高総検レポート No 55

2001年10月4日発行

=再編該当校は今= (その2)

高総検再編・教育条件グループ


■はじめに
 先に高総検レポート(第50号)で、ある再編該当校の現状について報告しました。そこでは、その再編校でのさまざまな多忙化状況に加えて、一層困難な状況を作り出しているのが県教委の対応のまずさであることを説明しました。
 今回の報告では、2003年度再編に向けて、今年度より移行期1期生を迎えたある再編校において、どのような考えで準備を進め、「困難」な状況を克服するために教職員がどのように努力しているか、その実態と、それに対する県教委の対応について報告します。該当校の担当者に一問一答形式で回答をいただきました。

 1.県教育委員会へ「合同選抜」を要求したのはどのような理由からですか?
 資料1.にもあるように再編計画が発表され、新校準備委員会が組織されました。新校準備委員会で始めに議論されたのは合同選抜です。新校準備委員会の校内委員は、移行期の生徒は同じ学校の生徒と考えたからです。現在、再編対象の2校間には学力格差が存在します。そのまま統合した場合、下位校に入学した生徒は劣等感を持ったり、差別を受ける事も想定されます。また上位校の生徒は、持たなくて良い優越感を持つ事も想定されます。1つの学校内にこのような生徒間の問題が存在することは絶対に避けるべきと思います。また進路面では一層切実な問題となります。指定校推薦・就職など3年間の成績の合計で進路が決定される時、学力差をそのままにしておいては、生徒がきちんとした進路保障が受けられるのでしょうか?
 現場では解決策として3年前期の成績を用いて対応することになっています。そのことで全面的な進路保障ができるかは移行期が始まっている現在でも未解決の問題です。
 新校準備委員会の議論では、「入口」「出口」という言葉を使いました。県教委の案は「入口」と「出口」が別々なのです。別々の高校に入学し、同じ「新校」の生徒として卒業するのです。それならば、始めから新校1期生として合同選抜を行い、3年次に統合される方が生徒間の問題も生じないし、「入口」と「出口」が一緒になるのです。県教委は、@ 2校が同一の教育条件・教育内容を提供できない、A 生徒の主体的な学校選択を保障する、という2点で合同選抜を認めないのです。しかし、@は、同じカリキュラムを組む事で解決しました。Aは、統合をめざす「2校」を同一の特色で志望する事で理解を得ることが出来ると私たちは考えたのですが、県教委はあくまでも移行期は2校は別々の特色を持っているという主張で終始しました。
 激論の末、県教委は合同選抜を否定しました。(資料2。参照)しかし、私たちは同一カリキュラムを始め様々な移行期の準備を行い、結果的に2校を志望する生徒が同じ教育条件で学ぶことをめざしました。

2.なぜ移行期から2校で同一カリキュラムを作成したのですか?
 移行期1年目の生徒は新校1期生として、1。2年次を別々の学校で学び、3年次には同じ学校で生活し卒業します。1・2年次が、別々なカリキュラムでは、3年次に様々な問題が出てきます。A高校の生徒は○○科目を履修しているが、B高校の生徒は△△科目を履修していない。A高校の2年次の修得単位数は××単位であるが、B高校の単位は□□単位である。このような状態では、統合時の生徒に多大な混乱がおきます。
 そこで生徒にすこしでも良い教育環境を保障することと、進路保障のために両校の移行期のカリキュラムを同一にしました。

3.教育条件等を同じにした事は他にもありますか?
(ア)制服を同じにしました。新校の教育内容、新校名などが未決定、在校生との関係など様々な問題がありましたが、カリキュラムと同じ視点で、新校1期生として同じ制服を作成しました。
(イ)移行期の内規(教務・進路・生活指導)を同じにしました。移行期の生徒が、統合した時に混乱や不利益が無いように、移行期入学時には内規は統一しました。新校準備委員会・合同の分掌会議を何回も重ねて決定しました。
(ウ)入選の重視する内容の文言をほぼ同じにしました。両校を志望する生徒に混乱を与えないためです。中学校への合同の説明会を設け、中学の進路指導への理解を求めました。

4.両校の新校1期生の交流などどのように行っているのですか?  まず、4月に新校となる学校で対面式を行いました。これは、3年になったら通うこととなる学校を知ることを目的にセレモニー的に行いました。合同壁画の作成や、大じゃんけん大会などのイベントも行ったのですが、やはりあまり盛り上がりませんでした。5月には合同遠足を行いました。バーベキューや自由時間を活用しての交流を図ったのですが、両校の生徒はまだ互いにぎこちない感じでした。
 6月には、これまで一方の学校でしか行なわれていなかった合唱コンクールに出かけていって参加しました。これまでの蓄積が無いため担任や指導にあたる教員の負担は大きかったのですが、大きな成果を上げることができました。7月には球技大会を合同で実施しました。クラスごとにチームを編成し、1回戦は両校が対戦するようにしたために結構盛り上がりました。9月には、一方の学校だけで行なわれた体育祭に出かけていきました。午後からのみの参加で、交流も1種目のみでした。また、部活交流なども進めています。両校を行き来する生徒・職員の負担が大きいことの問題が残ります。
 文化祭については、2000年度から両校生徒会・部活動などの交流を進めてきました。これらの行事を実施し、互いの学校の情報交換のために月2回の合同学年会を開いています。これからも9月と11月の両校の文化祭に互いに参加するための準備を進めています。
互いの交流を積極的に進めることによって、県教委の言う「違う高校」の生徒ではなく、同じ学校を卒業する「同窓生」としての自覚を促すことを進めています。新校が立ち上がった時、ミックスクラスとすることを考えています。具体的には、進路別クラス編成を念頭に置いています。しかし、具体的にどのような形でクラス編成を行うかはまだまだ検討の余地が残っています。

■まとめ
 以上のように、今回紹介した再編該当校が一致して強く要求した「移行期合同選抜」は、県教委に否定されてしまいました。資料2.に見られるように、「否定」の理由からは、移行期の生徒に対する教育的配慮を伺うことはできません。まず「合同選抜なかりき」という姿勢だけです。どの生徒にとっても「一度きりの高校生活」なのですから、移行期の生徒の教育権の保障と、人権への配慮がより一層必要であることは当然のことです。とくに、該当校の教職員が心配している、合同する時の「困難」の解消のための対策は何としても行わなくてはならないのです。残念ながら、県教委の対応にはそのような配慮を見ることはできません。しかし、両校の教職員は、両校の生徒の交流などを通じて、実質的に「合同選抜」で入学したのと同じ環境を作り出すための努力を継続中です。
 両校の教職員の一致した考えは、「再編の最大の課題は移行期の対応である」ということです。移行期の生徒間の問題を解決するためにさまざまな努力をしているのはそのためです。「移行期の矛盾は仕方が無い」と考えているかのような県教委の姿勢とは好対照です。さらに、このような両校の一致した協力体制がとれているのは、資料1.にもあるように、分会の交流から始めたという事が大きいと思います。再編は、学校・生徒だけの問題ではなく、分会が一つになることでもあります。本音をぶつけ合いながら、生徒の教育権を守る立場で意見交流ができる場は「組合」しかありません。
 この両分会の対応は、再編を進める上で最も重要なことを示唆していると考えます。

■資料1.移行期1期生入学までの経過
経過
 再編の発表が行われてすぐに両校の分会で打ち合わせを行いました。その後合同選抜を考え、移行期(新校1期生)のカリキュラムを決めました。両校のカリキュラムは、大幅に異なっていましたが生徒募集が始まる前の3月には、同じカリキュラムを決定する事が出来ました。その後、制服・内規関係(教務・進路・生活指導)を両校で決定する事が出来ました。
1999年
   8月 再編校発表
   9月 両校分会役員会で顔合わせ
   11月 第1回新校準備委員会
2000年
   3月 移行期(新校1期生)カリキュラム決定
   5月 両校全職員交流会
      移行期入選にあたり重視する内容(共有化)
   6月 移行期(新校1期生)教科書(共有化)
   9月 文化祭で生徒会活動交流する
   10月 移行期(新校1期生)制服決定
        中学校教員向け合同説明会
   11月 文化祭で生徒会活動交流する
2001年
   3月 移行期の教務・進路・生活指導の内規決定
   4月 新校1期生入学

■資料2. 県教育委員会の合同選抜(一括募集)についての考え方
1.移行期間中に合同入学者選抜(一括募集)を行わない理由
○ 合同入学者選抜(一括募集)の定義
  1. 当該の高校において組織する合同選抜委員会において一括して入学者選抜を行う。
  2. 生徒が入学する高校については、合同選抜委員会が決定する。
○ 2校が同一の教育条件・教育内容を提供できない
  1. 合同選抜を実施するためには、該当の学校同士が同じ教育内容を提供すること、そのために教育条件等が同程度に整っていることが必要である。
  2. 県内で唯一の合同入学者選抜を行っている弥栄東西高校普通科(一般コース)においては、設置場所が同じ敷地内であるため通学の便は変わらなく、施設設備についても共有化を図っている。また、選択科目等を含めて共通の教育課程を編成しており、どちらの高校へ入学しても等しい学習機会が保障されている。
  3. 一方、再編統合の対象校については、比較的、近接しているものの通学手段が異なることをはじめとして、同じ教育条件が整っているとは言い難い。
2.生徒の主体的な学校選択の保障
  1. 本県はこれまで、各学校の特色づくりを推進し、生徒の興味・関心、進路希望等に応じた主体的な学校選択が行えるよう取り組んできた。
  2. 統合前の移行期間における基本的な考え方も、これまでの各校の取り組み・特色を引き継ぎながら、両校で連携を図ることとしている。
  3. 入学を希望する生徒は対象となる2つの学校が統合することを意識しつつ、各学校での生活や特色ある教育の享受を蒋望すると思われるので、統合前の移行期間といえども主体的な学校選択を保障することが重要である。