高総検レポート No 79

2006年3月7日発行

校長会「企画会議規程」を弾劾する!

〜 あらためて〈民主的職場づくり〉のとりくみをU 〜

 ■レポートの概要■

1.「校長のリーダーシップ」の自殺
・校長会による「企画会議規程」は、県教委の学校運営組織改変の意図をも超えて「職場民主化」を阻害する。「学校の自主性・自律性の確立」を省みずに、一律横並びでトップダウンの学校運営組織を構想することは、「校長のリーダーシップ」自体の自殺行為である。

2.「職場民主化」とは何か
・「職場民主化」は、労働条件の課題と教育の課題の両面においてとりくまれているものである。

3.労働条件の課題における問題
・さらなる労働条件の悪化が懸念される中、学校運営組織再編成の校長単独専決、校内人事の校長単独専決、企画会議による校内業務分担密室調整は、労働条件の問題を一気に噴出させるものとなる。

4.教育の課題における問題
・校長会の企図するトップダウン体制は、職員会議を実質的に校長の指示連絡のためだけの会合とし、その機能を形骸化させる。これは、職員会議に関する中教審答申の意義をも喪失させ、「教育の自由」を危機に陥らせる。

5.提言
・以下4点のとりくみにおいて、校長会の企図を阻止するべきである。
(1)企画会議を開かれたものとすること。
(2)企画会議と関連させ人事・業務分担・予算調整委員会を設立すること。
(3)学校の検証機能を徹底すること。
(4)総括教諭任用組合員は責務を認識するべきこと。


  1.「校長のリーダーシップ」の自殺

 神奈川県教育委員会は、05年9月13日の定例会において、「神奈川県立高等学校の管理運営に関する規則」の改定を決定し、校長の学校運営を補佐する職としての総括教諭の設置、校務運営に関するグループの再編および企画会議の設置が県立高校においてなされることとなった。
 しかし、この改定に乗じて、校長会による「企画会議規程」が一律に県立高校各校に押しつけられるなどの状況が生じている。職員会議での共通理解を中心とした、教職員によるボトムアップ方式でなされてきた県立高校の学校運営が、企画会議によるトップダウン方式に改変されようとしており、今回の管理運営規則の改定によって職員会議の位置づけが何らかわるものでないにも関わらず、その形骸化が懸念される。(別表1《職員会議に関する諸規定》参照)
 別表2《校長会による企画会議規程》は、「職場民主化」を下記の3点において阻害する。下記の他、学校運営組織の再編成が全くの校長専決でおこなわれた県立高校も少なくない。(別表3《神高教「新たな学校運営組織」の調査結果》参照)

 A 校内人事委員会・校内分掌委員会及び校内予算委員会の廃止
 B 校内人事の校長単独専決
 C  企画会議の権限強化(校内業務分担・校内予算調整管轄、職員会議協議事項決定)

 学校教育法第28条3に「校長は、校務をつかさどり、所属職員を監督する。」と定められていることから、校務に関しては、校長に決定権がある。
 しかし、Aに関しては、県教委は「規則等で示される委員会は、なるべく企画会議やグループに収斂し、効率的な学校運営をめざすものであるが、校長の判断として委員会組織がふさわしいと見なされるものについては、従来通りの取扱でよいこと」(神高教による県教委への確認、05年12月7日)と言明しており、管理運営規則の運用17〔第19条〕(4)には、「17(3)の規定に関わらず、校長は、学校経営方針、学校の特色、学校の事情等に応じ、第4号に規定する事項を含め、柔軟なグループ編制ができるものであること。」と規定されている。校長決定の補助機関としての委員会組織の設定が阻害されているわけではない。殊に、校内予算については、予算執行の透明性等の観点から直接の学校運営から距離を置いて運営されるべきものであり、独立した委員会組織の設立がなされるべきである。
 また、BCについては、大多数の県立高校で、校内人事内規が定められ、校内人事委員会によって内規にのっとった人事調整がなされているのが現状である。また、新たな業務の分担についても、校内分掌委員会が分掌・委員会等の業務量の均分化を勘案して配分調整にあたっている。県教委は、校内人事・校内業務分担について、「校長のリーダーシップのもと、全教職員が一体となって学校運営を行っていくため、グループ員の配置にあたっては、校長は、教職員の意向を尊重し、学校全体として調整を図り配置を決定し、個々の教職員がグループ員として責任を持って職務にとりくんでいくことが必要である。」(「校長向けQ&A」〔05年9月〕及び神高教による県教委への確認〔既出〕)と言明しており、管理運営規則の運用17〔第19条〕(1)には、「校長は、学校全体が一つのまとまりをもって教育活動が展開されるよう、当該学校にとってふさわしい組織を編制すべきことを明らかにしたものであること。なお、第2項の組織(グループ)を編制するに当たっては、各グループの業務内容や業務量に配慮すべきであること。」と規定されている。「全教職員が一体となって学校運営を行っていく」「学校全体が一つのまとまりをもって教育活動が展開される」ためには、互選による委員会の調整による現行方式が共通理解が得やすく妥当である。「校長のリーダーシップ」とは、校長の単独専決や企画会議による枢密院的な決定を意味するものではない。
 さらに、Cについては、企画会議の業務内容は下記のように整理されており、校内業務分担・校内予算調整は含まれていない。企画会議に課せられる業務量から言っても、すでに過重負担に過ぎ、これらの業務を負うことには現実性がない。

管理運営規則運用19〔第22条2〕(3)
 企画会議は、学校目標の設定など学校運営上の重要事項に関する企画立案を基本的な機能とし、その他、グループの業務の進行状況を踏まえた校長への報告及び意見具申、職員会議における協議事項の調整、グループが企画した学校運営に関する原案 の調整等を行うものであること。

校長向けQ&A
・「学校運営の重要事項」とは、「1学校目標、2研究指定・学校研究テーマ、3新 たな教育課題への対応方針(キャリア教育、総合的な学習等)、4学校評議員から の要望事項」などを意味する。
・「企画会議で検討する事項の内、基本的な方向性等について職員の共通理解が得ら れており、実施要領や細部計画で実施するものについては、あらためて内容まで職 員会議で協議することなく、企画会議で検討後、即座に実施に移し、迅速な学校運 営をおこなうべきである。」

職員会議での協議を不要とする業務内容の具体例(神教協との交渉協議における確認) 外部講師の招聘等についての人選・日程調整等、周辺自治会や福祉施設からの協力要請に対しての参加、高大連携やインターンシップ等児童生徒に有意義な活動と判断できるものなど
 「職員会議における協議事項の調整」については、別表4《「校長向けQ&A」における職員会議についての整理》から明らかなように、職員会議を「従来よりも短時間で密度の濃い会議」にするための事務的調整に過ぎず、企画会議が職員会議の上位機関として、職員会議協議事項の決定をおこなうことを意味するものではない。「企画会議で検討する事項」には、「グループ内での調整等を踏まえ、各グループが原案を作成する場合」も含まれている。また、上の表に示したように、「あらためて内容まで職員会議で協議することなく」という分類がわざわざなされていることから、「企画会議で検討する事項」は「職員の共通理解」のために職員会議に提示提起されることが原則である。
 校長会が、「企画会議規程」によって企図するトップダウン体制の確立は、県教委の学校運営組織改変の意図を超えている。そもそも「校長のリーダーシップ」とは、「学校の自主性・自律性の確立」(中教審答申「今後の地方教育行政の在り方について」、98年9月21日)にもとづくものであり、学校運営組織にしても、各校の生徒状況や特色に応じた各校ごとの構築がなされるべきである。一律横並びの学校運営組織を構想することは「校長のリーダーシップ」自体の自殺行為と言い得る。


 2.「職場民主化」とは何か

 神高教は、「分会役員マニュアル」で「職場民主化」を下記のように規定している。
職場民主化とは「労働条件を改善し職場運営、教育に責任を負うこと」です。(1)職場民主化は,労働条件を改善します。 私たちは教育労働者として学校現場で働く時、労働基準法、条例その他、労使交渉の合意事項などによる労働条件の改善を目指し運動をすすめることは当然のことです。職場民主化は、働きやすい人間らしく働くための条件整備を求めることです。(2)職場民主化は,学校運営に教職員が責任を負うことです。 子どもたちの状況を一番良く知り責任を持って対応するのは、教科、学級担任等の教職員です。子どもや教育に責任を負うためには、責任を負える校内組織、人事、会議運営などが保障されなければなりません。

 また、05年度定期大会(05年7月1日・2日)議案では、「民主的学校づくり」を以下のように方針化している。
 「民主的職場体制の堅持」の上に「開かれた学校づくり」「子どもの権利条約を尊重した学校づくり」を柱とする「民主的学校づくり」のとりくみを強化する。とりくみにあたっては、専門職を含んだ全ての教職員での討議をすすめる。学校運営組織の中核として、職員会議の再規定と活性化に向けたとりくみを強化する。

 すなわち、「職場民主化」とは、労働条件の課題と教育の課題の両面においてとりくまれているものであり、校長会の企図は以下を阻害する。

T 労働条件の均等化(民主的職場体制)
 ・互選制による校内人事委、校内分掌委等の設置とその調整による共通理解
 ・分掌所属年限等労働条件の均等化を勘案したルールによる校内人事運営
 ・労働条件の均等化の点からの業務分担割り当て


U 教育課題に対する共通理解と実践(民主的学校づくり)
 ・全教職員が等しく学校運営を担うことを保障する学校運営組織と人事 
 ・学校運営組織の中核としての職員会議の再規定と活性化
   =管理運営規則による「校長の補助機関」という性格規定に、現場のとりくみによって、教育については教職員の論議を経て校長が決定するという機能規定を付加する。すなわち職員会議での「校長指示連絡事項」と職員会議への「校長諮問事項」とを明分化する。


3.労働条件の課題における問題

 労働条件は言うまでもなく労使の交渉によって決定されるべきものであり、職場体制は労働基準法・労働安全衛生法等に照らして適法でなければならない。しかし、様々な教育改革に関する教育施策によって、教育現場は多忙を極めており、超過勤務・休日出勤・休憩時間確保不全・持ち帰り仕事等が常態化している。前項Tのとりくみによって、その違法状況を薄め、共通理解をもって学校運営が営まれているのが現状である。
 学校運営組織再編成の校長単独専決、校内人事の校長単独専決、企画会議による校内業務分担密室調整は、前項Tのとりくみを阻害する。その結果、特定の教職員に極端な過重負担が常態化していく危険性がある。よほど労務に長けた校長でない限りはこの危険性を回避し、「全教職員が一体となって学校運営を行っていく」「学校全体が一つのまとまりをもって教育活動が展開される」ことを実現できるものではないが、校長・分会間の労使交渉をさえ拒否ないし形骸化(話を聞くだけ)する校長が増えつつあると聞く。
 加えて、以下の動向によって現状よりさらに労働条件が劣悪化することが予想される。

人事院職員福祉局「休憩・休息時間の適正化について」(05年10月31日)

1. 休息時間は廃止する
2. 昼休みは60分(休憩時間60分)とする。
○ 民間の実態を踏まえ、休息時間は廃止する。

*地方自治体への適用において、所謂15分問題の際にそうであったように、学校現場における業務の実情が勘案されない場合、休憩時間の確保が不全のまま拘束時間が延長されることとなる。

経済財政諮問会議「総人件費改革の基本方針」(05年11月14日)

地方公務員は4.6%以上の純減を目指し国が定める定員関係の基準の見直しにより純減の上積みを確保する、特に教職員について自然減を上回る純減を確保するように検討する 。

*定数法算出基準学級定員数〔現行40人〕の増加に適用された場合、さらなる教育条件整備の劣悪化となる。

 校長会の企図は、労働条件の問題を一気に噴出させるものとなる。



4.教育の課題における問題

 学校教育法第28条6には「教諭は、児童の教育をつかさどる」と規定されている。この条文は、旧「国民学校令」第17条2項「訓導ハ学校長ノ命ヲ承ケ児童ノ教育ヲ掌ル」の「学校長ノ命ヲ承ケ」の部分を削除して成立したものであり、教育基本法第10条「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に直接責任を負って行われるべきものである」を、教職員個々に対して保障している。学校教育法第28条3による校長の校務に対する決定権や服務に対する監督権は、教職員個々の「教育の自由」、教育の自律性・自主性を確保する権利とそこに内包されるべき保護者の教育権と「子どもの権利条約」にもとづく生徒の教育を受ける権利を侵害することはできない。
 そもそも「教育の自由」は、近代公教育の成立期に、教育に対する教会や国家の独占・干渉を排除し、教育に関する私的選択権とともに、教育独自の論理に基づく自律的・自主的運営の保障を課題として生じた概念である。ゆえにこそ、学校は、職員会議での共通理解を中心とした、教職員によるボトムアップ方式で運営されているのである。
 校長会の企図するトップダウン体制は、教育行政の意図を超えた無意味な「独裁体制」を構築することとなる。
 職員会議の「校長が主宰する」ものとしての学校教育法施行規則第23条の2への位置付けは、中教審答申「今後の地方教育行政の在り方について」(第3章「学校の自主性・自律性の確立について」4「学校運営組織の見直し」、既出)をその根拠とする。答申は、職員会議を、「職員会議については、校長を中心に教職員が一致協力して学校の教育活動を展開するため、学校運営に関する校長の方針や様々な教育課題への対応方策についての共通理解を深めるとともに、子どもの状況等について担当する学年・学級・教科を超えて情報交換を行うなど、教職員間の意思疎通を図る上で、重要な意義を有するもの」とした上で、以下の3点を現状の問題点として指摘している。

(1)その運営等をめぐる校長と教職員の間の意見や考え方の相違から、職員会議の本来の機能が発揮されてない場合もあること。
(2)職員会議があたかも学校の意思決定権を有するような運営がなされ、校長がその職責を十分に果たせない場合もあること。
(3)校長のリーダーシップが乏しい、職員会議が形式化して学校全体で他の学年や学級、教科などに係る問題を話し合うような雰囲気が乏しい、あるいは、運営が非効率であるなどの運営上の問題点が指摘されている。

 また、答申では、「職員会議の法令上の位置付けも含めて、その意義・役割を明確にし、その運営の適正化を図る必要がある。」とした上で、「具体的改善方策」として以下を示している。

(職員会議の在り方)
イ 学校に、設置者の定めるところにより、職員会議を置くことができることとすること。
ウ 職員会議は、校長の職務の円滑な執行に資するため、学校の教育方針、教育目標教育計画、教育課題への対応方策等に関する教職員間の意思疎通、共通理解の促進、教職員の意見交換などを行うものとすること。
エ 職員会議は、校長が主宰することとし、教員以外の職員も含め、学校の実情に応じて学校のすべての教職員が参加することができるようその運営の在り方を見直すこと。

(企画委員会等の活用)
オ 各学校の実態に応じて企画委員会や運営委員会等を積極的に活用するなど組織的、機動的な学校運営に努めること。
 


校長会の企図するトップダウン体制は、職員会議を実質的に校長の指示連絡のためだけの会合とし、その機能を形骸化させる。「企画会議規程」に規定された「意見聴取」や「企画会議における整理を踏まえ、校長が必要と認めた」協議事項が、「教職員間の意思疎通、共通理解の促進、教職員の意見交換」に発展することには現実性がない。
 また、答申は「校長、教頭、教務主任など各校務分掌の代表等から構成される」企画委員会等にも触れているが、あくまでも「各学校の実態に応じて」活用するべきものとしており、その活用は先述の「重要な意義」を目的とする。
 校長会は、答申の指摘した問題点(1)(2)を畏れるあまり、「具体的改善方策エ」の「教員以外の職員も含め、学校の実情に応じて学校のすべての教職員が参加することができるよう」とする運営の見直しにかかる意義も忘却して、職員会議を、問題点(3)で指摘されている形骸化の弊害に陥らせる。


5.提言

 校長会が、企画会議を一律横並びとする学校運営組織を企図するのは、「学校の自主性・自律性の確立」を担う「校長のリーダーシップ」への自信の無さの現れではないだろうか。そのために、労働条件が劣悪化し、「教育の自由」が阻害される状況が生じることは許されてはならない。
 管理運営規則の改定によって職員会議の位置づけが何らかわるものでないことから、教職員は、諦めることなく積極的な発言をおこなってその活性化を図るべきである。同時に、校長会の企図するトップダウン体制を打破するために、以下4点のとりくみをおこなうべきである。

(1)企画会議を開かれたものとすること

 企画会議の構成員については、下記のように規定されている。

管理運営規則第22条2(4)
 企画会議は、校長、教頭、事務長(事務長がおかれていない場合にあっては、総括事務長)、第20条第4項各号に掲げる職務をおこなう総括教諭及び校長が必要と認める者により構成する。

管理運営規則運用19〔第22条2〕(4)
 第4項でいう「校長が必要と認める者」とは、校長の判断により常時企画会議に参加する者及び議事内容に応じて参加する者をいう者であること。


校長向けQ&A
・「企画会議の構成員」は、「校長、教頭、事務長、グループリーダー、その他校長が必要と認めた者」に加え、「協議事項により、他に出席者を求める場合もある。」
・校長は議事内容によっては、必要に応じて関係職員を企画会議に出席させることができるため、常に校長、教頭及びグループリーダーという固定された構成員のみが(学校運営上の重要事項を)企画立案するわけではない。

 「校長が必要と認める者」は「実務担当者」に限定されていないことから、全教職員が企画会議への参画する権限を有する。また、職員会議への協議事項提出については、別表4《「校長向けQ&A」における職員会議についての整理・学校運営上の重要事項の企画立案》に記載されている通りであるから、やはり全教職員にその権限がある。
 以上を根拠として、神高教民主化方針にのっとった以下の要求を実現し、企画会議を開かれたものとするべきである。

1.新たなる学校組織導入に際して、職員会議にかかる諸規定は何ら変わるものではないことを確認し、職員会議の役割を形骸化することは、人事評価において管理職としての資質に関わるものであることを認識すること。
2.企画会議の役割は、各グループ業務の連絡・調整、職員会議議題の調整とすること。
3.企画会議において調整したグループの企画立案については原則として職員会議にはかること。
4.総括教諭が配置されないグループの「実務担当者」は、企画会議に常時参加するものとすること。
5.企画会議で調整する企画・立案に関係する教職員は、企画会議に参加するものとすること。
6.上記1〜5の意義を明確にするため、「実務担当者」はグループ内の互選による選出者を委嘱すること。


(2)企画会議と関連させ人事・業務分担・予算調整委員会を設立すること

 既述のように企画会議の業務内容には校内業務分担・校内予算調整は含まれず、企画会議に課せられている業務量から言って過重負担に過ぎる。また、校長の校内人事単独専決は、労働条件の問題を一気に噴出させることが必至である。
 このことを根拠として、人事も含めて企画会議の業務とし、前項の全教職員の企画会議へ参画する権限を運用して、企画会議が管轄するプロジェクトチームとして何らかの選出母胎を定めた人事・業務分担・予算調整委員会を設立することが展望できる。
 すでに、企画会議の過重負担から、企画会議管轄の形式で、その業務についてのプロジェクトチームを設立したり、グループの業務に位置付けている例が散見される。


(3)学校の検証機能を徹底すること。

 (1)(2)の提言内容は、トップダウン体制に固執する校長にあっては実現が困難である。その推進のために、法規や県教委通知にもとづいた学校の検証機能を徹底し活用することが必要である。

1)労働条件の課題における問題に対して

 労働安全衛生法にもとづく労使による安全衛生委員会は、県教委からも独立委員会としての設置が指示されている。05年10月26日に、労働安全衛生法の一部改正が成立し、06年4月1日施行にて、以下の内容と付帯決議が実働する。

過重労働、メンタルヘルス対策の充実として、一定時間(月100時間位)を超える時間外労働等を行った労働者を対象とした医師による面接指導を事業者に対して義務付けられる。
(改正法の付帯決議)
 過重労働対策・メンタルヘルス対策を衛生委員会などの調査審議事項に追加するなど、衛生委員会等の権限強化に努める。

 安全衛生委員会を活性化し、職場点検調査の実施やそれにもとづく意見書提示をおこな
って、校長単独専決の学校運営組織の再編成・校内人事、企画会議決定による校内業務分担調整を、労働条件の均等化の観点から検証・是正するとりくみが必要である。

2)教育の課題における問題に対して

 03年度からの「学校評価システム」の導入によって、校長は、学校目標(単年度重点目標)を示して「学校が行う教育活動」の方針を明確にすることが義務づけられている。学校目標は、前年度学校目標に対する教職員による自己点検、学校評議員・保護者からの意見徴収にもとづく学校評価を踏まえて確定される。学校目標や学校評価案の確定には、別表1に示した通り教職員間の共通理解が前提となっている。ことに学校目標(グループ目標)は、人事評価の自己目標設定のもととなり、生活の課題にも「教育の自由」の課題にも直結するものであることから、校長による一方的設定は厳に戒められている。
 また、06年度本格導入(05年度各教員最低1科目実施の全校試行的導入)の「生徒による授業評価」は、「教員の指導力向上や授業改善」「次年度の『生徒による授業評価』の取組」への反映とともに「学校目標・評価規準・シラバスの内容等」の改善に資するものと規定されており(県教委「『生徒による授業評価』実施について(通知)」「9.授業評価のまとめとその活用」、05年1月25日)、グループ目標(教科等)の側面から、「学校評価システム」の一翼に位置付けられるべきものである。
 「学校評価システム」を活性化し、校長の「学校が行う教育活動」の方針を、「教育の自由」の観点から検証・是正するとりくみが必要である。その際に、以下2点のとりくみを連動させるべきである。

 T.生徒・保護者・学校評議員に対する「開かれた学校」のスタンスを持つべきこと

 02年度の学校評議員制度本格導入に際し、県教委は、01年度に導入した「学校へ行こう週間」が「開かれた学校づくり」と学校公開を安易に結合して教育現場を混乱させる結果となったことから、「教育行政は、学校の自主的、自律的な『開かれた学校づくり』の取組に対し、支援していく必要があります。」と明示して、以下の内容の「神奈川における『開かれた学校づくり』についての基本的な考え方」(02年3月5日)を各県立学校へ通知している。

1.子ども、保護者、地域の学校運営への参画を積極的に進めるための取組を行います。
 (1)学校評議員
 (2)学校運営協議会、学校教育推進会議、地域教育会議など 
 (3) 児童会、生徒会
 (4)地域懇談会など
2.学校と家庭・地域社会との連携を進めるための取組を行います。
 (1)保護者・地域の教育力を生かした教育活動
 (2)教育に係わるボランティアとの連携
 (3)学校の教育力を地域社会に生かす取組 (4)学校施設の開放など
3.情報公開を進めるための取組を行います。
 (1)学校運営に関わる情報の子ども、保護者、地域への公開
 (2)教育活動(評価・ 特別指導など)に関わる説明責任
 (3)子どもの安全やプライバシーに留意した学校 教育活動の公開など
 

 この趣旨にもとづき、学校評議員・保護者からの意見徴収は、校長の責任のもとに設定された学校目標・学校評価に対置するものとして位置付けることが必要である。

 また、学校評議員については、校長が推薦し県教委が委嘱するものとされ、「生徒は推薦しないこととする」「職員は推薦しないこととする」(「県立高等学校の学校評議員設置要綱の運用について(通知)」、02年4月1日)と規定されているが、「生徒による授業評価」導入によって生徒意見のデータが活用できること、企画会議業務に「学校評議員からの要望事項」が明示されたことによって、教職員による学校評議員事務局の設定が公的に展望できることに留意するべきである。

 U.シラバスへの主体的なとりくみをおこなうべきこと

 「生徒による授業評価」導入と、06年度からの「観点別評価」の導入によって、各教科科目にシラバスの作成が必須とされている。校長会の企図するトップダウン体制が、企画会議の権限強化を回路に、シラバスに対する校長決裁というような状況にまで発展すれば、学校教育法第28条6の意義は実質的に壊滅する。授業計画への「校長検閲」としては機能していないものの、既にシラバスに校長決裁がおこなわれている例もあると聞く。国立教育政策研究所・県教委または教科書会社のシラバス例示を無批判にコピーして使用することは、授業計画への「校長検閲」の契機を作ることともなりかねない。
 「観点別評価」導入について、県教委が06年度「実施・移行」07年度「改善」と位置付けていることを好機に、「教育の自由」の視点から、「観点別評価」自体に対する検証も踏まえつつ、教職員個々のシラバスへの主体的なとりくみをおこなう必要がある。


(4)総括教諭任用組合員の責務

 総括教諭には、「校長の学校運営に対する意見の具申」(管理運営規則運用17の2〔第20条〕(3))が業務として位置付けられている。総括教諭任用組合員は、前項の学校の検証機能の徹底などと連動して、職場民主化の観点からの「意見の具申」に努める必要がある。
 教育基本法改悪の危機が現実性を帯びている現在、ボトムアップの学校運営を保障するとりくみについて、総括教諭任用組合員の責務は重大である。


■別表1 《職員会議に関する諸規定》■

○ 「神奈川県立高等学校の管理運営に関する規則の運用について」
 第1管理運営の基本方針 2学校における管理運営 (2)教職員の協力による運営 
「学校運営には各教職員の自発性・創造性を尊重し、その特質を生かしてこれに反映させることが大切である。また教育活動の場においては、個々の教職員がそれぞれの教育に責任をもつことを基本とするとともに学校の教育目標の達成に向けて全体としての調和が図られるよう、その協調体制の整備も重要である。これら協業のシステムを推進し、発展させていくことは今後の学校運営にはますます重要である。」

 第2各条項の運用基準 19の2職員会議(第22条の2) (1) より
「(校長は)日頃から職員との円滑なコミュニケーションを保つとともに、職員会議における職員の建設的な意見を参考に、学校運営の円滑化・活性化が図られるように努めるものであること」

○ 県教委「学校評価システムの手引き」
 学校目標 
「(校長は)課題や改善策について、教職員間で十分に共通理解を図ります」(P17)

 校内学校評価案
「学校全体で活発に協議を行い、教職員が共通理解した校内評価案となるように努めることが大切です」(P14)

○ 「人事評価」行動例(校長)/学校運営・実績
「職員会議などを通して職員との共通理解や信頼関係を深め、学校目標の達成に向けて教職員が一丸となった取組を進めた。」


■別表2 《校長会による企画会議規程》■

 「神奈川県立高等学校の管理運営に関する規則」及び「神奈川県立学校の管理運営に関する規則の運用について」の規則並びにその趣旨に則り、企画会議規定を定める。
第1章 企画会議
 (趣旨) 第1条 本校に、校長がつかさどる校務を補助し、校長の学校運営に関する方針の決定を補佐する会議を置く。
 (名称) 第2条 前条に定めるところにより設置する会議は、企画会議とする。 
 (会議) 第3条 企画会議は、定例企画会議及臨時企画会議とする。
 (開催) 第4条 企画会議は、校長、教頭、事務長、総括教諭及び校長が必要と認める者により構成する。
 (開催) 第5条 企画会議は、校長が招集し、主催する。 2 校長は、原則として月2回定例企画会議を開催する。 3 校長は、必要に応じて臨時企画会議を開催することができる。
 (所掌事項) 第6条 企画会議は、次に掲げる事項を所掌する。  (1)学校目標、人事、予算等の学校運営上の重要事項に関すること。  (2)職員会議における協議事項に関すること。  (3)グループが企画した学校運営に関すること。  (4)グループ業務の進行状況を踏まえた校長への報告及び意見具申に関すること。  (5)その他、校長が必要と認めた事項。
第2章 企画会議の運営
 (協議事項等) 第7条 企画会議の協議事項等は、第4条に定める者が提出する。
 (運営等) 第8条 企画会議における議事決定は、校長が行う。 2 企画会議の議事進行及び会議録の作成は、校長が指定した者が行う。 3 企画会議で企画立案、検討及び調整を行った事項は、必要に応じて、校長が職員会議において伝達し、周知するとともに意見聴取を行う。 4 職員会議における協議事項は、企画会議における整理を踏まえ、校長が必要と認めた事項とする。
第3章 会議録
 (記載事項等) 第9条 会議録は、次の事項を記載し、その内容を校長が確認する。  (1)会議開催事項について @開催日時 A開催場所 B司会者氏名 C会議録作成者氏名 D出席者氏名  (2)協議事項等について @協議事項等の名称 A協議事項等の提案者 B協議事項等の主な内容 C会議における主な質問、意見 D校長が決定した内容    (3)その他の事項 校長は前2号以外の事項について、会議録に記載することを指示することができる。 2 会議録の保管及び管理は教頭が行う。
第4章 雑則
 (各種委員会の取扱い) 第10条 企画会議は、別表に掲げる委員会を統括するものとする。  2 前項の各種委員会の運営等は、原則として当該委員会の設置要項等に準じるものとする。 
(その他) 第11条 この規定に定めるもののほか、企画会議についての必要な事項は、校長が定める。 
附則 この規定は、平成18年4月1日から試行する。 
別表(第10条関係)「企画会議」が統括する委員会 
 (1)学校保健委員会 (2)学校防災委員会 (3)調査書作成委員会
 (4)入学者選抜委員会(転編入選抜委員会) (5)教科書選定委員会
 (6)業者選定委員会 (7)学校開放委員会 (8)評価運営会議
 (9)事故防止会議   (10) 学校徴収金運営協議会 
参考 1 外付けとする委員会  衛生委員会 新校準備委員会 
    2 廃止される委員会  校内分掌検討委員会ーー企画会議   校内人事調整委員会ーー校長権限   予算委員会ーー 企画会議


■別表3 《神高教「新たな学校運営組織」の調査結果》■

05年12月9日 第12回分会代表者会議資料 回収数 118分会

1)  現在、「新たな学校運営組織」ができあがっているか
 @できている 47分会  Aできていない 66分会

2) 1で@と答えた分会、「新たな学校運営組織」はどのように企画されましたか
 @校長 26分会  A分掌 1分会  B委員会等 22分会

3) 1で@と答えた分会、「新たな学校運営組織」について十分議論がされ、職員の共通理解が得られていると考えますか。
 @十分理解できている(記載なし) A不十分だが理解できる内容 22分会  
 B不十分で理解できない 26分会

4) 1でAと答えた分会、現在の「新たな学校運営組織」に対するとりくみ状況はどのようになっていますか。
 @校長が何も示していない 5分会  A校長がつくるとしている 27分会
 B委員会が検討中 32分会  C今後検討の予定である 5分会

5) 分掌の職員構成について、校長はどのようにするとしていますか
 @希望を取り分掌調整は職員が行う 7分会  
 A希望を取り分掌調整は校長が行う 54分会
 B全て校長が決定する 4分会  Cまだ示されていない 47分会

6) 各校独自の委員会について、次の委員会はどこに位置づけようとしていますか
 予算検討委員会 
 @グループ内 18分会 A企画会議 39分会  B独自に設ける 5分会  
 Cその他 38分会
 校内人事委員会 
 @グループ内 8分会  A企画会議 38分会  B独自に設ける 1分会
 Cその他 55分会


■別表4 《「校長向けQ&A」における職員会議についての整理》■

(職員会議の位置付け)
・職員会議は、校長を中心に職員が一致協力して教育活動を展開するため、学校運営に関する校長の方針や教育課題への対応方策についての共通理解を深め、職員間の情報交換や意思疎通を図る等、学校運営上重要な役割を果たすのは従来の通りである。
・全教職員への周知や共通理解が必要なものについては、職員会議を開催し、学校全体として共通理解を深める必要があることはこれまでと同様である。
・企画会議が設置されることにより、職員会議の位置づけが変わるのではなく、従来の分掌単位で企画立案され、直接に職員会議で協議されていた内容が、企画会議での調整を経ることで、より充実した内容になると考えられる。そのため、職員会議での協議はより具体化、実現等に向けての意見が交換ができ、従来よりも短時間で密度の濃い会議になる。
・児童、生徒理解のため指導上必要な諸問題については、生徒指導グループ等の指導方針を受け、従来通りに職員会議での全職員共通理解の下、指導に当たることは当然である。

(職員会議での協議を不要とする企画会議業務)
・企画会議の検討を経て実施する活動等については、実施後、職員会議等で正式に報告し、周知すべきである。

(学校運営上の重要事項の企画立案)
・企画立案の手順については、企画会議が主体となって原案から企画立案する場合だけでなく、グループ内での調整等を踏まえ、各グループが原案を作成する場合や、企画会議が方向性を示したものについて、グループが具体案を作成し、企画会議で協議する場合などがある。
・一部の構成員によって企画立案されるわけではない。

(職員会議での意見反映)
・企画会議で企画立案されたものについて、職員会議での意見聴取により、企画案を修正したり再検討することは校長の判断であることから、職員会議での意見は十分に反映される。

(職員会議と企画会議の関係性)
・この2つの会議は上下関係ではなく、相互連携、機能分担のもとで学校運営の重要な役割を担うものである。



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