高総検レポート No 20

1994年9月6日発行

高校入試制度はどう変わる

―「神奈川県公立高等学校入学者選抜制度改正大綱」の概要―

1.はじめに

 神奈川の高校入試が変わります。県教育委員会は,去る7月18日に現在の中学1年生が高校学験する97年度から本格実施される,「神奈川県公立高等学校入学者選抜制度改正大綱」(以下,「大綱」と略す)を発表しました。これによって,これまで「神奈川方式」と呼ばれていた入試制度が大きく変わり,「推薦」,「複数志願制」,「多段階選抜」が導入されることとなりました。
 今回の「大綱」が示されるまでの過程には,県教育委員会の諮問機関であった高課研の「報告」と,その報告を受けて県教委が策定していた「入試選抜制度の改善案」の「中間報告」がありました。わたしたちは,高課研の「報告」,そして県教委の「中間報告」が出された段階で,「入試選抜制度の改善案」が「学校間格差」を解消・是正するどころか,むしろ一層激化させることになるなどの問題点を指摘してきました。
 今回示された「大綱」は,新しい入選制度の大枠を示したものです。「中間報告」での矛盾雷点や、中学教育や高校教育を破壊しかねない問題点は基本的に残り続けています。

「中間報告」と「大綱」の比較

  公立高等学校入学者選抜制度改善案(中間報告) 公立高等学校入学者選抜制度改正大綱(大綱)



普通科 : 学校の特色に応じて実施できる。 定員は10%程度。
専門コース : その特色に応じて実施できる。 定員は10%程度。
専門学科 : 全ての学科において実施する。 定員は30%以内。
普通科:今後の課題として, 引き続き検討する。
専門コース:その特色に応じて実施できる。定員は10%とする。専門学科:全ての学科において実施する。定員は30%以内。




第2希望校は,第1希望校と同一校,または異なる学校・学科・専門コースとすることができるものとする。 同一の高等学校を第1希望および第2希望とすることができるものとする。
調






〇各教科の学習の記録(評定・所見等)
〇特別活動の記録
〇行動の記録と所見
〇指導上参考となる諸事項
〇特記事項(記入対象者数は,20%程度)
〇各教科の学習の記録(評定・学習状況)
〇特別活動等の記録と所見
〇行動の記録と所見
〇参考事項
〇特記事項(記載対象者は,20%以内)
※「学習検査」,「出欠の記録」及び「健康診断の記録」を削除。



「普通科」は,国語・社会・数学・理科・外国語の5教科
「専門コース・専門学科」は,学校の特色に応じて3教科から5教科の範囲内で学校が選択
「普通科」は,国語・社会・数学・理科・外国語の5教科
「専門コース・専門学科」は, その専門性に応じて3教科から5教科の範囲で学校が選択



第1希望の選考(入学定員の80%)
 選考I:調査書と学力検査による選考。
  調査書と学力検査の比率は,6:4、5:5
 選考II:調査書と学力検査及び調査書の評定以外の記載事項による選考。
  調査書と学力検査の比率は,6:4、5:5、4:6
第2希望の選考(入学定員の20%)
 調査書と学力検査及び調査書の評定以外の記載事項による選考。
 調査書と学力検査の比率は,7:3、6:4、5:5
調査書の評定と学力検査の比率は,6:4とする。
第1希望の選考(入学定員の80%)
 第1希望の募集人員の70%を調査書の評定と学力検査の結果に基づき合格者を 決定し,残り30%の合格者を調査書の評定,学力検査の結果及び調査書の評定 以外の記載事項を活用して総合的に選考し,決定する。
第2希望の選考(入学者定員の20%)
 調査書の評定,学力検査の結果及び調査書の評定以外の記載事項を活用して総合的に選考し,合格者を決定する。




学区外志願枠に,隣接学区枠の扱いを新たに設ける。 学区については,神奈川県公立高等学校通学区域規則による。説明で,普通科において,学区外限度枠の扱いの中に,隣接学区の扱いを設けることについては,今後の学区外へ志願状況を見ながら検討することとします。

2.「大綱」の概要

<推薦制>
 新しい入試選抜制度の特徴の一つは,「推薦制」の導入です。「大綱」に示されたところでは,「推薦制」は,専門学科においては定員の30%以内で実施するものとされ,専門コースについては,コースの定員のおおむね10%で実施することができるとなっています。普通科の推薦については,「今後の課題として,引き続き検討する」ということで当面導入は見合わされることになりました。
 推薦は1月に実施され,選抜は,調査書,中学校校長の推薦書及び面接の結果で行われます。

<複数志願制>
 「生徒の興味・関心,進路希望の多様なニーズに応じ,一人ひとりの個性と希望を生かせる学校選択を可能にするため」,第1希望及び第2希望の2校を志願できるとしています。二つの希望の出し方については,「同一の高等学校を第1希望及ぴ第2希望とすることができる」と規定されているだけで,「中間報告」での「異なる学校,専門コース,専門学科」でもよいとする表現はありません。
 募集定員については,第1希望が入学定員の80%とし,第2希望が20%とするとなっています。

<学力検査>
 「普通科」は,国語・社会・数学・理科・外国語の5教科で実施されますが,「専門コース・専門学科」については,その専門性に応じて,3教科から5教科の範囲内で,各高等学校で選択できると規定され,学力検査教科数の弾力化が導入されています。 また,学力検査の配点については,専門コースと専門学科については,「その専門性に応じて,特定の教科に傾斜配点をすることができる」とし,「傾斜配点」を導入しています。

3.選考資料と選考方法

<選抜資料>
 選抜の資料として,調査書の評定と学力検査の結果は6:4の比率で使われます。
 中学校の作成する調査書は,評定は、第2学年の5段階9教科の評定の合計と第3学年の5段階9教科の評定を2倍したものの合計を使います。評定以外の記載事項は,(1)学習状況(生徒の顕著な特性と長所を記載),(2)特別活動の記録と所見,(3)行動の記録と所見,(4)参考事項(生徒の特徴,特技等を記載とありますが,(3)の「行動の記録と所見」が校内活動であるのに対して,(4)の「参考事項」は,校外活動が対象となるようです)。(5)特記事項(従来は15%以内でしたが,20%以内と拡大されました)。なお今回,「学習検査(ア・テスト)」,と共に「出欠の記録」,そして「健康診断の記録」が削除されることになりました。

<選考方法>
「普通科の選抜方法」

 入学定員の80%に当たる「第1希望」の選考は,先ず第1希望の「70%」の選考を「調査書の評定」と「学力検査の結果」に基づいて行い,残り「30%」の選考を「調査書の評定」と「学力検査の結果」さらに「調査書の評定以外の記載事項」を活用して総合的に選考して,合格者を決定する。
 「第2希望」の選考は,第1希望の「30%」の選考と同様に,「調査書の評定」と「学力検査の結果」さらに「調査書の評定以外の記載事項」を活用して総合的に選考して,合格者を決定するとなっています。
「専門コースと専門学科の選抜方法」
 専門コースと専門学科の選抜については,学力検査実施教科数の弾力化や傾斜配点を実施するにしても,第1希望・第2希望ともに,「調査書の評定」と「学力検査の結果」さらに「調査書の評定以外の記載事項」を活用して総合的に選考し,合格者を決定するとなっています。
「定時制の選考方法」
 定時制については,学力検査に基づく選抜のみで推薦制はなく,志願できる学校も1校とされています。実施される学力検査は,3教科から5教科の範囲で各学校が選択し,「面接」についてはすべて実施されますが,「実技検査」については,必要に応じて実施することができるとなっています。
 また,新しく「社会人」の項目があります。学力検査の代りに作文で受検できるとありますが,「社会人」の規定については引き続き検討するとなっています。

 基本的な選考方法は,普通科の第1希望の70%の選考以外は,調査書の評定以外の記載事項をも活用した,総合的な選考ということになります。そして,選考方法については予め公表するとされています。

<志願変更>
 志願変更については,これまで同一学科内での変更を「いずれの学校,学科または専門コースへも」することができるとなっています。さらに解説の中では,従来「学区内」に限っていたものを,「学区内外を問わず」とされていることには注意する必要があるでしょう。

4.移行措置
 新しい入選制度ヘの移行を現在の中学生の学年別に説明しておきます。
(1) 現在の中学3年生の高校受験では,普通科・専門コースにおいては現行通り,専門学科(職業科)については 「推薦制」が実施できるとされています。
(2) 現在の中学2年生の高校受験では,ア・テストの割合を1割減じて,ア・テスト:調査書の評定:学力検査の 割合は1:5:4となり、専門コースと専門学科で「推薦制」が実施できるとされています。
(3) 神奈川の新しい高校入試は現在の中学1年生が高校を受験する97年度から本格実施される事になります。

5.「中間報告」後のわたしたちの対応
 高課研の第2次報告を受けて県教育委員会は,入選制度の改善案を策定する過程で,「中間報告」を発表しました。中間報告では,高課研での討議や報告を逸脱する内容のものもありました。特に「推薦入学制」については,高課研報告では,慎重に検討する必要を示しているにも関わらず,普通科にも,「特色に応じて,実施できる」と定めました。また,学区拡大につながる学区外受検で「隣接学区枠」を具体的に示したり,学力検査教科数の弾力化や傾斜配点など選抜の多様化を押し進める提案がなされたり,全国的に類例のない「複数志願制」等を持ち出すなど,高校教育のみならず,中学校教育まで破壊する高校入試選抜を策定してきました。
 高校の学校間格差の拡大につながる「入選制度の改悪」に対して,私たちは,中学校教員,父母県民とも協力して,改悪阻止に向けてへの運動を展開しました。

6月7日(火)教育長交渉:神教協対応(神教協は神教組と神高教の連合体)
6月18日(土)長後分会での集会:フロアーには湘南教組から多数参加
6月22日(水)教育シンポジウム(神奈川公会堂):教育研究所対応
7月6日(水)対県交渉:神高教本部と現場代表
 特に7月6日の対県交渉では,これまでわたしたちが指摘してきた,「推薦制」の問題点や,「複数志願制」が,中学生の進学機会を狭めるものであることや,入選業務の煩雑さを増長し,学年末の学校現場を混乱に陥れる事などを強く主張する場となったことを報告しておきます。
 高総検としても,高課研の報告や県教委の「中間報告」が出された段階からそれらの報告内容を分析し,職場討議資料(94-07,94-12)や高総検レポート(No16,No17)としてまとめました。神高教本部は,これら高総検の分析結果をも含めて6月27日付けで教育長(木下正雄氏)に対し申し入れを行っています。
 各分会にあっても,県教委の「中間報告」に対する抗議のための職場集会が持たれ,職場決議を挙げるとともに,校長に対しても県教委案に反対する職場の意志を校長として意見具申するように交渉を持ちました。
 6月24日付けの神奈川新聞で報じられた通り,県教委の作成した「中間報告」が,高課研の報告を逸脱するものであることを,高課研委員でもあった前神高教副委員長の中野渡氏が,同じく高課研委員であった横浜市立高等学校教職員組合(浜高教)委員長の飯田洋氏と共に県教委に対し申し入れを行いました。
 こうした様々な運動を経て,今回の「大綱」が出されました。しかし県教委は,重要な事柄を先送りしているだけです。今後の運動が一層重要になっています。