高総検レポート No 6

1989年3月25日発行

「教務規定三原則」(民主・合理・公開)で、旧制中学校的評価観を克服しよう!

教務規定入門(最終回)

Q1 私の勤務する学校では、授業をエスケープする生徒が多く、学年末になると授業時数不足の生徒が多数進級会議に出されます。授業時数の算出方法、単位認定に必要な授業時数の基準について他校の例を教えて下さい。

 最初に授業時数の算出方法から見てみましょう。

ア.実授業時数 42/71校(59.2%)
イ.年間標準授業時数 29/71校(40.8%)

 この結果を見てもわかるように実授業時数で算出する学校が多いようです。実授業時数を採用している学校は新設校に多く、標準時数を採用している学校は既設校に多いと言われています。これは何を意味しているかというと、新設校の多くは政府・文部省の「多様化政策」(学校間格差を意図的に作る差別選別体制)の中で「教育困難校」に位置づけられています。つまり、「教育困難校」では、厳しい基準を設けて、いわゆる「脅し」によって授業に参加させようとしているというのが本音ではないでしょうか。しかし、私の勤務する学校でも生徒指導面、教務面で厳しい基準を作ろうという動きはありますが、生徒は厳しい基準があるなしにかかわらず自由にやっているようです。厳しいルールを作れば、生徒が従うというのは机上の空論でしかありません。教務的措置を「脅し」に使うという評価に対する考え方は、私たちが克服しなければならない最大の問題ということが言えます。

 次に、単位認定に必要な、授業時数に対する出席時数の割合を見てみましょう。

ア.2/3  63/71校(88.7%) イ.3/4  2/71校(2.8%)
ウ.4/5  2/71校(2.8%) エ.その他* 4/71校(5.6%)
  *・欠席時数が1単位につき7回未満  ・70%
  ・通常2/3だが、病欠等の特別の事情は6割

 以上の結果を見てもわかるように、2/3 としている学校が圧倒的に多いようです。しかし、2/3という基準について、法的に規定されたものではありません。

 次に,出席時数に不足が出た場合の対応について調べてみましょう。

ア.規定通り対応(病気等の特別事情は考慮) 24/68校(35.3%)
イ.欠時補充等の特別指導を実施 44/68校(64.7%)
 (許容時数)   ・3月31日までに補える時数  ・3月25日までに補える時数
  ・1単位につき5時間   ・週単位数程度  etc.

 教務規定通りに厳格に対応している学校が24校ありますが、原級留置者を大量に出している現状を考えると規定通りの対応は問題があると言わざるをえません。原級に置かれるということは、生徒本人に対して重大な問題です。また、現行制度のように、落とした科目だけを再履修することができず、すでに修得した単位の再履修が強制されるという不利益がある以上、時数不足の生徒に対して特別指導をおこなうなど、できる限りの措置を取るべきだと思います。

Q2 新採用の教員です。進級判定会議などで「評価権」「単位認定権」という言葉が出てきますが、正確にはどのような意味を持つ言葉なのかよくわかりません。わかりやすく教えて下さい。

 進級会議などで生徒の進級・卒業をめぐって議論が平行線になることがありますが、生徒を弁護する意見に対して「教科がだめだと言っているのだから、それ以上言うのは評価権の侵害である」という反論が出されることがあります。「評価権」は教科担当者にあることは言うまでもありませんが、生徒を切り捨てるための権利ではないという点に注意しなければなりません。「評価権」は、教育基本法10条「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである。」という条項に直接的な根拠を求めることができ、あくまでも子どもの学習権を保障するためのものと理解すべきものです。評価をするということは、教師みずからに対する反省とともに、子どもに課題と励ましを与えるものでなければなりません。例えば、父母から「うちの娘の成績を上げてくれ」などと頼まれて成績を操作するようなことがあれば、教育基本法10条の不当な支配に屈したことになりますし、何よりも子どもたちに対して直接責任を果たさないという重大な問題となります。以上のように、「評価権」とは不当な支配に服することなく子どもの発達を保障するための権利としてとらえるべきもので、生徒に赤点をつけて開き直る権利ではないのです。少なくとも、そんな時は「評価権」という言葉は使ってもらいたくないものです。
 次に「単位認定権」ですが、「評価権」が教科担当者にあるのに対して、「単位認定権」は学校にあります。ここでいう「学校」とは、成績会議で教師集団が討議し「単位認定」したものを校長が学校の代表として対外的に発表することを意味します。ここで注意しなければならないことは、「単位認定」の実質的な主体は成績会議にあるということです。ですから、十分に審議もせずに校長の一言で決定するというのは問題があります。そのためにも、ルールだけでなく生徒の学習権について真面目に議論ができる「成績会議の民主化」が望まれるところです。

Q3 高総検・教育課程グループは、教務規程は公開されなければならない、と主張していますが私はとても賛成できません。教務規定を公開したら、それを逆手に取って悪用する生徒が出て学校秩序が崩壊し、指導が入らなくなることは必至です。私は断固反対します。

 最初に、公開している学校がどのくらいあるか見てみましょう。

ア.教務規程の内容を父母に知らせる 19/71校(26.8%)
イ.知らせない 52/71校(73.2%)

 この結果を見てもわかるように、公開している学校は圧倒的に少ないようです。
 次に、進級・卒業時の教務的措置をめぐる父母とのトラブルの実態を調べてみたいと思います。

ア.父母とのトラブルがあった 13/66校(19.7%)
イ.ない 53/66校(80.3%)
   (具体例)
   ・卒業までの日数がまだ残っている。  ・HR担任、学校の指導が不十分。
   ・3年自由登校期間中に指導せず不認定にしたことに強い不満が出た。  ・他校では追認措置をとっている。

 今や旧制中学校以来の伝統的学校観である学校が権力のかさを着て生徒や父母に命令を下すというスタイルは流行遅れとなりつつあります。これからは、生徒・父母が教育目標・校則・教務規定を十分に理解した上で在学契約を結ぶという考え方が主流となると思います。
 それでは、教務規程を公開した場合のメリットをいくつか挙げてみましょう。
  (1) 公開が前提となれば、不合理な規定、過度に厳しい規定、不完全な規定は減少する。
  (2) 公開されたルールが適用されるならば、政治的配慮、恣意的運用がなくなる。
  (3) 公開が前提となれば、生徒の学習権が擁護される。
  (4) 生徒・父母の学校に対して抱く誤解・不信を予防できる。
 以上四点挙げてみましたが、公開されることによって学校を取り巻く状況は、より一層すっきりするものと思います。
 反対にデメリットですが、私たちは公開によるデメリットはないと思っています。現に私の勤務する学校では「1/3以上欠席すると単位が出ない」ということはすベての生徒が知っていますが混乱は起きていません。また、「選択課目を1科目落としても卒業できる」ということを三年生のほとんどが知っていますが、途中で投げ出したり試験を受けない生徒は皆無です。「この科目を落としても卒業できるぞ」とわざわざ忠告しても、途中で投げ出す生徒はいませんでした。そういうことを考えると、生徒父母の学校に対する誤解や不信を取り除くことができる点に、最大のメリットがあるのではないでしょうか。メリットの部分を生かすことによって硬直した学校を解きほぐす契機となるのではないでしょうか。
 以上の観点から、教務規程の公開に向けての各分会の取り組みが、至急なされなければなりません。その場合、生徒・父母に対して一方的に公開するのではなく、生徒・父母の質問・意見表明の機会を保障し、開かれた学校づくりを目指すべきだと思います。

おわりに

 最後に、「高総検レポート」に対して、さまざまの御意見をお寄せいただきありがとうございました。このレポートをもとに各分会で「教務規定三原則」に向けての討議が行なわれることを願っています。また、単に「教務規定」の改善にとどまらず、旧制中学校的評価観・生徒観の克服に向けての取り組みがなされることを祈っております。御愛読ありがとうございました。

(おわり)