1995年度の日教組・高校シンポジウムが、昨年の11月20日と21日の両日にわたって鳥取県で開催された。第14回となる今回のシンポジウムでは、これまでに何度か取り上げられている「高校入試改革」と、2年前に新設された「総合学科」がテーマとなった。本号では、初日の全体会と2日目の第一分科会(「総合学科」)の討議の概要を報告し、第二分科会(「高校入試改革」)については次号で報告していきたい。
全体会
★岩手と沖縄の「総合学科」現状報告
<岩手県立岩谷堂高校の場合>
岩手県立岩谷堂高校は、まず、「定数加配については考慮されているものの、授業時間数が増え、多くの科目を教えることによる教員の負担は大きい。」「原則履修科目の「産業社会と人間」については、積極的に手を挙げて教える人がいない。」「複雑な授業形態のため、授業変更がきかない」と訴えた。総合学科になったことによる唯一の長所として「生徒が好きな科目を選べる」としながらも「選択科目の決定期が1学期内で早すぎ、かつ変更ができないため生徒に混乱と不満が出ている。」「時間割りを生徒に作らせる指導を半年ぐらいかけておこなうが、その指導が非常に難しい。」「授業毎の移動が大変で、生徒が落ち着かない」「教室が不足して間仕切りしたが生徒に閉塞感を与える」「選択科目が多いので1・2年(総合学科)では、3年(普通科・商業科)のテストの1週間前からテストを始めないと期間内に終わらない。」「一人で6〜7科目のテストを作ることにも苦しんでいる。」など、多くの選択科目(115科目!)を抱えることに伴う問題点についても報告された。
生徒指導面では、「朝のHRで出欠確認後、すべて各自の教室に移動することによるホームルーム意識の欠如、担任と生徒との関係の薄さ」が問題としてあげられた。
学校間連携については、「工業基礎を受講するためにバスで他校に移動することにともなう生徒の負担」が指摘され、入試では「推薦枠が20%から来年は30%に拡がり、面接50点、部活も点数化され」るなど入試の多様化が一層進んでいることも報告された。
教育予算面では、「特に増えていない。商業科がなくなったので、かえって実習費が削られる」など厳しい状況にあるようで「設備が完備するまで予算を増やして欲しい」と訴えていた。 その他、進路指導では“出口"の指導が課題であること、卒業に必要な修得単位数が80であるにもかかわらず、3年(普通科・商業科)とのバランスの問題があり、履修単位数が93になっていること、などが指摘された。
<沖縄県立沖縄水産高校の場合>
次に、沖縄県立沖縄水産高校から、総合学科になったことで「入学希望者が増加した」としながら、その新入生がどんな状況になっているのかについて報告された。
まず、「退学率が減少した」ことがあげられたが、これは、「単位制になったために留年がなくなり、籍があるだけの話しにすぎない(笑)」ことが指摘された。「学校内でのサボリも多く、授業中に昇降口付近の池の回り座り込んでいる生徒もいる。彼等に何故そこにいるのかを聞くと、自分がどこの教室にいけばいいのかわからない」という。「出席状況も悪く、勉強する意欲も減退している」という。
また、「好きな科目が多く選べる」ことにも、やはり様々な問題を含んでいるようだ。
1年目の94年度は、4月初めに総合学科新入生全員対象に2泊3日の宿泊学習を行い、そこで総合学科の説明、科目・時間割等の説明、そして選択科目の登録を実施した。しかし、いくつかの科目に生徒がかたよりすぎて、翌日、生徒を体育館に集めて科目の変更させることになった。さらに、5月6日に教科書注文をした後、2重登録、未登録の生徒もあらわれ、6月2日の教科書販売の後でも、間違って教科書を買ってしまう生徒も少なくなかったという。
2年目の95年度は、4月初めに新入生対象に説明会を1週間かけて行ったが、やはり科目希望調査、教員配置、講師依頼など授業が成立するまでに2ヶ月くらいかかったという。それに加えて2年生対象に選択科目の説明会が7月14日に行われたが、教員1人あたり3〜10分という持ち時間の中で、14人の教員が次年度の25以上の科目について説明したため、内容の理解が充分ではなかったようだ。
選択科目を選ぶうえで、生徒も教員も、かなり無理を強いられているのが現状であり、新入生・2年生ともに、希望者の少ない科目では生徒を増やすように、希望者の多い科目では生徒に変更を求めるなど、「好きな科目を選べる」といっても、やはり人数調整にかなり苦心しているようである。
条件面では、教員加配がなされてはいるものの、教員の平均授業時間数が、1年目の15.3H/週から2年目の16.3H/週に増え、3年目の来年度は、さらに16.9H/週になることが予想され、授業時間数に対して明らかに教員数が不足しているようである。
さらに、来年度は「教室数が絶対不足する」ことにふれ、「好きな科目が多く選べる」ことへの充分な条件整備がなされていないのが現状のようである。
個々の科目でも、条件が整備されていないようで、「自動車工学」では、「廃車が1台来ただけで、その工具もない状況にある」という。
この他、教員の仕事がいかに大変になったかについても「出席簿の記入が複雑になった」「担任は、出席簿の整理と成績処理が大変」「生徒路導がやりにくい」「校内巡視が大変」「非常勤講師への依頼・連絡が大変」「各教員の持ち科目数が増加した」「研修会及び公文が増加した」「内規の見直し・検討」「時間割の編成とテスト時間割の作成が難しい」「臨時時間割がつくりにくい」「選択科目の教室の確保、及び教室の改修・新築の検討」「選択科目の内容及び時間割りの説明に苦慮」「選択科目の登録の仕事が複雑」「県教委との連絡・交渉」「学校説明会、パンフレット作成」などが報告され、その忙殺ぶりには驚くほどである。
第一分科会:「総合制高校と単位制」
山形県立余目高校 | ◆生徒が集まらなくなり、総合学科を設置しないとツプスと県教委から脅され廃校の不安から設置。◆40位の教室が必要だが不足。ために、「好きな科目を選べる」ほどに選択科目の設置ができない。◆多くの選択科目の説明と生徒の希望調査に困難を極める。◆選択希望科目に偏り。人数調整しなければならなかった。◆免許外の科目も押しつけられ、困惑◆志願者は増えたが、難しい生徒の入学も増え、教科・生活両面の指導が困難に。◆「産業社会と人間」での外部施設への生徒の移動費が個人負担。 |
静岡県立小笠高校 | ◆5学科5クラスを総合学科に改編。◆特別教室を普通教室に転用したが、まだ不足。◆体育の系列を設けたが、施設が不備で、授業展開に支障。◆お茶と文化の系列を設けたが、教育内容の編成が追いつかず。◆教育予算が、当初より大幅に削減されている。◆農業科底辺校からの脱出・入学生徒の質の向上をねらったが、あまり変化なし。◆生徒指導が困難に。◆教職員には、思い切った新しい高校をつくる意気込みはあったのだが……◆推薦40% |
新潟県立十日町高校 | ◆幅広い選択科目が必要だが、条件整備の裏付けがない。◆施設も設備も不十分。普通教室3を各々2つに間仕切りして小教室6にしたが、防音設備がなく使いづらい。◆教員も予想した数の加配はなし。◆時間割編成。生徒出席管理が非常に複雑で多大の労力が必要。コンピューター管理化したいが予算をくれない。◆総合学科を理解しないで入学してくる生徒が多数。◆卒業後の進路とくに大学側の対応が不明確。◆高校間の序列は依然として存在。◆推薦50%。 |
石川県立金沢北陵高校 | ◆県教委主導で工業科を改編。◆工業科の教員が余剰化、免許外教科を担当。◆工業系列の科目を選択する生徒が少なく、工業教育設備が遊休。◆細分化した「その他の科目」が担当者の専門から離れ、準備に困難。◆系統的学習が不能。◆「産業社会と人間」は、校外講師の講和形式のみ。◆校内準備や県教委への条件面の要求提出などのため、早期に設置選択科目を決めなければならないが、生徒の方には選択の条件ができていない。◆時間割編成が大変。◆推薦60%。学力試験に傾斜配点を導入。 |
埼玉県立久喜北陽高校 | ◆普通科・情報処理科を改変。◆選択科目にさほど特色なし。農・工系はなし。普通科の教員でできる範囲の科目を設置。既成の条件で対応可能な安上がりの総合学科。◆教職員定数が、講座数でなく、学級数で算定されているのは問題。◆「産業社会と人間」の講師代・事業所見学の交通費が個人負担。◆時間割編成が大変。◆推薦60%。 |
広島県立高陽東高校 | ◆普通科を改変。◆総合学科の定数法上の位置づけがないまま設置が先行したのは問題。教職員の不足、労働過重。◆総合学科は多様な選択科目の開設が最大の特色だが、普通科を改編した場合、農・工系の科目の設置は予算の配分がなく不可能。選択幅が非常に狭くなる。 |