません。ですから、もし発表したとしても、実際には意味のない数字となってしまいます。それでも無理に第二希望を発表したとすれば、おそらくその倍率は平均5倍以上の高倍率になるでしょう。いたずらに受験生の不安をあおるだけです。では受験生は何をたよりに第二希望を出願したらよいのでしょうか。ほとんど賭に近いものになってしまいます。こんな第二希望が受験生に安心を与えるものになるのでしょうか。

3.不本意入学の多発

 そして、また別の大きな問題は、第一希望でその学校を受験していた生徒を、第二希望で回ってきた受験生がはじき出してしまうという問題です。A高校を第一希望にしていたある受験生が、第二希望はB高校に出したとします。そして、その受験生がA高校は不合格でB高校に合格したとします。そうすると、その生徒が回ってきたために、B高校に是非入りたくて、第二希望もB高校を受験していたある生徒が第一希望ばかりか、第二希望まで不合格になるというようなことがおきます。それを避けようとすれば、第二希望は不本意ながらあらかじめC高校にするということも必要になります。いわゆるトップ校以外の学校ではこの現象が必ず発生するでしょう。こうして次々に不本意志願の鎖ができあがります。
 そして、高校に無事合格したとしても、それが第一希望の高校でない場合はどうなるでしょう。もちろん合格は嬉しいものです。しかし、『自分はもともとここに来るつもりはなかった』『第二希望も第一希望と同じ高校にすればよかった』・・・。第二希望はあくまでも第二希望です。第二希望の合格は裏返せば第一希望の『不合格』です。不本意入学の意識にとらわれたまま入学式を迎えることにならなければよいのですが。

II.『推薦制』について

 『推薦を受けて早く合格が決まればいいなあ』。こう思うのは、ごく自然な感情でしょう。今回の『中間報告』では各高校は、その『特色』に応じて推薦制度をとりいれることができます。そして推薦においては、かならずしも学力だけではなく、様々な個性が評価されるとも伝えられています。しかし、そううまくいくでしょうか。
 今回しめされている推薦の枠は定員の10%にすぎません。そして、ほとんどの受験生は推薦を受けたいと願うでしょう。当然、倍率はかなり高いものになり、学校によっては10倍をこすようなところもできるかもしれません。今後、多少推薦の枠が広がったところでこの事態は変わりません。推薦入試は激しい競争の場になってしまいます。
 そして、推薦で合格したいと願えば、中学校の三年間はつねに推薦を意識した生活になってしまいます。自分がどこの高校への推薦を受けられるか、あるいは受けても合格できるか。その不安は受験が近づくにつれてますます大きくなっていくでしょう。推薦制の導入により、入試競争はけっして緩和されることなく、ますます熾烈な、しかも長期にわたるものになってしまうでしょう。

III.『特色ある高校づくり』について

 『特色ある高校』がつくられ、そして受験生が自分の個性にあわせてさまざまな『特色』をもった高校を受験することができれば・・・。こう願うのは自然かもしれません。しかし、よく考えてください。
 受験生のもつさまざまな個性にあわせて、それに応じた『特色』を用意することがはたして可能でしょうか。どのような『特色』をどれだけの枠でつくればよいか、調べた上で『特色ある高校』をつくる。こんなことがはたしてできるでしょうか。受験生のニーズと『特色』が一致することはほとんど不可能。これはだれでも想像できるところではないでしょうか。生徒をむりやり、『特色』の枠のなかに押し込む結果になる心配があります。
 また、10代の生徒は成長の過程にあります。その個性も、希望もしだいに変わっていきます。それが当然であり、それが成長というものでしょう。15才という年齢で一律に個性を決め、振り分けてしまうことが正しいやり方でしょうか。むしろ、それぞれの生徒の個性の成長にあわせて、それに応えていけるような高校こそが求められているのではないでしょうか。
 さらに、今回の『中間報告』の中には、いくつかの『特色』の例が上げられています。しかし、その中にある『多様な選択科目の設定』などは特定の学校の『特色』として限定してしまってよいものでしょうか。むしろ、多様な個性を持つ生徒に対応するために、すべての高校の『特色』として位置づけられるべきものではないでしょうか。実は他の『特色』の例の多くもそうです。ほんとうに必要な『特色』であるならば、すべての高校がそなえるようにならなければならないはずです。そうなれば、もはやそれは『特定の高校の特色』ではありません。こう考えると、『特色ある高校づくり』は大きな矛盾をはらんでいると思わざるを得ないでしょう。
 そして、一番恐れなければならないのは、限られた数の『ある特色を持った高校』をめざして、受験生が熾烈な競争を繰り広げなければならなくなることです。それだけは、避けなければならないと思うのですが。


―――『改善案』そのものの抱える疑問点―――

1.複数希望制が抱える矛盾   第2希望提出に関わる問題

  1. 第1希望の倍率は発表されるが、第2希望の倍率は発表されない。
    (実際、第2希望の倍率は発表しても意味をもたないであろう)
    第2希望は完全にブラック・ボックスとなってしまい、事実上、受験生の目には定員減と映るであろう。そして第1希望の倍率は1.3〜2.0程度の高倍率となる。
    また、第1希望の数で『人気』の度合いは明白になり、学校間格差は白日のもとにさらされるであろう。

  2. 第1希望の合否判定後、取消者が出た場合。
    第1希望不合格者は第2希望校で選考に入っている。
    したがって、取消者分は第1希望の欠員とならざるをえない。
    つまり、第1希望から第2希望へまわらざるを得ない受験生がいる一方で、第1希望の欠員が生じている。
    そして、第1希望欠員は第2希望の枠にまわる。

  3. 受験番号と合格発表の関係
    第1希望と第2希望の受験番号を変えた場合→発表時点で第2希望合格が明白になってしまう。(第1希望不合格が明白になる)
    第1希望と第2希望の受験番号を統一した場合

    1. 受験作業上のミスが起こりやすい。

    2. 発表後、書類を受け取ってはじめて、第2希望合格を知る。

  4. 受験校と合格校が異なる。
    第1希望校で受験したにもかかわらず、結果的に合格した学校が異なることになる。生徒の意識に多大な影響を与えることになる。

そもそも、複数希望制は統一試験方式、統一管理方式をとってはじめて可能なものである。各校単独入試方式をとる限り、第2希望方式は数々の矛盾に出会うであろう。そして、第2希望の不透明さ、第1希望枠の縮小により、受験生の公立離れは確実になるであろう。また、受験生を長期間不安定なままに放置することは、受験生の人権上も大きな問題を残すであろう。

2.入選作業に関わる問題(モデル 8 クラス 320 定員校 総希望数 352 倍率1.1倍)

  • 推薦
    推薦説明会等 ( 12月 )
    推薦出願 推薦定員 32 名 応募 総希望数の半数 176 約 5.5倍
    推薦選考 面接・調査書の比較検討 → 原案作成 → 判定会議 面接を1日で終了させたとしても、資料の整理、検討で3日程度はかかる。(1日60名前後の調査書を読み、面接結果を検討したとして)
    原案作成を1日で終了させたとしても、合計一週間は必要と考える。
    1月の第4週には3年の学年末試験が位置している。
    したがって、
       冬休み後の1週目(1月の第2週)で出願受付
            2週目(1月の第3週)で選考

  • ―般受験 2 月
     出願 受付 (願書整理簿作成) →志願変更→志願者名簿作成→調査書受領
          (2週間程度みる必要がある)
          第1希望定員 224  応募 352 − 32→ 320   1.43倍
          第2希望定員  64  応募 352 − 32→ 320   5 倍
     学力検査 2月20日前後
          学力検査 1日 (→実技 ・ 面接 2 回) →採点 1 日

    ※ここまでで学力検査から4日

     選考(1)第1希望
        選考I(現第一次選考)
        選考II(現第ニ次選考)  調査書の比較検討  原案作成→判定会議
        選考I対象(仮80%)179
        選考II対象(仮20%)320-179→141(定員45 倍率3.1)
         『特色に応じた』調査書の内容検討(3日程度)
          原案作成1日・判定会議1日

    ※ここまでで学力検査から9日

       (2)第2希望
        第2希望集約
         第1希望不合格者の書類を送付  1日
          (不合格数90半数45が同一校希望を見込む)
          第2希望者の書類を集約、点検(受験者数90)1日
            第2希望320-230(該当校および他校に合格)→90(見込み)
        選考 学力検査結果、調査書の検討 2日
           原案作成1日・判定会議1日

    ※ここまでで学力検査から15日

  • 合格発表  合否結果通知を作成   1日(仮に合格発表が郵送の場合)
            合格発表(発送)     1日(郵送でなく第1希望校で個人手渡し方式も考えられる。

    ※ここまでで学力検査から17日

    土日を考えると、学力検査からはじまる入選作業は3週間以上

入選作業の見通し

 出願開始から発表まで1ヵ月以上は必要、しかもほとんど1日も欠かさずに入選日程を入れることになる。この時期には3年生の学年末試験、卒業判定会議、卒業式予行等の行事の多い時期である。これらの行事を含めると、1か月では済まず、現在よりも合格発表を後ろにずらすことになるであろう。(卒業判定会議、卒業式予行、職員会議2回さらに卒業式、各1日は必要)
 この間、目を通し比較検討しなければならない調査書は延べ400通を越える。そして1回、目を通す調査書から3回、目を通す調査書まである。公平であろうか?そして、この見通しは普通科の場合であり、面接、実技試験を取り入れ、しかも一次選考段階から調査書の記述部分を使用する専門コース、専門学科の場合はさらに作業量は増える。そして、入試日程は一番遅れる学校にあわせざるを得ない。学力検査を2月20日前後におこなったとしても発表は3月15日前後にずれ込むのではないか? 入選委員はこの間ほとんど選抜業務に張りつかなければならず、また事務も卒業業務、進学用調査書の発行業務を抱えながら、この作業を行わなければならない。そして3月初めにはほとんどの学校が1・2年生の学年末試験に入っている。
 参考までに現在の入選作業をあげれば、学力検査に1日、採点・データ処理に1日、原案作成に1日、判定会議に1日、合計4日(多くて5日)ではないか。おそらく現在の4〜5倍程度の日数を必要とすることになるだろう。
 また、受験生は出願から発表までの、この長い期間、合否、さらに第1希望か第2希望かが決まらないまま不安な毎日を過ごすことになる。

3.その他の問題

  1. 移行措置
     97年度から始まる新方式に対し、95年、96年を移行措置年度としている。95年は専門学科、専門コースのすべてに推薦制度が導入される。さらに96年度から推薦制度は普通科にも導入され、専門学科、専門コースには傾斜配点が導入される。また、選考IIにおける調査書の評定以外の記載事項の使用と、ア・テストの比率の20%から10%への引下げがおこなわれる。これらは大きな変更点であり、受験生、保護者、現場に大きな戸惑いをもたらすであろう。しかし、97年からは学習検査はまったく消え、複数希望制が導入され、しかも選考IIにおいて全面的な傾斜配点、さらに教科数の弾力化が導入される。
     変更点を整理すると、(1)ア・テスト(2)推薦制度(3)傾斜配点・教科数の弾力化(4)学力検査と調査書の比率の弾力化(5)複数希望制となる。この中、ア・テストについてはたしかに段階的比率の引下げがおこなわれ、激変緩和になっているが、推薦制度は96年から事実上全面的に導入される。また、傾斜配点・教科数の弾力化、学力検査と調査書の比率の弾力化、複数希望制は同時に導入されることになる。移行措置と名をうってあるが、ア・テストの比率に以外の配慮はなく、しかも推薦制は他から切り離して前倒しで実施されることになっており、混乱を防ぐものとはなりえない。

  2. 再募集
     これだけ大きな入選制度の変更を提起しながら、再募集については『現行どおり実施する』という言葉だけで済ませている。制度が大きく変わるときは欠員が多数発生することが予想される。隣接する東京都では欠員が発生した高校数は新制度導入前と比較し、ほぼ二倍であった。また、埼玉県でも多くの高校で欠員が発生した。再募集制度も当然、新制度導入に対応したかたちで検討されるべきである。

  3. 中学校の進路指導
     『個を生かすため』として『長期的な視野に立った個人資料の作成と活用』がうたわれている。『3年間を通じた資料(将来の希望、学校生活の様子、興味・関心、学習の記録の収集、蓄積を行う』とされている。中学生の生活すべてが、進路指導の名のもとに監視、記録される恐れがある。『生徒自らがその資料を活用するようにする』とされているが、全面的公開がなされる保障はない。また、生徒自身の見方と教員の側の見方は当然ことなったものになるはずである。そして、入選には推薦制が導入され、また調査書の評定以外の記載事項も活用される。この資料を『活用』した場合深刻な問題が発生することは十分予想できる。
     また『進路指導についての教職員の共通理解と協力体制の確立を図る』とあるが、これにより中学校における個々の教員の進路指導に対する、管理職(その代行組織)の統制が現在以上に厳重になる可能性がある。『校内研修の充実』『校内体制の整備』『綿密な指導計画の作成』の持つ意味をよく考える必要があるであろう。とくに、推薦制度、調査書の記載内容の調整と絡んだ場合には深刻な事態を引き起こすことが予想される。

  4. 特色ある高校づくり
     『全ての高校で特色ある高校づくりを推進する』としているが、これまで『特色ある高校づくり』が専門コースの設置をさしていたことを考えると、『特色』という語の一方的拡大解釈が行われていると見ざるをえない。
     さらにその『具体的内容(少しも具体的ではないが)』を整理してみる。

    1. 教科活動に係わるもの
       ここにあげられているものの中、『単位制の弾力的連用』以外は、すでに百校計画の過程で『特色』として、様々な試みがなされてきたものである。そして、それが『特色』として位置づいてこなかったことも、実践的に証明されているといってよい。それをここでもう一度、新たな試みであるかのように持ち出したのはなぜであろうか。また、『単位制の弾力的運用』については、はたして特定の学校の『特色』として限定することで終わってよいと言うのであろうか。さらに、この『特色』と入選制度を結び付けた場合、『弾力的に単位制を運用している学校に相応しい生徒』とはいったいどのような生徒なのであろうか。

    2. 教科外活動に係わるもの
       学校行事、ホームルーム活動、委員会活動、また部活動を、各学校ごとに『特色』あるものに育てていくことは、当然である。そして、それを可能にする環境を整えることは、教育行政の責任だともいえるであろう。しかし、その『特色』を固定化し、生徒をその枠にはめることは、はたして『多様な特色をそなえた生徒』を受け入れていかなければならない公立高校として、適当なやり方なのであろうか。

    3. 各学校独自の主体的な取り組み
       地域との交流、学校間交流、奉仕活動等が公立高校にとり必要なものであるならば、どうして特定の学校の『特色』として限定することになるのであろうか。これらの『特色』が望ましいものと考えるならば、すべての学校にその『特色』を広げる方策を考えるべきではないだろうか。

     『具体的取り組み計画』
     まず第一にこのような項目が入選改革の中にかんたんに位置づけることが許されるものであろうか?この計画によれば、すでに今年度中に各学校は『特色ある高校づくりプラン(特色プラン)』計画を策定しなければならない。年度途中にこのような重大な内容のものを出させるとういのは、無謀である。また、新カリキュラムがやっと実行に移されたばかりの時期に、このような計画をつくらせようとするのは、凡そ正常な感覚を具えている人の提案とは思えない。まして、来年度には、実施計画を作成し、PRまで始めるとあっては、まったく言語道断と言わざるを得ない。そして、再来年度には実施という計画である。予算的裏付けもないまま、計画だけを押し進めようとするのはまったく無責任な姿勢である。そして、この『特色』づくりが進まなければ、今回の入選『改善案』は意味を失うのである。

  5. 障害を持つ生徒、日本語以外の言語を母語とする生徒への配慮
     入選制度の『改善案』であれば、当然位置づけられるべき項目である。しかし、この項目は存在しない。この点には、まったく触れていない。軽視しているのか、考える意思がないのかは不明である。



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高総検レポート No 18

1994年8月31日発行

「特色ある高校づくり」を拡大、推進するための「入試改革(大綱)」

 1994年7月18日、県教委は、「神奈川県公立高等学校入学者選抜制度改正大綱」(以下「大綱」と略す)を発表した。5月19日の「中間報告」と比べると、専門コース以外の普通科への推薦制については「今後検討」とされ、また、選考IIにあった同科への傾斜配点・使用教科数の弾力化などについては撤回されたが、最も批判の集中した複数希望制については、そのまま盛り込まれている。そして、「特色づくり」についてはさらに踏み込んだ形で提起され、「特色ある高校づくり」を拡大、推進するために「特色ある入試」で押し進めようとする入試制度の「多様化・多元化」の最大のねらいが、より一層色濃く現れている。ここでは、大綱にある「高等学校の特色づくりについて」を中心に検討し、「特色づくり」の持つ問題点を述べてみたい。

[1]学校教育法41条と「特色づくり」は相反し、矛盾する理念!

 大綱は「特色ある高校づくりの基本的な考え」の中で、学校教育法41条「中学校における教育の基礎の上に、心身の発達に応じて、高等普通教育及び専門教育を施すことを目的とする。」を引き出し、その後で「特色づくり」を奨励している。学校教育法41条の高等学校の目的は、「高等普通教育」と「専門教育」を分断してきた旧制の中等学校を反省・否定し、この両者を施すという二重の目的を持つことに特徴があり、その達成を総合制高校に期待した。この両者が「及ぴ」で結び付けられていることには、このような、新制高校発足時の理念がある。
 しかし、国の教育行政は、1950年代半ばから「社会的要請」「能力・適性」「個性」の名の下に、総合制高校を解体し、普通科と農業科の種別化、新しいタイプの高校、特色づくり、と高校「多様化」政策を展開し、学校教育法41条に定められた高等学校の目的を無視して、高校を制度上も、教育内容上も引き裂いてきた。
 「これまでにも本県では、普通科での専門コースの設置や特色ある教育課程編成、技術革新等に対応した職業科高等学校での学科改編など、教科活動による特色ある高校づくりを進めてきた。」と大綱が述べているように、神奈川県は過去、学校教育法41条を踏みにじって、国の教育行政にひたすら追随してきたのである。
 学校教育法41条と国の教育政策(高校「多様化」政策)は相反し、矛盾するものであるにもかかわらず、この法を引き合いに出して「特色ある高校づくり」を正当化することは大きな間違いであると言わざるを得ない。

[2]入試改革をテコに、すべての公立高校に「特色」を押し付ける!

 大綱は、入学者選抜にあたっては、「専門学科や専門コースについては……その専門性に応じて……、その他の高等学校にあっては、特色ある教科活動に基づく基準により、調査書や学力検査の結果とともに、入学を希望する生徒の能力・適性、興味・関心等を考慮した選考が行われることが望ましい。」としている。入試選抜制度と直接的に結び付く「特色」は、「特色ある教科活動に基づく」ものとし、その具体的内容として、「(1)専門学科、(2)専門コース、(3)総合学科、(4)類型の設置、(5)選択幅の拡大、(6)学校間連携」を例示している。
(この大綱の段階では、教科外活動−特別活動・部活動−による特色づくりは、入試選抜制度との関連が述べられていない。しかし、9月26日に各学校に通知・依頼した「魅力と特色ある高校づくりプラン」の作成マニュアルには教科外活動に基づく選考を例示し、これを認めている。)
 しかし、「(5)選択幅の拡大」によって豊富な選択科目を配置することは、すべての学校に保障され、条件整備が成されなければならないものであり、「特色」の一つに矮小化されるようなものではない。「(3)総合学科」については、臨教審・第14期中教審の答申が示した第3の学科として学科制度の「多様化」を目論むもので、このような所で例示されるような簡単な制度ではない。(4)(6)などの制度に至っては一体どの様に選考に結び付けるというのだろうか。
 そして、これらの制度はすべて、高校「多様化」政策を進める臨教審・第14期中教審の答申が提起してきたものである。国の教育行政に追随しようとする県教委は、各制度が教科活動に関わるものとみて、入試選抜に使われる「特色」を、大綱では「教科活動に基づく」ものとし、入試改革をテコにこれらの制度(「特色」)を強引に押し付けようとしているのである。
 また、「特色」と入試選抜を結び付けることは、高校の「特色」に合わない中学生を排除することにつながるのである。地域の中学生を「特色」によって排除することになれば「地域に根ざす高校」など根底から成り立たなくなるのではないだろうか。
 「ふれあい教育」「子どもを中心に据えて考えることが必要」などの甘い言葉が「大綱の制度にあたって」で述べられているが、県教委の最大の関心事は、「多様化」政策を進め、いかに文部省に認めて(ホメテ)もらうかということであり、子どもや県民の願いには無関心であると言わざるを得ない。

[3]「特色」は自由に出せない!

 さらに、各高等学校のそれぞれの「特色」を、「他の高等学校とは異なる学校独自のものとして」設定するよう述べている。これは、もし各校が検討して「特色」を決め、県教委に届けても、他校との関係から認められないことがあるということである。あげくの果てに「お宅の高校は〇〇を特色にするは無理でしょう」とか、「お宅の高校の特色は〇○などが妥当でしょう」などと、教育課程の編正に県教委が介入してくることになるであろう。過去においても、「個性化推進事業」(1977〜1986)における個性化推進校の「個性」は、同―学区内に同じものがある場合は認められなかった。この「特色」も同じような手段で「推進」されていくことになるではないだろうか。

[4]「特色づくり」は学校間格差を拡大させる!

 大綱は、各学校ごとの特色に合わせた選考を求めているが、評価尺度を「多様化」することで、同一の尺度で高校どうしを比較しにくくさせ、学校間格差の実態を「個性」とか「特色」という言葉にスリカエ、覆い隠そうとすることも入試制度の「多様化・多元化」のねらいである。
 しかし、各学校が「特色」を持ったところで、学校間格差の解消につながらないどころか、「〇〇の特色よりも△△の特色の方が上」というように「特色」間に格差が生じてくることは必至で、特色の数だけ「学校間格差」を拡大させることしかならない。
 さらに、大綱の中で現在「特色ある高校」とされている専門学科・専門コースでは、学区がはずされているように、「特色づくり」は、学区の拡大や学区をはずすことをねらっている。学校間格差を解消するための必要条件となる学区の縮小は、「特色づくり」によって否定されることになるのである。
 高校教育の多くの問題点が、現在の入試制度がもたらした学校間格差にあることは明らかである。この学校間格差の解消は、学区の縮小、希望者全入という抜本的な入試制度改革によってのみなされ得るのであり、「特色づくり」の拡大は、学校間格差の拡大にしかならず、高校教育が抱えるさまざまな問題をより―層、複雑化・肥大化させることになるであろう。

[5]「特色づくり」は不本意入学者の問題を一層深刻化させる!

 今回の入試改革は、複数希望制により第1希望を入学定員の80%に押さえるなど、入りたい学校に入学しにくくさせている以上、現在よりも増して不本意入学者が増大するではないだろうか。
 そして、入学した学校の「特色」が彼等にとって不向きなものであれば、学校の「特色づくりがさらに進む」ことは、同時に不本意入学者を苦しめ、排除する方向に働いてしまう危険性を持っているのである。不本意入学者の問題は、「特色づくり」によって現在よりも増して深刻な問題になっていくであろう。
 十人十色、千差万別の生徒の「個性」を、各学校の定員が定められた「特色」に「選抜」によってあてはめようとすることが、このような問題を引き起こすことになるのである。

[6]「特色づくり」は能力主義に基づく早期選別をねらう!

 たとえ、中学生が自分にあった高校に入学したとしても、高校入学後に、興味・関心が変化することが充分有り得るであろう。興味・関心の変化は、成長過程の中で保障され、尊重されなければならない。
 しかし、「多様な個性を生かす」ための「特色づくり」は、これを否定し、高校入学時に、先々変化し得る個性、興味、関心、進路を、固定された学校の「特色」に閉じ込め、将来の展望を狭く限定しようというものである。つまり「特色づくり」は、「個性」という名の能力差を、能力主義に基づいて早期選別をする役割を担うものなのである。
 子供の発達段階を考えれば、15歳までに自分の個性を判断し進路を決めることが一般的に可能であるはずがない。本来、高校は自分の個性を見つけ出し、開花させる場ではないだろうか。そのために、国民としての共通に必要な基礎教養をしっかりと身につけ、その上でさらに深く学びたいものを見つけ、選択科目(選び直しのきく自由な選択)により個性の開花を目指していくべきではないだろうか。教育行政の仕事は、そのための各学校の自主的な教育課程編成を人的・物的・財政的に援護していく事であり、高校に「特色」を押し付けて、その中に、生徒を送り込んでいくことではないのである。

[7]「特色づくり」は、学校間競争を巻き起こし、"安上がり"教育を促す!

 大綱は、この入試改革によって、すべての公立高校に「特色」を持たせようとしているが、「特色」を持たされた各学校の将来はどの様になっていくのだろうか。たとえば、ある学校が、教育課程の編成に工夫をし、「実践例」にある「選択幅の拡大」を特色として「3年次にすべての教科で、選択科目を計60講座開設」した場合はどうなるだろうか。初年度は、ある程度の人的・物的な条件整備が県教委から支援されたとしても、数年後には、財政難を理由にその支援が低下し、選択科目は十分に開設できなくなるということが、起きてくるのではないだろうか。(現在ある専門コースを持つ学校でも年々条件整備が低下し、校内でのやりくりに苦労している状況が少なくない。"専門コースを返上したい"と言う声さえ聞かれている。)  このとき、初年度に示した「特色」は、もはや中学生を引きつけるだけの魅力を失ってしまうであろう。しかし、このような「特色」の衰弱化を放置することによって定員割れ(不人気高校と呼ばれること)や偏差値輪切りのランクダウンを恐れる学校現場では、この「特色」を維持しようと、懸命な内部努力(授業時間数の増加や専門外の教科担当などの過酷な勤務)に追い込まれるのではないだろうか。
 こうして、他校の「特色」に負けまいために、また「よい子」を集めるために、学校間の競争に巻き込まれてしまうのである。
 県教委は、条件整備を怠っても、このように各学校が努力するハズとして、不十分な条件整備を放置するであろう。
 大綱の「留意点」にある「特色づくりが、将来にわたって継続されるよう配慮すること」とは、一度示した「特色」はたとえ条件整備が不十分になったとしても、各学校が努力して、継続することを求めているのである。
 「特色づくり」によって、学校間の競争をあおることが、最も効率的で安上がりになるわけで、"安上がり"教育が「特色づくり」のねらいにもなっているのである。



高総検レポート No 19

1994年8月31日発行

あらたな『適格者主義』へ

―入選大綱批判への視点―

 神奈川県教育委員会は昨年末に出された高課研二次答申を受けて、この5月に『中間報告』を発表しました。その内容はすでに知られているとおり、複数希望制の導入はじめ、すべての学科にわたる推薦制、傾斜配点、受験教科数の弾力化導入等、さまざまな問題を含むものでした。その後、『中間報告』に対する県内各方面からの疑問と批判が強まり、県教育委員会も多くの部分について見直しをせざるを得なくなりました。そのため『本報告』つまり『大綱』は『中間報告』に比べるならば、多少とも改善されたものになったと言えるかもしれません。しかし、複数希望制をはじめとして、『中間報告』において問題とされた多くの制度が、『大綱』の中にも残りつづけています。今後も一層の改善に向けた、強力な取り組みが求められています。今後の運動展開の一助にするため、以下において、『大綱』を批判する上でのいくつかの視点を整理してみます。

1.『適格者主義』
 93年初めに『高等学校教育の改革の推進に関する会議』は文部省に最終報告を提出しました。この報告は、全国における『改革』の状況を分析した上で、今後の『公立高等学校入学者選抜の改善方策』を提起しています。その中で、『改善』の基本姿勢は次のように明らかにされています。「高等学校入学者選抜は、昭和59年の初等中等教育局長通知にあるとおり『各高等学校、学科等の特色に配慮しつつ、その教育を受けるに足る能力・適性等を判定して行うものと』と考える」。『その教育を受けるに足る・・・』あからさまな『適格者主義』の表明です。しかし、これまでとはやや違った響きをもっています。いままで『適格者主義』という言葉は、一般的には『高校で学ぶのに適合した生徒の選抜』という意味でつかわれてきました。今回は、高校全体について学ぶことの『適格性』は問うていません。問題にしているのは、『各高等学校、学科等』についての『適格性』です。『高校一般への進学は認める』、しかし『各高校ごとに適格者を選抜しなさい』。いま『適格者主義』はこれまでとかたちを変えて現れてきたと言えます。
 今回の神奈川県の『大綱』においても、この『適格者主義』の姿勢は貫かれています。前書きにあたる『大綱の制定にあたって』の中には、「生徒一人ひとりの個性や能力、適性を多面的にとらえ、調査書の評定や学力検査などのいわゆる数値のみではなく、生徒の特性や長所に注目した選抜制度とすること」というように書かれています。そして他方では『特色ある高校づくり』が強調されています。つまり、『特色ある高校』がその『特色』にあった生徒を的確に選抜することが今回の『大綱』の基本姿勢となっています。たしかに『数値のみではなく』という言葉は、一見もっともらしく響きます。しかし、数値『のみ』ではなく、その他の視点も含めた上で『多面的』に生徒の『適格性』を正確に判断しなさい。つまり、これまで以上に正確に『適格性』をとらえ選抜しなさい。『大綱』からはこうした言葉しか聞こえてきません。

2.『学校の個性』か『生徒の個性』か
 もちろん、生徒の個性を伸ばす教育は、中等教育の最大の課題といえるでしょう。しかし、成長過程にあり、個性形成の途上にある十代の生徒を一律に『特色ある学校』に振り分けようとすることは、あまりにも乱暴といわざるを得ません。どのように『多面的』に生徒を測ってみても、その『適格性』を確実に把握することはできません。また、成長し、変化しつづける生徒の『適格性』を固定して捉えようとすることは、あまりにも無理があります。『大綱』を書いた人々は『成長過程にあることを考慮して』と言うでしょう。しかし、特定の『特色ある学校』に『適合した生徒』を選抜しなければならないのです。当然、受験の時点で順位づけをしなければなりません。成長の行き着く先、将来を見通した判断などは、無理があるばかりではなく、憶測にもとづいた、不確かな選抜となってしまうでしょう。
 もし、個々の生徒の個性を伸ばそうとするならば、その多様な発達過程にあわせて、中等教育全体の中で、個性を伸ばそうとする教育課程が組まれるべきです。学校が個性を持ち、その個性にあわせて生徒を選抜するのではなく、それこそ多様な個性を、多様な発達過程を経て形成しつつある生徒を受け入れることが大切なのではないでしょうか。多様な個性を持つ生徒を振り分けるということは、ある個性を持つある生徒を受け入れ、他の個性を持つ者を排除することになってしまいます。『学校の個性』を固定化することは、その学校内部を画一化し、生徒の多様性を押しつぶしてしまう結果に終わってしまいます。大事なのは『学校の個性』ではなく『生徒の個性』であるべきです。

3.多段階選抜
 この『適格者の選抜』と並んで、あるいは密接に結び付けて、『高等学校教育の改革の推進に関する会議』は次のような選抜方法を推奨しています。「生徒が、その希望に応じて高等学校を選択できる余地は大きいことが望ましい。また、受験機会が複数になることにより、一回のみの受験によってもたらされる心理的圧迫感を軽減することができる」。定員を区分し、何回かに分けて選抜をおこなう方式を多段階選抜とよんでいますが、はたしてこの方法が『心理的圧迫感を軽減することができる』でしょうか。考えるまでもなく、定員を区分することにより、各段階の選抜の枠はせばまります。もちろん、各段階ごとの倍率は上昇します。当然、各段階ごとの選抜に対する『心理的圧迫感』は増大するはずです。これは、だれもが気づくところでしょう。どうして『心理的圧迫感を軽減することができる』と言えるのか、まったく理解に苦しみます。
 神奈川県においても、『大綱』は選抜方法を『学力検査等に基づく選抜』と『推薦に基づく選抜』に区分しています。そして『学力検査に基づく選抜』は第一希望と第二希望の枠に区分され、さらに第一希望の枠の中70%は学力検査と調査書の評定により選考し、残り30%は『調査書の評定以外の記載事項』も含めて総合的に選考されることになっています。まさに多段階に分かれた選抜です。神奈川県の公立高校全体の倍率は94年入試においては1.1倍に過ぎませんでした。しかし、段階を分けることにより、たとえば第一希望の枠が定員の80%になってしまったならば、倍率はほぼ1.4倍に上がります。もちろん全体の枠が縮小したのではないのだから、最終的には同じ倍率になるはずだ。とも言えるかもしれません。しかし、それならばなおさら、なぜ全ての枠を受検生に開かないのでしょうか。なぜ、あえて各段階で不合格者が出なければならないのでしょうか。しかも、第二希望は第一希望校に不合格になった受験生を選考対象にします。ですから、その倍率も受験生には分かりません。受験生の不安はこの点でもますます高まることになるでしょう。受験生の不安を煽って何を得ようとしているのか、まったく理解できません。
 また、第二希望の枠をわざわざ確保することが、第一希望の枠を縮小する結果になるのは当たり前です。そうなれば、ある高校を第一希望として選んだ受験生の一部がはじき出されることになります。それがどうして『生徒の希望を生かす』ことになるのでしょうか。この点を見ても、複数希望制に受験生の悩みを解決する何の力もないことは明らかでしょう。

4.推薦制
 推薦制度もこの多段階選抜の中に位置づけることができます。『推薦制をやればやる気のある生徒が集まるはずだ』。『推薦制をやれば、たんなる学力だけではなく、やる気や適性を配慮した選抜ができるはずだ』。こういう声が聞こえます。一見、推薦制はたいへんよい思いつきのように見えるでしょう。しかし、定員が区分され競争が煽られるなかで受験生は、より早く、より確実な進学への保障をえようとします。多くの中学生は、まず推薦を受けようとするでしょう。それにより、必ずしも本来の希望ではない入学、不本意入学が多発するおそれが、ここにもあります。あるいは、本来の希望の学校への推薦を受けたとしても、かなりの高倍率になることにより、せっかく推薦を受けたにもかかわらず希望がかなえられない結果になる可能性も高くなります。
 もちろん、『推薦にあたっては、本人の適性、意欲によく配慮して』と言うでしょう。しかし、その通りにおこなわれるならばなおさら、不合格者にとっては納得のいかない結果になるでしょう。『君は意欲が足りなかった』『君は適性に欠けていた』と言われて、せっかく推薦を受けながら不合格になった受験生が納得できるでしょうか。
 そして、推薦制を取り入れた場合の最大の問題は、高校入試が中学校3年間すべてに影を落としてしまうということです。3年後の受験が不安であればあるほど、中学生は1年生の時から『推薦を受けられるように努力すること』を強いられます。平素の学習でよい評価を残すこと、特別活動、ボランティア活動に励むこと、さまざまな努力を強いられます。『推薦を受けなくても他の道があるから大丈夫だ』といわれて、中学生が安心するでしょうか。

5.選抜方法の多様化
 93年に各都道府県教育委員会あてに出された文部省通知は、選抜方法について、『各学校・学科・コースごとの特色に応じて多様であることが望ましいこと』『同一の学校・学科の中でも入学定員を区分して複数の尺度に基づく異なる選抜方法を実施することにも配慮すること』と『多様な』方法をとることを求めています。
 『学校・学科・コースごとの特色に応じ』ながら、同時に『学校・学科・コースの定員を区分して』異なった入選方法の実施を推奨すること自体、すでに矛盾しています。この矛盾は置くとしても、『多様な選抜方法』にはさまざまな問題がつきまとっています。多様化を主張するひとたちは、次のように言います。「選抜方法が多様になれば、いわゆる偏差値による学校間の序列づけも是正されるはずだ」と。物差しが多様であれば、長さは分からなくなるだろう。ずいぶん乱暴な発想です。ことはそれほどかんたんではありません。たしかに、偏差値が『格差』を測る尺度になっていることは言えるかもしれません。しかし、物差しが長さの違いを生みだしたのではないと同様、偏差値が『学校間格差』を生みだしたのではないのです。『学校間格差』は、社会全体のしくみの中に根をもっています。尺度をどのように多様化しようとも、今度は尺度そのものに格差が生まれます。結局『格差』はなくなるどころか、より鮮明なかたちで現れることになるでしょう。『格差』を無くそうとするならば、選抜そのものを無くす、あるいは限りなく選抜の役割を薄めるしかないでしょう。
 今回の神奈川の『大綱』においても、『それぞれの学科やコースをはじめ、各高等学校の教育目標等に基づいた学校の独自性か生かされるよう、特色ある教育課程や教育活動などの教科活動に基づいた選考か行われることか望ましい』とされています。あきらかに文部省の通知に素直にのった方向づけです。もし、このとおりにことが進んだ場合には、神奈川県内の高校間の『格差』はなくなるどころか、『特色』そのものが『序列づけられる』ことにより、『格差』はより明確に、より固定的に、より細分化されて再生産されることになるでしょう。そして、受験生も『多様な尺度』に合わせて細かに分けられ、類型化され、『序列づけられ』ていくことでしょう。

むすび ―公立高校の役割―
 神奈川県では1973年からいわゆる『百校計画』がすすめられました。公立高校の定員を広げることにより、増加する高校進学希望者を可能な限り受け入れる体制をつくってきました。いま、この方向は大きく転換されようとしています。高校自体を『特色ある学校』として振り分け、そして各学校に合った生徒を選別しようとする方向へと進もうとしています。この新たな『適格者主義』をいかにして乗り越え、すべての生徒に中等教育を保障していく方向を見つけ出すか、これがいまわれわれに与えられた最大の課題ではないでしょうか。


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高総検レポート No 20

1994年9月6日発行

高校入試制度はどう変わる

―「神奈川県公立高等学校入学者選抜制度改正大綱」の概要―

1.はじめに

 神奈川の高校入試が変わります。県教育委員会は,去る7月18日に現在の中学1年生が高校学験する97年度から本格実施される,「神奈川県公立高等学校入学者選抜制度改正大綱」(以下,「大綱」と略す)を発表しました。これによって,これまで「神奈川方式」と呼ばれていた入試制度が大きく変わり,「推薦」,「複数志願制」,「多段階選抜」が導入されることとなりました。
 今回の「大綱」が示されるまでの過程には,県教育委員会の諮問機関であった高課研の「報告」と,その報告を受けて県教委が策定していた「入試選抜制度の改善案」の「中間報告」がありました。わたしたちは,高課研の「報告」,そして県教委の「中間報告」が出された段階で,「入試選抜制度の改善案」が「学校間格差」を解消・是正するどころか,むしろ一層激化させることになるなどの問題点を指摘してきました。
 今回示された「大綱」は,新しい入選制度の大枠を示したものです。「中間報告」での矛盾雷点や、中学教育や高校教育を破壊しかねない問題点は基本的に残り続けています。

「中間報告」と「大綱」の比較

  公立高等学校入学者選抜制度改善案(中間報告) 公立高等学校入学者選抜制度改正大綱(大綱)



普通科 : 学校の特色に応じて実施できる。 定員は10%程度。
専門コース : その特色に応じて実施できる。 定員は10%程度。
専門学科 : 全ての学科において実施する。 定員は30%以内。
普通科:今後の課題として, 引き続き検討する。
専門コース:その特色に応じて実施できる。定員は10%とする。専門学科:全ての学科において実施する。定員は30%以内。




第2希望校は,第1希望校と同一校,または異なる学校・学科・専門コースとすることができるものとする。 同一の高等学校を第1希望および第2希望とすることができるものとする。
調






〇各教科の学習の記録(評定・所見等)
〇特別活動の記録
〇行動の記録と所見
〇指導上参考となる諸事項
〇特記事項(記入対象者数は,20%程度)
〇各教科の学習の記録(評定・学習状況)
〇特別活動等の記録と所見
〇行動の記録と所見
〇参考事項
〇特記事項(記載対象者は,20%以内)
※「学習検査」,「出欠の記録」及び「健康診断の記録」を削除。



「普通科」は,国語・社会・数学・理科・外国語の5教科
「専門コース・専門学科」は,学校の特色に応じて3教科から5教科の範囲内で学校が選択
「普通科」は,国語・社会・数学・理科・外国語の5教科
「専門コース・専門学科」は, その専門性に応じて3教科から5教科の範囲で学校が選択



第1希望の選考(入学定員の80%)
 選考I:調査書と学力検査による選考。
  調査書と学力検査の比率は,6:4、5:5
 選考II:調査書と学力検査及び調査書の評定以外の記載事項による選考。
  調査書と学力検査の比率は,6:4、5:5、4:6
第2希望の選考(入学定員の20%)
 調査書と学力検査及び調査書の評定以外の記載事項による選考。
 調査書と学力検査の比率は,7:3、6:4、5:5
調査書の評定と学力検査の比率は,6:4とする。
第1希望の選考(入学定員の80%)
 第1希望の募集人員の70%を調査書の評定と学力検査の結果に基づき合格者を 決定し,残り30%の合格者を調査書の評定,学力検査の結果及び調査書の評定 以外の記載事項を活用して総合的に選考し,決定する。
第2希望の選考(入学者定員の20%)
 調査書の評定,学力検査の結果及び調査書の評定以外の記載事項を活用して総合的に選考し,合格者を決定する。




学区外志願枠に,隣接学区枠の扱いを新たに設ける。 学区については,神奈川県公立高等学校通学区域規則による。説明で,普通科において,学区外限度枠の扱いの中に,隣接学区の扱いを設けることについては,今後の学区外へ志願状況を見ながら検討することとします。

2.「大綱」の概要

<推薦制>
 新しい入試選抜制度の特徴の一つは,「推薦制」の導入です。「大綱」に示されたところでは,「推薦制」は,専門学科においては定員の30%以内で実施するものとされ,専門コースについては,コースの定員のおおむね10%で実施することができるとなっています。普通科の推薦については,「今後の課題として,引き続き検討する」ということで当面導入は見合わされることになりました。
 推薦は1月に実施され,選抜は,調査書,中学校校長の推薦書及び面接の結果で行われます。

<複数志願制>
 「生徒の興味・関心,進路希望の多様なニーズに応じ,一人ひとりの個性と希望を生かせる学校選択を可能にするため」,第1希望及び第2希望の2校を志願できるとしています。二つの希望の出し方については,「同一の高等学校を第1希望及ぴ第2希望とすることができる」と規定されているだけで,「中間報告」での「異なる学校,専門コース,専門学科」でもよいとする表現はありません。
 募集定員については,第1希望が入学定員の80%とし,第2希望が20%とするとなっています。

<学力検査>
 「普通科」は,国語・社会・数学・理科・外国語の5教科で実施されますが,「専門コース・専門学科」については,その専門性に応じて,3教科から5教科の範囲内で,各高等学校で選択できると規定され,学力検査教科数の弾力化が導入されています。 また,学力検査の配点については,専門コースと専門学科については,「その専門性に応じて,特定の教科に傾斜配点をすることができる」とし,「傾斜配点」を導入しています。

3.選考資料と選考方法

<選抜資料>
 選抜の資料として,調査書の評定と学力検査の結果は6:4の比率で使われます。
 中学校の作成する調査書は,評定は、第2学年の5段階9教科の評定の合計と第3学年の5段階9教科の評定を2倍したものの合計を使います。評定以外の記載事項は,(1)学習状況(生徒の顕著な特性と長所を記載),(2)特別活動の記録と所見,(3)行動の記録と所見,(4)参考事項(生徒の特徴,特技等を記載とありますが,(3)の「行動の記録と所見」が校内活動であるのに対して,(4)の「参考事項」は,校外活動が対象となるようです)。(5)特記事項(従来は15%以内でしたが,20%以内と拡大されました)。なお今回,「学習検査(ア・テスト)」,と共に「出欠の記録」,そして「健康診断の記録」が削除されることになりました。

<選考方法>
「普通科の選抜方法」

 入学定員の80%に当たる「第1希望」の選考は,先ず第1希望の「70%」の選考を「調査書の評定」と「学力検査の結果」に基づいて行い,残り「30%」の選考を「調査書の評定」と「学力検査の結果」さらに「調査書の評定以外の記載事項」を活用して総合的に選考して,合格者を決定する。
 「第2希望」の選考は,第1希望の「30%」の選考と同様に,「調査書の評定」と「学力検査の結果」さらに「調査書の評定以外の記載事項」を活用して総合的に選考して,合格者を決定するとなっています。
「専門コースと専門学科の選抜方法」
 専門コースと専門学科の選抜については,学力検査実施教科数の弾力化や傾斜配点を実施するにしても,第1希望・第2希望ともに,「調査書の評定」と「学力検査の結果」さらに「調査書の評定以外の記載事項」を活用して総合的に選考し,合格者を決定するとなっています。
「定時制の選考方法」
 定時制については,学力検査に基づく選抜のみで推薦制はなく,志願できる学校も1校とされています。実施される学力検査は,3教科から5教科の範囲で各学校が選択し,「面接」についてはすべて実施されますが,「実技検査」については,必要に応じて実施することができるとなっています。
 また,新しく「社会人」の項目があります。学力検査の代りに作文で受検できるとありますが,「社会人」の規定については引き続き検討するとなっています。

 基本的な選考方法は,普通科の第1希望の70%の選考以外は,調査書の評定以外の記載事項をも活用した,総合的な選考ということになります。そして,選考方法については予め公表するとされています。

<志願変更>
 志願変更については,これまで同一学科内での変更を「いずれの学校,学科または専門コースへも」することができるとなっています。さらに解説の中では,従来「学区内」に限っていたものを,「学区内外を問わず」とされていることには注意する必要があるでしょう。

4.移行措置
 新しい入選制度ヘの移行を現在の中学生の学年別に説明しておきます。
(1) 現在の中学3年生の高校受験では,普通科・専門コースにおいては現行通り,専門学科(職業科)については 「推薦制」が実施できるとされています。
(2) 現在の中学2年生の高校受験では,ア・テストの割合を1割減じて,ア・テスト:調査書の評定:学力検査の 割合は1:5:4となり、専門コースと専門学科で「推薦制」が実施できるとされています。
(3) 神奈川の新しい高校入試は現在の中学1年生が高校を受験する97年度から本格実施される事になります。

5.「中間報告」後のわたしたちの対応
 高課研の第2次報告を受けて県教育委員会は,入選制度の改善案を策定する過程で,「中間報告」を発表しました。中間報告では,高課研での討議や報告を逸脱する内容のものもありました。特に「推薦入学制」については,高課研報告では,慎重に検討する必要を示しているにも関わらず,普通科にも,「特色に応じて,実施できる」と定めました。また,学区拡大につながる学区外受検で「隣接学区枠」を具体的に示したり,学力検査教科数の弾力化や傾斜配点など選抜の多様化を押し進める提案がなされたり,全国的に類例のない「複数志願制」等を持ち出すなど,高校教育のみならず,中学校教育まで破壊する高校入試選抜を策定してきました。
 高校の学校間格差の拡大につながる「入選制度の改悪」に対して,私たちは,中学校教員,父母県民とも協力して,改悪阻止に向けてへの運動を展開しました。
6月7日(火)
6月18日(土)
6月22日(水)
7月6日(水)
教育長交渉:神教協対応(神教協は神教組と神高教の連合体)
長後分会での集会:フロアーには湘南教組から多数参加
教育シンポジウム(神奈川公会堂):教育研究所対応
対県交渉:神高教本部と現場代表
 特に7月6日の対県交渉では,これまでわたしたちが指摘してきた,「推薦制」の問題点や,「複数志願制」が,中学生の進学機会を狭めるものであることや,入選業務の煩雑さを増長し,学年末の学校現場を混乱に陥れる事などを強く主張する場となったことを報告しておきます。
 高総検としても,高課研の報告や県教委の「中間報告」が出された段階からそれらの報告内容を分析し,職場討議資料(94-07,94-12)や高総検レポート(No16,No17)としてまとめました。神高教本部は,これら高総検の分析結果をも含めて6月27日付けで教育長(木下正雄氏)に対し申し入れを行っています。
 各分会にあっても,県教委の「中間報告」に対する抗議のための職場集会が持たれ,職場決議を挙げるとともに,校長に対しても県教委案に反対する職場の意志を校長として意見具申するように交渉を持ちました。
 6月24日付けの神奈川新聞で報じられた通り,県教委の作成した「中間報告」が,高課研の報告を逸脱するものであることを,高課研委員でもあった前神高教副委員長の中野渡氏が,同じく高課研委員であった横浜市立高等学校教職員組合(浜高教)委員長の飯田洋氏と共に県教委に対し申し入れを行いました。
 こうした様々な運動を経て,今回の「大綱」が出されました。しかし県教委は,重要な事柄を先送りしているだけです。今後の運動が一層重要になっています。







公立高等学校入学者選抜制度のあり方について


―第2次報告―




平成5年12月





神奈川県高等学校教育課題研究協議会







1 研究協議の経過

  •  神奈川県高等学校教育課題研究協議会(略称:高課研)は、高等学校教育の課題について総合的協議を行い、具体的な教育行政施策の立案に資するため、平成3年10月設置された。
  •  本協議会における主な協議事項は、「高等学校(全日制)への進学機会に関すること」及び「公立高等学校入学選抜制度に関すること」についての2つであり、本協議会は、運営委員会を設置して、これらの協議事項について研究協議を重ねてきた。
  •  平成5年4月に「高等学校(全日制)への進学機会に関すること」について、それまでの研究協議の結果を「神奈川県高等学校教育課題研究協議会―第1次報告―」としてとりまとめ、県教育委員会教育長に報告した。
  •  さらに、もう一つの協議事項である「公立高等学校入学者選抜制度に関すること」については、平成5年4月以降も引き続き論議を重ね、神奈川県公立高等学校入学者選抜制度検討協議会(略称:入選検 昭和60年5月〜63年3月 最終報告:昭和63年1月)、神奈川県後期中等教育検討協議会(略称:後中検 昭和63年12月〜平成3年5月 第1次報告:平成元年3月、第2次報告:平成3年5月)及び神奈川県産業教育審議会(略称:県産審 報告:平成4年3月)等、本県のこれまでの検討協議の成果を踏まえるとともに、幅広い県民の参加を得て県下2会場で開催された高等学校教育フォーラム及び3ヶ月半にわたり実施された手紙による意見募集に寄せられた県民の意見、要望、提案等を参考にしながら、さまざまな角度から研究協議を進めてきた。
  •  この間、第14期中央教育審議会答申をうけて、国が設置した高等学校教育の改革の推進に関する会議から出された、高等学校入学者選抜の改善に関する「第3次報告」(平成5年1月)や「文部事務次官通知」(平成5年2月)、さらにこれに伴う全国の状況等も参考にしながら論議を進めた。
  •  今回「神奈川県高等学校教育課題研究協議会―第2次報告―」として、公立高等学校入学者選抜制度のあり方についてのこれまでの研究協議の結果を次のようにとりまとめた。

2 入学者選抜をめぐる現状と課題

(1)高等学校教育について
  •  本県においては、高度経済成長という時代を背景として、人口も増加し、あわせて中学校卒業者の高等学校への進学率も急激に上昇し、高等学校の生徒急増期を迎えた。そのため、高校100校新設計画を推進して、県民の期待に応えながら、高等学校は、国民的な教育機関として、その役割を果たしてきた。
     こうした中で、高度経済成長期も終わり、情報化、国際化、人口の成熟化等、生徒や高等学校を取り巻く社会環境も著しく変化し、社会的にもより多彩な人材が求められるようになってきている。これにともなって高等学校の教育内容についても、生徒一人ひとりの能力、適性、興味・関心、進路希望等、個々の生徒が、社会の変化等に柔軟に対応しながら、主体的に生活していくために必要な基礎的・基本的な知識・技術を身につけるとともに、それぞれの個性や才能を豊かに伸ばしていけるようにすることが一層求められるようになってきている。
  •  一方、昭和40年代後半から続いてきた公立中学校の卒業者の増加は、平成元年度以降減少に転じ、平成2年度からは毎年数千人規模の急減状態に入り、今後もこうした状況が続くことが予想されている。
     その結果、高等学校ではその施設等をより効率的に活用することが可能となってきている。
  •  こうした状況を踏まえて、高等学校においては、教育内容、教育指導、教育条件のより一層の改善・充実を図りながら、多種多様な高等学校教育を用意し、多様な生徒がそれぞれの個性に応じて選択ができるように、教育の質的充実。
  •  本県ではこれまで、生徒の個性と創造性の伸長を目指し、より多様で個性的な教育を進めることを目的として、普通科の高等学校において、科目の選択幅の拡大や既設の高等学校への専門コースの設置と全県的拡大等を図るとともに、単位制による新構想高等学校設置の準備を進めるなど、特色ある高等学校づくりを推進してきた。
     また、職業科の高等学校においては、技術革新、情報化、国際化等の進展に伴う社会の変化に柔軟に対応していくことができる能力や態度を育成することを目的として、基幹学科への統合を中心とした学科の改編と適正な配置を進め、職業教育の改善・充実を図ってきた。
     さらに、平成5年度からは教科外活動における各高等学校の特色ある取組みを支援するなど、高等学校の特色づくりの一層の推進を図っている。
  •  しかしながら一方で、公立高等学校においては、学校の歴史や伝統、地域社会や地域文化とのかかわり、その学校独自の教育課程の編成や教科外の活動等、さまざまな特色があるにもかかわらず、それらが中学校や地域社会など学校の外にはっきりみえてこないという指摘がある。こうした指摘に対して、さまざまな特色をもつそれぞれの高等学校が、どのような生徒を求め、また、豊かな個性をもつ人材、社会の求める多彩な人材をどのように育成していくのかという視点をもって、自らの教育活動のあり方を厳しく点検・評価し、改善を加え、それを中学生や保護者、あるいは生徒の進路指導にあたる中学校に対して、積極的に知らせる努力をする必要がある。
     あわせて、それぞれの高等学校は、現在もっている特色をさらに発展させて、社会や生徒のニーズに応じた特色づくり、個性づくりをより一層推進し、地域社会の理解を得られるように務めていくことが求められている。

(2)公立高等学校の入学者選抜について
  •  現在の本県の公立高等学校の入学者選抜は、中学校における3年間を通した学習の成果が反映されているという評価もあり、定着もしてきている。とくに、中学校卒業者数の急増期には、できるだけ中学浪人を出さないで、進学機会を与えていく仕組みとして、大きな役割を果たしてきた。
  •  しかしながら、高等学校における中途退学者の増加など、さまざまな問題も顕在化するとともに、社会経済状況も変化してきていることから、前述の高等学校の特色づくりとあわせ、公立高等学校への入学者選抜制度についても、このような変化に対応していく必要がある。
  •  これまでの選抜制度の中では、いずれの高等学校においても、学習の記録や学習検査の結果を一律に扱い、また、普通科も専門学科も同一問題の5教科で学力検査を実施する等、一元的・画一的な尺度による選抜方法がとられてきた。
     このため、その尺度が、高等学校の序列をつくる要因の一つともなり、生徒によっては学校に誇りをもてなくなったりすることも出てきている。
     また、一人ひとりの生徒が目的意識や学習意欲をもって、自らの個性に応じた特色ある学校・学科・専門コース等を選ぶ希望をもっていても、その希望の実現を困難にしているという指摘もある。
  •  そこで、高等学校教育の質的な充実を目指して現在進めている個性的で多様な高等学校づくりに対応して、生徒一人ひとりが、その個性に応じて自らの進路希望を積極的に生かすことができるような、一元的・画一的ではない、多様で弾力的な選抜方法を検討することが急務になってきている。

(3)中学校の進路指導について
  •  生徒急増期以来、中学校においては、生徒や保護者の希望を優先しながらも、結果として、いずれかの高等学校に生徒を入れるため、ややもすると偏差値のみに基づく進路指導が行われ、生徒もまた入りたい高等学校より入り易い高等学校を選択する傾向が続いてきた。
     こうした進路指導や高等学校選択が、高等学校への不本意入学の原因ともなり、高等学校側もこれに十分対応しきれないため、高等学校における学校不適応や中途退学の要因の一つになっている等の指摘がなされ、中学校における進路指導のあり方とともに、不本意入学者等に対応する高等学校教育のあり方もまた問われてきた。
  •  現在、生徒一人ひとりの個性や才能を伸していくことが一層重視されるようになってきている中で、高等学校側においても、こうした要請に応えられるような教育条件の一層の整備が可能になってきている。従って、多様な生徒に対応した特色のある高等学校づくりの推進ともあわせて、今後の中学校における進路指導や生徒の高等学校選択のあり方について、問い直していく必要がある。
  •  進路指導は、生徒一人ひとりが将来の生き方を考え、自ら持ち味、興味・関心等を生かした進路を模索し、実現できるよう手助けする教育活動であり、その一環としての望ましい進路選択、高等学校選択がされなければならない。
     そのために、生徒と日常生活を共にしている家庭や、生徒の学習指導及び生活指導等を行っている中学校が、日々の生活の中で、個々の生徒の個性や希望を十分に見極め、高等学校の状況を的確に踏まえつつ、生徒が自己実現を目指して努力できるような高等学校の選択について、適切な助言と指導をすることが本来の姿であり、学習塾や業者テストなどによって点数化された資料に基づく進路指導がなされるようなことがあってはならない。
     従って、中学校と家庭との日常的な連携、中学校と高等学校との緊密な連携などが今まで以上に求められている。

3 公立高等学校入学者選抜制度改善の検討の視点

 入学者選抜制度の改善に当たっては、入学者選抜をめぐる現状や課題、及び、現行制度に対する賛否両論などさまざまな県民の意見や提案等を踏まえるとともに、入学者選抜が中等教育における中学校と高等学校の橋渡しの役割をもっていることを認識し、両者の正常な教育の推進、展開の中で、生徒一人ひとりが、互いの違いを認めあいながら共に生き、人間らしく個性的、主体的に成長していくことを求めた「ふれあい教育」の理念が生かされるよう配慮し、生徒が意欲や希望をもって取り組むことができるように、次のような視点をもって改善の検討をする。

(1)入学者選抜は、中学校作成の調査書と選抜のための学力検査の成績を基本の資料として行い、現行の学習の記録、学習検査、学力検査の3つの資料の扱い等を見直すことが必要である。
 その際、生徒の学習負担が過重になることのないよう配慮しながら、調査書における学習の記録以外の記録を生かしたり、調査書及び学力検査の特定の教科を重視したりするなど、その内容については多様な取扱いを可能にし、生徒の優れた点に着目して、それを積極的にみることができるようにする必要がある。

(2)入学者選抜の方法については、多様な生活に対応した特色ある高等学校づくりや、職業科の学科改編などに応じて、特色ある学校・学科・専門コース等においては、その特色にふさわしい多様で弾力的な選抜方法を考えることにより、生徒一人ひとりが、自分の個性を生かした高等学校選択ができるようにし、また、中学校で培った能力、適正・興味・関心等を入学者選抜に反映させ、生かすことができる必要がある。

(3)特例校措置を解消するとともに、今後、生徒の個性、価値観の多様化などに対応した、高等学校の特色づくりや選抜制度とも関連して、学区外志願及び志願変更の制限等を弾力的に扱い、生徒の希望を生かした高等学校選択ができるようにする必要がある。


4 公立高等学校入学者選抜制度の改善策

(1)選抜資料の見直しについて
ア 調査書について
 中学校における平素の学習状況や特別活動等の記録を示す調査書は、知的学力偏重に陥ることのないように、また、生徒の能力、適性、興味。関心等を多面的にとらえ、生徒個人の優れている点や長所を積極的にみることができるように、現行の「特記事項欄」の趣旨を生かすとともに、中学校の指導要録改訂に対応した「観点別学習状況」の取扱いなどについて検討する必要がある。
 また、中学校生活における3年間の活動の状況や向上が総合的に評価されるよう工夫する必要がある。
 そのうえで、中学校第3学年が、第1学年及び第2学年の学習活動等の継続的累積の上に立った義務教育の最終段階であることや、生徒の心身の発達ならびにそれに伴う変化なども極めて顕著にみられることなどを勘案して、中学校第3学年における資料を十分重視できるよう工夫する必要がある。

イ 学習検査について
 学習検査は、同一問題を県下一斉に行うことにより、その段階における生徒の学習到達度を客観的に評価し、生徒及び教師のその後の学習や指導の改善に生かすという趣旨のもとに、昭和25年以来の長い歴史の中で確立された妥当性・信頼性のある標準検査であり、学習検査後の生徒の学力伸長を図る上で有効かつ適切な手だてとなってきた。
一方、いわゆる「神奈川方式」における学習検査は、その結果を数値化して選抜資料の一つとしてきたことが、中学校における進路指導の際の重要な決め手となっているという指摘がある。
 また、第3学年段階における生徒の興味・関心の持ち方や、学習検査の結果を生かした第3学年での学力伸長を考えあわせたとき、第2学年で実施する学習検査を選抜資料として位置づけることにはさまざまな意見もあり、さらに保護者の転勤等に伴って本県の高等学校を受験しようとする他県出身者にとってはなじみがなく、公平性という点からも問題があるという声も多い。
 そこで、学習検査の結果については、選抜資料としての扱いはせず、日常の生徒の学習や教師の指導方法の改善に生かす材料としての活用を図ることが望ましい。

ウ 学力検査について
 選抜のための学力検査は、生徒の学習負担に配慮するとともに、中学校教育への影響を考慮したとき、現行の国語、社会、数学、理科及び英語の5教科を基本とし、その出題に当たっては、基礎的・基本的事項に関する問題を通して総合的に測定できるように、さらに工夫改善に努めることが必要である。
 しかし、現行のように、普通科・専門学科等、いずれの高等学校においても一律5教科、同一問題で同一配点といった学力検査の方法は、能力、適性、興味・関心等がきわめて多様化している生徒の実態に対応できる方法とは言いがたいという指摘もあり、特色ある学校・学科・専門コース等においては、その特色に応じた多様で弾力的な扱いができるようにすることが望ましい。

エ 選抜資料の比率について
 調査書作成委員会を設置し、公正な調査書の作成に務め、その信頼度を一層高めるように努力している中学校で作成する調査書は、正常な中学校教育を反映しているものであるから、選抜資料として重視すべきであるという考え方のもとに、現行では選抜資料に占める学習検査の比率20%を含めて、調査書の比率が選抜資料全体の70%を占めている。
 しかし、生徒の個性を生かす選抜という視点に立って考えたとき、選抜資料に占める比率が現行のように、学力検査(30%の比率)よりも調査書(70%の比率)に傾き過ぎていると、生徒が興味・関心をもつ教科や得意な教科を生かして特色ある学校・学科・専門コース等に挑戦してみようとしても、実質的に学力検査において得意教科が生きず、たとえ、学力検査の特定教科に対する傾斜配点等をしても、選抜資料全体の中では大きな意味をもってはこない。
 また、高等学校入学後の学習への継続性という点から考えたとき、中学校で培った成果を反映するものは、高等学校入学直前の学力検査であり、その意味から現行の学力検査の比率は小さすぎるという指摘もある。
 そこで、前述したように、今後学習検査の結果を選抜資料としての扱いはしないという考え方とあわせて、調査書と学力検査の比率については、検討の視点の趣旨を踏まえながら、両者の均衡がとれるようにすることが望ましい。
 なお、このことによって、中学校の進路指導に対する生徒や保護者の信頼感が失われることのないよう、中学校においては、個々の生徒の能力、適性、興味、関心等を日常的教育活動に基づいて的確に把握するよう、進路指導体制のなお一層の確立と、充実を図っていくことが重要である。

(2)学校・学科・専門コース等の特色に応じた多様で弾力的な選抜方法について
ア 推薦入学について
(ア)推薦入学については、これまで農業、水産、工業、厚生等の学科で実施されてきたが、各高等学校の特色にふさわしい能力、適性、興味・関心等を有する生徒の持ち味を生かすための方法として有効であり、他の特色ある学校・学科・専門コース等においても、推薦入学を実施できるようにすることが望ましい。
 なお、普通科の一般コースへの推薦入学の導入については、今後の社会情勢の動向等も見極めながら、なお検討することが必要である。
(イ)推薦入学の定員については、特色ある学校・学科・専門コース等の特色に応じた能力、適性、興味、関心等をもった生徒を積極的に受け容れられるよう、拡大することが望ましい。
(ウ)推薦の実施時期については、推薦で合格しなかった生徒が、気持ちを新たに一般試験に臨める時間的余裕を与えるという教育的配慮から、現行より早めて行うことが望ましい。

イ 受験機会の複数化等について
 入学者選抜に当たっては、生徒に対してできる限り不安や動揺を与えないよう配慮するとともに、高等学校選択の幅を広げ、希望する高等学校に挑戦できる機会を与えるために、例えば、挑戦に失敗した生徒に再度の機会を与える受験機会の複数化や、受験生の希望により第2希望校を認めるといった志願のあり方、あるいは再募集のあり方などについて積極的に検討する必要がある。

ウ 学力検査等の扱いについて

(ア)学力検査の弾力的扱いについて
 特色のある学校・学科・専門コース等においては、その特色に応じて学力検査の実施教科数を弾力的に扱えるようにするとともに、特色に応じた特定の教科に対する傾斜配点などができるようにすることが望ましい。
 また、定時制の課程においては、限られた時間の中で受験する生徒が、ゆとりある検査を受けられるよう、実施教科数を減ずることが望ましい。
 さらに、生涯学習時代といわれる今日、定時制の課程への社会人の受験に対応するため、作文の実施によって学力検査に代えられるようにすることが望ましい。
(イ)実技検査の導入について
 特色ある学校・学科・専門コース等においては、その特色に応じて、基礎的・基本的内容に関する実技検査を実施できるようにすることが望ましい。
(ウ)面接の導入について
 面接については、生徒の能力、適性、興味、関心や目的意識、学習意欲を高等学校側が直接に把握することができるとともに、生徒にとっても当該高等学校に進学する意識について自覚を深める機会になるということから、特色ある学校・学科・専門コース等においては、必要に応じて実施できるようにすることが望ましい。
(エ)学力検査の弾力的扱い、実技検査、面接等の組合せについて
 特色ある学校・学科・専門コース等においては、その特色に応じて、学力検査の弾力的扱い、実技検査、面接等を適宜組み合わせた選抜方法を工夫することが望ましいが、その際、生徒の学習負担をいたずらに増大させないよう十分配慮する必要がある。

エ 選考方法について
 選考方法については、これまで、一定の方式によって合格者を決定する第1次選考、各高等学校が各種の資料を活用して総合的に判定して合格者を決定する第2次選考という2段階の選考方法をとってさた。このうち第2次選考については、今後、その比率等を見直し、それぞれの高等学校の特色が生かせるような各高等学校独自の判定方法をあらかじめ公にして実施することが望ましい。


(3)関連する諸課題について

ア 学区外志願の取扱いについて
 現在の学区は、平成2年度から実施されてきているが、学区ごとの中学校卒業者数や高等学校の設置状況が不均衡であるため、各学区の中学校卒業者数に対する入学定員の割合は全ての学区の均衡がとれるわけではない。この不均衡を是正し、受験機会や教育条件の公平性を数の上で保証するために、年度ごとに隣接学区の特定の高等学校(特例校)を指定し、一定数の学区外入学を認めるという定員策定上の方策を講じてきた。しかし、この方策は、特例校が年度ごとに指定されたり、されなかったりするという不安定な要素をもつ臨時的措置のため、高等学校を選ぶ生徒の立場に立ったとき、自分で選ぶことが制限されるという不満があり、漸次解消することが望ましいとされてきた。
 また、各地域の歴史的・文化的な結びつきや生活圏を踏まえるとともに、年々の交通機関や交通網等の整備状況から隣接学区の高等学校への通学が便利である生徒もいるという現実から、隣接学区の扱いについても考慮する必要がある。
 そこで、神奈川県高等学校入学者選抜制度検討協議会の報告を踏まえながら、学区外志願の枠の扱い等について検討し、臨時的に行ってきた特例校措置を解消することが望ましい。


イ 志願変更について
 現在、全日制の専門学科においては、同一の大学科内における学校や小学科の志願変更のみが可能であるが、厚生や外国語に関する学科はそれぞれ1学校、1小学科で、実質上志願変更の余地がない。また多様な生徒の実態に即していないのではないかとの指摘もあり、あわせて神奈川県産業教育審議会からの報告も踏まえ、今後は、専門学科と他の専門学科との間において、あるいは専門学科と普通科との間において志望変更ができるようにすることが望ましい。
 また、専門コースも含めて全日制普通科にあっては、学区外からの志願者の志願変更はできないことになっているが、高等学校選択の幅を拡大するために、学区外からの志願者も志願変更ができるようにすることが望ましい。
なお、現在、専門学科にあっては、同一校の大学科間に限り、小学科について第2希望まで志願を認めているが、専門コースについても同一校の一般コースとの間で第2希望を認める志願ができるようにすることが望ましい。


おわりに

 高等学校が国民的な教育機関としての役割を果たしている今日、高等学校教育のあり方については、県民・保護者の関心も高く、社会・経済・文化の進展に応じた時代的要請を受けて、これまでも各界からさまざまな意見や改革についての提言がなされ、それらを踏まえて高等学校教育に関わる改善・充実が図られてきている。今後も、生徒減少期における教育充実の方策など、社会情勢の変化に応じた高等学校教育に関する複雑で困難な多くの課題を解決していくための不断の努力を進めていくことが求められている。
 本協議会において検討協議した「公立高等学校入学者選抜制度のあり方」についても、関係機関において、中学校教育への影響或いは今後の社会や高等学校教育の動向等に対応したより良い方向をさらに検討し、時代の変化に応じた改善を図ることが必要である。
 また、今回の「報告」に基づく入学者選抜制度改善の具体化に当たっては、改善策の検討の中で、学習検査の取扱いをめぐって現行制度の変更を懸念する意見もあったことを踏まえ、生徒に動揺を与えることのないよう配慮しながら検討することが望ましい。
 なお、現行の通学区域(学区)については、拡大・縮小等様々な意見があったが、平成2年度に県央学区・県北学区それぞれの学区の分割を行い、現在移行措置を実施している段階であるので、当面学区の変更はしないで、社会の動きや、現行の学区の定着状況、さらには新しい選抜方法の実施に伴う状況変化など、関連する様々な動きを見定めていくこととした。




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神高教職場討議用資料94-9
高校入試改革(1)
1994.5.27


    県教委「高校入試改革改善案(中間報告)」を発表


不本意入学増大!?

ア・テスト廃止・推薦制の拡大・複数志願制

――高校の特色づくりを強化――


 県教育委員会は去る5月19日,高課研報告(第1次 93年4月,第2次 93年12月)をうけ検討している状況を「公立高等学校入学者選抜制度の改善案(中間報告)」として発表しました。
 この内容は別記の通りですが,更に検討し,7月には大綱をまとめるとしています。
 私たち神高教は,これまで95%以上高校進学状況を考えれば,希望者全入・学校間格差是正と,入ってからの大幅な選択制の導入などで高校改革をすすめるベきだとして運動してきましたが,その方向とは全く異なる「改善案」といえます。
今後,この中間報告の批判行動をすすめるとともに,見直しをせまる運動をすすめていきます。



公立高等学校入学者選抜制度の改善案について(中間報告)


I 公立高等学校入学者選抜制度の具体的改善案

<<全日制の課程>>

選抜方式

1 学力検査等に基づく選抜
 希望する高等学校が受験できるよう,学校選択の幅を広げるため,生徒の希望により第2希望校を志願できるものとする。
  • 学力検査の受験は1回とする。
  • 各学校における第1希望と第2希望の定員枠の比率は,8:2とする。
  • 合格発表は,第1希望及び第2希望の区別をせず同時に発表する。
  • 第2希望校は,第1希望と同一校,または異なる学校・学科・専門コースとすることができるものとする。

2 推薦に基づく選抜
(1)推薦入学の実施校
  • 普通科一般コースについては,学校の特色に応じて実施できるものとする。
  • 専門コースについては,その特色に応じて実施できるものとする。
  • 専門学科については,全ての学科において実施する。
(2)推薦入学の定員
  • 普通科一般コースにっいては,10%程度。
  • 専門コースについては,10%程度。
  • 専門学科については,30%以内。
(3)推薦の実施時期
 毎年1月に実施する。

選抜の資料

1 学力検査等に基づく選抜
 調査書,学力検査及び必要に応じて実技検査,面接の結果を資料とする。

2 推薦に基づく選抜
 調査書、推薦書及び面接の結果を資料とする。

 ※調査書について
  調査書の記載内容は,次のとおりとする。
  • 各教科の学習の記録(評定・所見等)
  • 特別活動の記録と所見
  • 行動の記録と所見
  • 指導上参考となる諸事項
  • 特記事項(記入対象者数は,20%程度)
学力検査等

1 学カ検査
 学力検査の実施教科数は,次のとおりとする。
  • 普通科一般コースについては,5教科(国語,社会,数学,理科,外国語(英語))とする。
  • 専門コース・専門学科については,学校の特色に応じて,実施教科数を弾力的に扱うことができることとし,上記5教科のうち,3教科から5教科の範囲で各学校が選択する。
2 実技検査,面接
 専門コース・専門学科については,学力検査の実施教科数し弾力的扱いにあわせ,その学校の特色に応じて各学校で実施できるものとする。

学力検査等に基づく選抜の選考方法

1 第1希望の選考方法
(1)普通科一般コース
  普通科一般コースは,次の選考I及び選考IIの方法により,順次合格者を決定する。

ア 選考I
 調査書の評定と学力検査により選考する。
  • 調査書の評定と学力検査の比率 <例>6:4, 5:5, 4:6
イ 選考II
 調査書の評定と学力検査及び調査書の評定以外の記載事項により選考する。
  • 調査書の評定と学力検査の比率 <例>6:4, 5:5, 4:6
  • 調査書の評定以外の記載事項は, 各学校の特色や生徒の個性を生かすために活用する。
  • 受験した5教科の学力検査のうちから,学校の特色により,教科数を3教科から5教科の範囲で選考することや,特定の教科に傾斜配点をすることができるものとする。
(2)専門コース・専門学科
 専門コース・専門学科は,上記選考IIの方法により選考する。なお,実施教科数の弾力化に伴い実施する実技検査,面接も選考と資料とする。

2 第2希望の選考方法
(1)普通科一般コース
  調査書の評定と学力検査及び調査書の評定以外の記載事項により選考する。
  • 調査書の評定と学力検査の比率 <例>7:3, 6:4, 5:5
  • 調査書の評定以外の記載事項は,各学校の特色や生徒の個性を生かすために活用する。
(2)専門コース・専門学科
  第1希望の専門コース・専門学科の選考方法と同じ方法により選考する。




    参考資料        選考方法の新旧対比

〔現行制度〕
区分 普通科 専門学科
推薦に基づく選抜   一部の学科で
未実施
学力
検査
等に
基づ
く選
第1次選考 ○学習の記録
○学習倹査
○学力検査
  により選考
同左
第2次選考 ○第1次選考の資料に加え,調査書等の活用による総合的な選考 同左
平成8年度〔移行措置〕
区分 普通科一般コース 専門コース・専門学科
推薦に基づく選抜 特色に応じ実施できる 平成7年度から専門コースは特色に応じて,専門学科は全学科で実施
学力
検査
等に
基づ
く選
第1次選考 ○学習の記録
○学習検査(移行措置)
○学力検査
        により選考
○学習の記録
○学習検査(移行措置)
○学力検査(傾斜配点ができる)
        により選考
第2次選考 ○現行に準ずる
・学校の特色に応じ、調査書の評定以外の記載事項を活用
同左
  
  
平成9年度〔改善案〕
区分 普通科一般コース 専門コース・専門学科
推薦に基づく選抜 特色に応じ実施できる 専門コースは特色に応じて,専門学科は全学科で実施













選考I ○調査書の評定
○学力検査
        により選考
○調査書の評定
○学力検査(実施教科数の弾力化)
  (傾斜配点ができる)
○学校の特色に応じ、調査書の評定以外の記載事項の活用
        により選考
選考II ○調査書の評定
○学力検査
 (特色に応じ,選考の資料とする教科数の弾力化,傾斜配点ができる)
○学校の特色に応じ,調査書の評定以外の記載事項の活用
         により選考
第2希望 ○調査書の評定
○学力検査
○学校の特色に応じ,調査書の評定以外の記載事項の活用
         により選考
上記第1希望と同じ



その他

1 再募集について
  現行どおり実施する。

2 志願変更について
  学区内外を問わず,いずれの学校・学科・コースヘも志願変更できるものとする。

3 学区外志願の扱いについて
  学区外志願限度枠の中に,隣接学区枠の扱いを新たに設ける。

《定時制の課程》
1 選抜方式について
  現行どおり全県を学区として,1校を受験する方式とする。

2 選抜の資料について
  全日制の課程に準ずるものとする。

3 学力換査等の扱いについて
 (1)5教科(国語,社会,数学,理科,外国語(英語))のうち,3教科から5教科の範囲で各学校が選択できるものとする。
 (2)社会人については,作文の実施により学力検査に代えることができるものとする。
 (3)実技検査については,必要に応じて実施できるものとする。
 (4)面接については,現行どおり実施する。

4 選考の方法について
  普通科・専門学科ともに,全日制の課程の専門コース・専門学科に準ずるものとする。

5 再募集及ぴ志願変更について
  全日制の課程に準ずるものとする。

実施時期

 今回の改善は,平成9年度(現中学校第1学年)の入学者選抜から実施することとし,平成7年度(現第3学年)・平成8年度(現第2学年)については,次のとおり移行措置及び一部の改善を実施する。

1 平成7年度《現中学校第3学年》入学者選抜
  平成7年度の入学者選抜については,現行の方法により実施するが,次の2点について改善を行う。
 (参考:学習の記録,学習検査,学力検査の比率は5:2:3)
  1. 推薦に基づく選抜を,次のとおり実施する。
    ア 推薦入学の実施校
    • 専門コースについては,その特色に応じて実施できるものとする。
    • 専門学科については,全ての学科において実施する。
    イ 推薦入学の定員
    • 専門コースについては,10%程度。
    • 専門学科については,30%以内。
    ウ 推薦の実施時期
     平成7年1月に実施する。
  2. 志願変更については,平成7年度から次のとおり実施する。
     学区内外を問わず,いずれの学校・学科・コースヘも志願変更でさるものとする。

2 平成8年度《現中学校第2学年》入学者選抜
 平成8年度の入学者選抜については,平成7年度の入学者選抜に加え,次の移行措置及び改善を行う。
  1. 学習検査の比率を減じて選抜の資料とし,現行の方法により選考する。(学習の記録,学習検査,学力検査の比率は5:1:4)。
     なお,専門コース・専門学科については,その特色に応じて,特定の教科に傾斜配点したものを資料として選考ができるものとする。
  2. 推薦に基づく選抜は,平成7年度入学者選抜に加え,普通科一般コースについて,学校の特色に応じて10%程度の定員で実施できるものとする。

II 中学校の進路指導


 進路指導は,生徒一人ひとりが将来の生き方を考え,自らの持ち味,興味・関心等を生かした進路を模索し,実現できるよう手助けする教育活動であり,その一環としての望ましい進路選択,高等学校選択がされなければならない。そのため,次の視点に基づき,進路指導が行われる必要がある。

1 将来の生き万の多様性,多様な進路選択の可能性についての指導
  • 将来の生き方(社会や職業とのかかわり方)について理解を深めるよう援助を行う。
  • 多様な進路とその選択の可能性について理解を深めるよう援助を行う。
2 多様な視点に基づく進路指導
  • 生徒一人ひとりの興味・関心や適性,高等学校の特色など、多様な視点を重視した進路指導を行う。
3 個を生かすための長期的な視野に立った個人資料の作成と活用
  • 中学校4年間を通じた資料(将来への希望,学校生活の様子,興味・関心,学習の記録など)の収集,蓄積を行う。
  • 進路選択にあたって生徒自らがその資料を活用できるようにする。
  • 長期的な視野に立った進路指導のためにその資料を活用する。
4 協力体制の整備と進路相談の充実
  • 進路指導についての教職員の共通理解と協力体制の確立を図る。
      ・校内研修の充実   ・校内体制の整備   ・線密な指導計画の作成 等
  • 進路相談の充実を図るとともに環境の整備に努める。
      ・相談方法の工夫   ・進路相談室の設置 ・進路情報コーナーの充実 等
5 小学校.中学校,高等学校の連携
  • 長期的な視野に立った進路指導を行うために小・中・高等学校の緊密な連携を図る。
      ・生徒理解のための小学校との連携
      ・生徒が各高等学校の特色を理解できるようにするための高等学校との緊密な連携
      ・進路指導中・高連絡協議会の充実 等
6 家庭,地域との連携
  • 学校・家庭・地域がそれぞれの役割に応じてその機能を十分に発揮できるよう連携を図る。
      ・進路指導の考え方や選抜制度等についての理解
      ・中学校の進路指導や高等学校の特色等の情報提供
      ・地域教育力の活用   ・啓発的体験活動の充実等

III 特色ある高校づくり


 入学者選抜制度の改善とともに,全ての学校で特色ある高校づくりを推進する。

1 特色ある高校づくりの推進
  1. 生徒の学習ニーズや社会の変化に積極的に応じ,生徒が魅力を感じるような特色を持った高校づくり。
  2. 生徒の個性や適性に応じた学校選択が行われるような,すべての高校での特色ある高校づくり。
  3. 専門コースの他,教科活動や教科外活動等を通した各学校の主体的取組みによる多様な幅広い特色ある高校づくり。なお,入学後の進路希望等の変化にも対応できる,多様で柔軟な教育形態の工夫を図るとともに,各高校の特色が中学校や地域に理解されるよう,情報提供等を行う。
2 特色ある高校づくりの具体的内容
  1. 制度として位置づいているもの
       専門コース,専門学科
  2. 各学校での主体的な取組み
    • 教科活動に係わるもの……………類型の設置,多様な選択科目の設定,単位制の弾力的運用,小集団・習熟度別学級編成等
    • 教科外活動に係わるもの…………学校行事,ホームルーム活動,部活動,委員会活動等
    • 各学校独自の発想に基づくもの…国際交流活動,地域との交流,学校間交流,奉仕活動等
3 具体的取り組み計画
平成6年度………各学校の『特色ある高校づくりプラン(特色プラン)』(仮称)計画策定
平成7年度………「特色プラン」に基づく実施計画の作成,学校のPR
平成8年度………「特色プラン」の実施



1994年6月19日


「公立高等学校入学者選抜制度の改善案(中間報告)」に対する見解


神奈川県高等学校教職員組合
執行委員長 山 際 正 道


 県教育委員会は,本日「公立高等学校入学者選抜制度の改善案(中間報告)」を発表した。
 主な「改善」を「複数志願制」・「推薦制の拡大」・「ア・テスト廃止」の三点におき,「高校の特色づくりの一層の推進」をうたっている。
 この「改善」案は92年8月に文部省「高等学校教育の改革の推進に関する会議」のまとめ(「高等学校入学者選抜の改善について」)にもられた「入試の多様化」に全く追随した内容になっており,進学率の引上げ,障害児の進学保障,定員内不合格の解消等は全く触れておらず,神奈川らしさを完全に捨て去ったものといえる。
 わたしたちは高校進学希望者95%,100校計画完遂のもとにおける高校教育改革の方向として,(1)高校をを地域に根差したものとすること,(2)希望者がみな高校に進学できること,(3)どこの高校でも一人ひとりの個性を大事にした教育を保障できるよう条件整備をすすめること,を追求し,入試改革にあっては高校側の「選抜」でなく,中学生の不安・不信,競争激化をもたらさない制度を求め,運動してきた。
 もとより現行神奈川方式が入試の在り方として最善のものとはいえない。
 しかし、今回示された中間報告は神奈川の高校の最大の課題である,「学校間格差」とそれに基づく「輪切り選抜」に「メス」をいれることにはならず,かえって複雑さを増し,受験技術が求められ,中学生に不安と混乱を増すことになろう。また,高校に「第1希望集中校」「第2希望集中校」などの新たな格差を生む恐れすらある。
 「中間報告」は「生徒一人ひとりの能力や適性などにあった高等学校が受験できるよう」学校選択の幅を広げるとしている。15歳の段階でこどもたちの進路意識や個性がどこまで確立しているかの問題とともに,「複数志願制」・「隣接学区制」の導入,「志願変更の拡大」などと重ねれば「受験機会拡大」の保障であって,「高校での学習機会」の保障ではない。
 ここに今「中間報告」の最大の特徴・問題がある。
 さらに「調査書と学力検査の均衡(中学資料と学力検査の比率変更)」・「高校ごとの選考基準(実施教科数,傾斜配点など)」などの「改善」がすすめば,中学生に早くから受験準備を強いることになり,複雑な制度のなかで受験産業の一層の参入を招き,中学教育に大きな影響を与えるであろう。
 そのうえ学校間格差を残したままでの「普通科」ヘの「推薦制」の導入は生徒間に競争と不信を一層増すことになろう。
 また,今回の「中間報告」は「全ての学校で特色ある高校づくりを推進する」としている。そのねらいはこの「入試の多様化」を高校側から「保障」するためにある。
 わたしたちはこれまで各学校での議論を通じて,教育課程を工夫するなかで,生徒の興味や関心,要求に沿った学習が展開できるよう,大幅な選択制の導入や施設設備の改善を求め,「魅力ある高校づくり」を追求してきた。しかし財政事情などを理由に県教育委員会は条件整備を怠り,こどもたちに充分な学習機会を保障してこなかった。
 今「中間報告」の方向は,「特色ある」高校にこどもたちを無理やりふり分けることになろう。本末転倒といわざるを得ない。
 わたしたちは,今入選制度改革については「大綱」作成にむけさらに県教育委員会と協議を続け,「中間報告」の見直しを求めるとともに,今後も高校教育改革の原点である「希望者全入」「学校間格差是正」「魅力ある高校づくり」を追求し,県民とともに運動をすすめる。




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神高教職場討議用資料94-15
高校入試改革(3)
1994.8.31


 神奈川県教育委員会は7月18日入試改革の大綱を発表しました。
 私たちは5月19日の中間報告以降,この改革の方向は「希望者全入」「学校間格差是正」の点から問題があるとし,抜本的見直しを求めてきました。
 普通科一般コースへの推薦制については「今後検討」とされ。同じく同コースへの傾斜配点・使用教科数弾力化など(選考II)については撤回されましたが,最も問題とした複数志願制についてはそのまま盛り込まれています。
 今後この内容について分析し,対応方針を策定いくこととします。
1994年8月31日


神奈川県公立高等学校入学者選抜制度改正大綱

(年号は原文のまま)


《神奈川県公立高等学校入学者選抜制度改正大綱の制定にあたって》

 本県における公立高等学校入学者の選抜制度は,戦後,幾多の変遷を重ねながら,学習の記録,学習検査及び学力検査を資料とし,いわゆる神奈川方式として行われてきました。
 この間,我が国は著しい経済発展を成し遂げ,しかも高学歴化が進み,学歴偏重の社会とも言われてきました。
 こうした時代背景の中で,本県においては,人口急増の時代を迎え,さまざまな対策が必要となってまいりました。
 とりわけ高等学校への進学希望者が急増し,その対策が急務となってまいりました。このため,最重要施策として取り組んできたのが,「県立高校100校新設計画」であり,この計画は昭和62年度に完了いたしました。
 高校100校新設計画の進捗とともに,高校進学率も90%を越え,中学校卒業者の大部分が,高校へ進学する時代を迎え,本県の入学者選抜制度は県民からも評価され,その役割を果たしてまいりました。
 しかしながら,高校進学者の増加とともに,昭和50年代半ばには,校内暴力や家庭内暴力,中途退学の増加など教育に関連するさまざまな問題も顕在化し,中学校や高等学校における教育のあり方が改めて問われるようになってまいりました。
 そのような状況の中で,子どもの持っている個性や能力,適性を大切にした教育,そして「やさしさ」,「おもいやり」といった心豊かな人間性を育てることをもっと大切にすベきではないかなど,県民の皆様による「騒然たる教育論議」が展開されてきました。
 その結果,個性の伸長と共生・共育を目指す「ふれあい教育」という理念を生み,すベての教育活動の根幹に据えることにし,今日に至っております。
 さらに,情報化,国際化,人口の成熟化等が進展する中で教育を取り巻く社会環境も著しく変化してまいりましたし,社会は多彩な人材を求めております。
 すなわち,教育にあたっては,児童・生徒一人ひとりの個性や能力,適性を豊かに伸ばし,そして,社会の変化に柔軟に対応し,主体的に生活していくために必要な基礎的,基本的な知識・技能を身につけるよう指導していくことが要請されております。
 こうしたことを背景にして,平成3年に神奈川県高等学校教育課題研究協議会(高課研)が設置され,約2年間の論議の結果,第1次報告では,「高校への進学機会の拡大」とともに「高校の特色づくり」,第2次報告では「入学者選抜制度のあり方」について,昨年報告されました。
 本県では,これまでも「高等学校教育のあり方」や「入学者選抜制度の改善」などについて検討し,高校の特色づくりをはじめ必要な対策を講じてきましたが,社会環境が大きく変化し,教育の分野でもさまざまな課題がある中で,高校の特色づくりと入学者選抜制度の改善については,当面の取り組むべき最重要課題と認識し,先の高課研の報告を真摯に受けとめ,実施に移すことにしたものであります。
 このため,本年1月,県教育庁内に「公立高校入学者選抜制度検討会議」を設置し,次の基本的な考え方に視点をおき,検討を重ねてきました。
  • 今後,高等学校への進学率がさらに拡大する傾向にある中で,本県が進めてきた「ふれあい教育」の理念にのっとり,生徒一人ひとりの個性や能力,適性を多面的にとらえ,調査書の評定や学力検査などのいわゆる数値のみではなく,生徒の特性や長所に着目した選抜制度とすること。
  • そのために,生徒一人ひとりが,自らの進路希望に基づいて学校選択ができるような選抜制度であること。
 なお,今回の改正にあたっては,生徒に不安や動揺を与えることのないよう,学習検査の結果を選抜の資料として扱わないことについては,段階的移行などの措置も講じました。
 新しい制度を生かしていくためには,次のことが大切であります。
  • 進路指導においては,中学校の教師も保護者も子どもの将来について従来にもまして一層,子どもを中心に据えて考えることが必要であります。
     そのためには,業者テストの偏差値などに依存することなく,中学校と高等学校が一層の連携を図っていくことが必要であり,そしてなによりも,中学校と高等学校間はもとより,教師,生徒,保護者間の信頼関係を築いていくことが大切であります。
     ((別紙資料1「中学校における進路指導について」参照)
  • それぞれの高等学校が,生徒にとって,より一層魅力あるものになることが必要であります。
     そのために多様な生徒のニーズに応えていける特色ある高校づくりを,よリ推進していくとともに,県民の皆様や中学生に十分理解していただくよう努力してまいります。
     (別紙資料2「高等学校の特色づくりについて」参照)
 新しい選抜制度は,進路指導と特色ある高校づくりと相まつて三位一体となり進められていくことが大切であります。
 こうした趣旨に基づいて,この改正大綱により,神奈川県公立高等学校入学者選抜を実施してまいります。
 県民の皆様をはじめ,児童・生徒の教育に係わる教師及び保護者の方々には,この改正大綱の趣旨をご理解くださいますよう,そして,ご協力くださいますようお願い申しあげます。

 平成6年7月18日
神奈川県教育委員会





《神奈川県公立高等学校
   入学者選抜制度改正大綱》
《神奈川県公立高等学校
   入学者選抜制度改正大綱の説明》
<全日制の課程>  
I 選抜方法
 学力検査等に基づく選抜及び推薦に基づく選抜により実施するものとする。
I 選抜方法
1 学力検査等に基づく選抜 1 学力検査等に基づく選抜
 生徒の興味・関心,進路希望等の多様なニーズに応じ,一人ひとりの個性と希望を生かせる学校選択を可能にするため,第1希望及び第2希望の2校を志願できますが,生徒の負担軽減にも配慮して,学力検査の受検は1回とします。
(1)志願
 志願にあたっては,第1希望及び第2希望の高等学校の2校を志願できるものとする。
 なお,この場合において志願者は,同一の高等学校を第1希望及び第2希望とすることができるものとする。
(1)志願
 志願者は,入学願書を第1希望及び第2希望を一括して第1希望校に提出します。
 入学願書締切後,各高等学校の志願状況を公表し,その後,志願変更を行います。
 志願変更は,はじめに第1希望の志願変更を行い,第1希望の志願者が確定した後,第2希望の志願変更を行います。
(2)第1希望及び第2希望の募集人員
 各高等学校における第1希望の募集人員は当該高等学校の入学定員の80%とし,第2希望の募集人員は当該入学定員の20%とする。
(2)第1希望及び第2希望の募集人員
 第1希望及び第2希望の募集人員は,推薦入学を実施する高等学校では,入学定員から推薦募集人員を減じた人数のそれぞれ80%及び20%とします。
 なお,第2希望の募集人員については,第1希望の合格者が募集人員に満たない高等学校では,第2希望の募集人員に第1希望の募集人員の不足数を加えた人数とします。
(3)受検
 学力検査の受検は1回とする。
(3)受検
 学力検査は,第1希望校で行います。
 なお,合格発表は,第1希望及び第2希望を同時に行います。
2 推薦に基づく選抜 2 推薦に基づく選抜
 生徒の能力,適性,興味・関心,進路希望等を生かすため,高等学校の特色に応じて,推薦に基づく選抜を実施します。
(1)推薦入学の実施校
 ア 普通料については,当該高等学校の特色に応じて実施することができるものとする。
(1)推薦入学の実施校
ア 普通科については,専門コースにおいて,平成8年度入学者の選抜から実施できることとします。
 なお,専門コース以外の普通科については,今後の課題とし,引き続き検討していくこととします。
イ 専門学科については,全ての学科において実施するものとする。 イ 専門学科については,現在,推薦入学を実施している農業,水産,工業,厚生,家庭,理数に関する各学科のほか,新たに商業,外国語に関する学科についても実施することとします。
(2)推薦入学の募集人員
ア 普通科については,当該高等学校の入学定員のおおむね10%とする。
イ 専門学科については,当該高等学校の学科ごとの入学定員の30%以内とする。
(2)推薦入学の募集人員
 推薦に基づく選抜を実施する高等学校は,募集人員等を事前に公表します。
(3)実施時期
 学力検査等に基づく選抜に先立ち実施するものとする。
(3)実施時期
 推薦の実施時期は、1月とします。
II 選抜の資料
1 学力検査等に基づく選抜
 選抜の資料は,調査書及び学力検査の結果とする。
 なお,普通科専門コース及び専門学科において,実技検査または面接を実施する場合は,その結果も選抜の資料とする。
2 推薦に基づく選抜
 選抜の資料は,調査書,中学校の校長の推薦書及び面接の結果とする。
 
III 調査書の記載事項及び内容 III 調査書の記載事項及び内容
 調査書については,生徒の特性を多面的にとらえ,生徒の長所を積極的に評価するため,記載内容・様式等を改めることとします。
1 各教科の学習の記録
(1)評定
 中学校第2学年及び第3学年の評定は5段階により行う。
 なお,選抜にあたって調査書の評定として使用する数値の算出は次の式によるものとする。
 (第2学年の9教科の評点の合計)+(第3学年の9教科の評点の合計)×2
(2)学習状況
 各教科の学習状況及び総合的な学習状況について,生徒の顕著な特性及び長所を記載する。
2 特別活動等の記録と所見
 中学校3年間をとおした学級活動,生徒会活動,クラブ活動,部活動,学校行事等における活動状況の記録及び所見を記載する。
3 行動の記録と所見
 中学校3年間をとおした行動の記録及び所見を記載する。
4 参考事項
 生徒の特徴,特技等を記載する。
1 各教科の学習の記録
(1)評定
 評定は従来どおり,生徒の学習状況を幅広く見るため,第2学年と第3学年の評定を資料とします。
 また,中学校3年間の最終的な学習の状況を重視するため,第3学年の評定に比重をかけることとします。
5 特記事項
 中学校3年間をとおし,特に顕著な活動の実績や特性をもつ生徒について具体的事実を記載する。
 なお,記載対象者数は,各中学校第3学年在籍生徒数の20%以内とする。
5 特記事項
 生徒の活動の実績や特性を幅広くとらえ,積極的に活用するため,記入対象者数を現行の中学校第3学年在籍生徒数の15%以内から,20%以内に拡大します。
 * 従来,調査書に記載されていた「学習検査」,「出欠の記録」及び「健康診断の記録」は削除します。
IV 学力検査等の内容
 1 学力検査の実施教科
 (1)普通科(専門コースを除く)については,国語,社会,数学,理科及び外国語(英語)の5教科とする。
 (2)普通科専門コース及び専門学科については,その専門性に応じて,前記(1)の5教科のうち,3教科から5教科の範囲で,各高等学校が選択できるものとする。
IV 学力検査等の内容
 1 学力検査の実施教科
 学力検査の実施教科については,高等学校ごとに事前に公表します。
 第1希望校と第2希望校の受検教科数が異なるような場合には,志願者は,学力検査の受検の際,両校の選抜に対応できるよう受検することが必要です。
2 実技検査及び面接
 普通科専門コース及び専門学科については,その専門性に応じて,実技検査及び面接を実施することができるものとする。
2 実技検査及ぴ面接
 実技検査及ぴ面接は,実施する高等学校ごとに事前に公表します。
V 学力検査等に基づく選抜の選考方法 V 学力検査等に基づく選抜の選考方法
 選考にあたっては,生徒の能力,適性等を多面的にとらえることができるよう,調査書の評定や学力検査などの数値のみでなく,調査書の評定以外の記載事項も活用します。
 普通科専門コース及び専門学科の選考にあたっては,特定の教科への傾斜配点など専門性に応じた方法を実施できるものとします。
1 調査書の評定と学力検査の比率
 調査書の評定及び学力検査の比率は,6:4とする。
1 調査書の評定と学力検査の比率
 学力検査等に基づく選抜においては,高等学校への進学率が上昇している背景や生徒の能力,適性等を生かしていくため,調査書の評定と学力検査の比率については,当分の間,6:4として選考します。
 また,選考にあたっては,調査書の評定以外の記載事項についても,生徒の個性が生きるように積極的に活用します。
2 第1希望の選考方法
(1)普通科(専門コースを除く)
 調査書の評定及び学力検査の結果に基づき,第1希望の募集人員の70%までの合格者を決定し,次に,調査書の評定,学力検査の結果及び調査書の評定以外の記載事項を活用して総合的に選考し,30%の合格者を決定する。
(2)普通科専門コース及び専門学科
 調査書の評定,学力検査の結果及び調査書の評定以外の記載事項を活用して総合的に選考し,合格者を決定する。
 なお,学力検査については,その専門性に応じて,特定の教科に傾斜配点をすることができるものとする。
 また,実技検査,面接を実施した専門コース及び学科については,その結果も併せて選考する。
2 第1希望の選考方法
 調査書の評定,学力検査の結果及び調査書の評定以外の記載事項を活用して総合的に選考するにあたっては,その内容を高等学校ごとに事前に公表します。
 また,普通科専門コース及び専門学科においては,その専門性に応じて,特定の教科に傾斜配点する場合は,高等学校ごとに事前に公表します。
3 第2希望の選考方法
(1)普通科(専門コースを除く)
 調査書の評定,学力検査の結果及び調査書の評定以外の記載事項を活用して総合的に選考し、合格者を決定する。
(2)普通科専門コース及び専門学科
 第1希望と同じ方法により選考し,合格者を決定する。

VI 推薦に基づく選抜の選考方法
 調査書,中学校の校長の推薦書及び面接の結果を資料として選考する。
 
VII その他
 1 再募集
 入学定員に欠員が生じた場合は,必要に応じて再募集を実施するものとする。
VII その他
2 志願変更
 志願者は,いずれの学校,学科または専門コースへも志願変更をすることができるものとする。
2 志願変更
 従前の制度では,普通科においては,学区内の高等学校での志願変更に限られており,また,専門学科においては,同一学科内での志願変更に限られていましたが,より生徒の希望を生かした学校選択ができるよう,学区内外を問わず,志願変更ができるものとします。
<定時制の課程>

 定時制の課程については,次の事項のほか,全日制の課程に準じて実施するものとする。
1 選抜方法
 学力検査等に基づく選抜のみにより実施するものとする。
 なお,志願できる高等学校は1校とする。
<定時制の課程>
2. 学力検査等の内容
(1)国語,社会,数学,理科及び外国語(英語)の5教科のうち,3教科から5教科の範囲で各高等学校が選択できるものとする。
(2)社会人については,作文により学力検査に代えることができるものとする。
(3)実技検査については,必要に応じて実施することができるものとする。
(4)面接については,実施するものとする。
3. 選考の方法
 調査書の評定,学力検査等の結果及び調査書の評定以外の記載事項を活用して総合的に選考し,合格者を決定する。
2. 学力検査等の内容
(1)学力検査の実施教科については,高等学校ごとに事前に公表します。
(2)作文により学力検査に代えることができる対象者等,具体的な内容については,引き続き検討していくこととします。
<学 区>

 学区については,神奈川県公立高等学校通学区域規則による。
<学 区>

 全日制の課程の普通科において,学区外限度枠の扱いの中に,隣接学区の扱いを設けることについては,今後の学区外への志願状況を見ながら検討することとします。
<実施時期>

 この改正大綱に基づく入学者選抜は,平成9年度神奈川県公立高等学校入学者選抜から実施する。
 なお,平成7年度入学者の選抜及び平成8年度入学者の選抜については,この改正大綱に基づき,一部の改正を実施するとともに移行措置などを行う。
 1.平成7年度神奈川県公立高等学校入学者選抜平成7年度入学者の選抜については,次の2点について改正を行う。
(1)推薦に基づく選抜を,次のとおり実施する。
 ア 推薦入学の実施校
  専門学科において実施するものとする。
  なお,農業,工業,水産,厚生,家庭及び理数に関する学科については当該専門学科を設置するすべての高等学校で実施するものとし,商業及び外国語に関する学科については実施することができるものとする。
 イ 推薦入学の募集人員
  専門学科の推薦入学の募集人員は,当該高等学校の学科ごとの入学定員の30%以内とし,高等学校ごとに定める。
 ウ 実施時期
  平成7年1月に実施する。
(2)前記VIIその他の2の志願変更については,平成7年度入学者の選抜から実施するものとし,志願者は,いずれの学校,学科または専門コースヘも志願変更することができるものとする。
<実施時期>

 この改正大綱に基づく入学者選抜は,現中学校第1学年の生徒が高等学校に入学する平成9年度入学者の選抜から実施します。
1.平成7年度神奈川県公立高等学校入学者選抜現中学校第3学年の生徒が高等学校に入学する平成7年度の入学者選抜は,現行制度で実施しますので,学習の記録,学習検査及び学力検査の比率は5:2:3で行います。
 なお,専門学科で推薦に基づく選抜を実施する高等学校及び募集人員は高等学校ごとに事前に公表します。
2. 平成8年度神奈川県公立高等学校入学者選抜
 平成8年度入学者の選抜については,平成7年度の改正に加え,次の移行措置及び改正を行う。
(1)移行措置として,学習検査の比率を減じて選抜の資料とするものとし,学習の記録,学習検査及び学力検査の比率を5:1:4とする。
(2)推薦に基づく選抜は,平成7年度の改正に加え,普通科専門コースにおいて実施することができるものとし,その募集人員は,当該高等学校における専門コースの入学定員のおおむね10%とする。
2. 平成8年度神奈川県公立高等学校人学者選抜
 現中学校第2学年の生徒が高等学校に入学する平成8年度の入学者選抜は,移行措置として,学習の記録,学習検査及び学力検査の比率を変えて実施します。
 なお,普通科専門コース及び専門学科で推薦に基づく選抜を実施する高等学校及び募集人員は高等学校ごとに事前に公表します。
<その他>

1. この改正大綱に基づく具体的な入学者選抜の実施については,各年度の「選抜要綱」及び「実施要領」において定めるものとする。
2. この改正大綱については,今後の実施状況や中学校教育及び高等学校教育の動向等を踏まえながら,必要に応じて検証していくこととする。
 




    <参考資料>        各年度の選考方法

平成7年度(現中学校第3学年)〔現行制度〕
区分 普通科 専門学科
推薦に基づく選抜   従来実施している学科のほか商業・外国語で実施できる
学力
検査
等に
基づ
く選
第1次選考 ○学習の記録
○学習倹査
○学力検査    により選考
第2次選考 ○第1次選考の資料に加え,調査書等の活用による総合的な選考
平成8年度(現中学校第2学年)〔移行措置〕
区  分
普  通  科
専門コース
専 門 学 科
推薦に基づく選抜   実施できる 従来実施している学科のほか商業・外国語で実施できる。
学力
検査
等に
基づ
く選
第1次選考 ○学習の記録
○学習検査(移行措置)
○学力検査        により選考
第2次選考 ○第一次選考の資料に加え、調査書等の活用による総合的な選考
  
  
平成9年度(現中学校第1学年)〔新制度〕
区  分
普  通  科
専門コース
専 門 学 科
推薦に基づく選抜 今後の課題とし、引き続き検討する。 実施できる 全学科で実施する










第1希望 (第1希望の70%)
○調査書の評定
○学力検査
        により選考
○調査書の評定
○学力検査(実施教科数の弾力化や傾斜配点ができる)
○調査書の評定以外の記載事項

   の活用等により、総合的に選考
(第1希望の30%)
○調査書の評定
○学力検査
○調査書の評定以外の記載事項
   の活用等により、総合的に選考
第2希望 ○調査書の評定
○学力検査
○調査書の評定以外の記載事項
   の活用等により、総合的に選考
上記第1希望と同じ




<別紙資料1>

 中学校における進路指導について(基本的方向)

I 進路指導の基本的な考え方


1 中学校教育のあり方
 中学校段階の生徒は,心身の成長・発達が著しく,自己の生き方,人間としての生き方,あり方についても関心が高まる時期にある。
 学校教育法においても,「中学校は小学校における教育の基礎の上に,心身の発達に応じて,中等普通教育を施すことを目的とする」とされ,その目的を実現するための教育目標の一つとして,「社会に必要な職業についての基礎的な知識と技能,勤労を重んずる態度及び個性に応じて将来の進路を選択する能力を養うこと」と定められている。
 高等学校教育の目標に「個性に応じて将来の進路を決定させ」とあることを考えると,中学校においては,生徒が自らの個性を生かし主体的に進路を選択できるような能力や態度を育てていくことが求められている。

2 中学校における進路指導のあり方
 中学校における進路指導は,生徒一人ひとりが将来の生き方を考え,自らの個性を生かし,自らの希望にあった進路を主体的に選択できるような能力や態度を育成する教育活動であり,まさに,人間としての生き方の指導である中学校教育そのものである。
 従来から,一部には,生徒自身の主体性をもっと尊重すべきであるとか,一人ひとりの個性をもっと重視すべきであるといった声も聞かれ,また,数値に重きをおいた指導のあり方の弊害なども指摘されてきた。
 これからの進路指導においては,生徒一人ひとりの能力・適性,興味・関心や将来の進路希望等を重視した指導を行うとともに,それらが効果的に進められるよう,学校,家庭,地域が,従来にもまして,生徒の将来について生徒を中心に据えて考えていくことが必要である。
 特に,直接,指導にあたる教師は,研修等により,一層力量を高めるとともに,生徒一人ひとりの能力・適性,興味・関心や将来の進路希望等の十分な把握,生徒の進路希望先の教育内容,仕事内容などの情報の収集について今まで以上に努力していくことが大切になる。その際,業者テストによる偏差値等に依存した進路指導を行わないことはいうまでもない。
 各学校の進路指導の推進にあたっては,学校の教育目標に基づいた進路指導の目標を定め、全体計画や年間指導計画などを作成するとともに,教職員の共通理解を踏まえた協力体制の整備や進路相談の充実に努めることが必要である。また,教育課程を編成する際には,生徒一人ひとりが自己の個性を発見し,それを伸長することができるよう工夫することが必要である。
 さらに,自ら学ぶ意欲や思考力,判断力,表現力などの資質や能力の育成を重視する新しい学力観に基づき,各教科等の目標に照らしてその実現の状況をみるとともに,生徒一人ひとりの可能性を積極的に見いだし,それを伸ばすように努めることが大切である。

II 今後の進路指導

 今後の進路指導にあたっては,次の視点に基づき進路指導が行われる必要がある。
1 将来の生き方の多様性,多様な進路選択の可能性を理解させる指導
 当面の進路としての進学や就職ではなく,将来社会人としてどのように生きていくかといった社会や職業とのかかわり方や,多様な進路とその選択の可能性についての理解を深めるよう援助・指導していくことが大切である。
 ○ 体験的活動の充実に努める。

2 多様な視点に基づく進路指導の推進
 これからの進路指導においては,数値のみに重きをおいた進路指導ではなく,生徒一人ひとりの個性や高等学校の特色など多様な視点に基づいた進路進導を推進していくことが大切である。
 ○ 生徒一人ひとりの能力・適性,興味・関心や将来の進路希望等,多面的な把握に努める。
 ○ 評価方法の工夫・改善に努める。

3 個を生かすための長期的な視野に立った個人資料の作成と活用
 生徒一人ひとりが将来の生き方を考え,自らの個性を生かした進路を模索し,実現できるよう援助・指導していくために,生徒一人ひとりの能力・適性,興味・関心や将来の進路希望等について,3年間を通して資料を収集・保存・蓄積するとともに,長期的な視野に立って活用していくことが必要である。
 ○ 進路指導カード等の作成・工夫と,その有効な活用を図る。

4 協力体制の整備と進路相談の充実
 これからの進路指導にあたっては,とりわけ,進路指導に対する教職員の共通理解と実践のための協力体制の確立を図ることが大切である。
 また,進路指導を行っていく上での中核となる進路相談の充実とともに,その環境の整備に努めることが大切である。
 ○ 校内体制の整備や,綿密な指導計画の作成に努めるとともに,校内研修の充実を図る。
 ○ 進路相談室や進路情報コーナーの設置・充実など環境の整備に努める。
 ○ 進路に関わるデータの収集と蓄積や指導方法の工夫等により,進路相談の充実を図る。

5 小学校・中学校・高等学校の連携
 生徒一人ひとりが将来の生き方を主体的に選択・決定できるようにしていくには,小・中・高等学校が連携して長期的展望に立った指導を推進していくことが大切である。とりわけ,中学校・高等学校の緊密な連携が必要である。
 ○ 生徒理解のための小学校との連携を図る。
 ○ 生徒が,各高等学校の特色を理解できるようにするための高等学校との緊密な連携を図る。
 ○ 進路指導中・高連絡協議会の充実を図る。

6 家庭,地域との連携
 進路指導を効果的に推進するためには,学校・家庭・地域がそれぞれの役割に応じてその機能を十分に発揮し,連携・協力して取り組むことが必要である。
 ○ 中学校の進路指導のあり方や高等学校の特色等の情報提供により,保護者への啓発に努める。
 ○ 家庭,地域との連携・協力による啓発的体験活動の充実や,地域教育力の活用に努める。

III 中学校の進路指導の課題と具体的方策

1 中学校の進路指導と入学者選抜制度との関連
 このたびの入学者選抜制度の改正は,生徒一人ひとりの個性を多面的にとらえ,調査書の評定や学力検査などのいわゆる数値のみではなく,生徒の特性や長所に着目した制度とすることとし,生徒一人ひとりが,自らの進路希望に基づいて学校選択ができるような基本的な考え方に立って行われた。
 それらの改正の趣旨を踏まえ,これからの進路指導を進めるためには,生徒一人ひとりの能力・適性,興味・関心や将来の進路希望等を重視した指導を行うとともに,それらが効果的に進められるように学校,家庭,地域が,従来にもまして,生徒の将来について生徒を中心に据えて考えていくことが必要である。
 さらに,こうした進路指導を推進していくにあたっては,生徒の多様なニーズに応えていける特色ある高校づくりを踏まえるなど中学校と高等学校との緊密な連携が大切である。

2 具体的な方策
○ 進路指導資料の作成と活用
 教師用指導資料を作成するとともに,生徒用学習資料を作成し,進路指導での活用を図る。
○ 進路指導研修の充実
 進路指導担当者会議と進路指導研修会を通して,進路指導研修の充実を図る。






<別紙資料2>

高等学校の特色づくりについて(基本的方向)

I 特色ある高校づくりの基本的な考え方

1 高等学校教育のあり方
 高等学校段階の生徒は,青年期にあって,心身の両面にわたる発達が急激に進むとともに,自我の確立する時期にある。
 学校教育法においては,高等学校は「中学校における教育の基礎の上に,心身の発達に応じて,高等普通教育及び専門教育を施すことを目的」としており,その目的を実現するための教育目標のひとつとして,「個性に応じて将来の進路を決定させ,一般的な教養を高め,専門的な技能に習熟させること」と定められている。
 高等学校ヘの進学率が著しく上昇し,中学校卒業者のほとんどが進学する状況の中では、生徒一人ひとりが主体的に生活していくために必要な基礎的。基本的な知識・技能を習得させるとともに,多様な生徒の個性を一層伸ばしていくことが求められている。

2 特色ある高校づくりのあり方
 ○ 高等学校ヘ入学してくる生徒の,多様な個性を生かす教育を進めるとともに,生徒の能力・適性,興味・関心,進路希望等に応じて自主的に学校選択ができるよう,特色づくりを一層進めていく必要がある。
 ○ 各高等学校の特色は,地域社会や中学校に対する,それぞれの学校の「顔」となるものである。各高等学校はそれぞれの特色を,他の高等学校とは異なる学校独自のものとして,地域社会や中学校に理解してもらうように努めるとともに,高等学校に対する地域社会や中学校の期待や要望に応えることができるよう,地域に根ざし,開かれた特色ある高校づくりを進めていく必要がある。
 ○ 各高等学校における特色は,専門コースのような教科活動による特色から,部活動の伝統などによる特色づくりまで幅広いが,各高等学校での特色づくりは,教科活動を基盤としつつ,これまで進めてきた特色づくりをさらに充実させたり,現在もっている学校の個性や特色を顕在化させるなど,それぞれの実状に応じて進めていく必要がある。

II 教科活動による特色づくりの展開

1 特色づくりと入学者選抜制度
 各高等学校の特色づくりによって,中学生の多様な個性を生かした学校選択が行われ,また,各高等学校においては,多様な選抜尺度を積極的に活用した入学者選抜によって,個性豊かな生徒の入学が可能となり,その結果,各高等学校の特色づくりがさらに進むものと考えられる。
 入学者選抜にあたっては,それぞれの学科やコースをはじめ,各高等学校の教育目標等に応じた学校の独自性が生かされるよう,特色ある教育課程や教育活動などの教科活動に基づいた選考が行われることが望ましい。専門学科や専門コースについては,それぞれの特色が教科活動と深くむすびついており,その専門性に応じて教科活動の中から選考にあたっての基準が定められる。その他の高等学校にあっては,特色ある教科活動に基づく基準により,調査書や学力検査の結果とともに,入学を希望する生徒の能力・適性,興味・関心等を考慮した選考が行われることが望ましい。

2 今後の特色づくり
 これまでにも本県では,普通科での専門コースの設置や特色ある教育課程編成,技術革新等に対応した職業科高等学校での学科改編など,教科活動による特色ある高校づくりを進めてきた。また,各高等学校においても,特色ある教育課程の編成や類型の設置など,教科活動を通した特色づくりが行われてきたが,各高等学校においては,今後,他の学校とは異なる教育課程の編成や科目の設置などの工夫によって,教科活動の中での特色づくりを一層進める必要がある。


〔教科活動による特色づくりの具体的内容〕(実践例)
<専門学科>

{A高等学校}《専門分野について専門教育を行う学校》
・職業科高等学校において,工業科目を中心として職業に関する専門教科・科目を30単位以上学ぶ。
<専門コース>

{B高等学校}《体育コースを設置する学校》
・普通科高等学校において専門的な学習ができるよう,専門コース独自の科目として,「体育理論,一般スポーツ,野外活動」等を開設。
<総合学科>

{C高等学校}《普通科高等学校で総合学科を設置する学校》
・これまでの職業教育への取組みを,さらに発展させ,多様な選択科目を設置して総合学科に改編。
<類型の設置>

{D高等学校}《外国語に重点を置いた類型をもつ学校》
・特定の分野(外国語)を系統的に学ベるよう,類型科目として,「英会話,LL演習,第二外国語(フランス語,スペイン語,中国語)」等を開設。選択により,すべての生徒が学ぶ。
<選択幅の拡大>

{E高等学校}《特色ある,多様な教科・科目をもつ学校》
・生徒の多様な学習ニーズに対応して,「古典鑑賞,古典基礎,中国語,アジア史」のような特色ある科目を開設。
・3年次にすべての教科で,選択科目を計60講座開設。
<学校間連携>

{F高等学校}《2校間での学校間連携を行う学校》
・普通科高等学校2校間で連携し,相互の施設を活用するとともに,多数の選択科目を開設して,2校の生徒が共通して学ぶ。
3 特色づくりと中学校の進路指導
 各高等学校の特色が地域社会や中学校に十分理解されるとともに中学校の進路指導に適切に反映され中学生の学校選択に役立つものにするために,中学校・高等学校のより緊密な連携が必要である。

III 教科外活動による特色づくりの展開

 教科活動での特色づくりとともに,これまで本県では,各高等学校における特別活動や部活動等の,教科外活動での主体的で創意ある取組みへの支援を進めてきた。特別活動や部活動など教科外活動への取組みによって,学校の活性化や個性化が図られ,各高等学校の特色が一層幅のある多様なものとなることから,今後,各高等学校においては,教科外活動での特色づくりについても充実を図る必要がある。
〔教科外活動による特色づくりの具体的内容〕(実践例)
 (1)特別活動等での特色

{G高等学校}《委員会活動でボランティア活動を進める学校》
・福祉委員会による社会福祉活動,老人ホームでの奉仕活動
・「ボランティア活動」教科の設置
(2)学校の伝統等に基づく独自の特色

{H高等学校}《教育目標に位置づけて取リ組む学校》
・地域に根ざす学校づくリ……地域学習会,近隣中学校との交流会の開催
・国語「郷土文学」,地理歴史「郷土史」の開設

IV 特色ある高校づくりにあたっての留意点

 ○ すべての高等学校で,特色づくりに向けた取組みが進められること。
 ○ 特色づくりの成果が,結果的には学校全体の活動につながること。そのため,学校の実状等によっては,特色づくりのテーマが複数になることもあること。
 ○ 特色づくりが,地域社会や中学校に理解され支援されるようにすること。そのため特色づくりが,地域社会や中学校の声にも耳を傾けるなど,地域に根ざし,開かれた学校づくりの中で進められる必要があること。
 ○ 特色づくりが,将来にわたって継続されるよう配慮すること。

V 各高等学校での「魅力と特色ある高校づくりプラン(魅力プラン)」構想

 各高等学校における特色づくりの基本的考え方や,これからの取組みのあり方などを計画としてまとめ,今後の特色ある高校づくりに活用する。
 ○ 教科活動等において明確な特色をもつ学校では……
  平成6年度…………「魅力プラン」の作成
平成7年度以降……これまでの特色づくりの継続
 ○ 現在もっている個性や特色を顕在化させ,特色づくりを行う学校では……
  平成6年度…………「魅力プラン」の作成
  平成7年度…………特色づくりのための具体的方法検討
  平成8年度以降……特色づくりの計画的実施




1994年7月18日


「神奈川県公立高等学校入学者選抜制度改正大綱」

に対する見解


神奈川県高等学校教職員組合
執行委員長 山 際 正 道


 県教育委員会は、本日「公立高等学校入学者選抜制度改正大綱」を発表しました。
 さる5月19日に、この「改正大綱」に向けた「改善案(中間報告)」が示されました。私たちは、この「改善案」の方向は、95%以上高校進学という実態の下で私たちが追求してきた「希望者全入」「学校間格差是正」の立場から見て、実に大きな問題があるとし、抜本的な見直しを求めてきました。
 今回の「改正大綱」は、(1)「推薦制の拡大とくに普通科への導入は、いわゆる『青田買い』を招き、また中学生の間に不安と不信を増大させる」などの批判に対して、「専門コース以外の普通科の推薦制については『今後の課題とし、引き続き検討していくこととします』」としたこと、(2)「制度が複雑でわかりにくく不安だ」との声に対しては、調査書と学力検査の比率を各選考において同一とするなど選考方法を単純化したこと、(3)学区制については、「学区外枠の拡大」・「隣接学区規定の導入」を断念したことなど、中間報告に対する私たちの指摘や県民からの批判、不安の声に一定応えたものといえます。
 しかし、私たちが高校の立場から最も問題があると指摘してきた「複数志願制」については、その基本的構造を変えませんでした。
 この「複数志願制」が現在の学校間格差を放置したままで導入されれば、第1希望集中校、第2希望集中校など「学校間格差の新たな姿」を作り出す懸念があります。
 また希望重視、個性重視と言っても、中学生の「能力・適性、興味・関心、進路希望」と受け皿としての高校の「特色」が数の上で完全に合致する事は困難です。もし受検生本人が自らの希望・興味・関心などと異なる高校を志願せざるを得なかったり、中学側が無理して調整したりすれば、結果的に不本意入学を大量に生み出すことになります。
 さらに複数志願できたとしても、第1希望の枠は80%であり、本人の真に希望する進路が保障される幅は狭くなります。競争が一層激化することが予想されるとともに、このことも結果的には不本意入学をより多く生むことになります。
 この「改正」を高校側から「保障」しようとするための「特色ある高校づくり」の推進も大きな問題です。とくに普通科専門コースに推薦制が導入されることにより、各学校での充分な検討を待つことなく、「特色ある高校づくり」として専門コース拡大が強要されることが懸念されます。
 これらの点から今回の「改正大綱」は、現在の高校諸課題解決の視点からは問題あるものといわざるを得ません。
 今後私たちは、残された実施上の諸課題について解決に努めるとともに、私たち自身の中にも持つ「適格者主義」を克服しつつ、高校入試改革の基本姿勢(希望者全入、学校間格差是正)に立って、だれもが安心して高校に進路を求められる制度の確立を求め、とりくみを一層強化していきます。
 最後に今回の入試選抜制度の改革によって、いたずらに中学生の間に不安・不信と競争を招かぬよう、それぞれの立場のみなさんに訴えます。
 とくに県教育委員会には、どの高校でも「生徒一人ひとりが、自らの個性にあった学習内容を選び、個性をさらに伸ばすことのできる教育を行う」(5/15新構想高校設置趣旨より)ことのできる教育諸条件の整備を強く求めるものです。
















第VIII期  高校教育問題総合検討委員会

グループ氏名分会
教育課程海野範幸相台工
柳川 弘神工
中野直人都岡
井出浩一郎田奈
山本真理子翠嵐
海老原正子二俣川
渡辺 顕横須賀工
藤井幹夫川崎工(定)
山田 寛横須賀工
島村照一岡津
田中紀雄光陵
飯川 賢汲沢
教育条件早川芳夫向の岡工
永野広務緑ケ丘
三橋正俊中沢
谷中達夫市ヶ尾
山口清隆保土ヶ谷
川本一雄保土ヶ谷
米山 謙向の岡工
三浦 格柏陽
大浜信宏釜利谷
横山常昭城北工(定)
学区・入選本間正吾川崎北
小野寺厚志保土ヶ谷
溝口一朗大船
三浦真澄中沢
和智匡雄川崎(定)
山崎 譲足柄
小山晴美新磯
秋山 崇長後
事務局小川眞平商工
高瀬匡雄向岡工(定)
金沢信之柿生
佐藤 治横須賀(定)
(〜94.3)
顧問中野渡強志相工台(定)
(注)分会名は、1995年3月現在。

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