高総検レポート No 14−3

1992年12月18日発行

「高校多様化」政策を批判する!

―中教審答申批判 ―

高総検レポート14-2より続く)

教員管理の強化

 中教審答申は,教員管理についても臨教審答申の方向性を踏襲している。政府・文部省は,臨教審答申によって「教員免許法改悪」「初任着研修制度」を導入し,教員の育成・管理の強化を行ってきた。中教審答申においては,更に積み残している現職教員の研修・管理体制の強化に乗り出している。

1.臨教審の教員管理の強化策

 臨教審を発足するに当たって当時の中曽根首相は,「教育改革7つの構想」(1983)の中で,「教員の養成,採用,研修を通じ,教員の資質の向上に努めると共に,優れた社会人の教育界への受け入れを促進する=教員の資質向上を図るため教員養成制度の改善,採用方法の多様化,研修制度の充実を図ると共に,積極的に優れた社会人を教壇に迎えるよう努める」といっていた。また,故松下幸之助を中心とした「世界を考える京都座会」は,「学校教育活性化のための7つの提言」(1984)で,「意欲のある人を先生にすること=現行の教員免許制度を改めて,適性と能力,意欲のある人ならたとえ一般社会人でも随時教職に就きうるようにすべきです。そして一旦教員になった人々に対しては,さまざまな形での研修を充実強化し,場合によっては再選抜制,あるいは,任期制の導入も考えてみる必要がある」としていた。
 これらを受けて臨教審答申では,教員の資質の向上のため「教員給与については人材確保法』により改善してある」ので,それ以外の教員養成・免許制度の改善,教員採用の改善,初任者研修制度の創設,現職研修の体系化,の4点にわたって答申に盛り込んだのである。そして,「現職研修の体系化」以外については彼らの狙い通りに制度改悪を行ってきたことは周知の通りである。

2.中教審答申における教員管理の強化策

 中教審答申において教員管理の強化施策は次の3点にわたっている。1つには職場における管理体制の強化,とりわけ校長のリーダーシップの確立と教育委員会の「活性化」である。2つには,現職研修を含む研修体制の強化であり,3つには,顕彰制度の導入である。
 校長のリーダーシップの確立については,

・既設校を新しいタイプの高校にするためには=教職員の現状肯定的な意識の改革と特色ある学校作りに向けた校長のリーダーシップが特に重要であり,これを支援する方途を講ずる必要がある。
として,"教職員の反対があっても有無を言わさず進めてしまえ,反対するような教職員は処分できる権限をもたせろ"というようにも取れる内容となっている。また,教職員組織の活性化のためとして,

・校長がリーダーシップを発揮し,校長を中心とした全教職員一丸となった協力体制 ・校長に優秀な人材を登用,若手教師の管理職への登用,校長の在職期間の長期化
など,校長を中心とする管理的学校運営の確立を目指すものとなっている。  更に,教育委員会の活性化のために

・教育委員会の政策立案,実施機能を高め教育委員や教育長の待遇改善を図る。
として,一層の管理・支配強化を狙ったものとなっている。
 教職員の研修体制については

・経験年数に応じた研修の体系化や,長期研修の機会拡大,研修の内容を効果的なものとする。
など,臨教審答申の焼き直しとなっている。本答申の目標が答申自身で言う「現在の教育の持つ歪みを正し,子供の心の抑圧を軽減して人間性の回復を図る」ところにあるとするならば,なんと矛盾に満ちたものとなっているのであろうか。政府・文部省の狙う,教職員を「管理・支配」する体制からは,「管理され,抑圧され,人間性を失った」教育しか生み出されないことは当然である。
 「日の丸・君が代」の強制問題に象徴されるように,教育課程について「学校独自の工夫」をいいつつ,その実,画一的・国家主義的教育を強要している状況に本答申の矛盾が示されているといえよう。教職員個々に「自由」な発想をすることを禁じて教職員を画一的に養成し,上からの研修体制や管理主義を強化するような教育政策の行き着く先は,多様な価値観の否定であり,グローバルな制度の否定による「画一的教育支配」そのものである。

3.新たなる勤評につながる危険な顕彰制度

 答申では「指導困難校」などの教職員に対しては一層の努力を要請しつつ,顕彰制度を提言している。このことは,新たな管理支配の道具に使われる恐れがあり,まして,差別賃金につながるものであるならば,「勤評攻撃」の側面を持つものといわざるを得ない。そして,

・指導困難校にあっては生徒の興味や関心に即応し学習意欲を高めるために様々な工夫が必要であろう
とし,「頑張ったものは顕彰してあげる」というのでは,「指導困難校」の存在を前提としそれを維持しつつ教職員の内部努力にのみその解決を求めるというだけである。
答申は

・学校間における『格差』『序列』が日本の教育における最大の病理
と指摘しながらも,その「病理」を取り除こうとしていないのは,この答申の本音がエリート主義・差別選別体制の強化にあるからである。
「人材の確保と教職員の待遇の改善」という「アメの政策」も見られるかのようであるが,実際には前述したように「賃金については人確法により改善済み」であって,その狙いは,社会人登用にあたっての不利益の救済と,「改革の中心となる校長の待遇改善」というところに狙いがあるのである。

学科制度と学校連携

1.“総合的な学科”の新設

(1)学科制度の再編成
 高等学校は,普通教育を主とする学科(普通科)と専門教育を主とする学科(専門学科)とに分れている。
 普通科については,卒業後に就職する生徒も少なくないにもかかわらず,大学進学型の教育課程が編成 されているところが多く,就職する者に対する職業教育は不十分なものとなっている。(中略)  一方,今日のように技術革新の進展等に伴い産業・就業構造が大きく変化している時代にあっては,将来の職業に明白な展望が持ちにくいなどの理由から,生徒が進路決定を先送りしている傾向がみられる。また,こうした変化の下では,従来の特定の職業のための職業教育だけではなく,あらゆる職業に共通の実際的な知識・技術を習得させることが求められている。
 このような現状を踏まえて,現在の普通科と職業学科に大別されている学科区分を見直し,普通科と職業学科とを総合するような新たな学科を設置することが適当と考えられる。
 この新たな学科は,今後,高等学校の整備・再編を進めるに当って,職業学科を転換したり,普通科における職業教育の充実をより一層推し進める形で設置していことが適当であろう。
 この内容は,学科制度の再編成の問題というよりはむしろ学校制度の根幹を変えようとする内容である。すなわち従前からの普通高校と職業高校,そして,総合高校(?)という3つの種類の高校を作りましょうということなのである。
 このことは,職業高校に新しい学科を作るという問題とは根本的に異なり,大変な問題にも拘らず,その議論が今一つ盛り上がらないのは何故であろうか。
 一体どのような学校になるのか,その内容が明確でないこともあるが,普通高校も職業高校もその現場では,自分のところに係わりがないと,あるいは係わりたくないと考えているからではないだろうか。
 確かに,普通高校における職業教育の導入については,答申も指摘しているように,危機的な状態のままほとんど改善されてきていないといわざるをえない。
 答申がいう,普通高校にも問題がある,職業高校にも問題がある,だから,どちらともいえない新たな学科を作りましょう,という発想は何なのであろうか。
 重要なことは新たな学科を作るのではなく,あくまでも現行の学科制度の中で,職業教育をどうとらえ,どう取入れていくかを真剣に検討することではないのか,普通高校が自らこの問題を改革していくことではないのか。
 そのような意味で,本県の職業高校の学科改編の運動は職業高校の改善の1つであったわけで,現場が主体的に改善を図らなければ本当の改革にはならないのである。
 繰返すことになるが,普通高校,職業高校が共に職業教育について改善をしていかなければ,新たな学科制度で第3の高校を作っても結局うまくいく筈がないと考える。
 さらに,第3の高校を作るというこのような多様化に反対する理由は,私たちの考える高校とは,入口は出来るだけ広くして教育内容を多様に用意することであり,入口の所で多様な種別化した学校を用意して生徒を選別することではないと考えるからである。
 私たち高総検が提起している総合制高校の理念はまさにこのような高校をさしているのであり,けっして答申がいう第3の高校を作ることをさしているのではない。
 教育の効率を上げるということで普通高校から職業高校として分離独立させ,さらに効率を上げるということで細分化した学科を作っていった時,職業高校がどうなっていったか,私たちは知っている筈である。

2.学校連携について

 答申の教育内容・方法のところの高等学校間の連携で
 ………生徒の多様な実態に対応し選択学習の機会を拡大する観点から,教員や施設・設備等の事情で開設できない教科・科目についても履修の途を開くようにする必要があろう。この様な方法としては,例えば,普通高校と職業高校との間で相互に職業科目,特色ある普通科目を履修したり,あるいは専修学校の学習や一定水準の技能審査の成果などを高等学校の単位として認めたりすることが考えられる。
 連携問題についてはこの答申では特に目新しいものはなく,つぎのように色々な答申でいわれてきている。
 理科教育及び産業教育審議会さらに教育課程審議会の答申でも

 「……個々の高等学校における措置や高等学校間の協力・連携だけでなく,専修学校等との連携を図ることも検討すべき課題として取り上げる必要がある。………」
 「高等学校以外の教育機関で行なわれる各種の多様な教育のうち適切なものについては………高等学校間の協力による科目の履習に準じて,他の教育機関との連携による履習を認めるようにする。………」
 ここでも教育の効率化を考えているのであろうが,公教育機関以外(私的専修学校,企業等)との連携については教育の本質を歪めかねない側面があることに留意しなければならない。何故ならば,本県は経験県であるのだから。