高総検レポート No 67

2004年4月20日発行

定時制からみた2004年度入試

 ■はじめに■

 2次募集の発表の時、2名の受検生が「やった、受かった」と本当にうれしそうにしていた。この日までに彼らは何回不合格を体験したのか。前期入試・後期入試・全日の2次募集・私立の入試といくつかの不合格を経験したのは確実である。いろいろ面で大きな変化があった新入試について定時制の立場から振り返ってみる。

 1.日程・仕事量

 今年度の定時制入試日程は昨年度までと比べて、非常に長くなった。昨年度は3月上旬に行われた1次募集から2次募集の入学手続きまで半月ほどであった。それに対して今年度は1月20日の前期募集から、後期募集、2次募集、さらに、4月上旬の3次募集の入学手続きまで3ヶ月に渡る期間になった。気の張る作業を4回も行うことはかなりのストレスになった。また、長いだけでなく、試験会場をはじめ、全日との調整が必要になり、複数の課程が同時に入試を行う上での問題も新たに生まれた。前期・後期の入試では合格発表・入学手続きを全日と異なる時間帯に行うなど配慮が必要になった。中学校からくる調査書も課程ごとに分ける必要があり混乱が起きる可能性が生まれた。採点業務も30分のテストから50分のテストに変わったことで監督・採点をはじめとして仕事量が増加した。受付から入学手続きまで、同じ作業の繰り返しで、事務職員の負担も増大した。

 2.受検生への配慮

  1. 受検生が不合格になる回数が増えたことが最大の問題である。特に今回の3次募集での合格者は何回の不合格を経験して入学してくるのか。また、3次募集の不合格者はさらに1回多い。何回も不合格になった受検生の気持ちを県教委は考えたことがあるのであろうか。定時制の生徒の中に前期合格者・後期合格者・2次募集合格者・3次募集合格者という変な意味での階層ができなければよいが、不安である。
  2. 前期で定員の最大50%しか合格者をだせないので、前期で不合格者をだしながら、後期で定員割れを起こすというおかしなことが数校で起きた。定時制には不登校生・過年度生・仕事を持つ生徒・日本語を母語に持たない生徒などが多く在籍している。そのような受検生がやっと受検したのにもかかわらず、不合格にして、再度の受検を強いるのは考えものである。前期の不合格者が後期に応募してくれるか、進学の意欲を失ってしまったのではないかと不安になったとの声も聞かれた。定時制は前期から定員の100%まで合格させることができるようにしてほしいものである。
  3. 学区確認 今年度の入試から全日制との志願変更ができることになった。このため、定時制だけしか希望しなくても、学区確認が必要になった。平日の日中に各学区におかれた学区確認委員会へ出向いて確認を受けることになり、仕事を持つ受検生が応募する段階でハ−ドルが高くなってしまった。この点は全日制と同じに入試を行うことによる弊害である。

 4.在校生への対応

 県教委は授業確保と言うが、前期・後期・2次募集さらに3次募集で入試日・前日準備・採点日と授業が行わない日や短縮される日が増え、在校生への教育活動に大きな影響があった。3次募集では入学式後の入試になり、新入生の入校教育、3次募集生の入学式、2年生以上の授業と年度当初に混乱が続いた。

 5.臨時学級増・学級定数40人問題

  1. 定時制の学級定数が2年ぶりに40人になった。全日制でさえ、転編入枠があり、1クラス39人になっているのに、困難な生徒が多い定時制を40人にするなど県教委は数あわせしか考えていないのではと思ってしまう。教員の定数が増加する学級増を行わず、安上がりの施策をとったことは明らかである。留年生も定時制では多いので、その結果、定時制と全日制の共用教室で全日制の時間には机を片づけ、定時制の時間に用意するという逆転現象がいくつかの学校で起きている。
  2. さらに2次募集の混乱に乗じて行われた翠嵐の臨時学級増と横浜市立・川崎市立の学級定数増は一昨年の反省の上に行われた入試とは思えない失態である。本来、受検生は全日制への入学を希望しており、同様のことを行ってよいのなら、後期入試において全日制で行ってほしいものである。いわゆる「進学校」なら留年生もほとんどおらず、1クラス40人から数人増えても授業は成立する可能性は高いし、受検生にも喜ばれる(?)のではなかろうか。教育困難な定時制に失敗のつけを2度まで押しつけるのは非常に問題である。

 6.2次募集での県教委の圧力

 2次募集で定員を超えた受験生がいた学校に対して、県教委が定員を超えて学校裁量枠まで合格させろとお願いをしたようである。ある定時制では留年生が多く、1年生が1クラス47〜8人になってしまうと断った。合否判定に県教委が圧力をかけたとなれば大問題である。

 7.初めてか?3次募集

 県教委は100名を上回る不合格者がいることを理由に定時制の3次募集を強行した。3月30日16時に県教委に欠員がある定時制の教頭(一部校長が出席)が集められ、4月9日に3次入試を行ってくれとの伝達があった。一部の定時制ではその日が入学式のため、時間帯も含め4月9日・12日・13日から各学校で選ぶことになった。入試を行わない選択肢はなかったようである。多くの定時制では4月9日に入試が行われた。3次募集は進学先を求める生徒が入学できるのならと仕方がない面もあるが、なぜ定時制だけにまた押しつけるのかと釈然としない。我々教員が入試でミスをすれば「処分」を受けるのに、県教委の担当者が「処分」を受けたとの話も聞かない。

定時制の合格状況(記者発表資料より作成。競争率は県の方式による)

    前期選抜      後期選抜      2次募集    3次募集  
学校名 学科 募集定員 前期募集人員 志願者 面接者 合格者 競争率 募集人員 学力検査受検者 合格者 競争率 受検後取り消し 欠員 募集人員 臨時学級・
定員増分
受検者 合格者 募集人員 受検者 合格者
横浜翠嵐 普通 80 40 45 44 40 1.10 40 28 28 1.00 0 12 52 40 60 57      
希望ヶ丘 普通 120 36 86 86 36 2.39 84 71 70 1.01 1 14 14   35 14      
横須賀 普通 80 40 38 37 37 1.00 43 18 18 1.00 0 25 25   31 26      
追浜 普通 40 20 39 39 20 1.95 20 28 22 1.27 0 0 募集なし            
平塚商業 普通 40 20 20 20 20 1.00 20 9 9 1.00 0 11 11   5 5 7 5 5
湘南 普通 120 36 67 66 36 1.83 84 53 53 1.00 0 31 31   50 37      
茅ヶ崎 普通 80 40 54 53 40 1.33 40 20 20 1.00 0 21 21   21 21      
大秦野 普通 40 20 22 22 21 1.05 20 6 6 1.00 0 14 14   10 10 4 0 0
伊勢原 普通 40 20 28 28 20 1.40 20 12 12 1.00 0 9 9   7 7 2 2 2
厚木南 普通 120 48 95 94 48 1.96 73 59 59 1.00 0 14 14   39 22      
津久井 普通 40 16 20 20 16 1.25 24 10 10 1.00 0 14 14   12 12 2 3 3
横浜市立戸塚 普通 140 70 65 65 65 1.00 75 53 53 1.00 0 22 42 20 70 48      
川崎市立川崎 普通 70 21 29 29 21 1.38 49 28 28 1.00 0 21 31 10 34 34      
川崎市立橘(3年制) 普通 35 10 24 23 10 2.30 25 16 16 1.00 0 9 14 5 14 14      
川崎市立橘(4年制) 普通 35 10 17 17 10 1.70 25 8 8 1.00 0 17 22 5 21 21      
川崎市立高津 普通 105 31 65 64 31 2.06 74 41 41 1.00 0 33 48 15 52 50      
川崎市立商業 普通 35 17 9 9 9 1.00 26 11 11 1.00 1 15 20 5 23 23      
平塚農業初声分校   40 20 48 47 20 2.35 20 26 20 1.30 0 0 募集なし            
神奈川工業 機械 80 40 30 30 30 1.00 50 26 26 1.00 0 24 24   25 24      
建設 40 20 17 16 16 1.00 24 16 16 1.00 0 8 8   11 8      
電気 40 20 12 12 12 1.00 28 6 6 1.00 0 22 22   19 19 3 8 3
磯子工業 機械 40 12 17 17 12 1.42 28 14 13 1.08 0 15 15   26 16      
向の岡工業 機・電・建 80 40 14 14 14 1.00 66 12 12 1.00 0 54 54   48 48 6 0 0
小田原城北工業 機・電 40 20 16 16 16 1.00 24 7 7 1.00 0 17 17   8 8 9 0 0
相模台工業 機・電 80 40 55 54 40 1.35 40 33 33 1.00 0 7 7   15 11      
川崎総合科学 電気・電子 35 10 15 15 10 1.50 25 9 9 1.00 0 16 21 5 11 11 9 2 2
機械 35 10 10 9 9 1.00 26 10 10 1.00 0 16 21 5 9 9 11 5 5
平塚商業 商業 40 20 12 12 12 1.00 28 6 6 1.00 0 22 22   14 14 8 3 3
川崎市立商業 商業 35 17 14 13 13 1.00 22 9 9 1.00 0 13 18 5 22 22      
川崎   40 20 50 50 21 2.38 20 22 20 1.10 0 0 募集なし            
小田原   80 40 25 24 24 1.00 56 4 4 1.00 0 52 52   11 11 42 2 2
横浜市立横浜総合 総合学科T部 105 42 171 169 42 4.02 63 100 63 1.59 0 0 募集なし            
総合学科U部 105 42 217 211 42 5.02 63 107 63 1.70 0 0 募集なし            
総合学科V部 105 42 133 129 42 3.07 63 80 63 1.27 1 0 募集なし            
横須賀市立横須賀総合 総合学科 80 40 84 82 40 2.05 40 48 41 1.17 0 0 募集なし            

 4月に入っての入試はすでに入校教育等を進めていく中で行われるもので、学校全体の年間計画へも影響を与えた。3次募集を行うにしても入学式以前に入学手続きが完了する形で行えなかったのだろうか。

 8.疑問と来年度に向けて

  1. 全日制の欠員は本当に全部埋まっているのか。記者発表資料をみると小田原城東の2次募集では欠員がでている。しかし、3次募集が行われるという話は聞かない。この点も定時制だけに押しつけている印象がある。
  2. 3次募集の結果をみると、志願者数が県のいう行き先のない100名に対して33名であったこと、神奈川工業では3倍を超えるなど横浜地区で倍率が高かったこと、県西の学校へ志願者がほとんどいなかったことなどがわかる。定時制の2次募集で1倍を上回った地域は横浜・県央地域にある定時制である。いっぽう、定員割れを起こしたのは県西・川崎などである。単純に欠員校で3次募集したからといって、受検生は集まるのであろうか。たとえば横浜の生徒が県西に通学する場合2時間程度かかり、入学後すぐに不登校や休退学という状態にならないか。定時制は自宅や職場の近くにないと生徒が通学するのに困難である。せっかく行った3次募集そのものの方法が適正であったかも疑問である。
     いずれにしても、募集計画の失敗を定時制に押しつけたことは明らかである。次年度以後、一昨年度・今年度の失敗を繰り返すことのないよう募集計画を策定すべきである。

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