高総検レポート No 82
2006年8月10日発行
専門コース制の検証
高総検では、99年11月の「県立高校改革推進計画」公表以来約6年に及んだ前期再編が一応の完成を見たことを契機として、高校教育改革の検証を開始することを計画しています。
04年10月に公表された「県立高校改革推進計画後期実施計画」では、「専門コースでの取り組みを発展させた新しいタイプの高校への改編」は存するものの、「県立高校改革推進計画」で前期3校・後期3校程度を「コースの内容や地域バランスに配慮して設置」するとしていた専門コース制が立ち消えになっています。
「県立高校改革推進計画」では、専門コース制を、「普通科目を主としながら、特定の専門分野を集中して学びたいという目的意識をもった生徒の学習ニーズに応える」「より幅広く学びたい、専門性を一層深めたいといった、一人ひとりの学習希望に応じることができる」と意義付け、また、「入学後の進路変更にも弾力的に対応できるよう柔軟なシステムづくりを進めます」としています。しかし、このことに対する県教委の検証やその公表は何らなされていません。
高総検では、高校教育改革に対する現場からの検証の一環として、06年2月10日分代において、専門コース設置校全分会にアンケートを実施致し、10分会(回収率50%)から集約を致しました。
以下、その結果と分析をご報告致します。
神奈川県教委は、かつて「学区に1校のコース制を」をスローガンとして、専門コースを適宜配置して来ました。しかし、前期再編計画の2校を最後に、専門コースを新設する計画は消滅しています。後期再編計画での設置が予定されていましたが、後期再編計画が発表には設置はありませんでした。こうした状況を踏まえて、専門コースを検証する意味でアンケートを設置校全校にお願いしました。
専門コースの課題として、入試制度・カリキュラム・コース教科担当・一般コースとの関係等を想定しましたが、各校に様々な課題があり、専門コース独自の課題としてアンケート結果に集中する傾向はありませんでした。
しかし、不本意入学の多さ(回答の50%)が目立ちました。一般コースよりも専門コースの方が入試倍率が低いケースが多く、入学しやすさから専門コースの教科内容が得意でない生徒が入学する傾向もあるようです。これは、後期入試の出願の傾向(志願変更前には、「定数ちょうど」と「定員割れ」が50%。)にも現れています。
また、専門コース制に対する人的支援がほとんどない事が課題として現われていました。総合学科に10名の加配が措置されているのに対して、専門コースの加配は1名が限度です。少ない人員で、専門教科を最低10単位こなす必要があり、多様な選択が出来るようにとりくむにも、現場の努力に限界があり、転勤等で人が変わると科目が開講できなくなるケースも多いです。
総合学科が後期再編でも増加していく中、専門コースは中途半端な位置のまま、県教委の政策の中では忘れ去られようとしています。こうした状況の中で、現場の教職員はどうように教育実践を続けていったらいいのか、展望が見えない状況にあります。
アンケート結果
1.現在のコース制について何らかの課題がありますか。
- 入試制度 16%
- カリキュラム 13%
- 予算(備品/消耗品) 9%
- 予算(講師関係) 9%
- コース教科担当者の教員 2%
- 施設 9%
- 生徒の問題 4%
- 一般コースとの問題 11%
- クラス編成 9%
- 生徒の進路面 2%
- その他
2. 1で○をつけた項目について具体的な課題をお書き下さい。
- 入試制度
- 1つの学校で、2つの入試を経て入学した生徒に、同じ教科内容を行う事に無理
がある。(健康福祉コース)
- 専門コースを希望を第1希望で入学して来る生徒ばかりでなく、専門コースの方が倍率が低く入りやすいので入学してくる生徒がかなりいる。そのため、2極分化している。学力的にも生徒指導上も。(国際ビジネスコース)
- 一般と外語の2本立てで前期・後期とも行っており、仕事は大変(外国語コース)
- 定員に満たないために、英語の評定1の生徒や外国語に興味がない生徒も入ってきている。コースの特性上、一部の科目に傾斜配点しているが、科目による得意・不得意の差が極端な生徒がある人数いて、入学してからより苦労している。(外国語コース)
- 定員割れになったの事を重くうけとめている。改善策は?(外国語コース)
- 実技検査の発表が遅く、受験生が大変である。(音大等は夏に発表している)前期100%募集を可能にしたい。(音楽コース)
- 前期・後期での学力のバランスが悪く授業がやりにくい。(福祉教養コース)
- カリキュラム
- 2、3年で体育実技の授業が多くあるため進学(体育以外)を希望する生徒は多
少不利になる。(体育コース)
- 10単位の専門科目があるために、一般コースとどこで異なる教科を入れるか問題。
- 健康福祉分野では、「生物」を必修科目に該当すると考える。しかし県教委はコース設定科目10単位の中に「生物」を入れる事は認めていない。(健康福祉コース)
- 必ずしも、専門コースのカリキュラムと生徒の学習したい科目が一致しない。(国際ビジネスコース)
- 多様な選択が出来るように取り組んでいるが、人的支援がなにもない。(外国語コース)
- 外国語コースの生徒だけで、クラスを作ると授業が成り立たない。(外国語コース)
- 福祉科目を増やしたいが一般コースとの調整が困難(福祉教養コース)
- 予算(備品・消耗品)
- 体育コースとしての予算が少ない。一般体育と同じものを使うケースが多く、消耗が激しい。数も不足する。(体育コース)
- 備品要求は4ヶ年計画で要望はかなえられた。しかし、時代とともに変化する要求をどう予算に反映させるか未定。コンピュータの更新の予算は確保されるのか?(健康福祉コース)
- 県から降ろすのでは無く、現場の声で買えるようにして欲しい(外国語コース)
- 備品が高額で、更新が出来ない。毎年更新予算を付けて欲しい(音楽コース)
- 予算(スポット講師)
- 1時間5000円の講師を継続的に確保するのが難しい。(健康福祉コース)
- 第2外国語で講師を外部から読んでいるが、予算を使う際の自由度が少ない(国際ビジネスコース)
- 不十分、もっと時間数を多くして欲しい。(外国語コース)
- 施設
- 体育館が狭く老朽化している。(体育コース)
- 健康福祉棟が施設として、実習や講義を行うのに中途半端である。1クラス40人が使えるスペース少なく残念。(健康福祉コース)
- CALL教室等、設備自体は充実しているが、そのメンテナンスには限界があり施設、設備を有効利用しようとすればするほど、不具合に直面し苦慮している。(外国語コース)
- 現段階では、実技教室が不足し、ホールの空間2カ所や廊下までも実技スペースとなっている。冬は寒い場所での製作になる。実技では、素描のような製作道具を移動できない内容もあり、基本的には「動かさない」状態で次の授業を迎えられる環境が必要です。教室の使い回しが出来ません。専門学科への移行で、少し教室は増えます。しかし芸術教育先進県が「芸術棟」を建てているのと比べると、まったくお粗末な施設です。移行期の教室不足も不安材料です。(美術コース)
- ホールが必要である(音楽コース)
- コース担任の決め方
- コース担任の負担が多く、希望する人が少ない。持ち回りでやっているが。(体育コース)
- 教科によって教えないので担任になりにくい。学力が低く手のかかる生徒がかなりいるので、負担が多く担任の希望者が少ない。(国際ビジネスコース)
- 現1年は、一般コースの中に分散してクラス編成を行ったが、1クラスにまとまる場合は誰が担任になるかが問題になる。(外国語コース)
- 内部的に共通理解が進んでいない(外国語コース)
- コースの教科担当の問題
- 各教科の担当が手探りで進めている。(健康福祉コース)
- 野外実習など特定の科目を担当出来る人材が不足する(体育コース)
- オーラル系の授業が多いので、ALTとの打ち合わせに時間が取られ負担が多い(国際ビジネスコース)
- 特殊な授業(コンピュータLL)があるので、英語か教員の名かで担当者を決定するのが困難(外国語コース)
- 年度による差があるが、一般コースとの差があり担当決めが困難。(福祉教養コース)
- 担当者決めが難しいなど、新校にむけて課題が多い(外国語コース)
- 生徒指導の問題
- 定員割れをする年に入って来る、生徒が問題行動を起こしやすい。(国際ビジネスコース)
- 男子が2クラスで20人でバランスが悪く、様々なクラス活動面で制約が多い。(外国語コース)
- 全くやる気がない生徒によく授業が妨害される。生徒指導上問題を持つ生徒の受け皿になる傾向がある。能力差が大きく、授業について行けない生徒も多く、生徒指導上問題が多い(外国語コース)
- 進路指導の問題
- 最近は体育系大学等への進学希望者が減り、普通大学、短大への希望者が増えている。(体育コース)
- 外国語コースとはいえ、外国語、語学系の大学に進む生徒は少ない(外国語コース)
- 一般コースとの問題
- 推薦などの問題がある(健康福祉コース)
- 3年間同一クラスで、他クラスとの交流が少ない。友人関係も限られた範囲でしか出来ないようである。(体育コース)
- 教員は特に意識してないが、生徒の間で壁がある。(国際ビジネスコース)
- 時間割とクラス分けが難しい(福祉教養コース)
- 外語は授業以外のプログラムが多く、生徒の行事も多い。(外国語コース)
- クラス編成
- 2クラスしかないので、クラスを変えをしても限度がある。(国際ビジネスコース)
- 2クラスで編成しているので、少しは固定化が避けられているが、融通がきかない。(外国語コース)
- 現3年生は、クラス替えがなかったので生徒間のケンカ、いじめも絶えなかった。
外国語コースと一般コースにどのように配分するか、授業でどのように展開するか課題である。(外国語コース)
- 学年進行に従い、クラスを分けるかどうか、問題になる。(福祉教養コース)
- その他
3.クラス編成はどのようにとりくんでいますか。
- 1年から3年までコース単独クラス 33%
- 1年から2年は単独クラス 22%
- 1年のみ単独クラス 45%
- 全学年単独クラスは無し
- その他
4. 1つの学校で、一般コースと専門コースの生徒がいる事で、教科、成績、進路指導上どのような問題がありますか。
- 教科指導は、コースと一般で平均点の差があるそれをどのように扱うか。進路面ではコースと一般で推薦をどのように扱うか(健康福祉コース)
- 評価平均の上限が決まっているため、コースの生徒の体育実技点が抑えられてしまい。不利になるケースがある。(体育コース)
- 学力差があるため、同一学科だと成績にかなり差がある。成績面でコースが低い。(国際ビジネスコース)
5.学校設定科目を作る上で問題があった。または現在問題になっている事はありますか。
- 通年1単位科目は、おいてはダメと県からは言われている。(健康福祉コース)
- 講師対応で開講を考えていたところ、講師が見つからず教科で担当することになった。(外国語コース)
- 外国語コースのレベルが低くなっているために、これまで設定した科目を同じように学習出来るかどうか問題、みんあやめたがっていると思う。(外国語コース)
6. 05年度入試では、専門コースの入学希望者が少ない傾向がありました。06年入試の出願状況はどうでしたか?
- 後期願書出願時(志願変更前)に定員を下回った 30%
- 後期願書出願時(志願変更前)に定員どおりだった。 20%
- 後期願書出願時(志願変更前)に定員を超えていた。 50%
7.総合高校が出来て、専門コースと競合する内容の系列が置かれています。この事についてなにか、課題はありますか?
- 細かく決めていない受験生は、総合学科を受験するか。(健康福祉コース)
- 当然競合するのだから、コースをなくすべきだ。(国際教養コース)
- コースについての補助が少なく、生徒に取って利点が大きくない(外国語コース)
- 総合学科の科目は色々あって、専門コースに比べて、魅力的に思えるので専門コースの存在意味がうすい。(国際ビジネスコース)
- どの学校も同じような科目となり、結局特色がなくなる。(外国語コース)
8.専門コースを選択する生徒について
- 専門コースの学習内容に合った生徒が大多数を占めている。 50%
- 専門コースの学習内容に合った生徒が半数を占めている。 30%
- 専門コースの学習内容に合った生徒は半数以下である。 20%
9.あなたの学校では、専門コースを今後どう発展させるべきあると思いますか。
- 発展的解消(国際教養コース)
- 30人クラス2クラスでやっていきたい。40人ではコースの特性が生かせない(外国語コース)
- 外国語コースの設置はある程度以上のレベルのモチベーションの高い生徒が集まらなければ、設置すべきでない。理想としては、発展させたいが、現実現場に即してみると発展は難しい。(外国語コース)
- 学校独自の行事と進路指導を充実させる。(外国語コース)
- 専門コースは廃止した方が良い。もしそれが無理ならせめて1クラスにしたい。
(国際ビジネスコース)
10.その他専門コース制に対するご意見はありますか。
- 専門コースのあり方を県が示すべきである。10年先はコースは残るのか。(健康福祉コース)
- 専門コースを選ぶと、これだけの良い点があるのだとPR出来るような現場の要望をくみ取って欲しい(外国語コース)
- コース自体の不人気が定員割れ、低倍率を生み中学側に「受け皿」を与えてしまう。それにもかかわらず、「専門コース」という名目が、送る側や生徒達に幻想的期待を無意識に持たせてしまう。結果生徒指導も教科指導も手厚い補助を必要とする生徒が多く、集まり、さらに期待が大きかった分、現実への不満やストレスが増幅されてしまい、生徒や保護者側がより、批判的傾向にあるような非常に特異なクラスができあがるようである。(外国語コース)
- 将来的な方向性を県が示すべき(健康福祉コース)
- PR不足があるのでは。(外国語コース)
- 県の専門コースに求めるものが、見えてこない。専門コースは、全県的に廃止した方が良い。中学卒業段階で、決められる生徒はほんのわずか。入試の時に、ほとんどの専門コースは、定員割れをおこしている。県はこの事をどう思っているか。組合もその方向で交渉して欲しい。県の柔軟な対応を望みたい。(国際ビジネスコース)
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