高総検レポート No 14−2

1992年11月9日発行

「高校多様化」政策を批判する!

―中教審答申 批判 ―

高総検レポート14-1より続く)

教育条件整備

 答申は「第I部 改革の背景と視点 第3章 改革の視点 (1)高校教育改革の視点 ア量的拡大から質的充実へ」の中で,

 今後の高等学校は,第2次べピープームの波が通り過ぎて生徒数の減少期を迎える。従来は量的な拡大に対応することに追われていたが,今後はこの面での負担はむしろ軽減される。これは高校教育を量から質へ転換する最大の好機であるともいえる。今後は,施設や教職員を充実して,生徒の選択幅を拡大し,その個性を十分に伸ばすために,高等学校を質的に充実させることが望まれるのである,
と,生徒急減期を「高校教育を量から質へ転換する最大の好機」としている。しかし中教審が答申している「量から質へ」の教育条件の整備とはどのような事を意図したものであろうか。
 これを受けた「第II部 後期中等教育の改革とこれに関する高校教育の課題 第1章 高校教育の改革 第5節 支援措置」の中で具体的に示された方策は問題が多い。まず現在でも不十分な日本の全国的な教育条件の向上については今後も堅持するとしているが,具体的な記載は学級編制のみである。
 学級編制については,

 普通科等は1学級45人とされているが,今後の生徒数の推移等を踏まえつつ,例えば,40人に改善することが望まれる。その際には,固定的な学級編制にとらわれることなく,教科やその内容に応じて適宜適切な学習集団が編成できるような弾カ的な制度とする。
と述べている。学級規模の縮小は最大の教育条件の改善であるが,40人学級は第4次教職員定数改善計画の中で実現すべきもので,既に完成した小中学校の40人学級は実質的には35人前後の生徒数であること,世界的にみて学級編制基準はほとんどの国が35人以下であることなどから教育条件の整備を掲げるなら当然35人学級をとりあげるぺきなのである。
 また弾力的な学級編制については「習熟度別学習」や選別による「少人数学習」を進めるためのもので問題が多い。さらにこれによって全体の学級規模の縮小が進展しなくなるのであれば問題である。
 全体的な教育条件としての進学率については,「背景」の中で「同年齢の95%を受け入れる」として上昇してきた事実を示した。それに伴い高校の性格が「国民的教育機関」に変わってきた点も指摘してきている。しかし「改革の視点」には生徒減少期に施設に余裕が生まれてくるにもかかわらず「国民的教育機関」になったとしている高等学校をより開かれた学校にするための方策は示されていない。答申の「量から質へ」の教育条件整備は進学率の上昇,希望者全入,障害者の普通高校への入学など,すぺてのこどもに高校教育を保障する視点から考えられていないことが明らかである。
 このように総ての学校への同一条件での教育条件の質の向上の記載は学級編制の部分しかなく,中教審のいう質の向上は、総ての学校への教育条件の充実より,「特色ある学校づくり」,「個性化」を推進するための条件整備に重点がおかれ,その点を中心に重点的支援を行うことをいたるところで答申している。「2 個性的なものを創出する積極的な行政ヘの転換」の中で行政には,

 高校教育の改革のビジョンを示し,その方向性に沿った各学校の自主的な取組みを促進するため,これに必要な教職員定数,施設・設備などの教育条件面での重点的・効果的な支援措置を用意するなど,きめ細かい政策の展開が期待される。
と述ぺている。このことは教育条件の改善というアメを使って「個性的」「学校間格差の是正」の名の下に行政の方針に沿った学校へのみ「支援」を行い,教育の統制を強化しようとする意図があらわれている。また,このために「国,都道府県の教育委員会,校長等の活性化」をおこなうことが示され,積極的に管理強化をすすめようとしているといえる。
 施設面での教育条件の改善の具体的な記述は少ないが,

 人間性豊かな生徒を育てる教育環境づくりという観点から,温かみと調和のある学校環境作り,多目的スぺースやセミナーハウス等の整備を通じ,特色ある学校施設作りを推進することが必要である。
と述ぺられていることから,公立学校に「多目的スぺースやセミナーハウス等の整備を通じ」行政の指示通りの「特色ある学校」づくり(能力別授業や宿泊研修,道徳教育の強化)と,それに伴う教員の労働条件の悪化を押しつけてくることが考えられる。

入試選抜の多様化・弾力化

1.学校間の「格差」は「便利なシステム」か?

 学校間の「格差」あるいは「序列」は現在,学生生徒を偏差値によって区分けし,国民の多くに抑圧感情と閉塞感情を与えている,日本の教育の病理のいわば最大の問題点である。われわれが何とかして乗り越えようとしてもどうにもならなかった障壁であった。しかし別の角度から見れば,学校間「格差」ないし「序列」は,大量の高校生や大学生に高校卒,大学卒という同一資格を与えて,その平等への欲求を満足させ,他方,学力別に区分けしたグループごとに適切な教育を与えるというかたちで,効率性の維持にも役立っている,見方によれば,便利なシステムだとも言えるのである。
 ここには学校間格差,偏差値輪切りのもつ問題を積極的に解決しようという姿勢は全くない。それどころか,「平等」という言葉で新たな格差を持ち込み,「効率」良く人材確保を狙う産業社会の要請に応えようとする姿勢しか見受けられない。そして,教育行政自らが現在の学校間格差をつくり,助長してきた点について,全く反省していないのは驚きを通り越して厚顔無知としか言いようがない。

2.「格差」助長の戦後教育行政

 戦後の一時期文部省は,「選抜しなければならない場合も望ましいことでなくやむをえない害悪であって,施設を用意できるようになれば直ちになくすぺきものである」とし,高校入試そのものを害悪と考えていた。これによると,急減期の現在は,施設に余裕が生じたわけだから,選抜そのものの是非が問われなければならないはずである。
 しかし,実際には高校入試は競争原理・選抜色を急激に強めていったのである。
 1963年,学校教育法施行規則から定員超過条項を削除して選抜のための学力検査による入試を定めた。
 1966年,「履修の見込みのない者の入学は適当でない」とした通達を出し,適格者主義をより鮮明にした。
 1984年にはいわゆる7・20通知を出し,選抜方法を多様化・弾力化し高校間の「格差」を固定し受験競争をより深刻なものにした。公立高校に係わる学力検査は,これより,同一時期・同一問題による実施が必要ないものとなった。つまり,文面上全ての公立高校が壮大な競争を行えるようになったわけである。

3.踏襲された入試の多様化・弾力化

 公立高校の入学者選抜の改善を進めるためには,各都道府県において個々の高等学校に独自の特色を持たせ,生徒の特性に応じた学校選択が可能となるよう,学区制の再検討を含め,地域の生徒の実態を踏まえた不断の見直しの努力が行われる必要がある。
 7・20通知はその後臨教審に引き継がれ,このようにそれを中教審が踏襲した。換言すれば,今回の中教審答申はなんら主体的な討議をしていないということである。
 中教審は以下のような観点の具体的改革を指摘している。

ア 各学校,学科,コースごとの特色に応じた多様な選抜方法
イ 受験機会の複数化や推薦入学等の活用による多段階の入試
ウ 調査書と学力試験の比重の置き方
エ 学力試験に関し,実施教科の数を増減したり,配点の比重を変えること。
オ 調査書の記載内容や取り扱いについて検討すること。
カ ポーツ活動,文化活動,社会的活動について適切に評価できるようにするとともに,推薦入学や面接の実施を積極的に進めること。
(答申本文の主旨)
 ここには,生徒減少期においてもいかに競争原理を強めた選抜を行うかという考え方が貫き通されている。また,「新しいタイプの高等学校」と入試改革を結びつけようとしている点は特に注意が必要である。
 すでに推薦制を普通科に導入した宮崎県は大きな問題点を抱えている。推薦枠が30%に限られているため,推薦を受けた者と受けられなかった者との間で気まずい雰囲気が生じるという。
 生徒急減期においては入試選抜の是非そのものを議論しなければならないのは当然のことである。そして,神奈川県では,職業科で実施されている面接の問題を明らかにし普通科への導入に反対しなければならない。また,コース制・単位制高校が入試「改悪」・学区拡大の先駆けにならないようにしなければならない。

高総検レポート14-3へ続く)