高総検レポート No 44

1999年7月21日発行

県立高校再編整備計画に関する交渉報告

【99・6・15 課題別交渉:特色・入選】
◇ 99・1・29 県立高校の将来構想に関わる要求書 ◇

 2 具体的な行政計画は、当面必要な学区の「地域計画・案」としての発表とし、学 区(地域)内での検討・協議を保障すること。
  学校名が明らかにされる場合には、事前に該当する学校との十分な協議と同意を踏まえたものとすること。


 神高教の上の要求に対して、県教委は、「十分協議をすることは当然だが、最後の決定は教育委員会が責任を持ってさせていただきたい。」《3・10本部第1回交渉》、「現場の意向は十分参考にするが、学校の配置、学校づくりの基本的部分(方向性)は教育委員会において決定したい。」《4・20本部第2回交渉》と回答し、8月末頃には名前を出す方向で考えているという、10年計画の前期分の該当校にも、7月初め現在、何の打診も下ろしていない。
 「現場の意向は十分参考にする」という県教委の言は甚だ疑わしい。神高教は、昨年12月以来、現場代表を含めた継続的な交渉を県教委に要求しており、高校教育改革の検討機関である高総検において、将来構想検答申に対する検討をベースに、神高教「神奈川の教育改革プログラム」とすり合わせた交渉内容を策定してきた。しかし、ダイレクトに情報が現場に降りれば話に尾鰭がついて広まるという不可解、且つ、無礼な理由で、県教委から交渉を拒絶されている。
 6月15日に、99教育改革要求・課題別交渉(特色・入選)で、現場代表として、ようやくこの件に触れることができた。しかし、課題別交渉の時間自体が1時間しかなく、入選・中高一貫にその大部分の時間を取られたため、再編整備計画に関する交渉はわずか10分程度に矮小化された。交渉報告と称するのがはばかられる、極めて不十分な内容ではあるが、以下にそのやりとりを記し、せめてもの情報提供としたい。
 また、あわせて、その大部分が話し切れてはいない、高総検の作成した交渉予定であった内容も紹介をしたい。
 なお、課題別交渉の該当項目及び回答は下の通りである。この特色に関する要求は、再編整備計画に無関係には位置付けられないものであるとして、再編整備計画全般に話を広げて交渉をした。

□ 99教育改革要求 該当項目 □

I 教育制度改革について
7.各校の特色づくりについては各校の要求を尊重し、押しつけを行なわないこと。
《回答》H8・3の各校提出の特色プラン及びH10・6のプラン再調査に基づいて行なっている。それぞれの特色づくりを支援する。

8.普通科専門コース、総合学科、単位制高校についてはその現状の検証をすすめること。新設については職場の意向を尊重し、神高教との事前協議を行なうこと。
《回答》専門コース設置校校長会及び当該校に対するアンケート結果、また、将来構想検答申を踏まえて、制度的に設置を進める。適正配置を図り、計画的に実施する。

9.入選検報告に基づき、横須賀・三浦学区、鎌倉・藤沢学区の分割について検討を進めること。専門学科・総合学科における学区設置について検討すること。
《回答》H2に県央県北の学区分割を行なった。入選改革、再編整備計画を踏まえて学区を考える。


□      現場代表との交渉の追求     □

 【質問】 なぜ現場代表との交渉を拒絶するのか?
 【回答】 5月に各校に校長を通して再編整備計画のイメージを伝えた。それをもととしての意見集約をしている。これからどうするかを進めている段階である。理解を願いたい。

□     30人以下学級の追求     □

 【質問】 30人以下学級とリンクできる計画であるのか?
 【回答】 高校多様化のためには、一定の学校規模が必要である。1学級40人を基準とし、30人以下学級の導入よりも学校規模の確保を優先したい。1学級40人とは、HRクラスに対するものであり、レッスンクラスでは既に30以下も実現しているはずである。そうした中で多様な幅を持たせたい。また、将来構想検は、学級定員について、「国の動向を踏まえ将来的には、学級定員を少なくしていくことが望ましい」と答申しているので、30人以下学級をまったく無視をしている訳ではない。
 【要求】 東京都教委の「都立高校改革推進計画」には、職業学科については35人にすると明記されている。30人以下学級実現の際に、それを保障するキャパシティがなくては困る。24〜32学級の過大校など作ることはできないはずだ。慎重な対応をしてほしい。

□     学区縮小の追求     □

 【質問】 現行の学区を変更することがあるのか?
 【回答】 学区については、今後、一定の再編整備の見通しができた段階で考えたい。

□     高校改革に実現性のある教育予算の追求     □

 【質問】 再編整備に実現性のある教育予算は確保できるのか?
 【回答】 計画を推進する以上は、一定規模の財政の担保は必要である。しかし、100%取れるかどうかは分からない。各校で、工夫をしなければならないところはしてもらいたい。
 【要求】 [工夫]と言われるが、現在でも、講師配当が不十分であることから、学習指導領に合わない授業展開を余儀なくされている学校もある。しかし、「日の丸」「君が代」は指導要領の法的拘束性によって行なえと強要されている。これは[工夫]ではなく[無理]である。現場に無理をかけるような拙速は避けるべきである。結局迷惑をこうむるのは、生徒である。財政状況は如何ともしがたい。計画は、状況を見据えつつ、慎重に推進されなくてはならない。


□     市立高校再編整備計画との整合性の追求     □

 【質問】 県内の市立高校を持つ市教委、特に横浜市教委との再編整備計画のすり合わせは行なっているのか。行なっているとしたら、どういう計画となっているのか?
 【回答】 協議をしている。

横浜市再編整備計画の現状について、高総検は、浜高教本部に取材している。近日中に、「高総検レポート」にて情報提供をしたい。



 以下は、交渉内容として策定しながらも、課題別交渉の際にはほとんど触れることができなかったものである。職場内での討議を期待して、あわせて、紹介をしたい。
 以下の罫線内の、「 」内の文章は、全て将来構想検答申からの引用である。


《30人以下学級の追求》

  • 30人以下学級県民運動を受けとめる気はあるのか。「国の動向を踏まえ将来的には、学級定員を少なくしていくことが望ましい」という記述をどのように具体化するのか。97年9月に発表された東京都教委『都立高校改革推進計画』には、工業科・商業科・農業科・家庭科・水産科・併合科の学級定員を01年度から07年度の間に段階的に35人とすると明記されている。また、「普通科の一部の学校(=課題集中校)については、学級の弾力的な展開によるホームルームの少人数化を図っていく。」とも明示されている。神奈川においては、このような積極的な姿勢は持ち得ないのか。「専門学科や学区の事情によっては18学級(720人)以下も想定する必要がある。」という記述をどのように具体的に策定するのか。
  • 30人以下学級実現を前提としたとき、「当面1学級40人を算定基礎とし、学校全体で18学級(720人)から24学級(960人)を標準とし」という記述を、県立高校統廃合の基準として適用することはできないのではないか。( )内の人数を基準とすれば24〜32学級の中大規模校が基準ということになり、多様な選択科目の設置に対応する施設設備の保障が、教室の余裕がなくなることから、実現できなくなってしまう。急増期に体験したように、学級増への対応は困難であり、現場に大変な無理を強いることとなる。そもそも、定数法における基準値は学級数であり、学校人数は法的に意味を持たないのではないか。
  • 適正規模の根拠を具体的にどう考えるのか。「多様な教科・科目への対応が困難となったり、校務分掌等の学校運営への支障」を阻止するためには、むしろ、40人を算定基礎とした機械的な再編整備よりも、少なくとも現行の教員人数位は保障するべきではないか。「生徒間の交流など、多様な個性のふれあいの場を保障する」のは、一学校内での交流を前提とするよりも、学校間の交流を推進する方がむしろ有効ではないか。問題があるとすれば、「活力ある学校行事」「部活動」であるが、それのみを根拠とするのはあまりにも学校機能を一面的にとらえることにならないか。部活動の社会体育などへの移行などの方向性は考えないのか。課題集中校では、現状でも、「部活動」は低迷している学校が多いが、そうした状況をどうとらえるのか。また、無論の事答申には記されていないが、学校人数縮小に伴って私費収入低下の問題が生じてくる。それを、適正規模の根拠の一つと考えていることはないのか。
  • 以上を勘案する時、県立高校統廃合の基準をどのように策定するのか。県民サービスの低下防止を考えて、99年度県労連確定闘争において人件費削減までを飲んだ神高教としては、実質的に廃校整理によるコストダウンのための「教育改革」は、看過することができない。

《学区縮小の追求》

  • 「普通科高校の特色づくり」や「専門高校の特色づくり」に示された「多様な選択科目の開設と特色ある類型の設置」、また、「定時制課程・通信制課程の改善」の「多様な選択科目の開設」、更に、「柔軟なシステムの実現」の「選択中心の弾力的な教育課程の編成」は、現在でもこれに取り組んでいる高校が多数ある。答申の中で最も実現性の高い記述と考える。しかし、県立高校の大多数を占める普通科を主な視野において考えたとき、多様なカリキュラムは、小学区の中でこそ有効に機能するのではないか。
  • 中高一貫教育にしても、「高校の入学者選抜の影響を受けずに、ゆとりある安定的な学校生活を送れること」という側面から評価するならば、小学区の中で実施すべきものではないか。「学区及び入学者選抜」に関し、「本協議会としては課題の認識にとどめ、今後の検討を待ちたい」と別課題としながらも、隣接学区規定に触れた文脈で、「今後県立高校の再編成や統廃合等の進展の中で、学区のあり方について、検討が必要となることも考えられる。」としているのは、学区の拡大を示唆するものであり、カリキュラムの多様化や、「学校歴」から「学習歴」への転換の観点からの中高一貫教育の評価的側面を、無力化するのではないか。
  • 「社会や地域に開かれた高校」は、すべて住民の顔が見える地域を前提とした構想である。しかし、現行学区ではそうした地域を成立させることは不可能に近い。学区縮小が前提成立のために必要不可欠であるが、どう判断するのか。

《高校改革に実現性のある教育予算の追求》

  • 県教委の一方的なトップダウンによる再編整備計画であれば、現場に[工夫]という名で責任を無理に押しつけるべきではない。不都合が生じた場合は、県教委が責任をとるべきである。
  • 現在の神奈川総合高校をどのように評価するのか。県民にはプラスイメージとして受けとめられていると判断する。「既設の普通科高校の発展的統合や改編により、多彩な教育内容を提供する単位制による普通科高校を設置する。」、「定時制における生徒の多様化の実態を踏まえ、単位制による高校の設置を検討する必要がある。」、「より多くの生徒が単位制による普通科高校で学べるよう、通学可能な範囲に設置をする。」との答申だが、新設単位制高校に関して、神奈川総合高校に対する県民のイメージを裏切らない、客観的判断可能な財政データを提示できるのか。
  • 現在の大師高校をどのように評価するのか。県民にはプラスイメージとして受けとめられていると判断する。「既設の普通科高校の発展的統合や改編により、それぞれの特色ある教育内容や施設設備を生かした総合学科を設置する。」、「より多くの生徒が総合学科で学べるよう、通学可能な範囲に設置する。なお、将来的には、各学区に設置することが望ましい。」との答申だが、新設総合学科高校に関して、大師高校に対する県民のイメージを裏切らない客観的判断可能な財政データを提示できるのか。
  • 神高教は、教育を中心課題とした財政を主張している。答申で、行政に期待されている「中長期的規模に立った改築・改修を含めた施設設備」のみならず、一連の改革には、施設設備の充実、人的配置の充実が必要不可欠である。その予算措置をどのようにして保障するのか。
  • 「社会や地域に開かれた高校」に示されている、学校の機能・施設の開放を実現するための、改築・改修等の施設設備の整備、人的保障(東京都の『都立高校改革推進計画』にならうならば、体育施設の夜間全校開放があり、さらには、公開講座・体育施設開放の全校対応及び学習文化施設の45校開放がある。これは、そのための人員配置をしないのであれば、必然的に苛酷な超過勤務・休日勤務を必要とするのではないか。)に、財政的背景を持った、実現性はあるのか。
  • 格差のない高校に希望する誰もが入学でき、そこで各生徒が共通に必要とする基礎課程と個別に必要とする選択課程が差別なく保障されるという姿が高校教育の理想像と考える。その観点から、「柔軟なシステムの実現」の、「選択中心の弾力的な教育課程の編成」のためには、「学年制をとる高校においても、単位制が併用されていることの趣旨を踏まえ」なければならないという記述に同意する。つまり、単位制は、履修(修得)量を計る方式の一つであることから、選択科目を拡大すれば、必然的にそれを認識せざるをえない。その意味で、単位制は、「柔軟なシステムの実現」の「自校以外での学習成果の単位認定」が、教育効果のためではなく、教育の「外注」によるコストダウンとして展開してしまう手段として機能するべきではないし、また、ひとり「単位制による普通科高校への再編整備」によって成立した新しいタイプの高校にのみ適用されるべきものでもない。しかし、単位制を認識した「選択中心の弾力的な教育課程の編成」を全校に実現するためには、施設設備・人的配置の保障が必要不可欠となる。そのための財政的背景を持ち得るのか。
  • 以上の実現は、現在の財政危機の下では極めて困難と考える。教育条件整備のための時間を十分にとり、県民の期待を裏切る結果となるような拙速は避けるべきではないか。

《高校多様化の問題点の追求》
  • 現場が、統廃合に対する危機感から、特別進学コースのようなものを作っての生き残り策を打ち出してくる危険性がある。神奈川が、東京都の『都立高校改革推進計画』のような進学重視校の構想を持たず、「学校歴」から「学習歴」への転換を答申の基本としていることには同意する。しかし、答申に百花繚乱に示された高校多様化の方針が、校種間格差に《再編整備》されて、「中途退学などの課題が一部の高校に多く見られる傾向」を解消するための手立て、また、「生徒がさまざまな観点から高校を選ぶようになることによって、高校間の序列意識の変革が促される」ための手法、つまり、生徒の多様化に応ずる高校の多様化として機能しない危険性がある。現在の学校間格差、特に、課題集中校への対策を改革の視野に置くことは必要不可欠であるが、どのように具体化していくのか。
  • 高校改革は「再編成・統廃合等の再編整備」とリンクして行なわれることとなる。その場合、専門高校、単位制高校を既にもっている横浜東部学区のような地域、また、専門高校、総合学科が既にある川崎南部学区のような地域に、生徒減が急であるために、重複して新しいタイプの高校を設置することとなってしまう。こうしたアンバランスにどう対処するのか。
  • 神高教は、コース制について、入学時にコース選択を迫るものであり、1〜2学級のためにその中での選択幅が持ちにくいため、生徒のコース変更とともに、学校としてもコースの変更・廃止が柔軟に行なえるようにすることが必要と主張している。答申には、「転入学の弾力化」の中で「学科間の移動や専門コースと一般コースの間の移動についても、弾力的な運営が図られることが望ましい。」と述べられているが、これをどう実現していくのか。また、学校としてのコースの変更や廃止は認めないのか。


 横浜市教委は、12月にトップダウンで示した「横浜市立高校再編整備計画(案)」を現在のところ変更はしていないものの、市立高校内での論議を積極的に促している。対するに、県教委が、現場代表との交渉を拒絶して、県立高校の再編整備計画をブラックボックスの中で行ない、「事前に該当する学校との十分な協議と同意を踏まえたものとする」どころか、「学区(地域)内での検討・協議を保障する」ことさえもしていないことに、大きな疑惑を感じる。
 6月23日の県議会代表質問に、教育長は、「『総合学科』や『単位制普通科』を持つ高校を、県内の全十八学区に1校以上配置する」ことを明らかにし、同時に、「どちらか一方しかない学区には、隣接する学区に必ずもう一方を置く」と答弁している。【朝日新聞横浜版6・24】これらの新設総合学科・新設単位制の入選は、現行通り、全県一学区で行なわれるのであろうか。とすれば、これらは、「生徒の人気」【同】があるゆえに、全校単位制化・全県一学区化を計画している、横浜市立高校全日制普通科とあいまって、受験競争の白熱化を呼ぶ。その勢いは、「都立学校間に適切な競争原理を導入する」ために、都教育庁が策定している、「都立高校の学区制を実質撤廃して、受験生が都内全域の高校を受験出来るよう現行制度を改める方針」(学区東西二ブロック統合、相互二割程度の新入生参入)【読売新聞7・6】に迫ること必至である。
 また、県教委は、昨年の専門高校の推薦枠の50%への引き上げに続けて、本年度は、コース制の推薦枠の50%への引き上げを要求してきている。通信システムへの対応等、財政状況から困難であるものの、普通科への推薦制導入の意向もあると聞く。
 無論、「根幹的な部分の変更には慎重な検討が必要である」【6・15課題別交渉回答】として、見直しの意志を示さない複数志願制・総合的選考の問題が解決に向かっているわけではない。
 これらの全てが現場に導入される時、受検生の混乱は、先の新入選導入時の比ではないだろう。そもそも、学区・入選の問題を後回しにした再編整備計画は、順序が逆である。教育の専門家であれば、そこに思い至らないはずはない。
 ゆえに、県立高校の再編整備が、財政の課題を優先して取り組まれているのか、教育の課題に応じた計画であるのか、疑惑を禁じ得ないのである。
 当面、該当校に対して、「工夫」という名の無理難題がふりかからない十分な教育条件の整備を獲得するとともに、下記の要求を、組織の全力を挙げて貫徹しなければならない。

◇ 99・1・29 県立高校の将来構想に関わる要求書 ◇

4.再編計画の対象とならなかった学校が、教育条件整備等において放置されることなく、全ての県立高校の条件整備をすすめること。