高総検レポート No 26

1996年3月1日発行

もう噴き出した総合学科の問題

第14回・日教組・高校シンポジウム参加報告(その1)

 1995年度の日教組・高校シンポジウムが、昨年の11月20日と21日の両日にわたって鳥取県で開催された。第14回となる今回のシンポジウムでは、これまでに何度か取り上げられている「高校入試改革」と、2年前に新設された「総合学科」がテーマとなった。本号では、初日の全体会と2日目の第一分科会(「総合学科」)の討議の概要を報告し、第二分科会(「高校入試改革」)については次号で報告していきたい。

全体会

日教組提案に反論あいつぐ

 第1日目の全体会では、先ずはじめに、「新たな高校改革の視点」として日教組が検討した報告書『どの子も希望する高校へ』を解説するかたちで、黒沢惟昭氏(東京学芸大学)、荘司英夫氏(日教組高校教育部長)による基調報告がなされた。
 両氏の報告で、この後の最大の議論の的になったのが、「すべての高校を総合学科にする。」との提案である。
 基調報告の後の質疑応答では、「総合学科設置の最大のねらいは、3つ目の学科をつくって、普通科にエリートを、職業科にスペシャリストを、総合学科には、そのどちらにも属さない者を入学させ、能力主義に基づいて、早期選別を新学科設置によって一層強めることである。すべての高校を総合学科にすることなど文部省はまったく考えていない。」「高校3原則の総合制は、小学区と堅く結び付くことによって、その意味を持ち得るとしているのに対して、総合学科は、入試の多様化と結び付き、推薦入試や全県一区とする学区拡大と結び付いている。高校3原則の総合制を持ち出して、その延長線上に総合学科をとらえる考えは、全く矛盾しているのではないか」という意見など、各県から基調報告に対する反論が相次いだ。
 「企業が今後、国際競争に生き残るために、労働力を常勤のエリート、有期雇用・出向の技能労働者、パートの3種に分類するというのが、日経連の労働力の3シフト制だ。これに対応するのが、普通科を2割、職業科を2割、総合学科を6割、とする高校改革なのではないか。我々が目指す本来の教育改革とは違うのではないか。総合学科の文部省内の担当主管が、初等中等課ではなく職業教育課であるのはその実態を如実に現していると言える。」(秋田)、「文部省の総合学科実施校担当者会議で、この2:2:6という数字が出されているようだから、この比率は単なる推測ではあるまい。」(沖縄)など、文部行政にとって、総合学科を新設するねらいがどこにあるのかを指摘する意見が出された。
 これに対し、普通科を2割、職業科を2割、総合学科を6割とする文部行政の目論見について、助言者の伊藤正純氏(桃山学院大)は、日経連の報告書の図説(高総検レポートNo24の図説参照)を引用しながら、総合学科の設置が、企業の雇用政策と結び付いていることは明らかであり、非常に危険な状況にあることを指摘した。しかし、黒沢氏は、「6割だっていいじゃないか。他にどんな改革があるというのか。」と、文部行政の目論見をさして問題にせず、総合学科設置を強く主張した。
 日教組の提案に賛同を示した意見が、唯一、新潟から発せられたが、他は全て総合学科を批判的にとらえ、北海道は、「日教組は、全ての高校を総合学科にしたいと言っているが、膨大な予算がかかるそんなものが、本当に出来ると考えているのか。全てを総合学科にするために、まず出発する、今後のことは走りながら考えればいいというのは、無責任ではないか。文部省にかわって総合学科の導入を軟着陸させようとする今回の会議など組合ののやるべきことではない。」と日教組の提案を厳しく批判した。

★岩手と沖縄の「総合学科」現状報告

★_とにかく大変だ!_

 それでは、総合学科の現状はどうなっているのか。1994年度に開設、実施2年目を迎える岩手県立岩谷堂高校と沖縄県立沖縄水産高校の2校の現状報告がこのあとになされた。
 両校は、総合学科としては比較的うまくいっているとの報道もあったため、“様々な意見があるにせよ、現実にはうまくいっている"という報告がなされると多くの参加者が予想した。
 しかし、2校からなされたのは、総合学科の困難な現状についての赤裸々な報告だった。

<岩手県立岩谷堂高校の場合>

 岩手県立岩谷堂高校は、まず、「定数加配については考慮されているものの、授業時間数が増え、多くの科目を教えることによる教員の負担は大きい。」「原則履修科目の「産業社会と人間」については、積極的に手を挙げて教える人がいない。」「複雑な授業形態のため、授業変更がきかない」と訴えた。総合学科になったことによる唯一の長所として「生徒が好きな科目を選べる」としながらも「選択科目の決定期が1学期内で早すぎ、かつ変更ができないため生徒に混乱と不満が出ている。」「時間割りを生徒に作らせる指導を半年ぐらいかけておこなうが、その指導が非常に難しい。」「授業毎の移動が大変で、生徒が落ち着かない」「教室が不足して間仕切りしたが生徒に閉塞感を与える」「選択科目が多いので1・2年(総合学科)では、3年(普通科・商業科)のテストの1週間前からテストを始めないと期間内に終わらない。」「一人で6〜7科目のテストを作ることにも苦しんでいる。」など、多くの選択科目(115科目!)を抱えることに伴う問題点についても報告された。
 生徒指導面では、「朝のHRで出欠確認後、すべて各自の教室に移動することによるホームルーム意識の欠如、担任と生徒との関係の薄さ」が問題としてあげられた。
 学校間連携については、「工業基礎を受講するためにバスで他校に移動することにともなう生徒の負担」が指摘され、入試では「推薦枠が20%から来年は30%に拡がり、面接50点、部活も点数化され」るなど入試の多様化が一層進んでいることも報告された。
 教育予算面では、「特に増えていない。商業科がなくなったので、かえって実習費が削られる」など厳しい状況にあるようで「設備が完備するまで予算を増やして欲しい」と訴えていた。 その他、進路指導では“出口"の指導が課題であること、卒業に必要な修得単位数が80であるにもかかわらず、3年(普通科・商業科)とのバランスの問題があり、履修単位数が93になっていること、などが指摘された。

<沖縄県立沖縄水産高校の場合>

 次に、沖縄県立沖縄水産高校から、総合学科になったことで「入学希望者が増加した」としながら、その新入生がどんな状況になっているのかについて報告された。
 まず、「退学率が減少した」ことがあげられたが、これは、「単位制になったために留年がなくなり、籍があるだけの話しにすぎない(笑)」ことが指摘された。「学校内でのサボリも多く、授業中に昇降口付近の池の回り座り込んでいる生徒もいる。彼等に何故そこにいるのかを聞くと、自分がどこの教室にいけばいいのかわからない」という。「出席状況も悪く、勉強する意欲も減退している」という。
 また、「好きな科目が多く選べる」ことにも、やはり様々な問題を含んでいるようだ。
 1年目の94年度は、4月初めに総合学科新入生全員対象に2泊3日の宿泊学習を行い、そこで総合学科の説明、科目・時間割等の説明、そして選択科目の登録を実施した。しかし、いくつかの科目に生徒がかたよりすぎて、翌日、生徒を体育館に集めて科目の変更させることになった。さらに、5月6日に教科書注文をした後、2重登録、未登録の生徒もあらわれ、6月2日の教科書販売の後でも、間違って教科書を買ってしまう生徒も少なくなかったという。
 2年目の95年度は、4月初めに新入生対象に説明会を1週間かけて行ったが、やはり科目希望調査、教員配置、講師依頼など授業が成立するまでに2ヶ月くらいかかったという。それに加えて2年生対象に選択科目の説明会が7月14日に行われたが、教員1人あたり3〜10分という持ち時間の中で、14人の教員が次年度の25以上の科目について説明したため、内容の理解が充分ではなかったようだ。
 選択科目を選ぶうえで、生徒も教員も、かなり無理を強いられているのが現状であり、新入生・2年生ともに、希望者の少ない科目では生徒を増やすように、希望者の多い科目では生徒に変更を求めるなど、「好きな科目を選べる」といっても、やはり人数調整にかなり苦心しているようである。
 条件面では、教員加配がなされてはいるものの、教員の平均授業時間数が、1年目の15.3H/週から2年目の16.3H/週に増え、3年目の来年度は、さらに16.9H/週になることが予想され、授業時間数に対して明らかに教員数が不足しているようである。
 さらに、来年度は「教室数が絶対不足する」ことにふれ、「好きな科目が多く選べる」ことへの充分な条件整備がなされていないのが現状のようである。
 個々の科目でも、条件が整備されていないようで、「自動車工学」では、「廃車が1台来ただけで、その工具もない状況にある」という。
 この他、教員の仕事がいかに大変になったかについても「出席簿の記入が複雑になった」「担任は、出席簿の整理と成績処理が大変」「生徒路導がやりにくい」「校内巡視が大変」「非常勤講師への依頼・連絡が大変」「各教員の持ち科目数が増加した」「研修会及び公文が増加した」「内規の見直し・検討」「時間割の編成とテスト時間割の作成が難しい」「臨時時間割がつくりにくい」「選択科目の教室の確保、及び教室の改修・新築の検討」「選択科目の内容及び時間割りの説明に苦慮」「選択科目の登録の仕事が複雑」「県教委との連絡・交渉」「学校説明会、パンフレット作成」などが報告され、その忙殺ぶりには驚くほどである。

第一分科会:「総合制高校と単位制」

★_問題は山積み!_

 2日日の第一分科会では、各県の総合学科の実態についての報告と質疑がなされた。
 三重県の木本高校、昂学園高校が「生徒からも好評。県教委も精一杯我々に協力・支援してくれた。学習指導要領に縛られずに新しい科目を実践できている。県教委も文部省も我々の自由にまかせてくれている。うちの学校では大成功。」と総合学科には「大賛成」とした他は、現状における問題点を指摘し、全体会で報告された岩谷堂高校と沖縄水産高校の実態が特別な事例ではないことが明らかになった。
 その個々の報告の概要は、別表(下段)の通りである。報告後の意見交換では、「総合学科の現状は、職業科のリストラと大差ないではないか。もし、職業科の改変が主旨であるならば、いきなり総合学科に入る前に、今後職業科をどうするのか、きちんと議論すべきだ。」「非常に多くの選択科目をもつ総合学科、単位制高校では、学習の系統制に問題があるのではないか。」「「産業社会と人間」で、高校における職業教育がことたりると考えているのではないか。」などの意見が出された。
 また、総合学科の実態が、この様な状況にありながら、今回の高校シンポが、総合学科について、文部行政の目論見や、その問題点を議論する前に、「すべての高校を総合学科にする。」ことが初めから結論として出されたことに対して、日教組高校教育部を厳しく問い詰める意見も多く出された。
総合学科の運用上の問題点
山形県立余目高校 ◆生徒が集まらなくなり、総合学科を設置しないとツプスと県教委から脅され廃校の不安から設置。◆40位の教室が必要だが不足。ために、「好きな科目を選べる」ほどに選択科目の設置ができない。◆多くの選択科目の説明と生徒の希望調査に困難を極める。◆選択希望科目に偏り。人数調整しなければならなかった。◆免許外の科目も押しつけられ、困惑◆志願者は増えたが、難しい生徒の入学も増え、教科・生活両面の指導が困難に。◆「産業社会と人間」での外部施設への生徒の移動費が個人負担。
静岡県立小笠高校 ◆5学科5クラスを総合学科に改編。◆特別教室を普通教室に転用したが、まだ不足。◆体育の系列を設けたが、施設が不備で、授業展開に支障。◆お茶と文化の系列を設けたが、教育内容の編成が追いつかず。◆教育予算が、当初より大幅に削減されている。◆農業科底辺校からの脱出・入学生徒の質の向上をねらったが、あまり変化なし。◆生徒指導が困難に。◆教職員には、思い切った新しい高校をつくる意気込みはあったのだが……◆推薦40%
新潟県立十日町高校 ◆幅広い選択科目が必要だが、条件整備の裏付けがない。◆施設も設備も不十分。普通教室3を各々2つに間仕切りして小教室6にしたが、防音設備がなく使いづらい。◆教員も予想した数の加配はなし。◆時間割編成。生徒出席管理が非常に複雑で多大の労力が必要。コンピューター管理化したいが予算をくれない。◆総合学科を理解しないで入学してくる生徒が多数。◆卒業後の進路とくに大学側の対応が不明確。◆高校間の序列は依然として存在。◆推薦50%。
石川県立金沢北陵高校 ◆県教委主導で工業科を改編。◆工業科の教員が余剰化、免許外教科を担当。◆工業系列の科目を選択する生徒が少なく、工業教育設備が遊休。◆細分化した「その他の科目」が担当者の専門から離れ、準備に困難。◆系統的学習が不能。◆「産業社会と人間」は、校外講師の講和形式のみ。◆校内準備や県教委への条件面の要求提出などのため、早期に設置選択科目を決めなければならないが、生徒の方には選択の条件ができていない。◆時間割編成が大変。◆推薦60%。学力試験に傾斜配点を導入。
埼玉県立久喜北陽高校 ◆普通科・情報処理科を改変。◆選択科目にさほど特色なし。農・工系はなし。普通科の教員でできる範囲の科目を設置。既成の条件で対応可能な安上がりの総合学科。◆教職員定数が、講座数でなく、学級数で算定されているのは問題。◆「産業社会と人間」の講師代・事業所見学の交通費が個人負担。◆時間割編成が大変。◆推薦60%。
広島県立高陽東高校 ◆普通科を改変。◆総合学科の定数法上の位置づけがないまま設置が先行したのは問題。教職員の不足、労働過重。◆総合学科は多様な選択科目の開設が最大の特色だが、普通科を改編した場合、農・工系の科目の設置は予算の配分がなく不可能。選択幅が非常に狭くなる。