第二分科会 「高校入試改革」 −入試改善に向けて−
'95年度入試の状況、予想される今後の「入試改革」について各県から報告があった。その多くは、「高校多様化」と結びついた「入試の多様化」のさらなる進行を伝えるものであった。学区を拡大し、入試制度を多様化することは高校多様化政策と切っても切り離せない関係にある。今回のシンポジウムで、新潟高教組が資料として使用した'93年2月
20日の文部省通知の中には次のような箇所がある。
(1) 多様な選抜方法の実施について
(2) 多段階の入学者選抜について
(7) 通学区域について |
入試を多様化するためには、まず高等学校が多様化されていなければならない。さらに、上記の文面から分かるように、多様化は「特色」という衣もまといはじめている。そして、「特色」の名のもとに千差万別な高等学校が存在することは、「生徒の学校選択」の保障という当局の方便によって、さらなる学区拡大へとつながることになるのである。
このような背景があるにも係わらず、最近、教育制度と市民の消費動向の多様化を混同する風潮がある。しかし、戦後の教育政策の流れの中で、単―の高校制度において、多様な選択科目の設置を保障するために、文部省が政策を策定したことはない。多様化は高校制度の複線化のために利用され続けられているのである。そして、多様化は現在では新多様化と呼ばれる状況になっている。(新多様化という言葉は、第7回高校シンポジウムにおいて、故都筑日教組副委員長が専門コース等の拡大状況を指して使った言葉である。いわゆる職業科を中心とした多様化と区別した。)さらに、総合学科が第三の学科として登場するに及び、高校多様化は「多様化」・「新多様化」に続く「第三の多様化」に足を踏み入れたのである。
以下、多様化と結びついた「高校入試改革」の現状について、広島県と埼玉県からの報告を中心にまとめたい。
埼玉県 推薦入試は受験機会の複数化!!!
埼玉県の推薦入試は専門コース・専門学科から始まり、現在では全ての普通科で実施され、結局は全中学生の60%以上が推薦入試を受検することになったという。推薦入試は受検機会の複数化として位置づいてしまった。後には、競争の激化と教師の負担だけが残ったような印象である。埼玉から始まった偏差値追放運動、業者テスト追放とは一体なんだったのか。結局、私学との競争に公立高校が名乗りをあげたにすぎなかったのかもしれない。
さらに、'96年度より「地域推薦制」という新制度が導入されるという。それは、「中・高・教委等で協議会を設置し、推薦の基準を決め、それに基づき各中学校で生徒を選抜する」制度だそうである。実質、現行の大学・短大の指定校推薦の公立高校版と考えればよいのかもしれない。初年度は、46校で実施されるそうなのだが、そのほとんどは「困難校」だそうである。普通科の全ての高校に推薦制度が導入される中で、これまで以上に生徒を制度的に青田買いするための仕組みであり、行政の事実上の「困難校」対策となっているとのことである。
神奈川も、「改正大綱」の中で、推薦入試については今後検討することになっている。当局は新入試についての「Q&A」の中でもそのことに言及している。推薦入試がまず導入された専門コース・専門学科について早急に総括をする必要があろう。そして、それは必ず普通科へつながるものであることを忘れてはならない。
埼玉県では普通科の推薦入試が始まるとコースと専門学科の推薦入試への希望が極端に減ったとのことである。本県でも「県産審」が行なったアンケートで、90%余りの子ども達に普通科志向があることが報告されている。
推薦入試については、宮崎県への一律30%導入の際から繰り返し言われ続けた問題点を再確認し続けることが必要である。
大分の合同選抜・広島の総合選抜
大分県の合同選抜・広島県の総合選抜が激しい攻撃を受けていることも報告された。しかし、大分県では現在でも合同選抜を守る闘いが続けられている。さらに、広島県では総合選抜は廃止になるが、実質的な小学区を一部地域で導入できる展望が開けたことが報告された。
合同選抜や総合選抜が学校間格差解消に有効であることはこれまで繰り返し説明されてきた。学校選択の自由をめぐって争われた、大分地裁の判決も合同選抜の有効性を認めるものであったのは記憶に新しい。とにかく、この両県の取り組みは絶対に守り続けなければならないものであることは確かなことだ。
また、広島県では定員内不合格を出さない取り組みも行なわれ、'95年度入試ではそれが達成できたということである。'96年度入試において、進学率が92.5%に設定された神奈川も、これまでの取り組みを越えた対応が必要である。進学率を上昇させて、定員内の不合格を出すようでは県民の理解は得られないだろう。
総合学科と入試改革
また、広島県は、入試の多様化と総合学科をめぐる対応について注目すベき報告を行った。それは、広島高教組の総合学科についての分析にある。特に、入試制度との関連では以下のように述べている。
(総合学科)は、これまでの多様化(様々な学科・コースの導入)が(勤労・労働・実証が大切であるのに、―般的にはこれを軽視した普通科志向、少子化社会の中で)破綻し、職業コースの定員割れ・不本意入学の増大などに現象するような状況が出てくる中で「第三の学科」という思想で打ち出してきたものであり、いま社会問題化している「差別選別」を是正するという思想に立っていません。 なぜなら、入学時に「セパレ―トコースに入れず」、入学後に「その能力・個性・ニーズに応じる総合学科」ということであるならば、それに対応する施設・設備・人的配置の「標準」を提示しなければならないところですが、これら当然の「行政措置」を明示せず、また「差別・選別の克服」のための必須の条件である「学区の指定」を避けているからです。(第14回高校シンポジウム 広島高教組の資料より) (下線筆者) |
さらに、「総合学科」と入選との関連について、その全国的な実態を以下のようにまとめている。
総合学科は、他の職業コースと同様に、全県一学区・推薦入学の実施・単位制などを導入しているところが多く、 そのため、差別・選別の下辺に位置付けられるか、又は、総合学科導入前よりも、当該高校のランキングが若干上位に位置づけられるか‥‥‥いづれかになっており、決して、「差別選別の克服、能力・個性・適性・ニーズに応じる教育」という思想が実現されていない。(同上 下線筆者) |
広島県では、以上の分析にもとづいて、これから導入される総合学科については、「推薦入試を導入しない。」「学区に位置づける。」「単位制にしない。」ことが決定されたとのことである。神奈川も、来年度より総合学科が導入されるわけだが、この間この三点に限っても何ら議論されることなく、現場先行で決定されてしまったことは大変残念なことである。広島のように、原則を踏まえたしたたかな対応を神奈川も目指すべきであったのだろう。
「どの子も希望する高校へ」???
(日教組高校準義務化促進委員会・日教組高校準義務化研究協力者会議)
また、分科会の中で、全体会の基調報告で使用された「どの子も希望する高校へ」という今回の報告書が厳しく批判された。この種の報告書に批判が集中するのは異例のことである。それは、この題名からして、木田会議報告(1984年7月20日の文部省通知:略称:7.20通知の原型)の中の「可能な限り希望する学校を受験する機会を作る。」という考え方にきわめて近いものを感じさせたからである。'93年2月22日の文部省通知にも同様な文章がある。生徒急減期においても入試を存続させようとした文部行政に追随するものではないかとの指摘であった。また、「希望する高校」という考え方自体、高校間格差を前提とするものであるとの指摘も出された。
さらに、いくつかの県から、この報告書に厳しい対応をとっていることが報告された。それは、この報告書が「臨教審答申」や「都道府県教育長高校問題プロジエクトチーム報告」を好意的に取り上げているような印象があることによる。これまでの日教組運動を継承していないのではという疑問からの対応であった。
そして、私学からの出席者は、この報告がほとんど私学問題に触れていないことに強い抗議を表明した。日教組は、早急に、私学を含めたプランを提示する必要がある。
おわりに
さて、神奈川においても97年度から新たな入試制度が完全実施される。当局主導による入試制度の改革は、高校多様化と表裏―体のものである。入試改革とセットで当局は「魅力と特色ある高校づくりプラン(略称:魅カプラン)」の作成を各高校に迫り、昨年3月20日に各高校がそれを提出したことは記憶に新しい。また、94年10月には当局による「魅力プラン」の説明会が実施された。この席上で、担当者は全県的な「専門コース」の設置と「総合学科」についての説明にかなりの時間を割いた。「魅力プラン」策定のねらいがはっきりした説明会あった。
さらに、当局は今春3月4日までに引き続き各校が検討した「魅力プラン」の提出を求めている。この間、神高教執行部が各支部で「入試対策会議」を実施したが、ほとんどの高校がこの一年間、何も新たな検討は行なっていないのが現実である。検討がなされない理由の―つは、「魅力プラン」の作成依頼通知の中にも明言されているが、いくらプランを作成したとしても、新たな予算措置や人的配置がほとんど期待できないことにあるだろう。今年度、「特色ある高校作り」の予算が追加配当されたが、多分、この厳しい財政事情の中で、来年度にこの予算が大幅に増額されることはまず考えられない。
高校多様化は現場の善意を飲み込んで膨張を続ける。日頃の教育活動に、出口の見えない現状が生じれば、ここに活路を見つけたくなるのは確かに人情であろう。しかし、高校多様化は私達の悲願である学校間格差解消には、現状ではなんら効果を期待できない。むしろ、格差を拡大し、固定化する方向に働く。高校多様化の本質、そしてそれが「入試改革」とどのように結びついているのかを各現場ではぜひとも再確認していただきたい。その上で、「魅力プラン」ならびに「入試改革」の議論をしていただければ幸いである。
[参考]−7・20通知要旨−(1984,7,20文部次官通知「学校教育法施行規則の一部改正について」) 1.公立高校の入試は、同―時期、同―問題で行なう必要はない。 2.各高校・学科等の特色に配慮しつつ、その教育をうけるに足る能力・適性等を判断して行なう。 3.受検機会を複数にする。 4.調査書の重視、学習成績以外の記録の積極的利用 5.普通科の推薦入学を積極的に行なう。 6.面接の積極的利用。 7.特色ある高校の学科等については、可能なかぎり広い範囲から受検できるようにする。 (高総検W期報告) |