高総検レポート No 59

2002年3月12日発行

「二校統合問題を考える」

■はじめに
 再編校の多くは、4月からの統合1期生の入学に向けて様々な準備に追われています。この、高総検レポート「再編を考える」では、再編校の抱えている間題点の共有化を図ることによって、よりよい再編を実現するためにこれまでに2つの先進的取り組みを紹介してきました。今回のレポートでは、統合に向けて教職員が両校を「兼務」する事によって統合をスムースに進め、再編統合の矛層が集中する移行期の生徒に悪影響を与えないための取り組みを紹介します。もちろん、兼務は当該教員にとって大きな負担となります。しかし、2校統合方式を選択した以上、別々の学校に在校する生徒同士が1っの高校の生徒として、差別意識や優越意識を持たず、違和感なく統合していくには必要な負担だといえます。ただし、行政が教職員の犠牲的な貢献にのみ期待するとしたら、それは教育行政の責任放棄以外の何者でもありません。その意味では、行政の果たすべき責務は大きいと言えます。ここでは、「兼務」を1年間実践してきたある再編校の取り組みを紹介し、「兼務」の間題点を明らかにすることによって行政が果たすべき役割を明確にしたいと思います。

■「兼務」を実施したのは
 これまで再編対象校では、再編後の学校の体制についての検討は行ってきましたが、統合された時の移行期の生徒についての検討を十分に行ってきたとは言えません。移行期の生徒にとっても、一生に一度の高校生活なのですから、夢のある高校生活を彼らに与える義務が私たち教職員や行政にあることは言うまでもありません。私たちは、移行期の生徒について、とりわけ移行期一期生は2年間もの間別々の学校で生活するということを考えるとき、その2年間をどの様なスタンスで考えていくのがよいのかを検討してきました。その結果として、1つの学校として卒業していくのですから、2年間は別の場所にいても1つの学校の生徒として考えていくのがよい、という判断をしたのです。そして、統合された3年目は、混合クラスとすることを決定しました血そのために、別々の学校にいる間でも、同じ経験や内容をできる限り提供する必要があるとの視点に立ったとき、行事を中心に交流するだけでは足りないと考えました。また、統合時に教員と生徒との距離感を少しでも縮めることは出来ないだろうかとの思いから、「兼務」という考えに到達したのです。

 県当局は、2001年1月「再編統合校間における教職員の兼務について」を各再編該当校に「通知」しました。その内容は以下の通りです。
  再編統合校間における教職員の兼務について(通知)
  1. 再編統合校より兼務の要望があること。
  2. 再編統合の円滑な推進、新校設立後の教育活動の円滑な実施等を図るために、教員を兼務させる必要性が認められること。
  3. 原則として、再編統合校双方において兼務対応を行うこと。

■メリット・デメリット
 両校では、この通知を受けて話し合いを行い、両校職員の合意の上で兼務対応を行うこととしました。この経験から、兼務のメリット、デメリットを以下のように整理しました。

○メリットとしてあげられるのは以下の通りです
○デメリットとしてあげられることは以下の通りです

 今年度、身体計測と授業が重なり、本務校の計測当番をはずしました。しかし、今後学校規模が縮小すると同時に職員数が減少し、対応が難しくなることが予想されるので、増員等がどうしても必要となっています。また、時間割変更や曜目変更の際、何処まで考慮すればよいのか、授業が重なった時など自習対応をせざるを得ないとき、どちらを選択するかで大いに悩みました。今年度は影響はなかったのですが、両校の開校記念目や文化祭の代休、遠足等への引率による自習、各種生活指導による緊急打ち合わせへの対応など残された検討項目は多く、今後両校の行事等への目程調整などが必要となるでしょう。また、本務校の代休の目に、兼務校で行事や授業がある場合などの、勤務上の対応も必要です。

■「兼務」を効果的に行うには
 2つの別々の高校に入学した生徒が、新校開校時にスムースに統合するためには、様々な方法で交流を積み上げる必要があります。例えば、行事や部活など生徒間の交流は様々な場面で行うことが可能です。しかし、生徒と教員が交流する場は授業が一番です。しかし、生徒秘互いの学校を行き来するのは、両校の距離や交通機関が関係しますが、安全面や時間的ロスを考えると極めて限定されます。生徒の移動は、午後の選択時間帯に限られ、人数も小人数でしか不可能です。となれば、教員が移動する方が合理的ということになります。そこで、私たちは、両校が3クラス募集で4展開することを想定して、その時の兼務の方法を以下のように考えました。

 3/4兼務体制(4人の担任のうち3人が兼務する体制)案
担任A 本務校4時間兼務校8時間(2クラス) 計12時間+移動4時間
担任B 本務校8時間兼務校4時間(1クラス) 計12時間+移動4時間
担任C 本務校8時間兼務校4時間(1クラス) 計12時間+移動4時間
担任D 本務校16時間兼務無し               計16時間
                        合計兼務時間16時間4クラス

 この様な体制を両校で採ることによって、両校の移行期の生徒は必ず兼務教員の授業を受けることが可能となります。また、担任団の中に本務校のみの教員を作ることによって、校内で問題が生じたときなどの対応も可能です。移行期1年目は、両校3人ずつの兼務ですみますが、移行期2年目は、それぞれ6人ずつの兼務体制となり、学校の負担は大きくなります。

■兼務を行うための条件整備
 兼務の体制を成功させるためには、両校の合意の上に条件整備を行うことが不可欠となります。まず、両校の大きな行事(遠足、修学旅行、面談、文化祭、体育祭、定期テストなど)の目程は出きる限り合わせることが必要です。兼務教員は、兼務体制案にも示したように、移動時間を持ち時間として計算(1目の兼務に対して、1時間の授業時間として設定)するなどによって、時間的負担を軽減する必要があります。また、両校の担任の教科が異なる場合には、教科にかかる負担を考慮して、時間講師の配当を要望するなどの配慮が必要です。そのためには、需給表提出までに担任を決定しないと加配の要望などを行うことが出来ません。
 また、旅費の問題も重要です。両校の教員の移動や、生徒の両校間の移動のためには多くの旅費が必要になります。兼務教員のみが移動するのではなく、部活の兼務(合同部活等も増えている)や、教職員の打ち合わせ、合同行事など旅費の大幅増額が必要となっています。さらに、生徒の移動は大量の移動となりますし、迅速な移動が必要です。できればスクールバスの確保が望ましいのですが、少なくとも、生徒への移動交通費補助予算の大幅増額が必要となっています。2002年度、ある再編校に年間を通じて生徒移動に必要な「交通費」が計上されました。その学校では、これまで体育祭や講演会など生徒を移動させる際に臨時バスの運行を行って来ましたが、個々の生徒がそれを負担してきました。部活や、生徒相互の交流など生徒の交通費負担は大きなものでした。
 しかし、この兼務が学級数の減少に伴う、少数教科の整理や持ち時間調整、非常勤つぶしなど合理化に利用させるようなことがあってはなりません。また、兼務は、教職員間の十分な話し合いと合意の上で決定するもので、上からの「命令」で行うようなものではありません。実施方法、実施形態、兼務要員等は当然当該校の話し合いで決定する事が、兼務を実施する上での前提です基本です。今回、紹介した再編校は様々な条件が合致し、ある意味では理想的な条件の下で進められたと言えるでしょう。各学校の状況に合った「兼務体制」の確立が必要でしょう。しかし、兼務体制は再編統合を進めていく上で、間題を解決する様々な方法のうちの一つのでしかないことはいうまでもありません。

※ 資料 ある兼務の実態

○A校のaさん
教科:数学(数学A・3年)、週2回2時間(水曜2時限目・金曜3時限目)

○B校のbさん
教科:数学(数学B・2年)、週2回2時間(月曜3時限目・木曜5時限目)

* aさんも、bさんも新校準備委員であり、今年度は準備委員講師加配がある。両校の合同委員会は、火曜目午後に設定されている。また、両校の部会等の打ち合わせのために、金曜6時限目を両校とも開けた。

aさんの時間割
A校
1
2   
3 
4   
5  
6   
    
bさんの時間割
B校
1    
2  
3  
4    
5   
6  

A:A校授業 B:B校授業 移:移動時間 会:各種会議