高総検レポート No 65

2004年2月20日発行

前期再編計画を振り返る

■ ある統合現場で起こったこと ■


 はじめに

 2004年4月1日からA高校は、B高校と統合し、新校総合学科としてスタートを切る。この統合までに4年半の日々が費やされた。移行期までの準備期間が2年半、移行期が2年である。この間、この2校間では、移行期カリキュラムのすり合わせ、新校カリキュラムの編成、施設改修等を始めとして、移行期間の部活動や中学校への新校PR、新校の入試選抜方法、新校の制服、新校の教務基準、新校の生徒指導基準、生徒支援システムの確立、出席管理や時間割作成方法とさまざまな課題に取り組んできた。
 高総検では、A高校を訪ねて、これまでの経過とその課題を振り返ってもらった。後期再編計画の一助にしていただければと思う。

1.両校の教員の意識

 統合というと、在校生やその保護者、卒業生あるいは地元の方々の気持ちが複雑だろうということが思い浮かぶ。そのためもあって、神奈川県では緩やかな2校統合方式を採用しているが、予想以上に難しいのが両校の教員の意識である。具体的には、まず総合学科や単位制という、従来の普通科とは違った学校になることへの抵抗感である。今までの、いわゆる大学進学重視型の普通科よりもレベルが下がるとか、学校設定科目をたくさん作る面倒さとか、単位制のため部活動がやりにくくなるといったことへの抵抗感が大きい。また、現場では統合を希望していないのに、一方的に県に決められたということへの不満も根強い。2校間に学力差があるので、それに対する不満もある。こういう意識は教諭だけでなく、管理職にもある。統合にあたってはこれらの解消が第一だと思われる。みな神奈川県の教員であるのだから、本来はどうでもいいことだと思われるが、特にB高校には格下のA高校と一緒にされることへの抵抗感もあったのだと思われる。これらの意識は捨ててもらわないと再編計画はやりづらいのではないか。
 統合が決まった時点で、この計画は職場から学校を変えていく大きなチャンスだととらえることが大切であろう。

2.改革担当、管理職の意識

 統合が決まると、新校準備委員会が発足するが、そのメンバーは両校の校長・教頭、両校から教諭が3名ずつ、そして、県教委から改革担当が3名というのが一般的である。県教委の改革担当には、総務室から1名出ている。この人には教員の経験がないので、現場を知らない。そのため教員サイドと意見がかみ合わないということがままある。他2名の高校教育課の方が舵取りをしてくれるといいのだが、それがうまくいかない場合は、議論に多くの時間を費やすことになる。新校準備委員会は、最終的に改革担当が決定権を持っているような所があるので、改革担当側に対して異論がある場合は、教員側は相当な準備が必要になる。例えば、高校教育課は、総合学科には学年制を認めず、必履修科目を全て設置させ、入学時から全て選択制を導入させることを求めてきたということがある。(全国には学年制の総合学科は存在するし、神奈川の私学にも存在する。)議論の末結局新入生の選択は、英・国・数・芸となったが、相当な時間が費やされた。カリキュラムの決定権は、校長にあるといいながら、新校開校までに県民にPRするための「新校設置計画」については県教委がカリキュラムの決定権を持つのである。こういった二重構造はやりにくいものだ。また、校長が2名いるというのもやりづらい。
 管理職が、単位制や総合学科について間違った認識をしているのも問題である。新校を作るというので、管理職には百校計画当時をイメージしている人が多いのかもしれないが、進学重視という意識を捨てられない人がいる。そういう人には、「産業社会と人間」や「総合的な学習の時間」は無駄な時間にしか見えないようだ。事実、B高校の校長は移行期のカリキュラムに「産業社会と人間」を入れることを認めなかった。また、単位制に設ける「系」や「系列」についての認識も甘く、そういうものにとらわれない進学重視型の選択を強くPRしたいと主張した。卒業単位を74単位とすることにも強く反対していた。いずれも、総合学科や単位制を知らないための発言であるが、相手が校長であると、新校準備委員会としては無視するわけにも行かず、たびたび議論をすることになる。また、今年になって、1年次に習熟度別クラス編成(英・数)の導入を校長側が強引に決めてしまった。総合学科が職業教育も行う学校だという認識は薄く、新校のイメージアップや自分(校長)の実績アップにとらわれているといわざるを得ない。
 ついでに言うと、新校準備の仕事を「管理職登用のえさ」にする管理職もいる。事実B高校では、毎年のように新校準備委員会から教頭に登用される人がいる。こうなるとB高校の教員間の連帯意識は薄れ、新校準備に対して多くの教員がそっぽを向くようになる。再編計画が進まない原因はこういう所にも現れる。
 ここに述べたのは、改革担当と管理職の問題であるが、こういうことについては、本部から県教委に申し入れてもらい、また、我々現場の教員も粘り強く新校準備に取り組む決意を持たないと、形骸化された統合になってしまう。

3.改革担当とは別組織の教育施設課

 改革担当とは別にありながら、新校設置に大きな影響を持つのが、教育施設課である。この教育施設課は、新校準備委員会のメンバーには入っていない。そのため新校準備委員会でどういう議論が行われたか分かっていない。当初は、改革担当から報告も満足に受けていなかった。そのため、ある日唐突に施設についての説明がなされる。現場としては、ある程度改革担当との間に話ができているのかと思っていたが、そうでなかったので戸惑うことが多かった。特に最初は、「夢を描け」とばかりに、予算制限なしで施設改修要望を求められたが、こうなると現場としては、両校の教科、分掌、系列など多くの組織に校舎改修のイメージ設計をしてもらった上で、要望書を提出することになる。それには校内の会議だけでなく、両校のすりあわせもあり、結構手間が掛かる。やっとの思いで要望書を提出しても、しばらくはなしのつぶてで、新校準備委員会で改革担当に聞いても分からない。忘れた頃になって、教育施設課から返事があったが、要望はほとんどカットされた。どうしてもという要望があれば、資料をつけて、今週中に教育施設課へ提出せよとのこと。要望を出すにしても、両校の新校担当者会議を開き、吟味した上で、両校の職員会議に報告してからとなるので、急に慌ただしくなる。新校準備委員会とは無関係に、急にやり取りをすることになるので、現場としては大変であった。
 ただ、予算の見通しがつくと、だいぶゆとりが出るのか、設計事務所との話し合いでは、こちらの予想よりもいい設計をしてくれた。教育施設課とのやり取りは、終盤まで気が抜けない。途中で投げ出さないことや面倒でも多くの教員を巻き込み、意見を吸い上げ、また要望内容やその結果を逐一職員会議で報告することが大切になろう。ちなみに今回の改修でほとんどの教室にエアコンが取り付けられた。予算は国から出ている。

4.移行期の生徒に対する課題

 新校への準備の中でやっかいなのが移行期の生徒の扱いである。移行期は2年間あり、その間は両校とも3クラス募集となる。まず、カリキュラムを2校間で揃えられなかったために、統合時、担任はクラスの生徒の卒業条件を把握しづらいということがある。また、A高校は単位制的な取り組みをしているが、B高校はほとんどその取り組みがないため、生徒が統合時に単位制的なシステムに慣れていくかどうかという不安もある。
 部活動については生徒に不自由をかけていると思う。まず、1学年が3クラス規模だと絶対的に部員の不足が起きる。特にA高校ではその傾向が大きかった。移行期2年目の秋になると、春をにらんで、両校が一緒に練習することになるが、その行き来は大変である。両校は5kmほど離れており、自転車なら20分もあれば行くが、多くの生徒は登校に電車を使っているので移動は電車利用となる。すると優に40分は掛かってしまう。移行期2年目に認められたバス移送については年間30回分の予算を計上してもらったが、部活動だけの利用を認められていない。授業や生徒会活動などのついでに利用できるだけだ。カリキュラムが揃わないため、知恵を絞って授業交流の計画を立てたが、バス移送は年間20回に満たないし、1台のバスに見合う人数が利用していないのが現状だ。せめて、授業を優先した上で余った予算については部活動だけのバス移送を認めてもらいたいものだ。また、両校の年間行事計画が異なったため、定期試験の時期等が食い違い、合同練習ができないことも多かった。定期試験や文化祭等の行事をできるだけ同時期にした方が部活動の交流はしやすいと思う。
 学年交流は、合同球技大会を年に1回実施したことと、2004年度の科目選択説明会を合同で行ったことくらいで終わった。交流と言っても、移行期の新担任団がなかなか決まらなかったことや日常の業務の忙しさもあって、あまり活発にはならなかった。管理職は早く移行期の新担任団を決めたがった(前年の9月には決める意向だった)が、人事異動内示が2月ということで職員会議で決定時期に異論が出たり、教員の希望者が出揃わなかったりして、決まらなかった。(新校1年担任団については12月に決定)

おわりに

 前期再編計画は2005年で全て開校になるが、その完成は2007年である。それまでにまだまだ多くの課題が残っている。特に単位制や総合学科では、学校設定科目の担当者の決定だけでも大きな課題だ。今後、再編計画を支えた教員が異動する時期を迎えてからが正念場となろう。また、生徒の支援体制をどうするかということも課題として残っている。学校が単位制になり、従来の担任の役割が不明確になる。また、生徒指導や科目選択についての指導も難しくなる。チューター制やカウンセラーの設置などが盛り込まれているが、それがどんな成果を生み出すかはわからない。
 再編計画が教育課程の自主編成の機会であることを押さえ、職場の多忙化や労働強化、管理統制につながらないようにしながら、今後の教育改革を進めていきたい。




■ 後期再編計画に合同選抜を要望するために ■

1.前期再編校についてのある仮定

 2校統合方式で再編統合された、ある学校の1期生の学年では統合後(3学年)では以下のような事が起こった。学力差・生徒指導の問題、職員間の連携の悪さ、通学距離の変化、教育環境の急激な差などから、1年間で、40人が退学・休学になった。職員も、過労で10人が休職に追い込まれた。
 1期生の6学級では、白けた雰囲気が漂い、朝のHRが始まるまでは、元の学校の生徒同士が廊下やトイレにたむろしている。担任が来るとしょうがなく移動しクラスに入るが一部の生徒は、選択授業にならないと登校しない。クラスの一斉授業では、生徒の学力差からポイントが定まらず、どの生徒にとっても面白く無い授業が続いている。学校行事では、HR活動の体制が出来ていないため、文化祭や体育祭は、非常に中途半端なものに終わってしまった。最上級生の3年生がその様な状態なので、部活動や、学校行事が他の学年にも影響する。
 こんな再編統合も、ある学校では想定された。

2.合同選抜を後期選抜に取り入れるために

 前期再編計画では、2校統合方式が取られた。現時点では、殆どの再編校で廃校方式は現実性は無い。2校統合方式を前提に考えると2校の合同選抜が非常に重要と考える。上記の「ある仮定」が起こった場合、生徒が一番苦しむという考えからである。ある再編校では、新校1期生は、カリキュラム・制服・生活指導、教務、進路内規を統一し、合同行事、交流授業を実施し、1つの学校として学年生活を終わろうとしている。しかし生徒の努力と協力は、大きかったと思える。「ある仮定」が起こらないために、職員の協力体制と会議の多さは大きかった。今回の再編を検証する際に「ある仮定」が起こってしまった方が、後期計画には良かったかとも考える。そのような問題を県教委は、システムとして作ってしまった反省を与えるために。

3.県教委の合同選抜を行わない理由

 県教委は、以下の理由で合同選抜を否定した。

(1)合同入学者選抜を実施するためには、該当の学校同士が同じ教育内容を提供すること、そのために教育条件等が同程度に整っていることが必要である。
(2)生徒の主体的な学校選択を保障する.
・入学を希望する生徒は対象となる2つの学校が統合することを意識しつつ、各学校での生活や特色ある教育の享受を要望すると思われるので、統合前の移行期間といえども主体的な学校選択を保障することが重要である.
 (1)の教育条件については、カリキュラムと入試の重視する内容を同じにする事でクリアする事が出来た。しかし教室数や通学時間、部活動など同程度にする事が出来ない問題は当然ある。
 (2)の学校選択ですが、生徒は統合校を主体的に選んだのですから、入学と卒業を同じにする条件整備の必要性があると考えます。

4.後期選抜に合同選抜を入れられるか?

 *来年度から学区撤廃が予定されている中で、総合学科・普通科・普通科コース・職業科などの体制で、生徒がどのような希望を持つか不明である。
 *合同選抜は、2校のどちらに通学するか不明であるので敬遠する可能性もある。

5.上記解決するために

 *合同選抜を行うが、通学する学校は1校とする。つまり100校計画の開校時と同じように、敷地内に2校併存方式を採用する事で解決する事が出来ると考えます。
 *その事で施設改修などの、問題点も解決出来ると考えられる。