1.シミュレーションしてみよう (はじめに)
「中間まとめ」では、「各高校の適正な規模の確保と特色ある高校の適正な配置を図るため、再編成・統廃合を含めた再編整備を検討する必要がある」*1 とあり、県立高校の統廃合を狙っています。しかし、本当に、統廃合は必至なのでしょうか。数字を見た検証のないままに、統廃合が既定のことがらのように言われてしまっている現状は問題であると思います。そこで、公立小中学校の在籍生徒数の数字をもとにした、若干のシミュレーションを行ってみることにしました。
2.学級定員を35人に、県内私学を22%にしてみると?
我々は、この生徒急減期を教育条件整備の絶好機ととらえてきました。今さら言うまでもなく、現在の40人の学級定員は、速やかに減らされるべきです。
「中間まとめ」は、「将来構想」における「高校の適正規模」について、「当面1学級40人」を算定基礎とした上で「18学級(720人)から24学級(960人)」と人数を明記してまで言い切っています。しかし、この算定基礎は、私たちが教育条件整備の中期的見通しを行うときに用いるべき算定基準ではなかろうと思います。物理的に、改善が可能なのですから。以下に、1学級の定員が今後35人まで減らされたものとして、そして学年あたりのクラス数を現在での普通科校の最低規模である6クラスとして、試算を行います(ここでいう「35人」や「6クラス」は、私たちが適正と考えているという意味ではなく、あくまでも試算基準であり、望ましい学級数や学級定員については別途検討が必要ですが、1クラス40人という教育条件の劣悪さについては、高総検レポートNo37参照)。
また、県内私学への進学率を、公立中学卒業者の22%と見込んでいます*2。ここ数年、県総務室は県内私立へ18,000人、約25%として計画を策定してきていますが*3、実際にはその数値を大きく下回っています。そして、中学3年生の進路希望調査では、公立高校への進学を希望する者の率が、計画値・実績値よりも高率となっています。我々は希望者全入を掲げているのですから、中学生の希望と異なるような、私学へ高率で進学するという見通しで計画をつくっていてはならないでしょう。これによって私学の経営は苦しくなりますが、それはまた別問題で、私学助成の大幅増額などを措置で対処するべきです。同様に、県外私学国公立への進学率は、7%と見込んでいます。
全日制への進学率は、希望者全入の観点から、公立中学卒業者の96%としています。
3.中卒者数の動向は
公立中学校の卒業者は、今後ゆるやかに減少して行き、2006年あたりが最低人数、いわゆるボトムになると推定されています。もちろん、減少の様子は学区によって異なっています。ボトムとなる年度、また減少の急激さ、ピーク時に対する割合などです。以下の表(表1〜表6)に、ピーク時(1988年)実績数、現在(1998年)数、ボトム時(2006年)予想人数を、県全体といくつかの学区について載せてあります。ボトム時の予想人数は、現在の公立小学校1年の在籍生徒数がそのまま公立中学校卒業者数となるとしたときのものです。
*立体字が実績数、斜体太字が計画値または推計値です。 | ||||
年度生 | 1988 | 1998 | 2005 | 2006 |
中卒者数(人) | 122,167 | 78,201 | 62,939 | 62,673 |
全日制進学者(人) | 110,550 | 71,867 | 60,417 | 60,168 |
全日制進学率(%) | 90.5 | 91.9 | 96.0 | 96.0 |
県内私立(人) | 20,599 | 16,022 | 13,292 | 13,237 |
県内私学率(%) | 18.6 | 22.3 | 22.0 | 22.0 |
公立普通科入学定員(人) | 74,604 | 44,120 | 36,988 | 36,811 |
クラス定員(人) | 45 | 39 | 35 | 35 |
(試算)学級数 | 1,583 | 1,091 | 1,057 | 1,052 |
表1 | 県全体の動向 |   |   |   |
年度生 | 1988 | 1998 | 2005 | 2006 |   | 年度生 | 1988 | 1998 | 2005 | 2006 |
中卒者数(人) | 6,293 | 4,587 | 4,692 | 4,815 |   | 中卒者数(人) | 8,801 | 5,615 | 4,251 | 4,428 |
全日制進学者(人) | 5,910 | 4,228 | 4,521 | 4,639 |   | 全日制進学者(人) | 7,851 | 5,158 | 4,082 | 4,253 |
全日制進学率(%) | 93.9 | 92.2 | 96.3 | 96.3 |   | 全日制進学率(%) | 89.2 | 91.9 | 96.0 | 96.0 |
県内私立(人) | 1,076 | 997 | 824 | 843 |   | 県内私立(人) | 1,716 | 1,413 | 1,172 | 1,168 |
県内私学率(%) | 18.2 | 23.6 | 18.2 | 18.2 |   | 県内私学率(%) | 21.9 | 27.4 | 28.7 | 27.5 |
公立普通科入学定員(人) | 3,698 | 2,377 | 2,906 | 2,992 |   | 公立普通科入学定員(人) | 4,762 | 2,445 | 1,981 | 2,158 |
クラス定員(人) | 45 | 39 | 35 | 35 |   | クラス定員(人) | 45 | 39 | 35 | 35 |
(試算)学級数 | 93 | 60 | 83 | 85 |   | (試算)学級数 | 89 | 63 | 57 | 62 |
表2 | 横浜北部学区 |   |   |   |   | 表3 | 横浜東部学区 |   |   |   |
(2005年、2006年については、北部から東部へ100名の特例校受け入れを行うとしてある) |
年度生 | 1988 | 1998 | 2005 | 2006 |   | 年度生 | 1988 | 1998 | 2005 | 2006 |
中卒者数(人) | 8,414 | 5,366 | 4,603 | 4,629 |   | 中卒者数(人) | 6,511 | 4,022 | 3,032 | 2,988 |
全日制進学者(人) | 7,804 | 4,966 | 4,453 | 4,479 |   | 全日制進学者(人) | 5,809 | 3,597 | 2,834 | 2,793 |
全日制進学率(%) | 92.8 | 92.6 | 96.7 | 96.8 |   | 全日制進学率(%) | 89.2 | 89.4 | 93.5 | 93.5 |
県内私立(人) | 919 | 753 | 625 | 622 |   | 県内私立(人) | 745 | 547 | 454 | 452 |
県内私学率(%) | 11.8 | 15.2 | 14.0 | 13.9 |   | 県内私学率(%) | 12.8 | 15.2 | 16.0 | 16.2 |
公立普通科入学定員(人) | 4,923 | 2,487 | 2,392 | 2,374 |   | 公立普通科入学定員(人) | 3,494 | 1,593 | 1,238 | 1,251 |
クラス定員(人) | 45 | 39 | 35 | 35 |   | クラス定員(人) | 45 | 39 | 35 | 35 |
(試算)学級数 | 110 | 64 | 68 | 68 |   | (試算)学級数 | 70 | 41 | 35 | 36 |
表4 | 川崎北部学区 |   |   |   |   | 表5 | 川崎南部学区 |   |   |   |
(2005年については100名、2006年については150名の特例校受け入れを、北部から南部へ行うとしてある) |
年度生 | 1988 | 1998 | 2005 | 2006 |
中卒者数(人) | 7,947 | 4,622 | 3,283 | 3,143 |
全日制進学者(人) | 7,135 | 4,215 | 3,130 | 2,997 |
全日制進学率(%) | 89.8 | 91.2 | 95.3 | 95.3 |
県内私立(人) | 1,743 | 1,235 | 1,025 | 1,020 |
県内私学率(%) | 24.4 | 29.3 | 32.7 | 34.1 |
公立普通科入学定員(人) | 4,798 | 2,665 | 1,901 | 1,733 |
クラス定員(人) | 45 | 39 | 35 | 35 |
(試算)学級数 | 97 | 64 | 54 | 51 |
表6 | 横浜南部学区 |   |   |   |
5.結論
学級定員減を行えば、高校統廃合は不要です。
統廃合を認めれば、35人以下学級への道を閉ざすことになってしまいます。
(脚注)
*1 (中間まとめ) III これからの県立高校のあり方 2 生徒数の動向を展望した適正配置と適正規模 (p16)
*2 県内私学への進学率(実績値)は、1994年22.0%、1995年22.2%、1996年22.3%、1997年23.7%、1998年22.3%でした。22%というのは実績に基づいた値でもあります。
*3 そして、それらの数字を引いた残りを公立が引き受けるとして計画を策定するから、公立が計画通りに生徒を受け入れても、神奈川県全体の高校進学率が上がらないという関係になっています。
*4 横浜南部学区(表6)については、2006年には県内私学に34%の進学を見込む形になっています。これは、我々の行っている、試算に用いている計算式の「癖」が出てしまっている部分です。実際には、もっと低い数値となることが予想されるのですが、しかし、これが少々減ったとしても、このままでは5クラス以下校ができてしまうでしょう。