高総検レポート No 39

1998年10月9日発行

シリーズ 県立高校将来構想検討協議会「これからの県立高校のあり方について」(協議経過の中間まとめ)を読む 第5回

学級定員減が先だ!

〜統廃合は、いらない〜

1.シミュレーションしてみよう (はじめに)
 「中間まとめ」では、「各高校の適正な規模の確保と特色ある高校の適正な配置を図るため、再編成・統廃合を含めた再編整備を検討する必要がある」*1 とあり、県立高校の統廃合を狙っています。しかし、本当に、統廃合は必至なのでしょうか。数字を見た検証のないままに、統廃合が既定のことがらのように言われてしまっている現状は問題であると思います。そこで、公立小中学校の在籍生徒数の数字をもとにした、若干のシミュレーションを行ってみることにしました。

2.学級定員を35人に、県内私学を22%にしてみると?
 我々は、この生徒急減期を教育条件整備の絶好機ととらえてきました。今さら言うまでもなく、現在の40人の学級定員は、速やかに減らされるべきです。
 「中間まとめ」は、「将来構想」における「高校の適正規模」について、「当面1学級40人」を算定基礎とした上で「18学級(720人)から24学級(960人)」と人数を明記してまで言い切っています。しかし、この算定基礎は、私たちが教育条件整備の中期的見通しを行うときに用いるべき算定基準ではなかろうと思います。物理的に、改善が可能なのですから。以下に、1学級の定員が今後35人まで減らされたものとして、そして学年あたりのクラス数を現在での普通科校の最低規模である6クラスとして、試算を行います(ここでいう「35人」や「6クラス」は、私たちが適正と考えているという意味ではなく、あくまでも試算基準であり、望ましい学級数や学級定員については別途検討が必要ですが、1クラス40人という教育条件の劣悪さについては、高総検レポートNo37参照)。
 また、県内私学への進学率を、公立中学卒業者の22%と見込んでいます*2。ここ数年、県総務室は県内私立へ18,000人、約25%として計画を策定してきていますが*3、実際にはその数値を大きく下回っています。そして、中学3年生の進路希望調査では、公立高校への進学を希望する者の率が、計画値・実績値よりも高率となっています。我々は希望者全入を掲げているのですから、中学生の希望と異なるような、私学へ高率で進学するという見通しで計画をつくっていてはならないでしょう。これによって私学の経営は苦しくなりますが、それはまた別問題で、私学助成の大幅増額などを措置で対処するべきです。同様に、県外私学国公立への進学率は、7%と見込んでいます。
 全日制への進学率は、希望者全入の観点から、公立中学卒業者の96%としています。

3.中卒者数の動向は
 公立中学校の卒業者は、今後ゆるやかに減少して行き、2006年あたりが最低人数、いわゆるボトムになると推定されています。もちろん、減少の様子は学区によって異なっています。ボトムとなる年度、また減少の急激さ、ピーク時に対する割合などです。以下の表(表1〜表6)に、ピーク時(1988年)実績数、現在(1998年)数、ボトム時(2006年)予想人数を、県全体といくつかの学区について載せてあります。ボトム時の予想人数は、現在の公立小学校1年の在籍生徒数がそのまま公立中学校卒業者数となるとしたときのものです。

*立体字が実績数、斜体太字が計画値または推計値です。
年度生 1988 1998 2005 2006
中卒者数(人) 122,167 78,201 62,939 62,673
全日制進学者(人) 110,550 71,867 60,417 60,168
全日制進学率(%) 90.5 91.9 96.0 96.0
県内私立(人) 20,599 16,022 13,292 13,237
県内私学率(%) 18.6 22.3 22.0 22.0
公立普通科入学定員(人) 74,604 44,120 36,988 36,811
クラス定員(人) 45 39 35 35
(試算)学級数 1,583 1,091 1,057 1,052
表1 県全体の動向      
4.学級数試算
 表1に、県全体の数字をまとめました。2.で述べたような仮定を行うと、2006年の公立普通科第1学年学級数は、1,052クラスとなります。これは1988年のピーク時に比べて531クラスの減(66.4%)ですが、1998年現在すでに1,091クラス(68.9%)となっており、現在のクラス数から見ればさほどの減少ではありません。全県的に見れば、どの学校も、現在での普通科校の最低規模である6クラス程度以上を維持した上でその存在が必要とされている、ということです。
 学区によっては、何か対策を講じるべきところもあります。

年度生 1988 1998 2005 2006   年度生 1988 1998 2005 2006
中卒者数(人) 6,293 4,587 4,692 4,815   中卒者数(人) 8,801 5,615 4,251 4,428
全日制進学者(人) 5,910 4,228 4,521 4,639   全日制進学者(人) 7,851 5,158 4,082 4,253
全日制進学率(%) 93.9 92.2 96.3 96.3   全日制進学率(%) 89.2 91.9 96.0 96.0
県内私立(人) 1,076 997 824 843   県内私立(人) 1,716 1,413 1,172 1,168
県内私学率(%) 18.2 23.6 18.2 18.2   県内私学率(%) 21.9 27.4 28.7 27.5
公立普通科入学定員(人) 3,698 2,377 2,906 2,992   公立普通科入学定員(人) 4,762 2,445 1,981 2,158
クラス定員(人) 45 39 35 35   クラス定員(人) 45 39 35 35
(試算)学級数 93 60 83 85   (試算)学級数 89 63 57 62
表2 横浜北部学区         表3 横浜東部学区      
(2005年、2006年については、北部から東部へ100名の特例校受け入れを行うとしてある)
例えば、横浜北部学区(表2)は、社会増により中卒者が増えていて、1クラス35人の私たちの試算では2000年頃から一部10クラス以上の規模の学校を設定する必要があることになっています。しかし、ここに隣接する横浜東部学区(表3)では中卒者減が著しく、2005年がボトムになって、その年の公立普通科学級数が57と試算されます(この学区には県立市立を含めて公立普通科高校が9校あり、単純に割り算をすれば、一校あたりの学級数は6を切る)。ここで、横浜北部学区から横浜東部学区へ100名程度以上の特例校受け入れを行えば、北部のクラス数を抑えることができます(東部は全校が6クラスとなる)。こうした関係は、川崎北部(表4−中卒者の減少が少ない)と川崎南部(表5−中卒者の減少が大きく、また学区内に公立職業高校を3校と総合学科校をもつ)のあいだでも見られます。

年度生 1988 1998 2005 2006   年度生 1988 1998 2005 2006
中卒者数(人) 8,414 5,366 4,603 4,629   中卒者数(人) 6,511 4,022 3,032 2,988
全日制進学者(人) 7,804 4,966 4,453 4,479   全日制進学者(人) 5,809 3,597 2,834 2,793
全日制進学率(%) 92.8 92.6 96.7 96.8   全日制進学率(%) 89.2 89.4 93.5 93.5
県内私立(人) 919 753 625 622   県内私立(人) 745 547 454 452
県内私学率(%) 11.8 15.2 14.0 13.9   県内私学率(%) 12.8 15.2 16.0 16.2
公立普通科入学定員(人) 4,923 2,487 2,392 2,374   公立普通科入学定員(人) 3,494 1,593 1,238 1,251
クラス定員(人) 45 39 35 35   クラス定員(人) 45 39 35 35
(試算)学級数 110 64 68 68   (試算)学級数 70 41 35 36
表4 川崎北部学区         表5 川崎南部学区      
(2005年については100名、2006年については150名の特例校受け入れを、北部から南部へ行うとしてある)

年度生 1988 1998 2005 2006
中卒者数(人) 7,947 4,622 3,283 3,143
全日制進学者(人) 7,135 4,215 3,130 2,997
全日制進学率(%) 89.8 91.2 95.3 95.3
県内私立(人) 1,743 1,235 1,025 1,020
県内私学率(%) 24.4 29.3 32.7 34.1
公立普通科入学定員(人) 4,798 2,665 1,901 1,733
クラス定員(人) 45 39 35 35
(試算)学級数 97 64 54 51
表6 横浜南部学区      
 このような措置を行えば、ほとんどの学区では、2.で述べた仮定の下では、必要とされない公立普通科校は現れないという試算になりました。*4

5.結論
 学級定員減を行えば、高校統廃合は不要です。
 統廃合を認めれば、35人以下学級への道を閉ざすことになってしまいます。


(脚注)
*1 (中間まとめ) III これからの県立高校のあり方 2 生徒数の動向を展望した適正配置と適正規模 (p16)
*2 県内私学への進学率(実績値)は、1994年22.0%、1995年22.2%、1996年22.3%、1997年23.7%、1998年22.3%でした。22%というのは実績に基づいた値でもあります。
*3 そして、それらの数字を引いた残りを公立が引き受けるとして計画を策定するから、公立が計画通りに生徒を受け入れても、神奈川県全体の高校進学率が上がらないという関係になっています。
*4 横浜南部学区(表6)については、2006年には県内私学に34%の進学を見込む形になっています。これは、我々の行っている、試算に用いている計算式の「癖」が出てしまっている部分です。実際には、もっと低い数値となることが予想されるのですが、しかし、これが少々減ったとしても、このままでは5クラス以下校ができてしまうでしょう。