選抜資料 | : | 学力検査と調査書の比率は6:4,5:5,4:6の中から学校単位で選択。 |
傾斜配点 | : | 「特色ある教育課程」をもつ高校ではその「特色」に応じて教科ごとの配点を変えることができる。 |
面接・実技 | : | 「特色ある教育課程」をもつ高校では必要に応じて実施することができる。 |
学区 | : | 20%の枠で隣接学区からの受験を認める。 |
推薦 | : | 95年度より普通科でも実施の方向がしめされた。枠は定員の20%程度と予想されている。これも各高校の判断に任されている。 |
52年に単独選抜をあらためたころ,問題になっていたのは日比谷高校を代表とする,名門高校をめぐる受験競争の激化でした。その後問題になっていたのは,都立高校の地盤沈下,とくにかつての名門校の没落でした。効率のよい進学体制をくむことにより着々と私立高校が大学進学実績を積み上げていく中で,都立名門校は昔日の地位を失い,『都立離れ』が教育関係者の間でしばしば話題になってきました。
そして今回の『改革』が行われました。入選をひかえた昨年秋,都公立校長協会会長はこう言いました。「単独選抜と普通科の推薦制。こんどこそ意欲的な生徒を私立からとりもどせる」と。
それでは今回の入選『改革』はどのような結末になったでしょう。東京都の今年度入試の動向を時間を追いながら見てみます。
(1) 予定調査
都立高校ヘの志願予定者に関する調査結果が1月11日に発表されました。それによると,倍率が二倍を越した高校,学科数は昨年度の半分以下に減りました。とくに名門校,いわゆるナンバースクールは軒並み昨年度の倍率を下回りました。この結果について,新聞紙上では『平準化の傾向』という言葉が使われていました。どのような表現を使おうとも,一部の名門校に受験生が殺到するという事態が起らなかったことは明らかです。『改革』を進めようとした人々にとってはショックだったのではないでしょうか。『意欲ある生徒』が希望する高校を希望どおりに受けられるように,単独選抜にしたのですから。そして,学区を越えて希望者が名門校に殺到するということもありませんでした.学区学受験枠20%を越えた高校は男女それぞれ2校にすぎませんでした。
(2) 応募状況
2月3日に都立高校の応募は締め切られました。倍率は1.47倍と,前年度を0.17倍下回ってしまいました。東京都教育委員会は「応募倍率の低下は私立の推薦入試導入の影響」とする解釈を示しました。
これまでは私立合格後,試験時に多くの受験生が欠席していた。しかし,今年は私立第一希望の受験生はすでに推薦合格を得ているために,都立ヘの志願をしなかった。だから倍率が低下した。おそらく,試験時の欠席は昨年度より大幅に減少し,最終的には昨年の試験倍率1.20を上回り,1.25倍以上になる」。東京都教育委員会はこういう見込みを立てたのでした。
その後,志願変更が行われ,最終的な倍率が2月8日に発表されました。それによると志願変更率は6.27%に達し,過去最高を記録しました。志願変更の結果,全体の倍率はとくに変わらず,普通科の倍率のみ1.51から1.50に低下しました。結局,学区所属の普通科の中で応募が定員に達しなかった高校は,昨年度より大幅に減少し(男子4→1校,女子1O→4校)倍率の『平準化がさらに進む結果になりました。
(3) 受験状況
2月24日,都立高校の入学試験がおこなわれました。翌日発表された受験状況によると,試験時の欠席率は全日制平均で21.9%(昨年度26.9%)に達し,都教委の見通しを大きく上回ってしまいました。当日の受験倍率は昨年度を0.06下回り,1.14倍に落ちてしまいました。新聞は『都教委にショック』という見出しを付けています。とくに,いわゆる名門校の中でも,日比谷,戸山は男女とも全員合格,西では男女各1名が不合格になっただけでした。『名門校復活』どころか,『地盤沈下』はさらに進んだと言えます。
都教委は「制度が変わったことで,安全志向が働いた」との見解をしめし,また戸山高校の校長は「初年度で受験生が慎重になりすぎた部分もある」と言っています。しかし,都立高校の入選『改革』は早くから宣伝されており,広く知られているところだったはずです。知らなかったから不安になったとは思えません。『改革』そのものが不安を呼ぶようなものだったのではないでしょうか?
(4) ニ次募集
3月7日に二次募集が発表されましたが,実施校は昨年度の48校を大きく上回り72校に達しました。その中には旧制一中から十中の中6校が含まれていました。
10日の二次募集の試験では募集総数約1,500人に対し約3,000人が受験しました。およそ二倍の倍率です。ある受験生は言っています。「制度改革で振り回された高校受験はもうこりごり。たとえ受かっても,専門学校にいきます」。
東京都の入選『改革』の行方には各方面の関心が集まっていました。単独選抜方式をとることにより私立へと流れていた受験生を公立に取り戻そうとする東京都の試みが成功するかどうか。マスコミも注目していました。この見方からするならば,今回の『改革』は失敗だったと結論づけざるをえないでしょう。ただし『改革』の目的はもう少し別のところにあったのだとする声もあります。「都立高校が,今まで以上に特色を強く出すのが改革の狙いだった」。これはある都立高校の校長の話です。『特色』ある高校がその『特色』にあった入試選抜方式をとること,これが今回の『改革』の狙いだったというのです。入学時点で生徒を文科,理科の二コースに分ける『特色』あるコース制をもつ白鴎高校の校長はこう言っています。「(コース制)は入試多様化のバイオニアだ」と。それでは,そのコース制は今回の入選においてどのような結末になっているのでしょう。
ここには普通科と専門コースが併置されている高校をあげました。一見して分かるとおり,大半の高校では普通科の倍率の方が,専門コースのそれよりも高くなっています。神奈川でも埼玉でも同じ傾向が,しかもより強いかたちであらわれています。数字で見るかぎりでは,生徒の希望は明らかに普通科の方に傾斜しています。一昨年,第六学区の高校が専門コース制導入を検討したものの地元からの反発などにより見送ったことがありました。都教委も「『地域の学校』でなくなる心配があったのだろう」と認めています。それにもかかわらず,都教委は専門コース制の拡大をさらにすすめようとしています。
男子 女子 深川 外国語 1.50 普通科 2.40 (2.23 2.59) 小松川 語学・文化 1.19 普通科 1.50 (1.72 1.25) 数理・科学 0.74 片倉 造形美術 1.99 普通科 1.39 (1.53 1.23) 松が谷 外国語 0.78 普通科 1.13 (1.03 1.24) 五日市 文化・情報 1.08 商業科 1.09 小平 外国語 1.66 普通科 1.97 (1.78 2.18) 清瀬東 生活デザイン 1.20 普通科 1.94 (2.06 1.80) 英語 0.48 看護医療 3.05 狛江 国際 2.25 普通科 1.24 (1.23 1.26) 自然科学 2.33
こうした都立の動きを冷静に見ている私学の関係者もいます。「人気回復どころか,むしろ落ち込んだのでは。特色づくりも言葉だけが先行しているようだ。都立には進学よりも地域に根ざすという役割があるのに,それを無視して名門復活を図る必要ないのです」,こう都私立中高協会の会長は言い切りました。今回の入試の始まる前に「おそらく『改革』は失敗する。単独選抜になり,入試が不透明になり,不安感が強まれば強まるほど,受験生は都立から逃げ私立に流れ込むだろう」と予言していた私学の教員もいました。地域に根ざし,受験生に合格ヘの安心感を与えてこそ都立の存在意義が生まれる,彼ら私学の関係者はこういっているのです。
都公立高校協会会長は,今春の入試の失敗を認めつつ,来年度から導入が予定されている推薦入試に期待をかけています。「都立の推薦の日程は,私立の後ではなく,せめて同時にはじまってゴールインしなければ,今春の入試と同じように再び私立に生徒をとられてしまう」。来春の推薦入試にそなえて中学生は準備に入らなければなりません。ある中学では,いつもは対立候補もでない生徒会の役員に2倍以上の立候補者があったと聞きました。塾が内申点アップの方法を指導しているとも聞きます。
一般入試が不透明になった現在,受験生はより内申点を気にしなければなりません。1点2点の違いが合否を分けるでしょう。そして学力検査に向けて,塾と業者テストが影響力をより強めるのではないでしょうか。都立の入選『改革』はいったい何のための『改革』だったのでしょうか。