高総検レポート No 45
1999年7月28日発行
横浜市立高校再編整備計画の現在
【浜高教本部執行部に聞く】
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□ 横浜市立高校再編整備計画(案)概略 □
【98・12横浜市教育委員会リーフレット「個性を伸ばし、多様な選択ができる市立高校を目指して」より】
昨年12月22日、全くのトップダウンでプレス発表された横浜市教委の市立高校再編整備計画案は、全日制全校の単位制化・全県一学区化など、現在、県教委のブラックボックスの中で進められている県立高校再編整備計画に極めて影響の大きいものである。神高教は、「定時制高校の切り捨て反対・全日制普通科の学区外し反対」を訴える浜高教の署名活動に、組織的に協力をした。
高総検事務局は、市教委のプレス発表後の本年1月27日、県教委の再編整備計画イメージ教職員配布後の6月24日の2回、浜高教本部に赴き、執行部役員の方々に、市立高校再編整備計画の現状についてお聞きした。
以下、枠線内の記述以外は、その内容を要約して記したものである。現場への情報提供としたい。
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□ 突然のトップダウンによる計画案発表 □
- 少子化・市財政状況への対応としての、ある程度の定時制の解体は推測していた。全日制普通科全校の単位制移行・全県一学区化は寝耳に水である。
- 鶴見工業高校の科学技術校への改編は、同校内の「将来構想検討委」とのすり合わせがまだできていない。
- 浜高教は、国際高校の設置を要求していたが、国際学科導入に矮小化された。
- 現在、選択多様化のカリキュラムを展開する努力を各高校が行なっているが、7〜8クラスないと科目が成立しなくなる。再編整備計画案は、そうした現場の努力を無視している。
- 定時制切り捨ては高課検での話し合いを無視(「入学者数2年連続15名以下」の根拠による募集停止でさえない。)している。【浜高教・浜教組連名の申し入れ】
- 98年12月21日に計画案が浜高教に示され、すぐ翌22日に新聞発表されている。市教委は、99年2月6日の市民フォーラム(市教委はフォーラムの開催を市の便りに載せただけであり、パンフも100部ほどしか用意していない。つまり、ほとんど宣伝されておらずアリバイづくりであることは明白。)を経て3月までに計画を確定したいと言っている(浜高教は、県との整合性を保つため、5〜6月まで待つべきと要求。)提示に冬休み直前の時期を狙い、電光石火に事を運んでいるのは、意図的に検討・抗議の時間的余裕を奪うためである。【99年1月30日、浜教組参加の決起集会<神高教も参加>】
□ 浜高教・市教委交渉の概略 □
[組]・浜高教、[市]・横浜市教委
○ 定時制切り捨ての問題 ○
[組]定時制の切り捨てをなぜ行なうのか?
[市]少子化、市立定時制希望者減の状況がある。その中で、例えば、定時制によっては、在籍生徒の15〜20%が市外出身者であるような実態がある。財政状況を考える時、市民の税金を用いて定時制を現状のままとすることはできない。
○ 全日制全県一学区化の問題 ○
[組]全日制全校を全県一学区とするのは、県立高校を視野に入れた場合、学校間格差の拡大を招き、受験競争の激化につながるのではないか?
[市]学区については、中教審によって、市町村に決定権がある。本来ならば、全市一学区としたいが、市立高校がない学区もあり、県内で市立独自の入試制度を組めないので、全県一学区とした。特色ある学校としての位置付けである。
[組]市立高校がない学区があるのは、急増期の百校計画を県立に押しつけ、市立が怠けてきた結果ではないのか。
○ 教育条件整備の問題 ○
[組]全日制普通科全校を単位制としても、教育条件整備の現状を考えれば、現行の選択科目多様化(県立よりは充実)とほぼ同じカリしか対応できず、上っ面だけのものとなる。何の意味があるのか?
[市]二期制が入れやすくなるメリットと、教員数確保のメリットがある。この案が実現しなければ、雇用の問題にも発展しかねない。
[組]二期制については、現在の教育条件では、年間に2種の時間割りを組むことは不可能である。教員数確保については、30人学級要求の全国運動をどうとらえているのか。
[市]30人学級の展望は、現在、まったくない。
[組]教育予算をかけない単位制は、授業時間の殺人的増大による教員の負担荷重を招くだけである。
5月25日提出段階で、トータル43,000筆の署名提出など、浜高教の様々な運動を経て、市教委の態度は変化をしてきた。「12月案は確定ではなく、市民の声を聞き、具体的な案はこれから示したい。案が完成したものと受け取られ、現場を混乱させた。」とし、当初2005年度完成と謳っていた再編整備計画を、「将来的に」完成させるものと言明している。浜高教は、これを、一方的な再編整備計画を運動によって押し返したものと評価し、この後の取り組みは個別の協議によるとしている。
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□ 市教委の態度の変化 □
○ 定時制切り捨ての問題 ○
- 昨年度は6月末に、統廃合への対処を言ってきており、県立三崎高定時制の存続運動などを例に出して、簡単に募集を止めるべきではないと反対した。本年度は、現在のところ、何も言ってきていない。
○ 全日制全県一学区化の問題 ○
- 現在のところ、全県一学区化を変えてはいないが、地方分権一括法通過後には、地方自治体に裁量権が生ずることから、市教委は、横浜市内一学区化を目指したい意向を持っている。
- 単位制高校の配置のバランスについては、県教委と協議していると述べているが、その内実を明らかにはしていない。再編整備計画確定は、当初、市教委は3月と言い、浜高教は県との整合性から5〜6月まで延ばせと主張してきたが、現在のところ、動きが見られない。県に合わせて、8月末以降に出てくるのではないか。
○ 教育条件整備の問題 ○
- 単位制に移行するには、教員定数のみならず、施設の面からも不備である。生徒の空き時間のためのホームベイ(居場所)が確保できる学校は2校しかないが、市教委は、予算をかけられないため、新設は論外と言っている。
□ 市教委以外の動き □
《横浜市長》
市立高校再編整備計画案に同意していないと、99年年頭記者会見で表明。公立高校教育の主体を県立に任せたい意向。浜高教委員長が、市立高校の役割を訴える手紙を市長に出している。市立高校の役割を、市立高校校長会ともども市長と話し合っている。
《市立高校校長会》
市立高校再編整備計画案に賛成している。学校間連携に関し、部活指導の派遣・単位互換などについて検討をしている。
《存続運動》
港高校の卒業生・教職員有志による存続運動がかなり大規模に展開している。市立高校は地域との結びつきが強く、学区外しに対する地域からの反対の声があがる可能性もある。
以上の動向を踏まえ、浜高教は、以下を対案として市教委に提示している。また、神高教と共通する課題の指摘をお聞きした。
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□ 浜高教対案概略 □
《専門高校》 :現場の意見を尊重して対処すること。
《全日制普通科》:単位制への移行について、現場からの要求がある場合は否定をしない。一方的なトップダウンは行なわないこと。(現在要求なし。)
《定時制》 :本当に生徒がいなくなった場合の相談はしている。現在一方的に門戸を閉ざすのは妥当ではない。
□ 神高教と共通する課題 □
- 入選・学区の問題を置いておいて、再編整備・高校多様化を進めようとしているのは、市教委・県教委ともおかしい。受検する中学生の側からすれば、「どのタイプの高校に入るか」よりも「どうやって高校に入るか」の方が先の問題であり、入選に大混乱を引き起こすことは必至である。市立高校・県立高校・中学校が連携し、市民レベルのシンポジウムを開くなどの取り組みが必要である。
- 現場との協議をしようとせず、トップダウンで事を運ぼうとする姿勢は、市教委・県教委ともおかしい。計画は行政が一方的に立て、失敗すれば現場の責任であるという体制では、意欲を持った取り組みなど期待できないはずである。市立高校再編整備計画案を公式に見直す動向はないものの、市教委は、少なくとも市立高校内での論議を促している。ともに、現場からの論議の積み上げを活性化すべきである。