高総検レポート No 29

1996年6月12日発行

どうする採用計画

教員年齢構成の現状

「20代の教員がいない学校が生まれている。」

1.はじめに
 急速に教員年齢構成のアンバランス化が進み、20代の教員がいない高校が生まれている。そして、40・50代の教員しかいない高校が生まれようとしている。
 私たち高総検は「神奈川の高校教育改革をめざして」高総検報告VII(1993年)の中で教員の年齢構成がアンバランスになることを指摘し、問題解決のための提案も行った。しかし、実際には我々の提案した単年度160人を大きく下回る採用が行われてきた。この影響が教員の年齢構成にどのように現れているか、1995年の概算値を再検討した(表1及び図1)。
 1995年の20代の教員は4%で、1983年の33.3%を大きく下回っている。実際には人事の関係から、20代の教員がいない高校が生まれている。30代は32.4%から46%へであまり変化していない。40代は17.8%から34.8%へ急増している。50代は16.7%から15.2%であまり変化していない。
 また、図1からは急増期の大量採用により、30代半ばから40代半ばにかけて400人を越えるピークがあることがわかる。このピークが着実に1991年より1995年には高年齢側に動いてきている。

20代 30代 40代 50代 合計
1983年 2960 2905 1595 1498 8959(人)
33.3 32.4 17.8 16.7 (%)
1995年 402 4629 3499 1524 10054(人)
4.0 46.0 34.8 15.2 (%)
2005年 160 472 4629 3643 8904(人)
1.6 4.7 46.0 36.2 (%)

2.2005年の職員室
 近年、県教委は20名程度の採用を行ってきている。この20名程度の採用が続いた場合を想定して、2005年の予測をした。図1を見ると2005年の神奈川の高校は40・50代の「中年教員」だけの学校になっている。20代はおろか、30代前半の教員は全くおらず、40・50代の教員しかいない状況が現れる。採用数の絞り込みがこのまま続くとこのような状況が必ず生まれてくる。
 さらに今後、大量採用時の教員が退職するときには再度の大量採用が必要になり、ふたこぷ型の年齢構成になることが予想される。その時には20代と50代だけの教員集団が生まれる。

3.各科毎の年齢構成の現状
(1)普通教科
普通教科は教科毎に若干は異なるが、どの教科でも30代後半にピークがあり、20代の教員がほとんどいない分布をしめしている(図2〜7)。

(2)工業科
 教員全体の「高齢化の現象」を先取りしているのが工業科である(図8)。50才前後に集中していて、教員のほぼ半分がこの年齢層になっている。近年、採用が見送られていることなどから、20代も少なく、アンバランスが顕著である。欠員も補充されていない。このため、授業は講師に頼って成り立っているのが現状である。授業準備等、専任の教員にかかる負担は少なくない。さらに、現在の50代が大量に退職する約10年後には工業教育は成り立つのであろうか。また、技術の継承・伝達がスムーズに行えるであろうか。今後、同様の現象が他の教科にも今後現れることが予想される。

(3)農業科・商業科
 両科は割とバランスがよい年齢構成になっている(図9、1O)。しかし構成する教員数が少ないため、採用計画には十分考慮する必要がある。

4.年齢構成のアンバランスによる問題点
 2005年の教員年齢構成の予測値は以下のような問題点を含んでいる。

(1)生徒への影響
 若い教員が全くいない高校が生徒にとって魅力ある高校になるであろうか。自分の親の世代やそれ以上の世代の教員がほとんどの高校の中で、生徒が教員と相談したり、相互の理解が進むであろうか。一般的には、生徒は偏った年齢層の教員集団より、様々な年齢の教員集団の中で、より多様な価値観を知ることができると考えられる。色々な年齢の者が構成する一般社会と異なった環境が学校の中にできることは好ましいことではない。

(2)学年集団の問題
 学年集団は学年集会、修学旅行等の学校行事の計画立案、学年の諸問題など最も基本的な問題を話し合い、実行していく。年々変化する生徒や社会状況の中で、同じ年代の教員だけで十分に対応ができるであろうか。

(3)部活の問題
 部の数は生徒急増期に増加したが、急減期の中で教員が減少し、かつ「高齢化」する中で、うまく機能して行くであろうか。

(4)今後予想される大量採用期の問題
 現在、34〜36才の教員数は500名を越え、この年齢層の前後10才の間は400名を越えている。この年齢層が退職する15〜25年後には毎年300名を越える採用が再度必要になってくる。その結果、20代と50代だけの教員集団が生まれるが、世代が大きく異なる教員相互のコミュニケーションが十分に行えるであろうか。

5.教育条件の向上と教員の年齢構成のアンバランスをなくすための提案
(1)早期の35人学級の実現
 生徒急増期の48人学級と現在の40人学級で授業を行ったことのある教員で40人学級の良さを感じない教員はいないのではないか。生徒がゆとりを持って学べ、教員と生徒とのコミュニケーションを深めるためには学級定員減は不可欠な要素である。欧米で40人を越える学級定員数をとっている国はないこと、小・中学校の40人学級は実質的には40人を大きく下回る学級定員数になっていることも考えあわせれば、高校の学級定員を少なくすることは教育条件向上に必要不可欠である。定数法を改正させ、35人学級を早期に実現させることが望まれる。さらに、21世紀の始めには欧米並の30人学級を実現させることが望まれる。また、学校独自の少人数学習も望まれる。

(2)生徒急減期には進学率の上昇さらに希望全入の実現を
 1995年度の全日制高校の計画進学率は92.0%、一方、実質進学率は91%であった。また、1995年の全日制進学希望者は96%を越えていた。希望者が96%を越えているのに計画進学率を92%にし、さらに実質進学率が91%になってしまっていることは、県教委の高校定員計画が県民の要望に十分に答えていないことになる。生徒急減期は施設面や教員数で余裕がなかった生徒急増期とは異なっている。施設面では県立高校は学級減で「空き教室」がうまれ、より多くの生徒を受け入れるゆとりがある。また、教員数も県当局が言う「過員」状況の中でゆとりができつつある。生徒急減期は教育条件改善の絶好機である。生徒急増期に「100校計画」を行ったように、県独自の改革として行え、すぐにでも実現可能なものは進学率の上昇と希望者全入の実現である。生徒急減期に進学率の上昇さらに希望全入の実現が望まれる。

(3)毎年100人採用を
 35人学級を実現し、さらに3O人学級や希望全入を実現させるなどの教育条件の改善を行えば、県当局の言う「過員」はなくなり、さらに毎年100人程度の採用が必要になってくる。その結果として、より多くの教員を必要とし、年齢構成のアンバランスを是正することもできる。

※少人数の科目については個人が特定できる可能性があるため、図化しませんでした。