I.公立高校募集計画の問題点
1.96年度入試による各学区の全日制進学率の特色
2.全日制進学率と全日制進学希望率の変化
3.公立普通科進学率と公立普通科希望率の変化
II.生徒減少期の高校入学者募集計画
1.希望者全入を実現する公立高校進学率
2.普職比率の適正化・職業科の適正配置と学区について
3.公立高校入学者募集計画と私学入学者の関係
4.希望者全入を可能とする入選制度と教育条件整備
III.教職員定数の抜本的改善に向けて
第6次高校教職員定数改善計画への要求案
資料編
A.公立普通科高校の学級数試算 (略)
1.生徒数・学級数・教員定数試算の条件
2.各学区毎の学級数試算
3.公立中学校卒業者数(グラフ)
4.全日制進学率(グラフ)
5.県内私学への進学率(グラフ)
6.県外への進学率(グラフ)
7.公立普通科高校への進学率(グラフ)
8.公立職業科高校ヘの進学率(グラフ)
B.学区毎進学率グラフ
図1.全日制進学率と全日制進学希望率の変化
図2.公立普通科進学率と公立普通科希望率の変化
C.全日制進学希望率と実績(95年10月調査と96年5月実績)
表1 全日制進学率が高い学区・低い学区
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全日制進学率の学区間格差は92〜95年度が6.5%前後であったものが、96年度では学区間で最大7.9%の差に拡大した。4000人規模の学区を想定すれば、学区間で320人も全日制への進学者数に差があることになる。単純に全日制進学率の学区間格差から公平不公平を論じることはできないが、全日制進学率が低い学区がなぜ生まれてくるのかは分析する必要がある。また、この点を是正していかないと県全体の全日制進学率の上昇も見込めない。
2.全日制進学率と全日制進学希望率の変化
図1に全日制進学率と全日制進学希望率(県教育委員会による調査、公立中学校卒業予定者を対象に前年度11月1日に実施、以下全日制希望率)を示した。県全体では、ここ数年全日制希望率は95%を上回っている。一方、全日制進学率は91%を上回っていたが、96年度では90%台に低下してしまった。
全日制希望率は学区ごとには、平塚・川崎北部で96%を越えて高く、横須賀三浦も96%近くまで上昇してきている。それにたいして、川崎南部・鎌倉藤沢・茅ヶ崎・相模原南部は94%近くになるなど96年度の低下が顕著である。相模原北部は95%を越えたことがなく、96年度では93%近くまで低下している。
全日制進学率は横浜北部・横浜西部・川崎南部・鎌倉藤沢・相模原南部でここ数年低下した。特に、横浜北部・川崎南部は3%以上低下している.また、相模原北部は90%を越えたことがなく、96年度では87.4%と低くなっている。これに対し、学区内の高校数が少ない茅ヶ崎・秦野伊勢原では、学区内の全日制進学率を上昇させる要因になる職業高校が、学区内にないことによるマイナス点を持つにも関わらず、全日制進学率は比較的高くなっている。
次に、全日制進学率と全日制希望率の関係を分析する。横須賀三浦・県西・川崎南部では、全日制進学率と全日制希望率の変化に相関がみられる。横須賀三浦では全日制希望率と全日制進学率が同時に上昇している。県西では全日制希望率と全日制進学率が同じように変化している。川崎南部では全日希望率と全日進学率が同時に低下している。その他の学区では全日制進学率と全日制希望率の変化に明確な相関があるとはいえない。横浜西部・横浜中部・横浜北部は、全日制希望率はあまり変化していないのに対して、全日制進学率が低下している。特に、横浜北部・横浜西部はこの傾向が数年続いている。
以下に特徴的な学区をいくつかあげて、さらに詳しく分析する。
(1)全日制希望率に変化があまりないのに、全日進学率が低下傾向にある学区
「横浜北部」 全日制進学率は90年度の94.9%を最高に、89〜93年度にかけて94%を越える高い値を示し、希望者全入に近い状況が生まれていた(図1)。しかし、96年度には91.1%までていかしてしまった。この間、全日制希望率は95〜96%で推移し、94・95年度に急激に低下しているわけではない。では、なぜ全日制進学率は低下してしまったのであろうか。
表2 進学者数比較 横浜北部
90年度 | 96年度 | 増減 | |
中卒者 | 5162 | 4473 | -689 |
公立普通科定員 | 2595 (特例80) |
2162 (特例85) |
-443 |
公立普通科進学者 | 2497 | 2037 | -460 |
仮定普通科進学者増減 | -345 |
県内私立ヘの進学は90年度の18.5%から、96年度ほ21.0%に、同様に県外ヘは18.1%から、19.9%に若干上昇している。逆に、公立普通科率は55.0%から45.5%ヘと大きく低下している。一方、希望率は90年度には公立普通科73.5%、県内私立10.2%、県外9.0%、96年度には公立普通科68.9%、県内私立12.2%、県外9.7%になっている(ともに中卒予定者数の内数)。また、公立普通科ヘの進学希望は91年度以後ほとんど変化していない。 このことから、進学希望校種と実際の進学先とのアンバランスが、全日制進学率を低下させる原因になっていると推定できる。
次に、進学者数で検討する(表2)。全日制進学率のピークである93年度と96年度を比較すると、中卒者は689人減少している。これに対して、公立普通科の入学定員は、443人(進学者は460人)少なくなっている。この数と「仮定普通科進学者増減」−345人を比較すると、98人多く公立普通科の定員が減らされている(同様に、それまで公立普通科ヘ進学できたであろう115人が、他の校種や他の方向への進路を選ばされている)ことがわかる。 98人は、この学区の進学率1.9%に値し、この間の全日制進学率低下3.6%のかなりの部分を占めている。
このように、この学区では公立普通科の入学定員の過剰削減が、進学率の低下を招いたことがわかる。近年、県当局は公立普通科の入学定員を大きく減らし、県内私立や県外を漸減する方式をとっている。その結果、進学希望校種と実際の進学先とのアンバランスが増大し、全日制進学率の低下を招いていることが推定される。 上記の事柄に進路希望調査を考えあわせれぱ、公立普通科の枠を進路希望調査に見合うように確保すれば、この学区の全日制進学率は回復すると思われる。
(2)全日制進学率が低い学区
「相模原北部」 この学区の全日制進学率は96年度まで90%を越えていない。 93年度の89.7%が最大である。さらに、96年度は87.4%と大きく低下した。一方、他の学区に比べて若干低いものの、全日制希望率は94%以上ある(図1)。
表3のように公立普通科の実績は60%台前半で、低下は数年続いており、低下幅も大きい。しかし、公立普通科進学希望は70%台前半で、むしろ上昇気味である。また、県内私立は希望が5〜6%であるのに対し、実績は8〜9%になっていて、実績は希望を大きく上回っている。県外は希望が7〜8%であるのに対し、実績は11〜13%となっている。交通の利便性からか、県外ヘの進学率は増えているが、希望率は必ずしも増加していない。
さらに、全日制進学率が過去最高であった93年度と96年度を、進学者数で比較する(表4)。中卒者は673人減少している。これに対して、公立普通科の入学定員は499人(進学者は504人)少なくなっている。 この数と「仮定普通科進学者増減」−444人を比較すると、45人多く公立普通科の定員が減少されていることがわかる。この45人は、この学区の1.1%の進学率に当たり、全日制進学率の低下2.3%の約半分になる。また、公立職業科への進学が、95年度から96年度にかけて、1%近く低下したことも全日制進学率低下の原因になっている。なお、公立職業科ヘの進学率の低下は、隣接学区の工業科の学級減が影響していることが推定される。この学区は全日制進学率が低いこと以外に、専修学校への進学や就職が多いことが特徴になっている。96年度の中卒者の進路状況で、他の学区と比較して顕著であるのは、専修学校 4.8%、就職者2.3%である。特に、専修学校ヘの進学は、非常に多くなっている。希望が2.5%と他の学区より、多くなっていることも要因になるが、希望以上に進学実績が多いのは、全日制高校の募集数が少なすぎることを反映していると思われる。
表3 進路状況(進学率)と進路希望状況 相模原北部 (%)
92年度 | 93年度 | 94年度 | 95年度 | 96年度 | ||
公立普通科 | (希望) | 72.2 | 73.1 | 74.0 | 73.3 | 74.8 |
(実績) | 63.6 | 62.4 | 61.2 | 60.3 | 60.3 | |
県内私立 | (希望) | 5.5 | 6.6 | 6.4 | 6.0 | 5.3 |
(実績) | 8.0 | 9.2 | 9.3 | 9.3 | 9.4 | |
県外 | (希望) | 8.5 | 8.0 | 6.9 | 8.1 | 7.0 |
(実績) | 10.8 | 12.4 | 12.8 | 13.1 | 12.7 |
表4 進学者数比較 相模原北部
93年度 | 96年度 | 増減 | |
中卒者 | 4685 | 4012 | -673 |
公立普通科定員 | 2930 | 2431 | -499 |
公立普通科進学者 | 2925 | 2421 | -504 |
仮定普通科進学者増減 | -444 |
90年度 | 96年度 | 増減 | |
中卒者 | 8708 | 5951 | -2757 |
公立普通科定員 | 5091 (特例45) |
3271 | -1775 |
公立普通科進学者 | 5026 | 3254 | -1772 |
仮定普通科進学者増減 | -1516 | ||
私学進学者 | 1871 | 1508 | -263 |
仮定県内私学進学者増減 | -634 |
図2に、公立普通科進学率と公立普通科希望率(全日制進学希望率と同じ調査)を示した。県全体では、公立普通科希望率は72%の前後で推移し、93年度以後、若干増加している。近年、マスコミ等で「公立離れ」がいわれているが、公立中学卒業予定者の進路希望でみる限りは、そのような傾向はなく、むしろ公立普通科ヘの希望が増えている。しかし、実際の公立普通科進学率は、90年度以後低下しており、96年度には55%になっている。県全体だけでなく、いずれの学区においても、90年度以後、低下の傾向にある.このように、近年の公立普通科進学率は、公立普通科進学希望率とは逆の傾向を示している。このことが全日制進学率を低下させる要因になっていると考えられる。中学卒業予定者の進学希望にそうためには、この差を少なくする必要がある。特に、この差が大きい学区は、公立普通科の学級減を少なくするなどの対策が必要であると考えられる。
学区ごとには、川崎南部(60%)、川崎北部・横浜北部(70%)が公立普通科希望率が低く、秦野伊勢原は80%をこえて高い。この原因として、川崎南部は公立職業希望が21%と多く、川崎北部・横浜北部は県内私立・県外への希望が多いことが特徴になっている。また、秦野・伊勢原は学区内に職業高校がないこと、私立が学区内にないこと、通学時間から、県外へ通学しにくいことなどが、公立普通科希望率を高める要因になっていると考えられる。このように、その学区内にある職業高校、通学可能な県外の高校などが公立普通科希望率や進学実績に影響を与えている。
これらの要因の中で、職業高校の分布が偏っている問題は県独自で解決が可能なものである。つまり、職業科を適正配置し、学区ヘの位置づけることが、全日制進学率を高めるために、必要であることが指摘できる。
4.まとめ
96年度入試で全日制進学率を大きく下げた原因は、私学への多すぎる計画値と公立普通科の少なすぎる計画値にある。また、96年度入試では、公立職業科の学級減の進学率ヘ与える影響の考慮が足りなかったことも指摘できる。ここ数年、急減期の中で、県当局は私学の計画値を、前年度実績より多くしてきたが、私学ヘの進学者は計画値に達していない。また、公立普通科の比率が高い学区においても、入学定員減を「仮定普通科進学者増減」より多く行ってきた。このような計画が、ここ数年続いたことにより、全日制進学率の低迷が続いている。
各学区の進路状況には慣性が働いている考えられる。つまり、過去の進路実績が中学卒業予定者の進路希望に反映している。このため、県当局が過去の実績を基に計画を練ればその学区の傾向はそのまま残ってしまう。さらに、一度低下した全日制進学率を、放置すればその傾向が続いてしまう。現在の県全体の進学率を策定し、それを基に各学校の入学定員を決めるやり方では、どこかの学区で進学率が上昇すれば、他の学区が低下するという現象を招きやすい。県全体の進学率は上昇を進めるには、各学区ごとに全日制進学率の低下を招かないように計画を策定し、それを基に県の計画値を策定する積み上げ方式を行う必要がある。
以下、全日制進学率を上昇させるために提言をする。
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1.希望者全入を実現する公立高校進学率
96年度の公立高校ヘの入学予定進学率が92.5%で、全日制高校への進学結果によると進学率90.9%にとどまっている。しかし、神奈川県教育委員会による毎年10月の中学3年生を対象にした進路希望者調査によるとほぼ96%が全日制高校ヘの進学を希望している。希望者全入を実現するならぱ中学3年制の進路希望が決まる時期の進路希望調査での全日制高校進学希望者の実数をもって計画進学率を考えるべきだ。そこで希望者全入を実現するためには全日制高校への進学率を96%以上にしなければならない。 (資料C 全日制進学希望率と実績参照)
2.普職比率の適正化・職業科の適正配置と学区について
(1)公立職業科の35人学級の早期実現を
中学卒業生が最大値となった1989年、全日制進学者に対する公立職業科入学生の割合は最低の7.8%となった。減少期に入って以降、生徒減少分のほとんどを公立普通科で減らしたため、相対的に職業科はその割合を増やし、96年度には9.5% となった。10月に実施される県の中学3年生の進路希望調査によると、公立職業科への希望率は89年度入学生で8.6%、95年度9.1%、96年度9.8%となっている。このことから見ても、生徒の進路希望との整合性をほかるためには、現在の職業科の入学定員枠を数ではなく、率で維持していくことが必要である。職業科においては、96年度に工業科の学級減を実施した。そのため95〜96年の職業科入学枠は、中卒生徒の急減にもかかわらずほとんど変化しなかった。しかし、今後も中卒者の減少は続く。現在の学級数を維持すると、2004年度にほ職業科率が約11%にまで拡大する。このまま中卒者減を普通科の募集定員減のみによって対応してしまうと、結果的に不本意入学者を作り出し、中途退学者を増やしてしまうことにつながりかねない。それを防ぐためには、公立職業科の定員枠を現状 (9.5%前後)の率で固定する募集計画の策定が必要である。そのためには、第5次定数改善計画で見送られた職業科の35人学級の早急な実現が必要である。
(2)職業科の適正再配置と学区制の導入を
1973年に始まる100校計画の中で、職業高校は1973年度開校のわずか1校しか作られなかった。普通科高校がその間99校(他に単位制高校1校)が作られ、学区も分割されたことから、横浜北部・茅ヶ崎・秦野伊勢原・大和座間綾瀬の4学区には職業高校が1校もない状況となった。職業科には学区制が無いとはいえ、実際には職業高校の多い学区では職業科への進学率が高く、職業高校のない学区では職業科ヘの進学率は低い。生徒は居住地に近い学校への進学を望むために、このような結果となっていると考えられる。実際に、職業高校の無い前記の学区では、1996年度の職業科進学率は、それぞれ4.9%、8.2%、7.3%、7.4%と、いずれも平均値の9.5%よりかなり低くなっている。それに対し職業高校の多い5つの学区では、横浜東部9.6%、川崎南部15.6%、横須賀三浦12.8%、平塚17.6%、県西14.8%と、いずれも平均値を上回っている。全日制進学率の高い上位5学区を見てみると、平塚95.3%、横須賀三浦92.6%、川崎北部92.5%、県西92.1%、秦野伊勢原92.0%と、職業科高校の多い3つの学区が入っている。このことからも、職業高校が学区内に多いことが、進学率を高くする大きな要因となっていることが伺われる。職業科の多い学区は、その分だけ開門率が高く設定されていることと等しいこととなり、県民に教育の機会を平等に保障していないこととなってしまう。現行の職業高校の配置を見直して、適正な再配置を行わなければ、県民に教育の機会均等を保障した事にはならないのである。 生徒達は、職業科ヘの進学も出来るだけ近い高校への進学を希望している。このことからも、職業科を全て全県学区とすることは意味のないことといえる。職業科の適正な再配置を行うとともに、基幹学科にまとめた上で学科毎の学区制を導入することが、生徒達に平等な進路保障を実現することになるのである。(数値は1996年度)
3.公立高校入学者募集計画と私学入学者数の関係
1988年から96年までの全日制高校進学者の中の私立進学率をみると18.6%から22.3%の間にある。96年度の進学計画の私立進学予定者が18,500人であったにもかかわらず、96年度実績は16,328人になっている。もしも、進学率の計画を策定する段階で私立ヘの進学者を18,000人に固定して試算すると全日制高校進学者の中で私立進学者の比率は2001年には25%、2004年には27%になる。県外私立ヘの進学者を合わせて考えるとさらに大きな比率になる。
進路希望調査での県内私立への進学希望者が中卒者の9.3%であることや、93年度から96年度までの私立への実績進学率からすると、18,000人という私立入学予定者の枠を今後も確保し続けるならば公立高校の入学者予定数が減少し、中学生や保護者や県民の要求と離れてしまう。希望者全入が既存の施設の活用で実現できる時期になるにもかかわらず、私立高校への進学者数を現状維持するならばが私たちが求める方向とは遠い状況になってしまう。 私学への計画進学者数を人数で策定しているにもかかわらず、実際の進学者は予定数より少なくなっている傾向がある。この事によって県全体の進学率が低下している。つまり、ここ数年の全日制高校全体の実績進学率の減少という事態と今後も続く中卒者の減少から県内私立ヘの進学率を見直す必要があると考えるべきだろう。今期高総検教育条件グループでは私立ヘの進学者数を試算する前提に、ここ数年の実績から全日制進学希望者の22%程度を県内私学進学率とするのが妥当ではないかと考えた。同時に私たちは生徒減少期は公立高校のみならず私立高校においても教育条件整備が実現できる機会であると考える。一学級の生徒数の減少や私学助成のありかたの改善などが今後は必要になるだろう。
※注記 今年度私立高校入学者数に関しては公立高校の入選制度改悪の影響でここ数年の傾向と違っている。こうした事態は一時的な事と考えられるので、96年度入学者までの数値をもとに考察した。97年度以降の状況については今後、考察していきたい。
4.希望者全入を可能にする入選制度と教育条件整備
現在、課題集中校の問題状況が進学率96%になった時、今の学区と新入選制度を前提にしたならばいろいろな問題状況が予想される。しかし、地元集中か一学区5〜6校での総合選抜が確立しているならば課題集中校自体が存在しなくなり、課題集中校問題自体がなくなる。高校希望者全入が可能になったならぱ入学者選抜を残すことは学校間格差を残すことにつながるだろう。だが入選改革と学区縮小ができないならば、進学率の上昇に伴い課題集中校ヘの定数加配と予算の傾斜配当さらには学級定数の弾力化といったことが必要になる。希望者全入が可能ならば教育条件のいっそうの充実がもとめられる。
1.35人以下学級の実現に向けて
1993年度に始まる第5次改善計画も終盤を迎え、1999年度以降の第6次改善に向けて我々としての改善要求をまとめるべき時期となった。第6次改善計画は、21世紀を迎える新たな高校教育を創造する視点での定数改善計画としなければならない。さらに、新制高校が発足して半世紀が過ぎ、新たなる半世紀に対応しうるような、将来を見据えた先進的計画とする事が求められている。その意味で、教育現場の要求に根ざした第6次改善計画要求の策定を求めていかなければならない。
第5次改善計画において、文部省は長年の国民的要求であった高校40人学級をようやく実現した。40人学級は、1948年に制定された高校設置基準に定められたもので、45年も遅れてようやく設置基準を満たしたのである。新制高校は、当時の敗戦直後の財政状況や施設の不足によって、40人学級の甲号基準ではなく、5年間の暫定計画として50人学級の乙号基準によって出発した(実際にはさらに詰め込みを行っていた)。しかしその後、半世紀もの間、本来の定数基準である40人学級実現をサポってきた行政の責任は大きいと言わざるを得ない。
農・水・工の職業科については、1962年の定数法の制定時に甲号基準の40人学級を実現した。一方、普通科・商業科などは乙号基準の50人学級のまま放置され、1967年からの第2次改善計画で、半数の「過密県」を2年遅らせての1名づつの年次漸減方式によって、7ヵ年で45人学級まで学級規模を縮小した。しかし、74年からの第3次改善、80年からの第4次改善においても学級規模は45人に据え置かれただけでなく、「過密県」においては47‐48人の詰め込み学級を容認したのである。加えて、第4次改善計画は12年という超長期計画であり、さらに第5次改善のスタートを1年遅らせる措置を取ったのである。このように、これまでの定数改善計画は、子ども達によりよい教育条件を保障するという観点からでなく、財政最優先の施策でしかなかったのである。このように、日本が世界第2の経済的先進国であったとしても、こと教育条件の側面から見ると、半世紀も立ち後れた「教育後進国」でしかないのである。この半世紀の間に欧米では25人〜30人学級が常識化しているのである。我々は、21世紀に向けて新たなる学級規模の縮小に早急に取り組まねばならない。半世紀も前に定められた高校設置基準でも、一学級「40人以下」と定めているのである。第1次改善以来放置されてきた農・水・工などの職業科の学級規模改善はもちろんのこと、全ての学科での35人以下学級の早急な実現と、さらに欧米並の25〜30人学級の実現が求められている。
いじめ問題や不登校、様々な問題行動の解決、基礎学力や考え・創造する力の不足など、高校教育に課せられた課題は、半世紀前とは問題にならないぐらい大きなものとなっている。しかも、高校進学率もこの間急激な増加を見て、実質的に準義務教育的な状況となっているのである。にもかかわらず、政府・文部省が半世紀前の学級定数基準すら達成してこなかったことが、今日の日本の教育の「荒廃」を作り出してきたと言っても過言でないだろう。
高校進学率が90%を越えて10年が経過した。1988年をピークに中学卒業生は減少に転じ、今後14年間は減少を続け、特に大都市域においては、激減とさえいえる状況となっている。これらを考えると、今こそ日本の立ち後れた高校の教育条件を、「欧米並み」に改善する最大のチャンスである。そして、学級規模の縮小こそが「ゆきとどいた高校教育」を実現する道である。高校定数第6次改善において、35人学級を実現させることがその第一歩となるのである。
2.教諭基礎定数の改善による教職員定数改善を
第5次定数改善では教諭基礎定数(9条2号)の改善は見送られた。第4次改善でも、それまで生徒数を基に教職員定数を算定していたものを、学級数を基に算定することとしたが、基本的には定数改善は行われなかった。一方、教頭定数は、第4次改善で6学級以上のすべての課程に配置され(それ以前は教諭定数に含まれていた)、第5次改善ではさらに30学級以上の課程に複数配置が行われた。この間学校規模加配や多様化加配などの改善は行われたものの、学校規模による基礎定数の改善が行われなかったために、24学級以下の学校の定数が学校運営上必要な人員を保障するものとはなっていないままに放置されてしまった。この間の定数改善が、規模加配による大規模校を中心としてきたことと合わせ考えるとき、第4次、第5次改善計画は、「管理強化・差別選別教育・安上がり教育」の文部省の一連の政策に合致したものでしかなかったと言えよう。また、高校設置基準において、最低保障教諭定数を12名としているが、現定数法では5名でしかない。最低保障を少なくとも設置基準の12名以上とした上で、教諭の基礎定数の算定基準の抜本的見直しが必要である。
3.問題の多い大規模校のみの学級規模加配
第5次改善計画で、学校規模加配をそれまでの全日制のみから、定時制・通信制にまで拡大したことは評価できる。しかし、全日制の規模加配が27学級以上(18〜20学級含む)の大規模校のみに行われたことは、生徒減少期においての改善計画だけに、実態に則さない矛盾したものとなっている。
4.実態に合わない定数改善
第5次改善のもうーつの特徴は、第4次改善に続いて高校多様化をさらに推進する改善計画であることだ。職業科においては、新カリキュラムの実施に合わせて、「課題研究」のために各校1名の改善を行った。しかし、課題研究を6〜8学級で実施すれば、少なくとも3人〜4人の定数改善が必要であることからすると、この程度の定数改善では不十分と言わざるを得ない。新たに福祉、外国語・国際関連などの学科に加配措置を行い、さらに、普通科ヘの多様化加配を新設した。これは、これまで文部省が進めてきた単位制やコース制などに対応する措置である。しかし、必要なのは単位制やコース制といった多様化した学校のみへの定数改善ではなく、選択科目の拡充など個々の生徒の多様な希望に対応しうる教員配置を可能とするような、普通科すべてヘの加配措置が必要である。 総合学科への加配措置が、学科がスタートして1年遅れて行なわれた。文部省が当初総合学科に1.5倍の定数を配置するとしたものは約1.25倍に止まり、その結果、職業高校から総合学科に移行した学校は定数減となり、職場に混乱をもたらしている。97年度から「実習助手」の加配措置が新設されたが、教諭を配置せず差別的職種としての「実習助手」を配置し、さらに産振手当や実習教諭ヘの免許取得が不明確など大きな問題を内包している。
5.事務職員定数の抜本的改善を
事務職員定数の改善は第5次改善においても実質的に見送られた。実質的というのは、司書にあてる12条2号は、18学級以上から12学級以上ヘと改善されているからであるが、これとても第4次改善においては全く手がつけられなかったことを考えると、18年間でわずかこれだけの改善しか行わなかった、と言った方が正確であろう。
事務職員定数は、高校設置基準と現定数法では以下の表の通りである。
高校 設置基準 |
学級数 | 1〜3 | 4〜9 | 10〜15 | 16〜21 | 22〜27 | 28〜33 |
設置基準定数 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | |
現定数法 | 学級数 | 1〜5 | 6〜14 | 15〜23 | 24〜32 | ||
現定数 | 1 | 2 | 3 | 4 |
7.全ての学校に専任司書教諭の配置を
今の日本の学校教育の中で最も欠けているものは、自ら考え、創造する力だと言われている。教えられたことをそのまま暗記させるだけの教育ではだめなことは、様々な立場から指摘されている。しかし、そのためにはそのような教育を可能とする場としての学校図書館の充実と、学校図書館で専門的に指導する教員の人的配置が必要であることは当然である。そのためには、図書館専任司書教諭の配置はどうしても必要である。
8.現業職員の定数法化を
現業職員は教職員定数法には定められておらず、地方交付税の算定基礎に18学級の標準規模校一校について「その他職員」として4名が配当されているにすぎない。そのため定数削減攻撃に直接さらされることが多い。学校教育の中で現業職員の果たしている役割は、単に環境整備に止まらず、生徒指導を含む学校教育に大きな役割を果たしている。現業職員の重要性を認めさせ、制度の確立と、定数法に現業職員定数を定めるための法的整備が必要である。
9.矛盾する特別指導加配
第5次高校定数改善計画で、中途退学生徒の増加に対応するために、特別指導加配が新設された。しかし、中途退学者の数が21人以上と決められているために、教職員が努力して退学者を減らすと加配が無くなるなど矛盾したものとなっている。特別指導加配は、県に一定の定数(1課程当たり最低2名)を確保した上で、実情に応じて必要な人員が各校に配置できるようにすべきである。
10.障害者加配の新設と、在日・滞日外国人加配の改善を
進学率が全国的に94%を超え、実質的に高校教育が希望全入に近づいている中で、障害を持つ生徒が一般の高校に進学してくるケースが増えている。しかし、現在の高校定数法では、障害を持つ生徒を受け入れるのに必要な人員は配置されていない。そのため、教職員の過重負担や保護者ないしはポランティアの自主的努力に頼っている状況である。障害を持つ生徒の教育を保障するためには、生徒の障害の度合いに応じた教職員や介助員の配置が必要となっている。 また、日本語を十分に話せない生徒ヘの対応として、第5次改善でおおむね5人以上生徒がいる場合に限って日本語の特別指導加配が措置されることとなった。しかし、5人以上がまとまって入学することは滅多になく、「帰国子女」の特別枠を募集する学校のみに配置されている。多くの在日・滞日外国人が地元の学校に入ることを望んでいることから、1人でも日本語が困難な生徒がいれば加配するようにすべきである。
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実習施設・実習船・自営者養成加配はこれまでと同様とするが、教諭加配に一本化する。また、その他の職業科の加配についても改善を図る。
川崎北部 |
川崎南部 |
凡例 |
横浜臨海 |
横浜南部 |
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横浜中部 |
横浜西部 |
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横浜北部 |
横浜東部 |
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大和座間 |
厚木海老名 |
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県西 |
秦野伊勢原 |
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平塚 |
茅ヶ崎 |
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鎌倉藤沢 |
横須賀三浦 |
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相模原北部 |
相模原南部 |
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県全体 |
川崎北部 |
川崎南部 |
凡例 |
横浜臨海 |
横浜南部 |
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横浜中部 |
横浜西部 |
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横浜北部 |
横浜東部 |
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大和座間 |
厚木海老名 |
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県西 |
秦野伊勢原 |
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平塚 |
茅ヶ崎 |
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鎌倉藤沢 |
横須賀三浦 |
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相模原北部 |
相模原南部 |
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県全体 |
注:印刷物には誤りがあり、このWeb版では数字を訂正している。なお、出典は、神奈川県教育委員会「神奈川の教育統計」である。
進学希望 (95.10.1) | 進路状況 (96.5.1) | ||||||
全日制 希望 |
全日制 高校 95.0% 76,416人 |
県 内 |
公立 82.4% 66,286人 | 全日制 高校 90.9% 73,231人 |
県 内 |
公立 63.2% 50,948人 | 全日制 進学 |
私立 8.8% 7,049人 | 私立 20.3% 16,328人 | ||||||
県外国公私立 3.8% 3,081人 | 県外国公私立 7.4% 5,955人 | ||||||
高等専門学校 0.1% 41人 | 高等専門学校 0.1% 43人 | ||||||
定時制 希望 |
定時制 高校 0.4% 317人 |
県 内 |
公立 0.4% 302人 | 定時制 高校 2.0% 1,574人 |
県 内 |
公立 1.9% 1,509人 | 定時制 進学 |
私立 0.0% 2人 | 私立 0.0% 22人 | ||||||
県外国公私立 0.0% 13人 | 県外国公私立 0.1% 43人 | ||||||
通信制高校(県内0.2 県外0.1)226人 | 通信制高校(県内0.9 県外0.9)1,439人 | ||||||
高等学校別科・専修学校等 1.0% 981人 | 高等学校別科・専修学校等 2.4% 1,965人 | ||||||
盲ろう養護高等部 0.5% 424人 | 盲ろう養護高等部 0.6% 475人 | ||||||
就職希望・その他の進路・進路未決定 2.6% 2,053人 | 就職・無業者・その他 2.3% 1,852人 |
全日制県内公立 | 全日制県内私立 | 全日制県外国公私立 | 定時通信専修養護等 | 就職・進路未定・その他 | |
進路希望 | 82.4% | 8.8% | 3.8% | 2.4% | 2.6% |
進路状況 | 63.2% | 20.3% | 7.4% | 6.8% | 2.3% |