高総検レポート No 4

1988年12月3日発行

教育課程グループ

「教務規定」三原則(民主・合理・公開)を実現しよう!

はじめに

 第V期高総検・教育課程グループは、その報告書『それぞれ自前の教育課程改革を』の中で、現在の高校教育の中で最も遅れた領域のひとつである「教育評価」をめぐるさまざまな問題点を指摘するとともに、各学校で運用されている「教務規定」の旧制中学校的な性格に全面的な批判を加え,当面の目標として以下の「教務規定三原則」を提言した。

(1) 教務規定は民主的な ものでなければならない。

(2) 教務規定における評価は合理的なものでなければならない。

(3) 教務規定は公開されなければならない。

 最終的には、「教育評価」に対するわたしたちの考え方が全面的に変わらないかぎり、本当の意味での教育改革は生まれない。「教務規定三原則」はあくまでも当面の目標でしかない。「教務規定三原則」の実現に向けて各分会で討議するなかで、現行の「教育評価」のあり方にさまざまな角度からの批判が出されることを期待したい。
 今回のレポートは、「教務規定入門」と名づけ、「教務規定」をめぐる問題点をいくつか出してみたい。

 

教務規定入門……むずかしい話が苦手な人はここから読んて下さい!

Q1 新採用の教員です。授業がヘたなせいかもしれませんが、生徒が暴言を吐いたりしてプライドを傷つけられています。成績面を下げてしまおうと思いますが、どうなのでしょう。

 さぞお悩みのことと思います。私も10年近く教員をしていますが、毎日のように「お前の家を燃してやる」「ぶっ殺してやる」と言われていますが、一向に家は燃えませんし殺されもしません。さて本題に入ります。授業態度を評価に加えるかどうかということはとても難しい問題です。しかし、暴言を吐いたからと言って、教務手帳をおもむろに出して減点するということは許されません。「評価」には合理性が必要です。教科担当者の独善性・恣意性・主観性によって「評価」が左右されるということは大問題だと言えます。あなたに必要なのは、ブライドなど捨てて、生徒に暴言を吐かれないような授業を目指してがんぼることだと思います。成績を盾にして生徒に対しても、生徒の心は決して開かれないからです。

Q2 私の学校では、授業中に遅刻する生徒が多く遅刻3回で1回の欠課としています。県内の他の学校の様子を教えて下さい。
 まず最初に、どのくらいの学校が遅刻(早退)を欠課に換算しているのか見てみましょう。

ア 遅刻を欠課に換算している 8/70校(11.4%)
イ 換算していない62/70校(88.6%)
 調査対象は70校ですが、この数字から県内の学校の状況がつかめると思います。換算していない学校が圧倒的に多いようです。学校間格差が異常なほど開いてしまった現状の中では、「生徒指導」などの理由からやむをえず換算措置をしている学校もあると思います。しかし、授業時間中の不存在を意味する欠課と、学習義務の不完全履行である遅刻(早退)を、同一平面上に置いて換算するということには疑問を感じます。こうした懲罰的なルールでしか授業ヘの参加が促せない授業のあり方こそが問われなければなりません。「生徒指導」の道具に、教務上の措置を使って生徒を縛っても本質的な解決は何も得られないでしょう。

Q3 私の勤務する学校は問題を起こす生徒が多く、特別指導を受けた生徒があふれんばかりいます。このような生徒の出欠席の扱いはどうすればよいのでしょうか。
 最初にアンケートの結果を見てみましょう。

(1) 家庭謹慎生徒の出欠席日数の取り扱い
ア 欠席扱い51/72校(70.8%)
イ 出席扱い14/72校(19.4%)
ウ 公欠扱い0/72校
エ その他※7/72校( 9.7%)※家庭護慎実施せず。前例なし。etc

(2) 登校謹慎生徒の出欠席日数の取り扱い
ア HR,授業とも出席扱い8/70校(11.4%)
イ HRは出席,授業は欠課扱い29/70校(41.4%)
ウ HR,授業とも欠席扱い24/70校(34.3%)
エ その他※9/70校(12.9%)※前例なし。etc

 この結果を見ると、家庭謹慎は欠席扱いをしている学校がほとんどですが、出席扱いとしている学校が14校あることは注目できます。登校謹慎については、HR出席・授業欠課の学校とHR・授業ともに欠席の学校が多いようです。謹慎を受けた生徒にとって問題となるのは、年度末に授業時数に不足が出た場合です。

(3) 謹慎生徒に年度末の出席時数に不足が出た場合の扱い
ア 考慮している25/58校(43.1%)/TD>
イ 考慮していない29/58校(50.0%)
ウ その他※4/58校(6.9%)※前例なし。etc
 この結果を見てもわかるように、考慮していない学校が29校あるというのは問題です。謹慎指導を受けるということは生徒に非があるかもしれませんが、生徒の学習権を保障する観点からみると、かならずしも適切な指導法とは言えません。しかし、行政当局の無責任な政策によって学校間格差による教育荒廃がエスカレートしている状況の中では、各学校とも苦慮しながらやむをえない措置として謹慎指導をしているのが現状だと思います。
 謹慎指導は生徒に対して強制力を持っています。このように学校側から強制的に受けた指導によって出席時数の不足が出た場合、考慮すべきものだと思います。「自業自得だ」などと言って切り捨ててしまうのは、はなはだ不合理なことです。もう一言つけ加えるならば、出席時数の問題が出ないように、HR・授業ともに出席扱いにすべきではないでしょうか。「生徒指導」による懲戒と教務上の措置が二重に作用してしまうのは大きな問題と言えます。

Q4 定期テストの時期が近づくと気が重くなります。なぜかというと,不正行為者が続出するからです。全科目0点にすれば予防できると思うのですがどうでしょうか。


(1) 不正行為者の成績評価の取り扱い
ア 全科目0点扱い24/71校(33.8%)
イ 当該科目およびそれ以前の科目0点扱い0/71校(0% )
ウ 当該科目およびそれ以降の科目0点扱い9/71校(12.7%)
エ 当該科目のみ0点扱い31/71校(43.7%)
オ その他(前例なし。etc)7/71校(9.9%)

(2) 不正行為者の成績評価の回復措置
ア 追試等の事後措置をとる19/67校(28.4%)
イ 一切考慮しない11/67校(16.4%)
ウ 進級・卒業に際し、抵触する恐れがある場合、回復措置をとる。25/67校(37.3%)
エ その他(前例なし。etc)12/67校(17.9%)

 不正行為については頭を痛めていますが、アンケートを見る限りでは、全科目0点という厳しい学校と、当該科目のみ0点という学校とに分かれているようです。他人の答案を見てまで良い点数を取ろうとする点数信仰に毒された生徒は哀れというしかありませんが、生活指導面でゆがんだ点数信仰から解放してやることは必要なことだと思います。しかし、現実は謹慎という「生徒指導」による懲戒を受けるのが実態のようです。
 たしかに不正行為は問題ですが、全科目0点、回復措置も一切考慮しないというのは懲罰的な側面があることを否定できません。この場合も、「生徒指導」による懲戒と教務上の措置が二重に作用してしまいます。懲罰によってしか学校の秩序が保たれない困難な学校があることは事実ですし、私もそういう学校で胃の痛い思いをしています。しかし、現実に埋没してしまうのも問題で、生徒の学習権を保障するという立場に立って考え直してみることも大切です。全科目0点にしてしまうということでは、生徒の学習権が大幅に侵害されることになりますし、懲罰で生徒を押さえても現実の教育荒廃の解決にはならないことだけはたしかです。やがて減少期を迎え、今度は私たちの教育内容の質が問われるのです。旧制中学校的な権威に寄りかかっていることは許されません。
(つづく)